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米連邦最高裁は2026年2月20日、トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に導入していた包括的な対外関税について、6対3で違法との判断を示した。判決は、関税のような通商政策の核心的権限は憲法上議会に帰属し、大統領がIEEPAを用いて恒常的・広範な関税を課すことは認められないと結論づけた。
問題となったのは、「国家的緊急事態」を理由に、ほぼ全ての輸入品に一律10%以上の関税を課していた措置である。最高裁は、IEEPAは本来、経済制裁や資産凍結を想定した法律であり、恒久的な関税政策の根拠にはならないと判断した。
これを受け、トランプ大統領は1974年通商法122条を根拠に、既存の通常関税に上乗せする形で「全世界対象の10%一律関税」を課す大統領令に署名すると表明した。同条は深刻な国際収支不均衡に対処するため、最大150日間の暫定的な輸入課徴金を認める規定で、延長には議会の関与が必要とされる。
政権は「判決に従った合法措置」と説明する一方、企業や州政府からは関税返還や政策の不確実性拡大を懸念する声も出ている。市場の焦点は、今後の下級審手続きや、201条・232条・301条など他の通商法条項の活用に移りつつある。
出典:Reuters
【追記:2026年2月22日】10%から15%へ引き上げ
日本時間2月22日早朝、トランプ大統領は、前日に発表した10%一律関税を15%へ引き上げると表明した。15%は通商法122条の法定上限であり、大統領が単独で発動できる最大水準である。
最高裁がIEEPAによる包括関税にブレーキをかけた翌日に、別の法的枠組みで上限まで引き上げる。関税政策は止まったのではなく、法的ルートを変えて加速した形だ。
わずか24時間で税率が1.5倍に引き上げられた事実は、本件の最大の問題が税率そのものではなく「予測不能性」にあることを鮮明にしている。
出典:Reuters
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補足説明
トランプ関税とは何か
トランプ関税とは、貿易赤字是正や国内産業保護、そして外交圧力の手段として用いられてきた一連の追加関税政策の総称です。
トランプ氏にとって関税は単なる税制ではなく、交渉カードであり、支持層へのメッセージでもあります。製造業回帰、対中強硬姿勢、米国第一主義といった政治的メッセージの象徴でもあります。
何が問題になったのか
IEEPAは本来、経済制裁や資産凍結を想定した法律です。政権は条文中の「輸入を規制する」という文言を拡大解釈し、包括関税の根拠としました。
最高裁は、関税は実質的に課税であり、議会の明確な授権が必要だと判断しました。関税そのものを否定したのではなく、緊急権限の拡張を否定した形です。
保守多数の最高裁が示した意味
現在の最高裁は保守派判事が多数を占めています。その構成のもとで行政権の拡張に歯止めがかかったことは、党派対立というよりも三権分立の原則が優先されたことを意味します。
大統領であっても、通商政策を無制限に動かせるわけではないという線引きが示されました。
消えた関税と残った関税
無効となったのはIEEPA単独を根拠にした包括関税です。
一方で、301条による対中関税や、232条による鉄鋼・アルミ・自動車の安全保障関税は残っています。今回止められたのは「新たに積み上げられた包括部分」であり、既存の主要関税は維持されています。
なぜ関税に固執するのか
関税は経済政策であると同時に政治戦略でもあります。
最高裁に止められても即座に別条文で再発動し、さらに上限まで引き上げる動きは、制度の限界を探る行為であると同時に、支持層に対する強いメッセージでもあります。
経済合理性だけでは説明できない政治的動機が背景に存在しています。
還付問題と国内の混乱
無効とされた関税は約1,750億ドル規模に上るとされています。返還の扱いを巡り企業や州政府が訴訟を起こしています。
仮に企業に返金されたとしても、消費者に還元される保証はありません。価格調整や訴訟リスクが残る可能性があります。
日本への影響
全世界一律関税が維持・強化されれば、日本の自動車、機械、電子部品は直接的な影響を受けます。
