S&P500神話の曲がり角 巨大テック集中とインデックス投資リスクを考える

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個人投資家として知られる片山晃氏(五月@hakureifarm)が、S&P500の構造変化やインデックス投資のリスクについて整理した長文記事を公開し、大きな反響を呼んでいます。
片山晃氏はXへの投稿で、「14000字の大作だが、今日明日に何かが起きるという話ではない。現時点で自分が考えていることをまとめたものだ」と述べ、AI投資の加速や米国株市場の偏りについて冷静に読み解く姿勢を示しました。

投稿では、マイクロソフトやアップルなど巨大テックの寡占状況を象徴するビジュアルとともに、インデックス投資バブルの可能性やAI時代の市場構造の変化について触れる記事へのリンクが紹介されています。


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海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


彼ら(Mag7)はS&P500全体の利益の27%を稼いでる。しかも利益成長の半分近くも占めてる。
ただ単に、他と比べて巨大で成長してるだけなんだ。


テスラを除けば、他の6社は本当に異常なレベルで利益も利益成長も出してる。


マジで信じられない状況だよ。
他のセクターが“追いつく”展開になるか、さもなきゃ良い結末にはならない。
AIは変革的だと思う。ドットコム期とは違って、今の企業は本当に莫大な利益を出してる。
まだ黎明期の技術で、ここから本格的な生産性向上が他企業にも波及“すべき”。
でも市場は全くそれを織り込んでない。
“上がってきた銘柄だけ”が買われ続けてる。
市場にとって一番良いのは、彼ら(Mag7)が今年いっぱい横ばいで停滞して、その間に他の銘柄が息を吹き返すこと。


正直、Microsoft・Apple・Alphabetは簡単には価値を失わないと思う。
でもテスラとMetaは怪しい。
AmazonとNvidiaは…まあ過熱気味かもね。


海外の反応の続きはnoteで読むことが出来ます。


考察・分析

S&P500は「米国経済の平均」ではなくなりつつある

いまのS&P500は、もはや「アメリカの500社の平均」ではありません。
時価総額の3割前後を、わずか7社(マイクロソフト、アップル、アルファベット、アマゾン、メタ、Nvidia、テスラ)が占めているためです。

アメリカ全体のGDPが爆発的に伸びたわけではなく、
「世界中の利益と期待が、米国テックのほんの一握りに集中している」
状態が続いています。

この構造が生まれた背景には、
・スマホ普及
・デジタル広告の寡占
・クラウドビジネスの伸長
といったテック独特の強みが噛み合ったことがあります。

しかし、ここ15年ほどのS&P500の高リターンには「米国経済の底力」とは別の要因も多く含まれています。
・指数の構造変化
・投資家の集中
・テックの寡占化
など、複合的な要素によって押し上げられてきたというのが実態に近いです。


インデックス投資神話と「参加者数のバブル」

多くの国でインデックス投資が主役になり、巨額の資金が自動的に市場へ流れています。
日本でも新NISAの登場で「S&P500かオルカンを積み立てておけば安心」という空気が一気に広がりました。

重要なのは、
「指数を買う人の数が歴史的に増えたことで、株価が上がり続ける構造ができてしまっている」
という点です。

企業の利益が伸びなくても、
・毎月の積立
・年金基金の買い
・インデックスファンドの自動買い
が株価を支え続けます。

これが片山氏の言う「参加者数のバブル」という視点です。

ただ、新NISAユーザーにとって一つ補足すると、
「均等加重(equal weight)S&P500」や高度な分散戦略は日本の一般投信では選択肢が少ないため、
より現実的なのは、
・全世界株(オルカン)で地域分散を補う
・S&P500と全米株(VTI)などを組み合わせて中小型株も取り込む
といったアプローチです。


テック企業の「アセットライト」神話の終わり

これまでのビッグテックは、
・工場を持たない
・在庫を抱えない
・ネット広告やソフトで高収益
という「アセットライト(身軽なビジネス)」が強みでした。

しかし、AIブーム以降、状況は急変しています。

AIの開発には、
・超高速GPU
・巨大データセンター
・莫大な電力
が必要で、メタやグーグル、マイクロソフトの設備投資は過去最大規模に達しています。

つまり、
テック企業は「軽いIT企業」から「重厚長大な設備産業」に変貌しつつあるのです。

ここで問題になるのが、
巨額投資が2〜3年後に減価償却という形で利益を圧迫するタイムラグ
です。

今はまだキャッシュアウトが中心で利益は見た目上強いですが、
もし数年後にAIの収益が期待値を下回れば、
・EPS(1株利益)の急減
・株価に織り込まれた高収益モデルの崩壊
という逆回転が起こる可能性があります。


