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自民党は、10月16日、次期首相選出をにらんで日本維新の会と政策協議を始める方針を固めた。新たに総裁に就任した高市早苗氏は、旧連立相手の公明党が先週連立を離脱したことを受け、支持基盤を再構築する必要に迫られている。
もしこの連立が成立すれば、両党合計で衆議院における過半数にあと2議席という勢力を確保できる見込みだ。
維新の代表・吉村洋文氏は、高市氏との非公式打ち合わせ後、維新が首相を支持する用意があるとしつつ、双方でまず「重点政策案」について合意することが前提との意向を示した。
協議の焦点には、「副首都」指定や社会保障改革といった政策、さらには安全保障・防衛支出の増加や憲法改正を巡る方向性が含まれている。
出典:
“Japan LDP’s Takaichi explores coalition with right-leaning party in premiership bid,” Reuters
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補足説明
公明党と維新の対立、そして「自公」から「自維」へ
今回の自民党と維新の接近は、長年の政界構図が動き出した象徴的な出来事です。
もともと公明党と維新は、大阪の選挙区で激しく競い合ってきました。特に大阪市内では、公明党が創価学会を中心とした強固な支持基盤を持ち、維新が地元政党として勢いを伸ばすという、真っ向からの対立関係が続いていました。
そのため、自民党にとって公明党は長年の与党パートナーである一方、維新とは距離を取らざるを得ない存在だったのです。
しかし、その構図を変えたのが今回の公明党の連立離脱です。
公明という“中道の緩衝材”が外れたことで、自民党は右寄りの維新と政策協議を進めやすくなり、両党の距離は一気に縮まりました。
維新側も、地方分権や成長戦略などで自民と共通点が多く、現実的な連立の可能性が浮上しています。
そもそも日本維新の会は、もともと自民党から枝分かれする形で誕生した政党です。
橋下徹氏(当時大阪府知事)が主導した「大阪維新の会」を母体とし、自民党の地方組織や議員の一部が合流して設立されました。
理念的にも自民党の保守路線を継承しつつ、より急進的な行政改革・小さな政府・地方主権を掲げた“改革派の分派”という性格が強い政党です。
そのため、政策的な相性は本来悪くなく、むしろ中央集権を重視する自民党本体との“距離の取り方”こそが、これまでの最大の違いでした。
また、維新は小泉進次郎氏と思想的に近い関係にあることでも知られています。
小泉氏が自民党総裁に選ばれていれば、「維新が自民連立に正式に参加するのでは」との観測も永田町では広がっていました。
進次郎氏と維新はいずれも、規制改革・行政スリム化・民間活力の活用を重視しており、政治の新陳代謝を掲げる姿勢が共通しています。
今回の高市政権下での連携模索は、そうした流れの延長線上にあるといえます。
否決された「都構想」から「副首都構想」へ
維新が推し進めてきた「大阪都構想」は、過去2度の住民投票で否決されました。
大阪市を廃止して複数の特別区に再編するという内容は、制度変更の規模が大きく、最終的に市民の理解を得られなかったのです。
その後、維新は「副首都構想」という形で方針を転換しました。
副首都構想とは、東京一極集中を是正し、大阪を「第二の首都」として位置づける構想です。
目的は、地震や災害、首都圏機能の麻痺などに備えて、行政・経済・情報などの中枢機能を分散させることにあります。
具体的には、政府機関の一部やデータセンター、金融・研究機関などを関西に移し、危機時にも日本全体の統治・経済活動を維持できるようにするという構想です。
自民党の一部や経済界もこの考え方には理解を示しており、高市氏がこの案を受け入れることで、維新との協力が一層現実味を帯びてきました。
財政改革と社会保障の「選択と集中」
維新と自民党の政策が重なるもう一つの分野が、社会保障費の見直しです。
両党とも「持続可能な社会保障制度」を掲げていますが、実際には「支出を抑える方向」での改革を進めています。
維新は特に、「現役世代に過度な負担をかけず、高齢者優遇型の制度を改める」として、医療・介護・年金の給付を抑制する方針を明確にしています。
一方で、自民党は票田である高齢層への影響を懸念し、緩やかな制度改革にとどまっています。
こうした違いはあるものの、両党が「財政健全化」「歳出の効率化」を掲げている点は共通しており、今回の協議でも重点議題の一つとなっています。
高市氏は“積極財政”を掲げつつも、長期的には国債発行や社会保障の持続性をにらんだ調整を迫られており、維新との連携はその現実的な突破口と見られています。
海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
2024年当時、維新の馬場氏は岸田政権の自民党と政治資金規正法の改正をめぐって少し“親密すぎた”ように見えた。その結果、維新は衆院選で大敗し、馬場氏は辞任、吉村氏が後を継ぐことになった。
自民党に近づきすぎるのは得策ではない。公明党だけがそれを成功させたが、それは支持層がほぼ“カルト的”だからだ。カルト的結束がない有権者なら、政党が自民と近づきすぎた時点で「他を探すか」と思うだろう。
さらに、維新は自らのスキャンダルも多く、大阪万博、IRリゾート、副首都構想など、常に“大博打”を打っている様子が、結局は“関西弁が濃い自民党のコピー”のように見えてしまう。
全国レベルでは既にピークを過ぎ、地元・関西へと後退している。そしてその関西でも前回選挙では停滞。
結局、自民も維新もどちらも焦っているようにしか見えない。このまま共倒れしてもおかしくない。“類は友を呼ぶ”、つまり大した損失でもないだろう。
うまく整理してるね。維新の連中は政治家というより政治ビジネスの起業家みたいなもので、“自民党の西バージョン”でも構わないと思ってそうだ。全国的なピークは過ぎたから、今が関西で地盤を固める好機だろう。公明党のような立ち位置を目指してるのかもしれない。
これは絶対にうまくいかないと思う。
維新ってそもそも「自民党から権力を奪うため」に生まれた政党じゃなかったか?
