ニュース
2026年1月、中国軍制服組トップである 張又侠・中央軍事委員会副主席が、中国の核兵器プログラムに関する機密データを米国側に漏洩した疑いで調査対象になっていると、米紙 ウォール・ストリート・ジャーナル が報じた。
同紙によると、中国共産党内部の非公開ブリーフィングにおいて、張氏が「中国の核兵器計画に関する核心的な技術データを米国に提供した」との疑惑が提示されたという。報道では、この問題が単なる汚職ではなく、国家安全に関わる極めて深刻な規律違反として扱われているとされる。
張又侠氏は習近平国家主席に次ぐ軍内序列2位の人物で、長年にわたり習氏の側近として軍の統制を担ってきた。中国国防部は、張氏が「重大な規律違反および法律違反の疑い」で調査を受けていること自体は認めているが、核兵器データの流出や米国への関与については公式に言及していない。
今回の疑惑は、ロケット軍や軍需産業を中心に進められてきた中国軍高官の相次ぐ粛清の流れの中で浮上したもので、中国軍内部の統制や機密管理の実態に注目が集まっている。
関連記事
補足説明
張又侠という人物の立場
張又侠 (ちょう ゆうきょう)は、中国人民解放軍を最終的に統括する中央軍事委員会副主席を務めてきた人物で、習近平国家主席を補佐する軍最高指導部の一角にありました。
ロケット軍司令官や国防相といった実務レベルの高官とは異なり、軍全体を監督する立場にあった点が、今回の件の大きな特徴です。
公式発表と報道内容の整理
現時点で、中国政府や国防部は、核兵器データの流出や米国への関与といった具体的な容疑内容を公式には公表していません。対外的な説明は、「重大な規律違反や法律違反」といった包括的な表現にとどまっています。
一方、米紙 ウォール・ストリート・ジャーナル は、中国共産党や軍の内部向け非公開ブリーフィングの内容として、張又侠が「中国の核兵器プログラムに関する核心的な技術データを米国側に渡した疑いが示された」と報じています。
これは内部説明に基づく報道であり、中国当局が公式に確認した事実とは区別して受け取る必要があります。
「重大な規律違反」という表現の意味
中国の政治・軍事分野で用いられる「重大な規律違反」という言葉は、汚職に限定されたものではありません。
命令違反、報告体制の不備、機密管理の問題など、幅広い問題を一括して示す表現です。
今回の件も、個人の不正行為というより、ロケット軍や核関連分野を含む軍の管理・統制構造に問題が及んでいる可能性が指摘されています。
現時点で確認されている範囲
現段階で確実に言えるのは、張又侠を巡って軍中枢レベルの調査が進んでいると主要メディアが報じているという点までです。
具体的な行為内容や事実関係の全容については、公式な説明はなく、今後の情報開示が待たれる状況にあります。
海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
中国軍トップが、核を含む機密情報を米国に漏らし、さらに国防相への昇進を含む公的行為の見返りとして賄賂を受け取っていたとする新たな報告が出ている。
これは中国にとって本当に深刻だ。彼が昇進させた人物は、ほぼ確実に全員調査対象になるだろう。
この話が本当である可能性は極めて低い。習近平は張に対して、ありとあらゆる疑惑を投げつけたように見える。両者はしばらく前から権力闘争をしていたとされている。
国家を統治する権力を巡って争う将軍は、どこの国であれ排除されるべきだ。
実際に何が起きているのかは分からない。張が本当に習に対抗しようとしていたのかもしれないし、部下から人気がありすぎたのかもしれないし、将来のライバルと見なされた可能性もある。
権威主義体制では、軍や経済分野の粛清は珍しいことではない。
一党支配国家では、友人や親族を長期的に権力の座に置きたい場合、有能な軍事指導者はむしろ邪魔になる。
それでいて米国と軍事的に対峙したいと言うのか。
実際の戦闘で有効に戦うには、有能な司令官と下士官団が不可欠だ。核を撃つだけなら誰でもできるのかもしれないが。
その人物が腐敗しており、作戦上の損失を生んでいた可能性もある。それは習の台湾侵攻計画にとって危険だ。
一党支配国家では、ほぼ全員が腐敗している。
習には軍事経験がないため、自分より優秀に見える有能な軍事指導者を周囲に置きたくないのだろう。
人的損失が大きくても問題ないと考えるなら、ロシアの軍事思想が示すように、波状攻撃で押し切ることもできる。
「友人に契約を回す」程度の縁故主義と、「兵士が燃料を売っても気にしない」「整備費を横領する」といった腐敗は別物だ。
前者はまだ許容されがちだが、後者は国家の作戦能力を深刻に損なう。
独裁国家だ。腐敗していなければ、そもそもその地位にはいない。
問題は、誰がより大きな見返りを得ているかだ。
国家の情報機関がなければ、真相は分からない。
軍が台湾侵攻を望まず、習が望んでいる可能性もある。
逆に、習が望まず軍が望んでいる可能性もある。
あるいは終身在任に軍が不満を持っているのかもしれない。