「ディベースメント・トレード」としてのS&P500

近年、
・インフレ
・円安
・各国の債務拡大
により、「現金のままでは価値が減る」という不安が広がってきました。

その結果、
S&P500や金、ビットコインといった資産が、
法定通貨の価値毀損(ディベースメント)から逃げるための受け皿
として買われています。

ただしここで一つ補足すると、
「株価が上がった=生活が楽になる」ではありません。
資産額が増えても、インフレで物価も上がっていれば、
実質購買力はほとんど変わらない場合もあります。

それでも株が買われ続けるのは、
「現金が減価する恐怖」の方が強いからです。

この心理が、インデックスへの資金流入をさらに押し上げ、
S&P500神話を加速させている面もあります。


日本の投資家にとっての現実的アクション

日本の投資家がいま考えるべきポイントは次の通りです。

・S&P500は万能ではない
・現状は米国テックに極端に偏った構造
・新NISAは強力だが、S&P500一極集中はリスクを取りすぎ
・地域分散(オルカン)や全米株(VTI)との組み合わせも有効
・将来のリターンは「過去15年の延長」とは限らない
・インデックスは買って終わりではなく、「中身の構造」を理解して使うもの

特に「長期なら絶対増える」という神話的な考え方は危険です。
長期投資は重要ですが、それは
「指数の構造を理解したうえで選ぶ」ことが前提です。


総括

片山氏が示しているのは、
「S&P500が崩壊する」
という話ではありません。

むしろ、
・ビッグテックへの過度な集中
・AI投資競争による構造変化
・インデックスマネーの急膨張
という、これまでとは明らかに違うレジーム(市場の状態)が始まっているという警告です。

これからの市場は、
過去15年の「右肩上がりの米国株」に支えられた時代とは違う景色になるかもしれません。

それでも市場に居続けるなら、
「神話だから信じる」のではなく、
構造を理解したうえで、あえてリスクを取る覚悟
が必要になります。

神話が崩れるときは、恐怖と同時に、新しい現実が生まれます。
その変化を冷静に受け止め、自分の軸を持ち続けることこそ、
これからのインデックス時代に求められる姿勢ではないでしょうか。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。



関連書籍紹介

『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』

(クリス・ミラー 著 / 2023年2月22日発売)

今回の記事では、GoogleやMicrosoftが利益を削ってまで「アセットヘビー」化し、巨額の設備投資を続けざるを得ない現状を解説しました。

なぜ彼らは、まるで軍拡競争のようにGPUやデータセンターを買い漁るのか。 本書を読むと、半導体が単なる電子部品ではなく、国家の覇権すら左右する「戦略物資」であることが痛いほど分かります。

ビッグテックが直面している「降りられないチキンレース」の背景にある、地政学的な重みと技術的な必然性を理解する上で、まさに今のタイミングで読むべき一冊です。


『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』

(マイケル・ルイス 著 / 2013年3月8日発売 ※文春文庫版)

記事の中で片山氏も引き合いに出していた、映画『マネー・ショート』の原作です。

リーマンショック前夜、世の中が「住宅市場は盤石だ」という神話を疑わなかった中で、その構造的な欠陥を見抜き、孤独に逆張りを続けた投資家たちの姿を描いています。

現在の「S&P500を買っておけば間違いない」という空気感は、当時の熱狂とどこか似ていないでしょうか。

みんなが信じている「安全資産」に潜む歪みをどう見抜くのか。記事のテーマである「神話を疑う視点」を養うための、最高の実践書と言えます。


参考リンク

The Wall Street Journal: The Magnificent Seven Stocks and S&P 500 Concentration

Investopedia: Average Annual Return of the S&P 500

GlobalTrading: Passive Funds Extend Their Dominance in Equity Investments in 2024

Investopedia: What Is an Index Fund?

JPX (日本取引所グループ): NISA Renewal 2024 (News Release)

Belonging Japan: NISA Japan: A Guide for Foreigners

Bloomberg: Big Tech’s AI Arms Race Drives Record Data Center Spending

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