今回の記事の重要ポイント(三点)
・UAEは2026年5月1日付でOPECを離脱し、ロシアなど非加盟産油国も加わるOPECプラスの生産調整から外れる方針を示した。
・背景には、UAEが国主導で原油生産能力を引き上げてきた一方、OPECプラスの生産目標が自国の販売自由度を制限してきた構図がある。
・イラン戦争とホルムズ海峡の混乱が続く中、今回の脱退は短期的な増産よりも、戦後の原油市場で自由に動くための布石と見ることができる。
ニュース
アラブ首長国連邦(UAE)は2026年5月1日付でOPECを離脱し、ロシアなど非加盟産油国も加わるOPECプラスの生産調整から外れる方針を示した。
UAEは1967年にOPECへ加盟した主要産油国の一つで、約60年にわたって産油国協調に参加してきた。離脱後は、OPECおよびOPECプラスによる生産目標の対象外となる。
同国は近年、国主導で原油生産能力を引き上げており、OPECプラス内では生産能力をどの程度目標に反映するかが焦点となっていた。
発表時点では、イラン戦争とホルムズ海峡周辺の混乱により、湾岸地域からの原油輸送に制約が出ている。原油市場では、UAEの離脱がOPECプラスの供給調整に与える影響が注目される。
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補足説明
OPECが必要とされてきた理由
OPECは、石油を輸出する国々が原油の生産量や価格安定をめぐって協調するための組織です。1960年に設立され、サウジアラビア、イラク、イラン、クウェート、ベネズエラなどが中心となって始まりました。
原油は、世界経済の基礎となるエネルギーです。価格が急に上がれば、ガソリン、電気代、物流費、食料品、化学製品など幅広い分野に影響が出ます。反対に価格が下がりすぎれば、産油国の財政が悪化し、政治不安につながることもあります。
OPECの役割は、加盟国が生産量を調整し、原油価格の極端な変動を抑えることにあります。供給が多すぎるときは減産し、需給が引き締まるときは増産を検討することで、産油国側の収入と市場の安定を保とうとしてきました。
その後、原油市場では米国のシェールオイルやロシアなど、OPECに入っていない産油国の存在感も大きくなりました。そこでOPEC加盟国にロシアなどの非加盟産油国を加え、生産量を調整する枠組みとして広がったのがOPECプラスです。
ただし、OPECもOPECプラスも完全に一枚岩ではありません。財政に余裕がある国もあれば、少しでも多く原油を売りたい国もあります。各国の事情が違うため、生産目標をめぐる調整は常に難しさを抱えています。
UAEが不満を抱えてきた生産目標
UAEは中東の主要産油国の一つで、近年は国主導で原油生産能力の拡大を進めてきました。生産能力とは、設備や油田の開発状況から見て、どれだけ原油を生産できるかを示すものです。
OPECプラスでは、参加国ごとに生産目標が設定されます。生産能力があっても、枠組みの中では好きなだけ原油を売れるわけではありません。
UAEにとって問題だったのは、自国が増やしてきた生産能力が、OPECプラスの生産目標に十分反映されていないという点です。投資によって生産余力を高めても、割り当てが低ければ、その分をすぐに販売量へつなげることはできません。
今回の離脱は、この生産能力と生産目標のズレを背景にした動きと見ることができます。
脱石油時代でも原油を売りたい理由
世界は再生可能エネルギーや電気自動車、脱炭素政策へ向かっています。ただ、石油需要がすぐにゼロになるわけではありません。航空、船舶、化学製品、プラスチック、肥料、合成繊維など、石油に依存する分野は今後もしばらく残ります。
UAEにとって重要なのは、石油を永遠に売り続けることではなく、需要が残っている間に収益を確保し、その資金を次の産業へ移すことです。
UAEは石油収入を背景に、金融、物流、観光、再生可能エネルギー、原子力、AI関連投資などを進めています。脱石油の流れが進むほど、地下に残した原油の将来価値は読みにくくなります。
そのため、UAEは石油からすぐに離れるのではなく、売れるうちに競争力のある原油を売り、その収益でポスト石油時代の国家基盤を作ろうとしていると考えられます。
イラン戦争とホルムズ海峡の影響
今回の発表は、イラン戦争とホルムズ海峡周辺の混乱が続く中で行われました。ホルムズ海峡は、中東産原油がアジアや欧州へ向かう重要な海上ルートです。日本にとっても、中東からの原油やLNGの輸送に関わる非常に重要な場所です。
湾岸地域からの輸送に制約が出ている状況では、UAEがOPECを離脱しても、すぐに大幅な増産や輸出拡大へ動けるとは限りません。原油は生産するだけでなく、安全に運べるかどうかが重要だからです。
一方で、輸送環境が回復した後には、OPECプラスの生産目標に縛られず、UAEがより自由に販売量を調整できる可能性があります。今回の脱退は、戦争中の短期的な増産よりも、戦後の原油市場を見据えた動きとして見る必要があります。
日本に関係する理由
UAEのOPEC脱退は、日本にとっても無関係ではありません。日本は原油やLNGの多くを中東から輸入しており、UAEは重要な供給国の一つです。
原油市場では、価格だけでなく、輸送ルート、海上保険、タンカーの運航、ドル円相場、ナフサなどの石化原料への影響も重要になります。原油価格が動けば、ガソリン代や電気代だけでなく、物流費や生活用品の価格にも波及します。
UAEがOPECの枠外で独自に動くようになれば、日本はOPEC全体の方針だけでなく、UAEとの二国間関係や長期供給契約をより重視する必要があります。原油市場の変化は、遠い中東の出来事ではなく、日本のエネルギー安全保障や物価にもつながる問題です。
海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
これってかなり大きな話だよね?