政党の基本方針がここまで変わることもあるけど、高市氏はあまり期待しない方がいい。
まあ、そう思いたいだけかもしれない。彼女が首相になる可能性を考えると不安だし、もう少し中道寄りの人物がトップに立ってほしいと思う。
公には「自民党から政権を奪う」と言っているけど、維新の元政策担当と会った時、私的には「公明党の代わりになりたい」と認めていた。だから多分、いずれ自民と連立を組むと思う。
高市氏が維新を取り込むために、「大阪副首都構想」にゴーサインを出すか、少なくとも口だけ賛同する形になるんじゃないか。その結果どうなるか――少なくとも“東京に対する関西からの巨大な中指”にはなるだろう。
それが実現すれば、次の総選挙(2028年)までは自民主導の連立が続くだろう。
でも個人的には、混乱覚悟でいいから野党が誰か1人にまとまって首相にし、そのまま解散総選挙をやってほしい。
すぐに自民包囲網が解決するわけじゃないけど、議席は増えるし、その後に連携の形を探ればいい。
そうなると問題は「奇跡の統一候補は誰か」だね。
維新が自民を倒すのか、公明の代わりになるのか意見が割れている。
玉木氏を野党統一候補にという話もあるが、本人も党も乗り気じゃない。
国民民主党は今“黄金ポジション”にいる。減税を掲げて人気を得ているが、実際にやるのは自民党。自民が拒否すれば自民が悪者、受け入れれば財政が大混乱。どちらに転んでも国民民主は得をする。
もし自民と組んだら、今度は自分たちが減税を実現しなきゃいけなくなるから、そんな危ない橋は渡らないだろう。
つまり玉木氏の条件提示は煙幕で、彼自身も連立や首相の座なんて望んでいない。
立憲民主党はというと、2012年からずっと堂々巡り。野田氏も石破氏と同じ68歳で、古臭い政治の象徴。
維新にとっては金銭的メリットがなく、国民民主にとっても政治的メリットがない。
他の政党(共産、社民、れいわ、参政党、保守党)は論外だ。
玉木氏を野党統一候補にという話はあったけど、本人は首相になる気はないだろう。
でも「就任後すぐに解散総選挙をする」という条件なら受けるかもしれない。
私の考えとしては、短期的には「瀕死の自民党の首根っこを踏みつけて完全に息の根を止めてから、次を考える」でいい。60年近くの一党支配も同じくらい問題なんだから。
そうだね。「フライパンの中に居続けるか、火の中に飛び込んで走って逃げられるか」の二択みたいなもんだ。
気が滅入るけど、今の日本政治の現状をよく表してると思う。
考察・分析
「自公」から「自維」へ、政治再編の中心に浮上する維新
今回の自民党と維新の接近は、長年続いた「自公体制」に代わる新たな政治軸の形成を示しています。
公明党の離脱によって、自民党は“安定多数”を失い、政権運営の基盤を見直す必要に迫られました。
その穴を埋める形で、地方から台頭した維新が浮上しています。
維新はもともと自民党の改革派を源流とする政党で、行政の効率化や地方分権を掲げて誕生しました。
保守的価値観を共有しながらも、中央依存を脱しようとする姿勢が特徴で、自民党にとっては“似て非なる改革パートナー”といえます。
こうした背景のもとで進む「自維連携」は、単なる議席合わせではなく、政治の方向性そのものを問う試みでもあります。
とはいえ、現実的には衆議院で過半数を確保するにはもう一歩足りず、連携の成否は数の調整にも左右されます。
過半数への道:無所属議員の動きが焦点に
現在、自民と維新を合わせた議席は過半数にわずかに届かないとみられています。
そこで注目されているのが、政治資金問題などで自民党を離党した無所属議員の存在です。
なかでも元経産相の世耕弘成氏は、党内外に幅広い人脈を持ち、元安部派であることから政策面でも高市氏と距離が近い人物とされています。
こうした議員数名が復党、協力すれば、自民・維新連携による“実質的な過半数”が成立する可能性もあります。
この構図は、かつての「自公連立」とは異なり、政党間の協定ではなく、緩やかな政策連携と個別議員の支持によって成り立つ“流動的多数派”です。