さらに、日本は約5,500億ドル規模の対米投資枠組みを進めています。経済安全保障と関税圧力が同時進行する構図は、通商と外交が不可分であることを示しています。
日本にとって重要なのは、税率そのものよりも政策の揺れが長期化するかどうかです。
今回の本質
今回の核心は、関税の是非そのものではありません。
大統領はどこまで単独で経済政策を動かせるのか。議会と司法はどこで線を引くのか。その制度的な緊張関係が、今回あらわになりました。
最高裁はブレーキをかけました。しかし政策は止まりませんでした。法的な舞台が移り、関税は再設計されました。
市場にとって最大のリスクは税率の高さよりも、制度の寿命が読めないことです。昨日まで有効だったルールが、翌日には別の条文で置き換えられる。この不確実性こそが、企業と投資家にとっての最大のコストです。
なお、以下に紹介する海外の反応は、10%一律関税が発表された時点でのスレッドです。その後、税率は15%へ引き上げられましたが、コメントの多くはすでに「法的正当性」「大統領権限の限界」「市場への影響」といった本質的な論点に集中していました。
結果として、わずか1日後の追加引き上げは、彼らが懸念していた「予測不能性」をむしろ裏付ける展開となっています。
それでは、10%発表時点での海外の反応を見ていきましょう。
海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
「本日、私は既に課されている通常の関税に上乗せする形で、通商法122条に基づき10%の世界一律関税を課す大統領令に署名する」
「さらに、他国や企業の不公正な貿易慣行から我が国を守るため、301条やその他の調査も複数開始する」
とトランプは述べた。
もし彼が別の法的根拠を使っているのだとすれば(以前の法的根拠が何だったのかは分からないが)、今回の関税は“明確に違法”というより“法的にかなり疑わしい”という位置づけになるだけだ。
とはいえ、トランプが判決に対して強硬姿勢を強めたかどうかに関わらず、すでに導入され、その後撤回された関税だけでも相当な経済的不安定を招いている。特に今回の判決は、解釈次第では遡及的効力を持つ可能性がある。彼がさらに上乗せすることで、問題は長引くだけだろう。
消費者を罰するために、(違法に)さらに10%上乗せするのか。しかも自分が任命した最高裁の判断に腹を立てて。うまくいくとは思えないけどね。
誰かこの支離滅裂な話を理解できる?前回の愚行よりもマシな法的根拠はあるのか?それとも、いつものように本物の経済学者や弁護士が使う単語を並べているだけか?
どうやら彼は最高裁よりも米国法をよく知っているらしい。「最高裁の判断は間違っている」と言っているし。
最大15%を150日間課せる法律はある。
その150日が切れたら、同じ額をさらに150日間延長するのを禁じる別の法律はあるのか?それとも好きにできるのか?
これまで使われたことがないから未知数だ。
条文の文言通りなら、150日ごとに新たな緊急事態を宣言して時計をリセットできるという解釈も可能だ。まだ裁判で試されたことはない。
Geminiによると、150日は連邦取引委員会が議会に提出するための論拠と証拠を整えるまでの暫定措置だという。
もし彼が150日を繰り返すなら、下級裁判所が差止命令や執行停止を出して関税徴収を止められる。最高裁が今回示した方向性を考えれば、それは維持されるはずだ。
今後は彼が関税の正当性を立証しなければならない立場になる。
じゃあ、その「維持される」仕組みは何だ?判決があっても関税が徴収され続けたら、次の手は何なんだ?
それが起きれば違法行為だし、違法は大統領だけの問題ではなく、徴収機関にも影響する。
延長は禁止されている。
誰によって?
法律は分かる。でも誰が?紙の盾は紙でしかない。
122条の関税は、議会が動かない限り150日で失効する。しかも一律適用だから交渉はできない。
トランプは足を踏み鳴らして、納税者に何十億ドルも負担させている。
AI要約:「2026年2月時点で、通商法122条はトランプ政権により10〜15%の世界一律関税を課すために使用されている。これは“深刻な国際収支赤字”に対処するための一時的措置で、最大150日間有効。延長には議会の承認が必要」
「適用は全ての国に対して一律でなければならない」
分野別に適用はできる。国別差別はできないが、全ての国に必ず適用する必要はない。
もしかして政権はAIの要約をそのまま122条戦略に使ったのでは?