自分は石油をめぐる地政学にはかなり疎いって分かってるけど、それでもこれは相当大きなことに見える。
大きいと思う。理由はいくつかあるけど、イランの状況から利益を得ていたロシアみたいな国にはかなり痛手になる。
興味深いのは、石油価格が高すぎたせいで需要が落ち込んだ結果、こういう動きが出てきたように見えることだね。価格が上がりすぎると石油の使用量が減ると怖がっているんだと思う。一度ほかのものに置き換えられたら、価格が元に戻っても、また石油に戻ってもらうのは難しいから。
これってUAEにとって何の得があるの?
OPECを離れれば、もっと多く掘って、もっと多く売れる。
カルテルみたいな組織の中にいる間は、それができなかった。
たぶん安く売ることにはなると思うけど、今の状況なら、5〜10%値引きしても20%多く売れれば、売上も利益もかなり増える。
もちろん、政治的な要素ももっと絡んでいるのかもしれないけど。
UAEはOPECより多く生産して、安く売ることができるようになる。かなり有利な立場になると思う。特にイランとうまくやるならなおさら。
正直、UAEはかなり大きなプレーヤーだから、OPECを崩壊させる可能性すらある。
「イランとうまくやる」はたぶんないと思う。
UAEはイスラエルにどんどん近づいていて、UAE国内にイスラエル兵がいて、UAEを守るためにアイアンドームを運用していたことまで明らかになった。
物理的に可能な限り、イランから離れようとしているように見える。
UAEって、アブラハム合意の最初の署名国の一つじゃなかった?
そう。UAEはイスラエルと外交関係があって、互いの国に大使館もある。
イスラエル人はかなりUAEに旅行している一方で、イラン国民には入国制限がかけられている。
もう明確にどちら側につくか選んでいるよ。
イランが何度もUAEを攻撃して、さらにアメリカが気に入らないことをすればUAEの海水淡水化施設を攻撃すると脅した時点で、UAEの立場はイランに選ばされたようなものだと思う。
本当はこの紛争では中立でいたかったのかもしれないけど、もうその船は出てしまった。
その船は出たけど、ホルムズ海峡で詰まってるな。
これが示しているのは、UAEがこの紛争は長く続くと見ていること。そして、ホルムズ海峡の外側にあるフジャイラの施設から石油を輸出できると考えていることだと思う。
イランがその施設を狙ったのも、まさにそれが理由だろう。ただ、その後すでに復旧している。UAEはそこを守れると見ているはず。
UAEには湾岸内からフジャイラ港まで、日量150万バレルを運べるパイプラインがある。つまりホルムズ海峡を迂回できる。
そうだね。イギリスがEUを離脱した時の、OPEC版ブレグジットみたいなものだと思う。
自分なら、これは抜ける側より、残される側にとってずっと悪い話だと思う。
ブレグジットはEUよりイギリスにとってのダメージが大きかったけど、今回はUAEよりOPECにとっての方が破壊力が大きい。
サウジアラビアは昔から、他の国が足並みをそろえないなら安い石油で市場を満たすぞ、と脅してきた。
さあ、本当にそれをやる気があるのか見ものだね。
UAEが今このタイミングで引き金を引いた理由の一つはそこだと思う。
サウジアラビアの油田や輸出ターミナルの多くはペルシャ湾側にあって、ホルムズ海峡の内側に閉じ込められている。イランでの戦争が長引く限り、サウジは通常の生産量を維持するのも難しい。まして市場を石油であふれさせるなんて無理だ。
ゼロではないと思う。
カルテルの強さはずっと、「抜けて安くたくさん売るより、中に残って価格を高く保つ方が儲かる」と皆が信じていることにあった。
その団結に少しでもヒビが入り始めると、全員がバラバラになるリスクがある。
ただ、これはUAEがかなり痛いタイミングでサウジに圧をかけているだけ、という可能性もあると思う。1〜2か月後には、増枠を勝ち取ってOPECに戻っているかもしれない。
いい兆候だと思う。
OPECの「強制的な」生産上限は、供給不足を作って価格を上げるため、少なくとも自分たちの望む水準に価格をコントロールするためのものだった。
それはずっと世界全体には悪くて、OPECにだけ都合がよかった。
だからUAEが変な制限なしで、もっと石油を作りたいというなら、少なくとも今のところは世界にとって良い話だと思う。
