英仏がパレスチナを国家承認|歴史的背景と国際社会の反応、日本の立場

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2025年9月21日、イギリス政府は正式にパレスチナを独立国家として承認する決断を下したと、首相キール・スターマーが発表した。国際的な緊張が高まる中、イギリスはこの動きを「和平の可能性を生かすための象徴的な措置」と位置づけた。
その直後の9月22日、フランスも国連総会の場を活用し、パレスチナ国家承認を宣言。エマニュエル・マクロン大統領は、「もはや待っていられない」と述べ、イスラエル・パレスチナ紛争の現状を打破する外交的転換を示した。

この2国の動きは、従来“西側主要国”で承認を慎重に扱ってきた国々が、ガザ戦争・人道危機の激化と国際世論の圧力を背景に、立場を転換し始めたことを象徴する。これにより、パレスチナの国際的地位をめぐる議論は一段と激しさを増している。

出典:Reuters


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補足説明

このイスラエル・パレスチナ問題は、現代だけの政治対立ではなく、紀元前から続く「土地をめぐる長い物語」です。

古代からの起源

紀元前10世紀頃、この地には古代イスラエル王国が存在し、ユダヤ人が暮らしていました。紀元70年、ローマ帝国にエルサレムを制圧されたことでユダヤ人は世界各地に散らされ(ディアスポラ)、以後はアラブ人が多数を占める地域となりました。ユダヤ人にとってもアラブ人にとっても、「ここは自分たちの故郷」という強い歴史的根拠があるのです。

近代の再燃

19世紀末、ヨーロッパで迫害を受けたユダヤ人は「シオニズム運動」を掲げ、この地への帰還を進めます。第一次世界大戦後、イギリスが委任統治を行い、ユダヤ人移住を進める一方でアラブ側にも独立を約束したため、対立は激化しました。

建国と分断

1947年、国連はイスラエルとパレスチナを分ける「二国家案」を提示。ユダヤ側は受け入れましたが、アラブ側は拒否。翌1948年にイスラエルが建国を宣言すると第一次中東戦争が起き、数十万人のパレスチナ人が難民となりました。ここから現在に至る長い対立が始まります。

アメリカとイスラエルの結びつき

冷戦期以降、イスラエルはアメリカの中東における最重要同盟国となり、軍事援助・経済支援の両面で強く結びついてきました。アメリカ国内ではユダヤ系ロビー団体やキリスト教福音派の影響も大きく、ワシントンの対中東政策は常にイスラエル寄りです。このため、西側諸国がパレスチナ承認に踏み切っても、アメリカは一貫して承認を拒んでいます。

2023年10月 ― 衝撃的な事件

2023年10月7日、ガザを拠点とするイスラム組織ハマスが、イスラエル南部の市民や軍施設に対して大規模な奇襲攻撃を行いました。民間人への無差別攻撃や人質の拉致も含まれており、国際的に強い非難を浴びました。

これに対し、イスラエルはガザに対して大規模な軍事作戦を展開。空爆や地上侵攻によりハマスを標的としましたが、民間人やインフラへの被害が甚大となり、国連や人権団体から「過剰な反撃」と批判されました。
この事件以降、ガザの人道危機は深刻化し、国際世論はイスラエルへの支持と批判に大きく分かれることとなりました。

今戦っている相手 ― 「パレスチナ全体」ではなく「ガザのハマス」

現在イスラエルが対峙しているのは「パレスチナ国家」ではなく、ガザ地区を実効支配するハマスです。

  • パレスチナ自治政府(PLO):西岸地区を統治し、国際的にはパレスチナの代表とされる。
  • ハマス:ガザを支配し、イスラエルとの武力闘争を掲げる。多くの国が「テロ組織」として指定。

この分裂が、パレスチナの国家樹立を難しくし、和平の実現を遠ざけています。

英仏の承認の意味

2023年以降の戦闘とガザの人道危機を受けて、国際社会は新たな圧力を模索しました。

  • イギリス:二国家解決の提案国でありながら承認を先延ばしにしてきた矛盾を正す意味で承認を決定。
  • フランス:安保理常任理事国としての責任を示し、サウジなどと協調して承認を表明。

こうして、紀元前から続く長い物語は、「国家承認」という新たな章を迎えたのです。

海外の反応

I always found it odd that Britain created the outline for a two state solution, yet never recognised the other state for whatever reason.
昔から不思議だったんだよな。二国家解決の枠組みを作ったのは英国なのに、もう一方の国家をなぜかずっと承認してこなかったって。


