ニュース
アメリカの ドナルド・トランプ 大統領は、クリスマスイブに自身のSNS「Truth Social」で祝辞を投稿し、その中で左派勢力を強く揶揄した。
トランプ氏は「我が国を破壊しようとしているが失敗している過激な左派の連中も含めて、皆にメリークリスマス」と発言し、祝福の言葉に政治的な皮肉を織り交ぜた。
投稿ではこのほか、国境管理や治安、経済状況についても触れ、自身の政権運営の成果を強調している。
クリスマスという本来は融和を象徴する日に発せられた強い政治的メッセージは、支持層からは評価される一方で、社会の分断を深めるとの批判も招いている。
出典:TRT World
関連記事
海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
メリークリスマスと言っただけで、なんて大罪なんだ!どうしてそんなことを言うんだ!
これは大統領として、普通のクリスマスメッセージだと思う?
いつものように自慢しているだけだよ。
こんなクリスマスメッセージを出した大統領が、他にいたか?
海外の反応の続きはnoteで読むことが出来ます。
考察分析:なぜ「メリークリスマス」が分断のスイッチになるのか
今回の発言は、単なる礼儀作法や言葉遣いの問題ではありません。アメリカでは年末の挨拶が、宗教、文化、政治、メディア環境をまとめて映す象徴になっています。ここでは、その構造をできるだけ解像度高く整理します。
1) クリスマスは「季節イベント」ではなく「信仰の中心」に触れる
日本ではクリスマスは年中行事や商業イベントとして消費されがちですが、アメリカの本流ではキリスト教の重要な宗教行事です。
イエスの誕生を祝うという意味を持つ以上、宗教的に中立な祝祭ではありません。
この点を見落とすと、「なぜ挨拶で揉めるのか」が理解できなくなります。挨拶が揉めるのは、単語が問題というより、その単語が指している世界観が問題になるからです。
2) 三宗教の関係が、挨拶を中立にしにくい

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教はいずれも唯一神を信じる一神教ですが、イエスの扱いが決定的に違います。
ユダヤ教の立場から見ると、イエスは当時のユダヤ社会に生きた一人のユダヤ教徒であり、救済者(メシア)とは認められていません。正統な教義とは相容れない存在として扱われてきました。
キリスト教は、このイエスを神の子であり救済者として信仰の中心に据えました。ここが決定的な分岐点です。
イスラム教では、イエス(イーサー)を偉大な預言者の一人として尊敬していますが、神の子とは認めません。イスラム教では、神は唯一絶対であり、人を神格化する考え自体が受け入れられないためです。
つまり、クリスマスはキリスト教の核に直結する宗教行事であり、他宗教の信徒にとっては、善意の挨拶であっても宗教的に中立な祝祭とは言えないのです。
3) 「Happy Holidays」が広がった現実的な理由
多宗教社会の職場や行政では、多様な人々に配慮して宗教色の薄い挨拶が好まれるようになりました。
ここで「Happy Holidays」と複数形になる背景には、同時期にユダヤ教の祭り「ハヌカ」などが重なるという事情があります。
キリスト教以外の祝祭もひっくるめて尊重しよう、という実務上の判断でした。
問題は、この現場対応が、やがて政治の象徴へと変換されていく点にあります。
4) 反発の核心は「宗教」より「文化戦争」と「ポリコレ」
保守派の一部は、「Happy Holidays」を単なる配慮ではなく、ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)の押し付け、あるいはキリスト教文化の公的空間からの撤退だと受け止めてきました。
実際に禁止されていなくても、支持者側では「文化を奪われている感覚」が共有されます。
人口動態の変化や宗教離れへの不安が、挨拶のような小さな象徴に集中した結果が、いわゆる「クリスマス戦争(War on Christmas)」です。
5) トランプにとって「メリークリスマス」は合言葉
トランプ氏は以前から「メリークリスマス」を文化戦争の旗印として使い、支持者の一体感を作る材料にしてきました。
ここで重要なのは、挨拶が宗教儀礼としてではなく、陣営を確認するための合言葉として機能している点です。
賛同すれば味方、違和感を示せば敵。祝日メッセージに政治攻撃が混じることで、この構図はより強固になります。
6) 支持者が許容する理由:道徳より「戦時モード」
キリスト教的な「隣人愛」と、トランプ氏の罵倒的表現は矛盾して見えます。
しかし支持者の一部は、彼に聖人性を求めていません。
福音派の一部には、トランプ氏を欠点のある器でも神に用いられる存在として捉える見方があります。旧約聖書に登場するキュロス王になぞらえ、人格よりも文化的主導権を取り戻すための用心棒として評価する考え方です。
この視点では、対立的な言葉は品格の欠如ではなく、戦いを継続する合図として肯定的に受け取られます。
7) プラットフォームの特性:Truth Socialは演説台
今回の発信場所がTruth Socialである点も重要です。
ここは一般社会への公式声明というより、支持者が集まる場への直接メッセージに近い性質を持っています。
最初の受け手が支持者である以上、語彙が過激になっても拍手が返り、それが切り抜きとして外部へ拡散します。
この閉じた空間での熱狂が、社会全体との温度差を広げます。
8) メディア戦略としての注目独占
祝日は政治ニュースが減り、家族や友人との会話が増える時期でもあります。
そこで強い言葉を投げると、ニュースサイクルを支配しやすくなります。
支持者には連帯の合図、批判者には怒りの対象として機能し、どちら側でも話題になる。これはアテンション・エコノミーに適合した、極めて現代的な振る舞いです。
9) 本質は挨拶ではなく「共通の土台の消失」