そうだね。効率的な市場という視点で見れば、カルテルの崩壊は良いことだと思う。
OPECは自分たち以外の誰かのために存在していたわけじゃないから。
ただ、長い目で見れば高い石油価格の方が良い、という考え方もできる。石油から離れる動きを促すからね。
安い石油は、限りある化石燃料に頼らないという長期的な戦略目標の邪魔になるかもしれない。
石油の頂点はここだと思う。
電動化された機器は2〜3年ごとに大きく性能を伸ばしていて、使える用途や産業がどんどん広がっている。もちろん一夜で全部が変わるわけではないけど、もう先は見えている。
石油の居場所は残る。ただ、世界経済の要になる時代ではなくなる。
これから重要になるのは、効率的な発電、送電、蓄電を大規模に広げられる解決策を提供することだ。過去150年、石油が担ってきたのはまさにそれだった。
UAEは石油価格が高いうちに、自分たちの生産力を最大限使おうとしている。
完全に同意。自分はいつも塩のことを思い出す。
塩は何千年ものあいだ戦略資源だった。帝国は塩をめぐって戦争までした。
でも冷蔵技術が発明された。そうしたら一夜にして、若者や貧しい人々を死地に送るほど価値のある戦略資源から、ただの商品になった。
塩を使わなくなったわけではない。でも、重要ではなくなった。
石油も同じようになると思う。
まるで彼らが、石油価格の高さや価格変動の激しさによって、世界の多くの地域が石油・ガス依存を減らす取り組みを急いだり、別の供給先を探したりしていることに気づいたみたいだ。
ほんとそれ。自分も同じことを考えてた。
石油強気派は喜んでるけど、ここまで高い状態が続くなら、世界は普通に代替手段を探すと思う。
コロナで生活習慣が変わったみたいに、高い石油価格も生活を変えるよ。
太陽光や風力を広げるには、国によっては何年もかかる。
もうかなり進めている国もあるけど、まだ手をつけていない国もある。
ただ、一度そっちに流れが傾いたら、その勢いは止まらないと思う。
もともと流れは始まっていたし、これで変化が早まってほしい。
正直、太陽光と風力は今回の危機より前から、すでに化石燃料より安かった。
しかも、さらに安くなる新技術もいろいろ開発されている。
仮にOPECが崩れて石油価格も下がったとしても、再生可能エネルギーは結局いちばん安くて現実的な選択肢になると思う。
それに、各国の指導者たちもようやく気づき始めていると思う。
価格が変動しやすく、ある国が別の国を攻撃しただけで供給が消える可能性のある石油に依存するより、エネルギーを自前で確保できる方がずっといいってことに。
石油・ガス消費への最大の対抗策は、太陽光や風力を建てることではなく、むしろ電化だ。
EVとヒートポンプは、再生可能エネルギーの発電を増やすよりも速く、効果的に化石燃料の使用を減らす。
ありがたいことに、どちらか一方を選ぶ必要はない。両方を同時に進められる。
考察・分析
産油国カルテルから国家別戦略の時代へ
UAEのOPEC脱退は、産油国が一つの枠組みで原油価格を支える時代から、それぞれの国家戦略を優先する時代へ移りつつあることを示しています。
OPECの力は、加盟国が「単独で増産するより、協調して価格を守る方が得だ」と考えている間に成り立ちます。サウジアラビアのように高い原油価格を維持したい国にとって、OPECプラスの生産調整は財政と国内安定を支える重要な仕組みです。
一方で、UAEは近年、国主導で原油生産能力を引き上げてきました。生産できる力を増やしても、OPECプラスの生産目標によって販売量が制限されるなら、その投資を十分に回収できません。
ここに、サウジとUAEの戦略の違いがあります。
サウジは価格を守る産油国です。
UAEは市場シェアを取りに行く産油国です。
どちらも石油収入を必要としていますが、財政構造や国家モデルは同じではありません。サウジは巨大国家プロジェクト、国内雇用、社会安定のために高い原油価格を必要とします。UAEは比較的人口規模が小さく、金融、物流、観光、不動産、投資ハブとしての収益源も持っています。
そのためUAEにとっては、「高い価格を守るために売らない」より、「一定の価格でも多く売り、現金収入と市場シェアを確保する」方が合理的になる局面があります。
OPECの弱体化は、まず減産合意の守りにくさや、加盟国ごとの独自行動として表れやすくなります。UAEの離脱は、産油国の足並みがそろいにくくなっている現実を一段はっきり見せた出来事です。
