マイナ保険証へ完全移行 制度設計と国民感情のズレはなぜ生まれたのか

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12月2日から、日本では従来の健康保険証が使えなくなり、マイナ保険証が医療保険の証明として原則必須となった。マイナンバーカードを登録していない人には、保険者から資格確認書が送付され、これを提示すれば従来どおり保険診療を受けられる。

医療機関や薬局ではオンライン資格確認が基本となる一方、カードリーダーの準備や運用が十分でない施設もあり、初日から一定の混乱が生じる可能性が指摘されている。

出典:The Japan Times


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


パートナーが「12月の半ばから、マイナンバーカードがないと健康保険が使えなくなる」と通知を受けたみたいなんだ。
カードが更新されるまでは紙の保険証を使えるんじゃないかと言ってるんだけど、これって全国一律のルールなのかな?


そうだよ。青い保険証は有効期限に関係なく、12月の頭で使えなくなる。代わりに有効期間つきの黄色いカードが発行されて、それなら更新まで使えるよ。会社によっては、マイナ保険証を持ってない人に青いカードの代わりを出してるところもあるみたい。どっちにしても、早めに申請した方がいいと思う。


外国籍ならマイナンバーカード持っておいた方がいいよ。どうせそのうち在留カードが廃止されて、マイナンバーに一本化されると思うし。
日本国籍なら、俺だったら絶対にマイナンバーカードなんて持ちたくないけど。


何がそんなに嫌なの?


海外の反応の続きはnoteで読むことが出来ます。


考察・分析

制度刷新としての「二重管理の終焉」

今回の健康保険証廃止は、単にカードが変わるだけではありません。
日本の行政システムに長年存在してきた「紙とデジタルの二重管理」を終わらせるための制度刷新でした。

医療・年金・税務など、データベースが各組織に分散したまま更新作業も個別に行われ、

  • 資格情報の反映の遅れ
  • 転職や引越し時の手続き負担
  • 医療機関側の事務作業の増加
    といった問題を生んできました。

マイナ保険証はこの構造を見直すための入口であり、
「紙の保険証を残す限りデジタル化は前に進まない」
という考え方のもとに一本化が進められています。


なぜ紙の保険証を廃止し、また紙(資格確認書)を配るのか

読者が最も疑問を抱きやすいポイントですが、制度設計上はこう整理できます。

  • 廃止したのは「紙」ではなく「紙で恒久的に資格を管理する仕組み」
  • 資格確認書は“例外対応”であり、デジタル移行の妨げにならない暫定措置
  • 従来の保険証を残すとオンライン移行が永遠に完了しない

つまり資格確認書は“代役”であり、制度の本体ではありません。
政府としては、二重管理を断ち切るために「旧来の保険証」の枠を完全に廃止する必要があったと言えます。


国民の不信感は「制度」よりも「心理的ギャップ」から生まれている

まだまだマイナンバー制度への国民の警戒心は極めて強いものです。
この背景には、制度そのものよりも「政府への信頼」と「技術への不安」が重なっています。


分散管理なのに“一元管理”に見えてしまうギャップ

政府は「安全性のため、データは各機関が分散管理している」と説明しています。

しかし国民から見ると
「すべての情報が一つの番号で紐づく」
ように見えてしまい、
“芋づる式にすべて覗かれるのでは”
という心理的恐怖が先に立ってしまいます。

制度上の設計と、国民の印象の乖離が非常に大きい点が特徴です。


災害大国ゆえのデジタル不安

日本特有の心理として、
「停電したら使えないのでは?」
「避難所でカードリーダーは動くのか?」
という“有事ベースのリスク感覚”があります。

日常的に地震・台風に晒される環境では、紙の強さへの信頼が揺らぎません。
海外のユーザーには見えにくい、日本特有の抵抗感です。


“任意”と“実質義務化”のズレ

形式上は任意でも、

  • 保険証の廃止
  • 行政サービスの連携促進
    によって、国民には「結局は義務なのでは?」という感情が生まれています。

制度説明と運用の温度差が、反発の土壌になっています。


一部で起きた「解除運動」が示す深刻さ

制度への不信は、単なる受動的な拒否に留まりませんでした。
一度マイナ保険証登録を済ませたにもかかわらず、
わざわざ解除して資格確認書に戻す
という“能動的な抗議”すら見られました。

ここには、過去のひも付けミスや説明不足の積み重ねから生まれた、
「制度そのものへの不信」というより
“運営する側への不信”
が色濃く反映されています。


患者側のメリットが“地味すぎる”問題

制度の普及が進まなかった大きな理由のひとつが、
患者にとっての利便性が分かりにくい点です。

  • 健康な人は高額療養費の恩恵を実感しにくい
  • 重複投薬の防止も、すぐに体感できるものではない
  • 受付の動きがむしろ遅くなる場面もある

つまり、
「病院や行政の都合の方が大きく、患者側のUX(体験)の改善が小さい」
という構図が、デジタル移行への協力を後押ししにくかったと言えます。


総括:合理性と納得感の間に横たわる深い溝

マイナ保険証への完全移行は、日本の医療制度と行政DXにとって避けて通れないステップでした。
一方で、制度の合理性よりも、

  • 過去のミスによる不信
  • 災害リスクの感覚
  • UXの弱さ
  • 説明不足による“義務化”への警戒
    が大きく影響し、国民感情との溝が浮き彫りになりました。

今回の騒動は、
「制度の設計」と「国民の心理」が噛み合わないと、どれほど議論がこじれるか」
を象徴する事例だったと言えるでしょう。

行政のデジタル化が前に進む中で、
制度そのものの正確さと同じくらい、
国民の“納得”を得るプロセスが重要になるはずです。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。



関連書籍紹介

「結局、手続きはどうすればいいの?」という実用面が気になる方と、「なぜここまで批判されているのか?」という背景を知りたい方、それぞれの視点に合わせた2冊を紹介します。


『マイナ保険証 完全切り替えBOOK』

(宝島社 TJMOOK / 2025年1月15日発売)

ニュースを見ても、資格確認書だの紐付けだの、言葉が難しくてよく分からない!という方にはこちら。
ムック本(雑誌形式)ならではの大きな文字と豊富な図解で、12月2日以降の病院のかかり方や、トラブル時の対応策が視覚的にまとめられています。
政府の公式サイトを読むのが辛い人や、高齢の家族に説明する必要がある人にとって、手元にあると安心できる実用的なガイドブックです。


『マイナ保険証 6つの嘘』

(北畑 淳也 著 / 2024年8月10日発売)

今回の記事でも触れた「国民の根強い不信感」。
その正体は何なのか?

本書は、政府が強調するメリットの裏側に隠されたシステム上のリスクや、法的・運用的な矛盾点に鋭く切り込んでいます。
なぜ紙の保険証廃止にこだわるのか、本当にセキュリティは大丈夫なのか。
単なる反対論にとどまらず、制度の構造的な欠陥を指摘する一冊。
国民が抱く「政府によるデータ管理への懸念」を深く理解したい方におすすめです。


参考リンク

政府広報オンライン:2024年12月2日、マイナ保険証を基本とする仕組みへ
https://www.gov-online.go.jp/article/202407/entry-6238.html

厚生労働省:マイナンバーカードの健康保険証利用について https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08277.html

マイナポータル:マイナンバーカードの健康保険証利用
https://myna.go.jp/html/hokenshoriyou_top.html

地方公共団体情報システム機構:マイナンバーカード総合サイト
https://www.kojinbango-card.go.jp/

全国健康保険協会(協会けんぽ):今から使おう!マイナ保険証 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/event/cat550/sb5010/mytourokukakunin/

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