It looks like Anglosphere is sending a message to Trump and US . Can UK Aus all have recognised palestine.
どうやら英語圏の国々はトランプやアメリカにメッセージを送ってるように見える。イギリスもオーストラリアもパレスチナを承認したからな。


Doesn’t matter. We all know republicans will never recognize Palestine. Israel is too deep in their pockets
関係ないよ。共和党がパレスチナを承認することなんて絶対ない。イスラエルにべったりだから。


Democrats too.
民主党だって同じさ。


Normally I’m not a “both sides are doing it” type of guy, but in this case 100%
普段は「両方が悪い」って言いたがるタイプじゃないけど、この件に関しては100%そうだね。


We all know Republicans are going broke…
共和党は金欠だって、みんな知ってる…。


Amazing how many people Israel have at least partially turned against themselves, isn’t it?
イスラエルがどれだけ多くの人々を自分に敵対させてしまったか、本当に驚きだよな。


It’s incredible, just like their biggest supporters America.
本当に信じられない。最大の支持者アメリカとそっくりだ。


If we ignore the ongoing genocide and just look at how Israel has handled itself from a PR standpoint, it needs to be studied just how much they dragged their own reputation through the mud.
There’s always people who’ve opposed what Israel is doing in Palestine, but for every one of them, there was 10 naive / oblivious / apathetic people. Most of those people now have a very very bad view of Israel, deservedly so.
今の虐殺を一旦置いておいて、純粋にPR(広報)面だけで見ても、イスラエルがどれほど自分の評判を地に落としたか研究対象になるレベルだ。
昔からパレスチナでの行為を批判してた人はいたけど、そういう人1人に対して、無関心・無知・無頓着な人が10人はいた。でも今、その人たちの大多数がイスラエルに非常に悪い印象を持つようになった。当然の結果だよ。


there was 10 naive / oblivious / apathetic people
There still are.
52% of UK respondents answered “Neither” or “Don’t know” on a poll regarding sympathies in this conflict from June.
I suspect that a good chunk of the 48% that picked a side probably also just did out of social desirability.
Most people either don’t care or don’t want to pick a side in this conflict.
「無知・無関心・無頓着」な人が10人いたって?今でもそうだよ。
6月の調査では、イギリス人回答者の52%が「どちらでもない」「分からない」と答えている。
残り48%の中にも、社会的にそう答えたほうがよさそうだからって理由で選んだ人が結構いるはず。
つまり大半の人は関心がないか、片方に肩入れしたくないんだ。


It’s undeniable though that the amount of people with negative views towards Israel has skyrocketed and among the youth the trend is ever greater, tomorrows leaders currently in their 20’s and 30’s.
Israel has lost the majority of good faith that it had among this cohort, whether they held it through apathy or through naivety.
とはいえ、イスラエルに否定的な見方をする人が急増しているのは否定できない。特に20代・30代の若者たち、つまり未来のリーダー層の間で顕著だ。
イスラエルは、無関心や単純な善意で支持していたこの世代からの信頼を、ほぼ失ってしまった。


Picking a side is exactly what you shouldn’t do though. The goal is to find a path toward peace which works for everyone. It’s pretty sure that if Hamas could win they would kill everyone. Peace is the most difficult goal
でも、どちらかの側につくこと自体が一番やってはいけないことだよ。本当の目標は、みんなにとって意味のある平和への道を探すことなんだ。ハマスが勝ったら皆殺しにするだろうってのは間違いない。平和こそ最も難しい目標だ。


As I said in another comment, the gesture is nice and all but unless they threaten to cut all ties especially trade ties and military ties with Israel then this is just a PR performance and doesn’t pressure Israel in anyway to stop their actions.
前にも書いたけど、承認ジェスチャー自体はまあいい。でもイスラエルとの関係、とくに貿易や軍事の結びつきを断つと脅さない限り、これは単なるPRパフォーマンスに過ぎない。イスラエルに行動を改めさせる圧力には全然ならない。


They already have
もうやってるよ。


The americans trying to bully countries into not doing it is going to cause the opposite effect. The fuck do they think they are to impugn on actual free countries’s sovereignty.
アメリカが他国に「承認するな」と圧力をかけようとしてるけど、むしろ逆効果になるだろう。本当に自由な国の主権に口を出せるとでも思ってるのか。


The UK, Canada, Australia, Portugal, Luxembourg, and France all recognized Palestine at the eve of the 80th UN regular session general debate. France and Saudi Arabia held a 1-day summit.
The initiative was started by Macron and Saudi Arabia in coordination with Palestinian President Mahmoud Abbas.