UAEが狙う石油の出口戦略
UAEの動きは、脱石油時代を見据えた石油収益の最大化戦略として読めます。石油の価値が高いうちに収益を確保し、その資金を次の産業へ移す。今回のOPEC脱退には、こうした国家戦略が重なっています。
石油需要は今後も、航空、船舶、石油化学、プラスチック、肥料、合成繊維などの分野で一定期間残ります。脱炭素が進むほど、すべての産油国が同じように市場から退くのではなく、低コストで安定供給できる原油を持つ国が最後まで残りやすくなります。
UAEはここを狙っています。
石油収入は、金融、物流、観光、再生可能エネルギー、原子力、AI関連投資などへ振り向けられています。石油は最終目的ではなく、ポスト石油国家を作るための原資です。
OPECプラスの生産目標は、原油価格を支える仕組みである一方、UAEにとっては自国の出口戦略を遅らせる制約にもなっていました。売れるうちに売り、その資金で次の産業を育てる。今回の離脱は、石油時代の終盤戦を見据えた動きと見る方が自然です。
UAEは、石油を使って脱石油後の国家を作ろうとしている国です。
イラン戦争中に動いた理由
今回の発表は、イラン戦争とホルムズ海峡周辺の混乱が続く中で行われました。不安定な時期の脱退には、短期的な市場ショックを抑えながら、長期の自由度を確保する狙いが重なっています。
ホルムズ海峡周辺が不安定な間は、UAEがOPECを離脱しても、すぐに大幅な増産や輸出拡大へ動ける環境ではありません。原油は生産できても、安全に運べなければ市場には出せません。
そのため、脱退発表そのものが直ちに「UAEが大量に原油を売り始める」という市場ショックにつながりにくい状況でした。
焦点は、戦争中の増産ではなく戦争後の市場です。
ホルムズ海峡や湾岸輸送が回復した後、UAEはOPECプラスの生産目標に縛られず、自国の判断で販売量を調整できる立場になります。アジア向け需要が戻る局面で、UAEはサウジ主導の生産調整に付き合わず、自国の生産能力を使えるようになります。
今回の脱退には、短期の制約を利用して、長期の自由度を確保する計算が見えます。
フジャイラが持つ地理的な強み
UAEの強みは、原油資源、港湾、パイプライン、金融機能を組み合わせられる点にあります。その象徴がフジャイラです。
フジャイラはUAE東岸、オマーン湾側にある港湾拠点で、ホルムズ海峡の外側に位置します。アブダビなど湾岸側の原油をパイプラインでフジャイラ方面へ運べば、ホルムズ海峡を通らずに一部の原油を輸出できます。
フジャイラだけで湾岸全体の輸出を完全に代替することはできません。輸送能力には限界があり、戦争や攻撃のリスクも残ります。それでも、外洋側に出口を持つことは、UAEにとって大きな交渉カードになります。
サウジ、イラク、クウェートなどは、原油輸出の多くを湾岸側の地理に縛られます。UAEはその制約を一部緩和できる位置にあります。
今回のOPEC脱退には、生産能力だけでなく、港湾、パイプライン、物流拠点を組み合わせる国家戦略が重なっています。UAEは単なる産油国ではなく、エネルギーと物流を結びつける中継国家として動こうとしています。
サウジとUAEの競争がエネルギーにも広がる
サウジアラビアとUAEは、同じ湾岸の親米王政国家であり、安全保障上は協力関係にあります。近年は、経済モデルをめぐる競争が強まっています。
サウジは「ビジョン2030」で、観光、金融、物流、テック、AI、投資ハブ化を進めています。これは、ドバイやアブダビが長年築いてきた強みと重なります。
UAEから見ると、サウジは敵ではなく、同時にサウジの下で動く国でもありません。
安全保障では協力する。
湾岸秩序では歩調を合わせる。
金融、物流、観光、AI、投資、石油では競争する。
この複雑な関係が、OPEC脱退にも表れています。
OPEC内ではサウジが事実上の盟主です。UAEがそこから外れることは、原油価格を守るサウジ主導の秩序から距離を取り、自国の販売戦略を優先するという意味を持ちます。
サウジは価格を守りたい。
UAEは増やした生産能力を使いたい。
この違いは、外交感情ではなく、国家戦略の違いから生まれています。
原油市場に広がる価格不安定化