今回の件を、礼儀や品格の問題だけで片付けると本質を見誤ります。
より深刻なのは、社会の共通の土台が消えつつあることです。
宗教観、国家観、メディア観が分断され、同じ文章を読んでも、ある人には文化的自己主張に、別の人には排除の宣言に見える。
今回の騒動は、その別々の現実が可視化された出来事だと言えるでしょう。
総括:祝日の挨拶が政治になる社会
今回のトランプ大統領の発言がこれほど議論を呼んだのは、言葉が荒かったからだけではありません。
アメリカ社会では、宗教的背景、文化戦争、ポリティカル・コレクトネス、メディア環境、そして支持者心理が複雑に絡み合い、かつては中立だったはずの「挨拶」そのものが政治的な意味を帯びるようになっています。
クリスマスは、単なる年末のイベントではなく、キリスト教の信仰の核心に触れる行事です。その言葉をどう使うかは、宗教的立場や文化的アイデンティティを暗に示す行為にもなります。
その上で「メリークリスマス」が、融和ではなく対立の文脈で使われたとき、人々の受け止め方が真っ二つに割れるのは避けられません。
支持者にとっては、これは文化戦争の合図であり、連帯を確認するメッセージでした。
一方で批判的な立場からは、大統領という立場に求められる統合の役割を放棄した行為として映ります。
どちらが正しいかという単純な話ではなく、共通の前提や価値観がすでに共有されなくなっていること自体が、今回の騒動の本質と言えるでしょう。
祝日の挨拶ですら政治的な意味を帯びてしまう社会。
今回の出来事は、アメリカの分断がどこまで進んでいるのかを象徴的に示す一例として、記憶されるべきものだと思います。
それではまた、次の記事でお会いしましょう。
関連書籍紹介
1. なぜ「トランプ的な振る舞い」が熱狂的に支持されるのかを知る名著
『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』
(森本あんり 著 / 新潮選書)
なぜ敬虔なキリスト教徒が、暴言を繰り返すトランプ氏を支持するのか?
その謎を解く鍵は、アメリカ建国以来の「反知性主義(Anti-intellectualism)」の伝統にあります。
本書は、アメリカにおいて「知性」や「エリート」がいかに嫌われ、逆に「信仰」と「直感」がどう結びついてきたかを歴史的に紐解く一冊です。
「メリークリスマス」を巡る戦いが、単なる言葉の問題ではなく、リベラルなエリート層に対する「一般庶民(と自認する人々)の反乱」であることを深く理解できます。
アメリカの保守層の心理的背景を知るための必読書です。
2. 「話が通じない」理由を科学的に解明する
『社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学』
(ジョナサン・ハイト 著、高橋洋 訳 / 紀伊國屋書店)
「ハッピー・ホリデーズ」を配慮ととるか、伝統の破壊ととるか。なぜ同じ人間なのに、こうも感じ方が違うのか?
社会心理学者の著者は、人々の対立が論理ではなく「道徳的な直感」の違いから生まれていることを解き明かします。
リベラルは「ケアと公正」を重視し、保守は「忠誠と神聖」を重視する。
この「道徳のものさし」の違いを知ることで、トランプ現象や文化戦争が、単なる政治喧嘩ではなく「正義と正義の衝突」であることが見えてきます。
分断のメカニズムを冷静に見つめ直したい方へ。
管理人のインプットツール
以下は、普段記事を書く際に実際に使っているインプット環境です。
ご興味があれば、参考までに置いておきます。
・Audible(オーディブル)
移動中や作業中に「耳で読書」。ニュースやビジネス書の消化に便利です。
→ Audible無料体験はこちら
・Kindle Unlimited
気になった本を一気に拾い読みする用途に重宝しています。
→ Kindle Unlimited無料体験はこちら
・AirPods
周囲の音を遮断して、記事執筆やリサーチに集中したいときに使用しています。
→ AirPodsをAmazonで見る
参考リンク
The War of Words behind ‘Happy Holidays’ (HISTORY) 「クリスマス戦争」の起源とは? 清教徒時代から続くアメリカのクリスマス論争の歴史的背景。
https://www.history.com/news/the-war-of-words-behind-happy-holidays
The biblical story the Christian right uses to defend Trump (Vox) なぜ福音派はトランプ氏を支持するのか? 聖書の「キュロス王」になぞらえて正当化するロジックの解説。
https://www.vox.com/identities/2018/3/5/16796892/trump-cyrus-christian-right-bible-cbn-evangelical-propaganda
God gave us Trump: Christian media evangelicals preach messianic message (Reuters) 「神がトランプを与えた」という支持者たちの証言と、それを拡散するキリスト教メディアの実態(2024年の最新記事)。
https://www.reuters.com/world/us/god-gave-us-trump-christian-media-evangelicals-preach-messianic-message-2024-03-22/
What to know about Truth Social (PBS) 今回の発信源となったSNS「Truth Social」とは? 支持者が集まるプラットフォームの特性と現状。
https://www.pbs.org/newshour/politics/what-to-know-about-truth-social-trumps-social-media-platform