数の力で政権を安定させつつ、政策ごとに柔軟に協力相手を変える――そうした新しい議会運営の形が見え始めています。
政策面の共通点と温度差
維新と自民は、憲法改正や防衛費の増額、経済成長戦略などでは共通点が多く、外交・安全保障分野では親和性が高い関係にあります。
一方で、社会保障や地方分権をめぐる姿勢には温度差があります。
維新は財政健全化を重視し、医療・介護などの支出抑制を主張してきました。
これは「現役世代に負担を残さない」という理屈の上では合理的ですが、社会的には痛みを伴う政策でもあります。
自民党がこうした政策をどこまで受け入れられるかが、今後の連立協議の焦点となりそうです。
外交・安全保障の追い風とリスク
外交面では、自民・維新ともに防衛力強化や経済安保の強化などで歩調を合わせています。
とくに対中・対北朝鮮政策では共通の立場を取り、米国のアジア戦略とも整合的な姿勢を見せています。
ただし、外圧的な安全保障政策が強調されるほど、内政の格差や生活政策が後回しにされる懸念もあります。
国際的な緊張と国内の不満が同時に高まる状況は、かつての「小泉構造改革期」と似た不安定さを内包しています。
総括:理念と現実のはざまで
今回の「自維連携」構想は、単なる政局の延長ではなく、戦後政治の再編を告げる動きといえます。
もし両党が理念と政策で手を結ぶことができれば、政治の意思決定はより迅速になり、保守勢力の新しい形が生まれるでしょう。
しかし、数合わせを優先すれば、再び短命政権の道をたどる可能性もあります。
自民、維新、そして無所属議員。それぞれの思惑が交錯する中で、日本政治は今、理念と現実の狭間に立っています。
この連携が“改革の始まり”となるのか、それとも“数の政治”の延命策に終わるのか。
その答えは、次の国会での一手にかかっています。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
関連書籍紹介
『吉村洋文の言葉101 – 日本を牽引する若きリーダーの覚悟と勇気』
(結城豊弘 著/2023年3月29日/扶桑社)
大阪府知事としてコロナ禍の最前線に立ち続けた吉村洋文氏の「言葉」を通して、その信念と行動哲学を浮かび上がらせる一冊。
「政治家は使い捨てでいい」「自民党をビビらす政党になりたい」といった率直な発言の数々には、既存政治に対する挑戦と、自身の責任を引き受ける覚悟が込められています。
著者の結城豊弘氏(TVプロデューサー)は長年にわたり吉村氏を取材しており、彼のリーダー像を「オープンで、誠実で、迷いがない政治家」と評しています。
会議の公開や記者対応など、行政の透明化を徹底する姿勢は、政治不信が続く現代において異彩を放ちます。
「大阪を良くすることは日本の利益に直結する」という理念のもと、地方から国家を動かそうとする彼の挑戦を、言葉の断片からたどることができます。
『戦後日本政治史 ― 占領期から「ネオ55年体制」まで』
(境家史郎 著/2023年5月24日/中央公論新社)
憲法を軸に、戦後から現代までの日本政治の流れを整理した通史。
保守と革新の対立から始まり、経済成長による一党支配、改革ブーム、そして安倍政権以降の「ネオ55年体制」まで。
70年以上の政治の構造変化を、平易な言葉で描いています。
レビューでも高く評価されており、「右にも左にも偏らず、客観的」「大学の教科書としても使える」「受験や一般教養にも最適」との声が多く寄せられています。
特に、民主党政権以降の政治停滞を「かつての55年体制の再来」と分析する視点は、現代日本の政治構造を理解するうえで示唆に富みます。
著者の境家史郎氏(東京大学教授)は、戦後日本の制度的特徴を「護憲と改憲」という終わらない対立軸として捉え、それがいかに政治文化を形づくってきたかを明快に描きます。
「ネオ55年体制」という概念を通じて、自民一強と野党分裂の現状を歴史の延長線上で読み解く、現代政治の必読書です。