UAEのOPEC脱退は、供給増加の可能性を通じて原油価格の下落要因になります。UAEが戦後に生産・輸出を拡大できれば、需給は緩みやすくなります。
一方で、OPECプラスの力が弱まるということは、価格を安定させる調整装置も弱まるということです。平時には供給が増えて価格が下がりやすくなる一方、危機時には地政学リスクが直接価格に乗りやすくなります。
イラン戦争、ホルムズ海峡、海上保険、タンカー運航、ロシア制裁、米国シェール、在庫取り崩し。こうした要素が重なれば、原油価格は安定して下がるのではなく、乱高下しやすくなります。
OPECの規律が弱まれば、安い時は大きく下がり、危機時には急騰する。原油市場は、より不安定な多極市場へ近づいていきます。
消費国にとって焦点になるのは、平均価格だけではありません。急騰と急落を繰り返す市場では、企業も政府も調達計画を立てにくくなります。エネルギー安全保障は、価格の水準だけでなく、価格の安定性も含めて考える段階に入っています。
米国とロシアに生じる温度差
UAEのOPEC脱退は、米国にとって一見すると歓迎しやすい動きです。OPECの価格支配力が弱まれば、原油価格の上昇圧力を抑えやすくなります。インフレを抑えたい米国にとって、産油国カルテルの弱体化は政治的にも都合のよい材料です。
米国には、消費国と産油国の二つの顔があります。原油価格が下がれば消費者には追い風になりますが、下がりすぎれば米国のシェール企業の採算を圧迫します。OPECを弱めるという意味ではプラスでも、原油安が行き過ぎれば国内エネルギー産業には重荷になります。
ロシアにとっては、より厳しい話です。
OPECプラスは、ロシアが西側制裁下でも原油市場で発言力を保つ重要な場でした。UAEのような主要産油国が枠外へ出ると、ロシアがサウジとともに価格維持へ影響力を行使する力は弱まります。
ロシアは制裁下でも原油・石油製品収入に依存しています。UAEの自由増産が価格下落につながれば、ロシア産原油にも下押し圧力がかかります。
UAEの脱退は、サウジだけでなく、ロシアにとってもOPECプラスの求心力低下を示す出来事です。
ドル取引と多通貨化の現実
原油取引の中心は、当面ドル建ての価格表示、保険、銀行決済、先物市場に残ります。UAEがOPECを抜けたからといって、翌日から原油取引が人民元やルピー中心になる展開は現実的ではありません。
一方で、UAEが買い手ごとに柔軟な条件を組みやすくなるのは確かです。中国向けには人民元決済や投資連動型の契約、インド向けにはルピーや長期供給契約、日本向けには安定供給や技術協力を絡めた関係強化が考えられます。
これは「ドル覇権の終わり」ではなく、「ドル中心の多通貨化」です。
UAEは反ドル国家になるより、ドル圏と非ドル圏をつなぐ取引拠点になる方が国益に合います。米国との安全保障関係を維持しながら、中国、インド、日本、欧州とも経済関係を広げる。OPEC脱退後のUAEは、原油を売るだけでなく、通貨、投資、物流、金融を組み合わせるハブ国家としての性格を強めていく可能性があります。
日本に迫る調達構造の変化
日本にとって、UAEのOPEC脱退は原油価格だけの問題ではありません。
日本は中東から多くの原油やLNGを輸入しており、UAEは重要な供給国の一つです。今回のようにホルムズ海峡が不安定化すると、影響は原油価格だけにとどまりません。
海上保険料、タンカー運航、輸送ルート、ドル円相場、備蓄、ナフサ、石油化学原料まで連動します。
ナフサは、プラスチックや化学製品の原料です。中東原油や石化原料の供給が不安定になれば、包装材、日用品、建材、繊維、化学メーカーにも影響が及びます。ガソリン価格だけを見ていると、実体経済への波及を見落とします。
UAEがOPECの枠外で独自に供給方針を決めるようになれば、日本はOPEC全体の方針を見るだけでは足りません。UAE、サウジ、カタール、オマーンなど、供給国ごとの関係を細かく見る必要があります。
日本の調達リスクは、原油価格だけでなく、輸送ルート、保険、為替、長期契約まで広がります。
誰から買うのか。
どのルートで届くのか。
どの通貨で支払うのか。
どの程度の長期契約を確保できるのか。
ナフサやLNGまで含めた調達網をどう守るのか。
UAEのOPEC脱退は、日本の資源外交が「OPEC全体」から「供給国ごとの二国間関係」へ重みを移していく流れともつながっています。