実際の腐敗である可能性もあるが、それは最もあり得ない説明だと思う。
中国共産党では舞台裏が分からない。
ここ5年で多くの軍司令官が粛清されているが、腐敗はどこまで深いのか。
階層を再編し、習個人の下に権力を一本化する動きだ。
ロシアの分析者は、プーチンの同様の動きを「権力の垂直化」と呼んでいる。 これは5〜6年かけた政治構造の変化で、合議制を重んじてきた党の慣行を逸脱している。 軍と文民の対立だけでなく、中国共産党の規範そのものが揺らいでいる。
彼は本当にクーデターを企てていたのか。それとも、習が国家権力を独占することに抵抗していただけなのか。
中国には台湾を攻略する能力がなく、当分それは変わらないと、習に説明しただけなのかもしれない。
考察分析 張又侠調査報道が示すもの
1. これは何の事件として読むべきか
今回の焦点は、「核兵器データ漏洩」という刺激的な疑惑そのものよりも、中国軍の頂点に近い人物が調査対象となり、当局が沈黙を守る一方で、外部では極めて重い疑惑が具体的に語られている点にあります。
ロイター などの主要メディアは、張又侠と劉振立が「重大な規律違反および法律違反の疑い」で調査対象になったと報じています。しかし、中国国防部はこの件について公式な発表を行っておらず、具体的な容疑も明らかにしていません。
一方で、ウォール・ストリート・ジャーナル やブルームバーグ などは、非公開の内部説明を根拠に、核兵器プログラムに関する核心的な技術データの流出や、昇進を巡る不正といった、より踏み込んだ疑惑を報じています。
公式な沈黙と、外部報道の具体性。このギャップこそが、今回のニュースを単なる汚職事件ではなく、軍内部の統制や情報管理の問題として捉えるべき理由です。
2. 「重大な規律違反」という言葉の射程
中国の政治・軍事分野における「重大な規律違反」という表現は、汚職だけを意味するものではありません。職権乱用、命令違反、報告義務の不履行、派閥形成、機密管理の不備など、政治的に扱いにくい問題を一括して包み込むための、非常に幅の広い言葉です。
今回の件も、「スパイ行為だったのか」「金銭的な汚職だったのか」といった一点に収斂させるより、軍の運営や管理のどこかで重大な歪みが生じ、それが看過できない段階に達したと見る方が整合的です。
3. 構造的な問題 なぜ軍中枢で不正が起きやすいのか
核兵器やミサイル、ロケット軍を巡る分野には、共通した構造的特徴があります。
外部から検証しにくい
成果や失敗が可視化されにくい
予算規模が大きい
評価が内部報告に強く依存する
この条件が重なると、露骨な賄賂や横領に限らず、性能の誇張、都合の悪い情報の先送り、虚偽を含んだ報告が積み上がりやすくなります。しかも、階層が上がるほど実態確認は難しくなり、最終判断者が受け取る情報の質は低下します。
今回の調査は、特定の個人が腐敗していたという話にとどまらず、こうした検証不可能な仕組みそのものが限界に達していた可能性を示しています。
4. 「身内登用」が生む逆説
習近平政権は、軍の掌握と汚職排除を目的に、信頼できる人物を要職に登用してきました。張又侠も、その象徴的な存在と見なされてきた人物です。
しかし、権威主義体制では、信頼されている人物ほどチェックが甘くなるという逆説が生じやすい。手続きの省略や、異論の回避が常態化し、問題が表に出にくくなります。
今回の件が示しているのは、「身内を登用すれば腐敗を抑えられる」という発想そのものが、長期的には監督機能を弱め、より大きな歪みを抱え込む可能性があるという現実です。
5. 軍事的含意 抑止力は信用で成り立つ
核戦力やミサイル戦力において最も重要なのは、実際に使えるかどうか以前に、「確実に機能していると信じられていること」です。抑止力は、能力そのものと同時に、制度と報告の信頼性によって支えられています。
もし内部で、報告の正確性や管理体制に疑念が生じているなら、外部に対して強硬な姿勢を示し続ける一方で、内部では戦力評価や指揮統制の前提を再点検せざるを得なくなります。
これは短期的な軍事力の低下というより、意思決定の基盤そのものを揺るがす問題です。
6. 台湾侵攻との関係 「妨害排除」より「判断基盤の再構築」
習近平が「自分より権力を持ちそうな人物」や「侵攻に慎重な人物」を排除している、という見方は分かりやすいものです。しかし、今回の件を単純な権力闘争として読むのはやや粗い。
台湾侵攻の成否を左右するのは、決断の勇気ではなく、制空・制海、ミサイルによる制圧、補給線の維持、同盟国の介入抑止といった、極めて現実的な要素です。これらはすべて、ロケット軍や海軍、空軍、そして調達・整備の品質に依存します。
虚偽や誇張を含んだデータの上では、正確な戦争判断は不可能です。今回の調査は、「侵攻を進めるための粛清」というより、「判断の前提となる情報と統制を立て直す動き」として読む方が筋が通ります。
7. 情報戦としての側面
今回の件では、沈黙を保つ中国側と、詳細を報じる西側メディアの双方に合理性があります。
