マイケル・バリー、AIバブルに警鐘 「The Big Short」投資家が再びプットオプションを購入

ニュース

映画『マネー・ショート(The Big Short)』のモデルとなった投資家マイケル・バリー氏が、AI市場の過熱に警鐘を鳴らしている。
米証券取引委員会(SEC)の開示によると、同氏の運用するサイオン・アセット・マネジメントは、NVIDIA(エヌビディア)とPalantir Technologies(パランティア)に対して大規模なプットオプション(株価下落に賭ける取引)を取得した。名目総額は数億ドル規模にのぼる。

この動きに対し、パランティアのCEOアレックス・カープ氏は「我々のような優れた企業をショートするなんてクレイジーだ」と反発し、両者の対立が注目を集めている。
バリー氏はAI関連株の高騰を「バブル的」とみなし、崩壊に備えているとみられる。


出典:


関連記事


補足説明

マイケル・バリーという人物

マイケル・バリー氏は、2008年のリーマンショックを予見したことで世界的に知られる投資家です。医師から転身し、サイオン・アセット・マネジメントを設立しました。住宅ローンの焦げ付きが増える前から「サブプライム危機」を読み切り、世界の金融システムが揺らぐ中で巨額の利益を上げました。映画『マネー・ショート』では、俳優のクリスチャン・ベール氏がその人物を演じています。

AIバブルの過熱

現在のAI相場は、かつての「住宅バブル」と同じように熱気を帯びています。生成AIの進化で株価が急騰したエヌビディア、クラウド需要を追い風に業績を伸ばしたオラクル、そしてAI開発の中心にいるオープンAIなど、関連企業の動きが複雑に絡み合っています。こうした企業間での出資や提携が相互に評価を押し上げている可能性が指摘されており、「同じ資金が市場内を回っているだけではないか」という懸念も出ています。

パランティアとは何か

パランティア・テクノロジーズは、政府機関や企業向けにデータ分析システムを提供するアメリカの企業です。米国防総省やCIAへの納入実績があり、「国家の情報インフラを支える企業」とも言われています。近年は生成AIを組み込んだ新サービスの発表で注目を集めていますが、株価はすでに急騰しており、予想PER(株価収益率)は200倍前後という非常に高い水準となっています。バリー氏が「過熱しすぎ」と判断した背景には、この割高な評価があるとみられます。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


バリーが住宅市場をショートしたのは2005年だ。たとえ彼が今回も正しかったとしても、バブルが弾けるのは明日かもしれないし2027年かもしれない。どちらにしても、待っている間に耐えられる資金なんて自分にはない。こういう取引は結局ビリオネアのためのものだ。


プットなんて誰でも買えるだろ。


住宅バブルが弾けたのは2008年だった。つまり次のクラッシュは2028年ってことか。


彼は「ほら言っただろ」と言いたいだけなんだよ。これまでに45回も“クラッシュが来る”って叫んで、実際に当たったのは3回だけだ。


海外の反応の続きはnoteで読むことが出来ます。


考察・分析

AIバブルの構造

現在のAI相場は、エヌビディアやオラクル、マイクロソフト、オープンAIなどが互いに提携・出資を繰り返すことで支えられています。
オープンAIが生み出す需要をマイクロソフトが取り込み、そこにオラクルのクラウドやエヌビディアの半導体が使われるという「循環的な成長モデル」が形成されています。
しかしこの構図は、実際の利益成長よりも期待が先行している可能性があり、一部の投資家からは「AI関連銘柄は資金の循環取引で膨らんでいる」との指摘も出ています。バリー氏の警戒は、まさにこの部分に向けられているとみられます。

投資家心理と過去の教訓

今の市場では「AI関連株を持っていれば儲かる」という熱気が広がっています。これはかつてのITバブルや住宅バブルの時期と非常によく似た雰囲気です。
実際、パランティアなど一部の企業は予想PERが200倍前後に達しており、実績よりも“ストーリー”が株価を押し上げている状態です。
バリー氏は「いつ崩壊するか」ではなく、「この構造がどこまで持つのか」を見極めようとしており、今回のプットオプションも短期の投機ではなく、リスクに備える戦略とみられます。