脱石油をめぐる皮肉
UAEのOPEC脱退には、気候政策の面でも皮肉な効果があります。
原油価格が高く、供給が不安定になると、消費国は脱石油を急ぎやすくなります。再生可能エネルギー、電気自動車、ヒートポンプ、省エネ、原子力への投資が進みやすくなります。
一方で、UAEがOPECを抜け、将来的に供給が増えれば、原油価格には下押し圧力がかかります。消費国には短期的にプラスですが、安い石油は脱石油への圧力を弱める面もあります。
脱炭素が進むほど、産油国は「売れるうちに売ろう」とする。
その結果、供給が増えて原油価格が下がれば、消費国の転換速度が鈍る可能性もある。
ここに、エネルギー転換の難しさがあります。
UAEは脱石油時代を前提に動いています。しかし、その行動が短期的には石油の供給を増やし、化石燃料依存を延命させる可能性もあります。
石油時代の終わりは、一直線には進みません。産油国の出口戦略と、消費国の脱炭素政策がぶつかりながら、何度も揺り戻しを起こしていくはずです。
総括
UAEのOPEC脱退は、石油時代の終わりそのものではなく、産油国が石油時代の終わり方を選び始めた出来事です。
OPECの枠組みは、これまで産油国が価格を守り、市場を安定させるために機能してきました。しかし、各国の財政事情、外交戦略、脱炭素への備え、生産能力の差が大きくなるほど、同じ目標で足並みをそろえることは難しくなります。
UAEは、石油の残された価値を最大限に使い、ポスト石油国家への移行資金を確保しようとしています。低コストで競争力のある原油を売り、その収益を金融、物流、観光、再生可能エネルギー、原子力、AI関連投資へ移す。OPECプラスの生産目標は、その戦略にとって制約になっていました。
イラン戦争とホルムズ海峡の混乱は、今回の動きにもう一つの意味を加えています。短期的には輸送制約があるため、UAEがすぐに大量増産へ動く余地は限られます。一方で、戦後に輸送環境が回復すれば、OPECプラスの枠に縛られず販売量を調整できるようになります。
サウジにとっては、OPECの盟主としての求心力が問われる出来事です。UAEにとっては、サウジ主導の秩序から一定の距離を取り、自国の生産能力、港湾、金融、投資を組み合わせて動くための一歩になります。
日本にも、原油価格、ナフサ、LNG、海上保険、タンカー運航、ドル円、物価まで波及します。今後はOPEC全体の発表だけでなく、UAEやサウジ、カタール、オマーンといった供給国ごとの戦略を見ていく必要があります。
石油時代は突然終わるのではなく、産油国がそれぞれの出口戦略を取り始めることで、少しずつ形を変えていきます。UAEのOPEC脱退は、その変化がすでに始まっていることを示す出来事です。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
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参考リンク
- UAE will leave OPEC in a blow to the oil cartel(AP News)
- UAE exit weakens OPEC power over oil market, group to stay together, sources say(Reuters)
- HSBC sees limited near-term impact on OPEC+ from UAE’s departure(Reuters)
- Barclays sees faster oil supply growth from UAE after its exit from OPEC(Reuters)
- Russia says UAE’s exit from OPEC will increase global production, bring down oil prices(Reuters)
- UAE reviewing multilateral ties after OPEC exit, rules out more departures(Reuters)
- Strait of Hormuz(IEA)
- Responsible Growth(ADNOC)
- Brief History(OPEC)