中国側にとっては、詳細を語らないことで政権の威信と抑止の信用を守れる。一方、西側にとっては、核や軍中枢の不祥事を強調することで、中国の安全保障体制に疑念を植え付けることができる。
この構図の中では、公開情報だけで真相を一つに定めることは難しく、読者側にも距離感が求められます。
総括
今回の張又侠を巡る調査報道は、「核兵器データ流出」という一点の真偽を断じる段階にはありません。しかし、この件が示しているのは、中国軍の中枢に近いレベルで、管理・報告・統制の前提が揺らいでいる可能性です。
中国当局が具体的な説明を避けている一方で、海外メディアでは軍の最高幹部にまで疑惑が及んだと報じられており、この温度差自体が異例です。単なる個人の不正や権力闘争として処理するには、対象となっている分野があまりにも重く、核戦力やロケット軍といった抑止の中核に直結しています。
重要なのは、今回の動きが「誰を排除したか」よりも、どのような情報と判断基盤を信頼できなくなったのかという点です。虚偽や誇張を含むデータの上では、戦争の是非以前に、戦争判断そのものが成立しません。今回の調査は、台湾侵攻を含む将来の選択肢を巡り、判断の前提条件を洗い直す局面に入ったことを示唆しています。
対外的には強硬姿勢を維持しながら、内部では統制と情報の再点検を迫られる。この二重構造こそが、現在の中国軍と習近平体制の現実と言えるでしょう。
それではまた、次の記事でお会いしましょう。
▼記事が面白かったら応援クリックお願いします!▼
▲更新の励みになります!▲
関連書籍紹介
『習近平の軍事戦略 「強軍の夢」は実現するか』
浅野亮・土屋貴裕(芙蓉書房出版/2023年4月刊)
なぜ習近平は軍のトップ(張又侠ら)をこれほどまでに警戒し、粛清を繰り返すのか。その謎を解く鍵は、習近平が進めてきた軍事改革そのものが抱える歪みにあります。
本書は、同志社大学の浅野亮教授と京都先端科学大学の土屋貴裕教授という、現代中国軍事研究を代表する研究者が編著を務めた学術的解説書です。習近平が目指す「強軍」とは具体的にどのような組織なのか、そして「党による絶対的指導」を徹底しようとする過程で、現場にどのような軋轢や構造的欠陥が生じているのかを、人事・組織・予算の観点から緻密に分析しています。
今回のニュースで使われている「規律違反」や「忠誠心の問題」は、単なる個人のスキャンダルではなく、習近平の軍事改革そのものが抱えるジレンマの表出であることを理解するための、極めて信頼性の高い一冊です。
『中国「軍事強国」への夢』
劉明福 著/峯村健司 監訳/加藤嘉一 訳(文藝春秋・文春新書/2023年9月刊)
「核データの漏洩」疑惑がなぜこれほど深刻なのか。それは、中国軍内部の一部が描いている対米衝突と覇権獲得のシナリオが、驚くほど具体的だからです。
著者の劉明福氏は、中国国防大学の教授(上級大佐)を務め、習近平政権のスローガン「中国の夢」の理論的支柱とされたタカ派の重鎮です。本書は、彼が「米国といかに戦い、いかに勝利するか」を説いた内部向け言説の翻訳ですが、注目すべきは、中国国内版では削除された箇所まで復元した完全版である点にあります。
特に、核戦力や台湾統一を巡る記述は、中国当局にとってあまりに過激で「不都合」だったため、本国では検閲されました。本書では、その隠された野望や思考を、検閲前の形で読み取ることができる点が大きな特徴です。
中国軍タカ派が何を目指し、どこを到達点として想定しているのか。今回の記事で扱った疑惑の「思想的背景」を理解するための重要な補助線となる一冊です。
管理人のインプットツール
以下は、普段記事を書く際に実際に使っているインプット環境です。
ご興味があれば、参考までに置いておきます。
・Audible(オーディブル)
移動中や作業中に「耳で読書」。ニュースやビジネス書の消化に便利です。
→ Audible無料体験はこちら
・Kindle Unlimited
気になった本を一気に拾い読みする用途に重宝しています。
→ Kindle Unlimited無料体験はこちら
・AirPods
周囲の音を遮断して、記事執筆やリサーチに集中したいときに使用しています。
→ AirPodsをAmazonで見る
参考リンク
China investigating top general over serious violations, says defence ministry(Reuters)
China’s top general accused of leaking nuclear weapons secrets to US – report(The Times of Israel)
China’s Top General Under Probe Over Nuclear Data Leak Claims To US: Report(NDTV)
Taiwan monitoring China after Beijing fires top general(Semafor)