これはMAGA特有の論理だと思う。ホワイトハウスから出てくる話は我々には理解不能だ。
関税を認める法律は5〜6本ある。いずれも一時的措置が前提だが、USTR(米国通商代表部。関税や貿易交渉を実務的に担う大統領直属機関)は別の権限で恒久的な国別関税を可能にする研究を進めている。
私はバカかもしれないが、彼が既存の関税を維持した上で、さらに10%を上乗せするという理解で合っている?
まるで国がDV関係にあって、さらに二重に罰を受けているみたいだ。
それは誤解だ。実際の発言はこうだ。
「既に課されている通常の関税に上乗せして、122条に基づく10%の世界関税を課す」
IEEPAに基づく緊急関税は消えた。最高裁はその権限を否定したからだ。
しかし、201条、232条、301条に基づく通常関税は残る。例えばカナダへの232条の鉄鋼・アルミ関税、中国への201条・301条関税は継続だ。
トランプは1期目に232条を多用していた。今後もそれに戻る可能性が高い。201、301、232は歴代大統領が広く使ってきた「比較的安全な」手段だ。
これは合法で、最高裁への反抗ではない。
150日間、10%に限定されている。
全ての国に適用される。
国別に棍棒のように関税を振り回すことはできなくなる。それが彼の主要な動機だった。
これは「最高裁対関税」の戦いではない。最高裁が違法行為を禁じただけだ。そして実際に禁じた。
もし彼が最高裁に公然と反抗すれば、それは反逆行為だ。「公式行為」に対する絶対免責の範囲外になる。任期終了後に起訴され、刑務所に入る可能性もある。
考察・分析
司法が線を引いた後に残ったもの
今回の最高裁判断が象徴しているのは、関税の是非というより、米国の通商政策がどこまで大統領の裁量で動き得るのかという制度の境界線です。非常時の権限を、実質的な増税装置として常用できるのか。最高裁はそこに歯止めをかけました。
しかしその直後に発表された全世界一律15%関税は、政策が止まったわけではないことを示しました。IEEPAという道具は封じられましたが、1974年通商法122条という別の道具が使われました。つまり、ブレーキはかかったが、車は別のルートを走り続けている状態です。
企業と各国政府が直面しているのは二重の不確実性です。ひとつは、無効とされた関税の清算問題。もうひとつは、15%という暫定関税がその後どのように展開するのかという将来の問題です。
保守多数の最高裁で起きた「ねじれ」
今回の判断が重いのは、最高裁が保守寄りの構成であるにもかかわらず、議会の課税権という大枠を優先した点にあります。多数意見は、関税が事実上の課税である以上、議会の明確な授権が必要だという立場を取りました。これは行政権拡張への制度的な牽制です。
一方で、実務の混乱は避けられません。徴収済み関税、価格転嫁、返金の帰属、訴訟対応などが同時に動きます。制度原則と経済現実が同時に衝突しているのが今回の特徴です。
「返金」は誰に戻るのかという難題
無効とされた関税で徴収された資金はどうなるのか。これは市場にとって極めて神経質な論点です。
多くの企業は関税分を販売価格に上乗せしています。仮に政府から輸入企業へ返金が行われても、その資金が消費者に戻る保証はありません。結果として、返金は経済の痛みを癒すというより、企業間やサプライチェーン内部の利害調整問題に変わる可能性が高いです。
さらに重要なのは、関税が一度「消えた」という前例です。制度が覆る前例ができたことで、企業は今後の通商政策をより慎重に見積もるようになります。関税が上がるか下がるかよりも、ルールがどれほど持続するのかが読めないことが、投資や供給網再編の足かせになります。
15%一律関税の本当の意味
今回の15%は、単なる税率引き上げではありません。122条の法定上限まで一気に引き上げた点に意味があります。
122条は最大150日間の暫定措置です。強いメッセージを出しつつも、制度上は期限付きです。この構造は企業にとって扱いにくいものです。サプライチェーンを大きく移すには短すぎますが、価格改定や在庫調整には十分長い。構造転換は起きにくいのに、短期ショックは大きいという状態になりやすいです。
また、一律関税は政治的には分かりやすい強硬姿勢を示しますが、国別交渉カードとしては使いにくい側面もあります。今後は、より標的型の関税措置へと移行する可能性も視野に入ります。