The UK did it a day earlier, but it is France and Saudi Arabia who should be credited with this diplomatic initiative.
イギリス、カナダ、オーストラリア、ポルトガル、ルクセンブルク、フランスが、第80回国連総会一般討論の前日にパレスチナを承認した。フランスとサウジは1日限りのサミットも開いた。
この取り組みはマクロンとサウジがアッバス議長と協調して始めたものだ。…
イギリスは1日前に承認したが、この外交イニシアティブの功績はフランスとサウジに帰すべきだ。


Recognition doesn’t matter when a palastinian state doesn’t have a government, ability to control the land , or declared borders
The plo can’t rule without Israeli support and cant even collect taxes or govern without idf help , and hamas well is hamas
パレスチナ国家に政府も領土支配能力も明確な国境線もないなら、承認に意味はない。
PLOはイスラエルの支援なしでは統治できず、税の徴収や行政もIDFの協力がなければ不可能。ハマスは言わずもがな、だ。


Yea it’s like the inverse of Taiwan, which is recognized by maybe a dozen tiny countries, but where the lack of recognition doesn’t matter since they have a functional government, borders, economy, etc.
This declaration does absolutely nothing but allow countries like France to pat themselves on the back while literally nothing changes for anyone in Palestine. It’s as useful as recognizing the state of Tibet.
これは台湾の逆バージョンみたいなもんだ。台湾はせいぜい十数か国にしか承認されていないけど、ちゃんとした政府・国境・経済があるから承認の有無は重要じゃない。
今回の承認宣言は、フランスみたいな国が自己満足するだけで、パレスチナの現実は何も変わらない。チベットを国家承認するのと同じくらい無意味だ。


This declaration does absolutely nothing
I believe it conveys certain protections under international. Protections that may be worthless now, but they weren’t available to Palestine before.
この宣言自体は何の意味もない。
ただし国際法上の一定の保護を与えると考えることはできる。今は役立たなくても、以前のパレスチナにはなかったものだ。


More than 3/4 of all UN nations already recognize Palestine. Tell me what France’s recognition would do that the recognition of 150+ other nations couldn’t?
すでに国連加盟国の4分の3以上がパレスチナを承認している。150以上の国の承認で何も変わらなかったのに、フランスの承認にどんな意味があるっていうんだ?


France is one of 5 permanent members of the UN security council. and one of 2 NATO members with their own nuclear weapons program. The other NATO member with it’s own nuclear program is the UK, which is also one of the big 5 in the UN.
So yeah, France means more than almost any other country in terms of actual power to do something about it.
フランスは国連安保理常任理事国のひとつであり、独自の核兵器計画を持つNATO加盟国2か国のうちの一つだ。もう一つは英国で、こちらも常任理事国。
だからフランスの承認は、実際に何かを動かす力という点で、ほとんどの国より意味がある。


How are nukes even a variable in this situation? Do you think France will threaten to fire a nuke on Israel?
This recognition of Palestine is nothing but performative action to please voters and has zero impact on the future of Palestine.
核兵器がこの状況にどう関係するっていうんだ?フランスがイスラエルに核を撃つとでも?
パレスチナ承認なんて有権者を喜ばせるパフォーマンスにすぎず、パレスチナの未来に与える影響はゼロだ。


None of this matters. If France wanted to make a difference they would boycott divest and sanction Israel. All this does is piss off the Israeli delegates. It ultimately changes nothing for the material conditions of Israel or Palestine
全部どうでもいい。もしフランスが本当に変化を起こしたいなら、ボイコット・投資引き上げ・制裁をイスラエルに課すべきだ。今回の件はイスラエル代表団を怒らせるだけで、イスラエルやパレスチナの実情を何ひとつ変えない。


Exactly. It’s just performative nonsense designed to make people feel better about not actually doing anything meaningful
その通り。実質的には何もせず、やってる気分になりたいだけのパフォーマンス的なお遊びだ。