パランティアCEOとの応酬

バリー氏のポジション公開を受け、パランティアのアレックス・カープCEOは「我々のような優れた企業をショートするなんて狂気だ」と強く反発しました。
バリー氏は特に個人攻撃をしたわけではありませんが、AI市場の過熱を「危険信号」と見ていたため、象徴的な銘柄としてパランティアを選んだと考えられます。
カープ氏の怒りは、経営者としての自負だけでなく、AI関連企業全体に向けられた“バブル批判”を受けた防衛反応とも言えるでしょう。
この対立は、AI相場の熱狂を信じる側と、それを冷静に見つめる側の分断を象徴しています。

パランティアの象徴性

パランティアは、国家安全保障や軍事分野でAIを活用するデータ分析企業として注目されてきました。政府系の契約に支えられた安定収益を持つ一方で、投資家の間では「成長期待が先行しすぎている」との声も多く聞かれます。
実際、同社の株価はわずか1年余りで数倍に上昇し、将来の利益を大幅に先取りした形になっています。
バリー氏がこの銘柄を選んだのは、AIブームの象徴であり、最も市場心理を反映しやすい存在だったからでしょう。

総括

AIバブルがすぐに崩壊するとは限りません。今後も技術革新と市場期待が続けば、しばらくは高値圏が維持される可能性もあります。
しかし、期待が実態を上回る時、市場は必ず調整を迎えます。
パランティアCEOとバリー氏の対立は、単なる言い争いではなく、AI時代の相場に潜む“過信と警戒”のせめぎ合いを象徴しています。
AIブームの裏にあるリスクを見逃さないバリー氏の姿勢は、リーマンショック前と同じように「熱狂の陰にある歪み」を見抜こうとする冷静な観察者の目を思い起こさせます。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。



関連商品紹介

映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

2015年公開の社会派ドラマで、監督はアダム・マッケイ。
原題は『The Big Short(大規模な空売り)』。リーマン・ショックの引き金となったサブプライムローン危機を、実在の投資家たちの視点から描いた実話に基づく作品です。
クリスチャン・ベール、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットといった豪華キャストが集結し、金融業界の裏側をユーモラスかつ緊張感あふれる演出で見せています。

物語の中心となるのは、住宅ローン市場の異常をいち早く見抜いた投資家マイケル・バリー(ベール)。誰もが「住宅価格は下がらない」と信じていた時代に、彼は世界経済の崩壊に賭け、世間から嘲笑されながらも空売りを仕掛けます。
ストーリーはテンポが速く、専門用語も多いですが、登場人物の語りや例え話を通して一般の視聴者でも理解しやすいよう工夫されています。

Amazonレビューでも「経済を理解したい人にぴったり」「当時の混乱がリアルに蘇る」と高く評価されています。一方で「金融の仕組みに詳しくないと少し難しい」との声もあり、投資初心者にはややハードルの高い作品です。
それでも、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のような派手な成功譚とは正反対の、“冷静な狂気”に満ちた実録ドラマとして、多くの人の記憶に残っています。


『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』

マイケル・ルイス著(文藝春秋)

映画の原作となったのが、ノンフィクション作家マイケル・ルイスによる『The Big Short: Inside the Doomsday Machine』。
ルイスは元ソロモン・ブラザーズの社員で、金融の現場を知る筆者ならではのリアルな描写が特徴です。

この本では、バリー氏をはじめ、危機を察知して空売りに動いた複数の投資家たちが登場します。彼らは皆、常識や群衆心理に逆らいながら、市場の歪みを見抜いて行動しました。
サブプライムローン、CDO、CDSなど、難解な金融商品がどのように世界を揺るがせたのかを、物語のような筆致で解き明かしています。

「金融ドキュメンタリーとして読める一方、人間ドラマとしても面白い」と評され、映画よりも細部が丁寧に描かれています。
専門用語が多いぶん、初心者には難解に感じる部分もありますが、経済の仕組みやリーマン・ショックの本質を理解したい人には、最良の入門書とも言える内容です。


まとめ

『マネー・ショート』は、世界経済の崩壊を予見した“異端の投資家たち”の物語です。
彼らは天才でもヒーローでもなく、ただ「世界の常識に違和感を持った人々」。
映画はそのリアルな緊張感を映像で、原作はその思考と構造を文章で描いています。
経済に興味がある人も、社会の裏側を知りたい人も、一度は触れておきたい一作です。


参考リンク

1件のコメント

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です