USTR調査と「次の関税」
暫定的な一律15%が時間を稼ぐ間に、特定国や特定分野を対象とする手続き型関税が現実味を帯びます。調査に基づく措置は形式上の手続きを踏むため、司法の介入余地が相対的に限定されやすいです。
企業にとっては、一律15%よりも、自社製品や重要部材が突然ターゲットになる方が深刻なリスクです。広く浅い負担から、狭く深い負担へ。通商政策がその方向に動けば、サプライチェーンの一部に大きな歪みが生まれます。
日本にとっての二つの時間軸
日本は短期と中期を分けて考える必要があります。
短期では、15%一律関税が維持されれば、自動車、機械、電子部品など幅広い分野でコスト増が生じます。価格転嫁の難易度や為替動向によって収益への影響は変わりますが、発注の前倒しと先送りが繰り返されることで供給網の管理負担は確実に増します。
中期では、日米間で進む約5,500億ドル規模の投資枠組みが重要です。エネルギーや重要鉱物、産業基盤を軸とするこの枠組みは、経済安全保障と直結しています。関税圧力が強まる局面ほど、投資を通じて米国戦略に組み込まれることで安定を確保する圧力も強まります。
ただし、米国内政治の振れ幅が大きい状況では、その投資自体が追加要求や政治的条件の対象になる可能性も否定できません。制度が安定しているときの投資は追い風ですが、制度が揺れている局面ではリスクの受け皿にもなり得ます。
総括
最高裁は大統領権限に線を引きました。しかし、その翌日に15%という上限までの引き上げが行われたことで、通商政策は法的枠組みを変えて継続することが明確になりました。
企業にとって最大のコストは税率そのものではなく、制度の持続可能性が読めないことです。そして日本にとっては、短期の関税ショックと、中期の日米投資枠組みという二つの時間軸を同時に管理する局面に入っています。
通商政策は法律、政治、市場の境界で揺れ続けます。今回の一連の動きは、その揺れが制度の核心部にまで及んでいることを示しています。
それではまた、次の記事でお会いしましょう。
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関連書籍紹介
地経学とは何か 経済が武器化する時代の戦略思考
鈴木 一人(新潮選書/2020年11月18日刊)
関税や制裁、サプライチェーンの遮断といった経済手段が、いかにして国家の戦略ツールとして用いられるのかを体系的に整理した一冊です。通商政策が外交や安全保障と不可分に絡み合う現代において、関税が単なる税制ではなく「圧力の設計」として機能している構図を理解する助けになります。今回のように司法判断と政治判断が衝突する場面も、地経学という枠組みで捉えることで、より立体的に見えてきます。
経済安全保障とは何か
国際文化会館地経学研究所 編、船橋 洋一 ほか(東洋経済新報社/2021年10月13日刊)
米中対立の激化を背景に、世界経済がいかに「ブロック化」や供給網の再編へと向かっているのかを多角的に分析した一冊です。通商ルールが政治判断で変動する時代において、企業や投資家が直面する最大の課題は不確実性への対応です。本書は、関税政策の揺れが雇用、物価、企業収益、そして投資環境へどう波及するのかを俯瞰するための基礎的視座を与えてくれます。
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参考リンク
Learning Resources Inc. v. Trump, Supreme Court slip opinion (Supreme Court of the United States)
Asian economies weigh impact of fresh Trump tariff moves, confusion (Reuters)
Trump says Japan to invest in energy, industrial projects in Ohio, Texas and Georgia (Reuters)
Trump strikes tariff deal with Japan, auto stocks surge (Reuters)