英仏によるパレスチナ国家承認が示す国際政治の変化

欧州で進む「パレスチナ承認ラッシュ」

今回、イギリスとフランスという西側の大国がパレスチナを国家として承認したことは、国際政治における大きな転換点です。すでに国連加盟国の8割以上が承認してきましたが、安保理常任理事国である英仏の決断は特別な意味を持ちます。欧州がアメリカ一辺倒の姿勢を修正しつつあることを示しているのです。

アメリカとイスラエルの孤立リスク

イスラエルは依然としてアメリカの強力な後ろ盾を受けています。しかし、2023年10月のハマスによる大規模奇襲攻撃と、それに対するイスラエルの過剰な軍事作戦による甚大な民間人被害は、国際世論を大きく揺さぶりました。欧州各国の動きは、アメリカとイスラエルが外交的に孤立するリスクを浮き彫りにしています。

ハマスとパレスチナ自治政府 ― 統治の不透明さ

今回の国家承認で大きな問題となるのは、「パレスチナを誰が統治するのか」です。

  • パレスチナ自治政府(PLO):西岸地区を統治し、国際社会では「パレスチナの公式代表」とされている。
  • ハマス:ガザ地区を実効支配し、イスラエルとの武力闘争を掲げる。多くの国でテロ組織に指定されている。

両者は長年対立しており、パレスチナ国家が正式に承認されたとしても、誰が正統な政府として統治するのかは未解決です。これは「二国家解決」の実現を阻む最大のハードルの一つといえます。

イスラエルの目標とその限界

イスラエルはガザで「ハマスの壊滅」を掲げていますが、これは現実的には不可能に近いと指摘されています。ハマスは単なる武装組織ではなく、宗教的・思想的な支持基盤を持っているため、軍事的に施設や兵力を削いでも完全に消滅させることはできません。むしろ弾圧は新たな支持を生み、世代を超えて思想が受け継がれるリスクもあります。

象徴か、実効力か

英仏の承認は外交的な象徴として大きな意味を持ちますが、現地の実情をすぐに変えるものではありません。海外の反応にもあるように、

  • 「承認はPRパフォーマンスにすぎない」
  • 「本当に変化を生むなら制裁や経済的圧力が必要」
    といった懐疑も根強いです。

日本の立場と外交的バランス

日本は伝統的に、イスラエルとの関係とパレスチナ支援の両立を外交方針としてきました。

  • イスラエルとの関係:アメリカの同盟国であることから、イスラエルとの経済・技術協力を重視。特に防衛やハイテク分野での関係を維持してきました。
  • パレスチナへの支援:一方で、日本は早くから「二国家解決」を支持し、パレスチナ自治政府への人道支援や経済協力を続けています。ガザ地区や西岸へのインフラ整備、教育・医療支援に力を入れ、「中立的な仲介役」としての役割を意識してきました。
  • 承認問題について:日本は現在のところパレスチナを「国家」として公式承認していません。ただし、国連での「オブザーバー国家」としての地位を支持するなど、国際的な枠組みの中でパレスチナを実質的に扱う姿勢を取っています。

つまり日本は、欧米諸国のようにどちらか一方に強く肩入れするのではなく、「イスラエルとも協調しつつパレスチナ支援を行う中立的外交」を志向してきたといえます。


総括|英仏承認が示した世界の潮流と残された課題

イギリスとフランスによるパレスチナ国家承認は、国際政治における象徴的な転換点であり、欧州がアメリカ一辺倒の姿勢を修正しつつあることを示しました。今後、他の欧州諸国も追随する可能性があり、アメリカとイスラエルが外交的に孤立するリスクも高まっています。

一方で、承認が即座に現地の現実を変えるわけではありません。パレスチナ内部では「PLOかハマスか」という統治の不透明さが続き、イスラエルが掲げる「ハマス壊滅」という目標も思想的基盤を考えれば非現実的です。軍事力だけでは解決できず、最終的には政治的な妥協と国際社会の仲介が不可欠です。

日本はこれまで、イスラエルとの協調とパレスチナ支援を両立させる「中立的な外交姿勢」を維持してきました。承認には踏み切っていないものの、二国家解決を支持し、人道支援を続けています。こうした姿勢は、激しく分断された国際世論の中で「橋渡し役」として一定の意味を持ち得るでしょう。

総じて、今回の英仏承認は「二国家解決」を改めて国際社会に問い直す契機となったものの、和平実現にはパレスチナ内部の統治問題やイスラエルの強硬姿勢という根本的課題が残されています。国際社会は象徴的な承認にとどまらず、実効性ある政治的解決にどう踏み込めるかが問われています。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。



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