ニュース
高市早苗氏、外国人観光客による鹿暴行を主張
自民党の高市早苗氏は、2025年9月22日の総裁選出馬演説の中で、奈良公園の鹿に対して“外国人観光客が蹴る/足で蹴るような行為をしている”と発言しました。彼女は「日本人が大切にするものを傷つける行為をする人がいるなら、何か手を打たねばならない」と述べ、「私は自分自身で確認した」とも主張しています。
これに対し、野党議員らは「証拠不十分」「偏見を助長する表現だ」と批判を展開。共産党幹部の小池晃氏は、この発言が「外国人に対する偏見・排外主義を煽る」と警鐘を鳴らしました。立憲民主党の蓮舫氏も、鹿に対する暴行は日本人・外国人双方で許される行為ではないとしつつ、「削除されたSNS動画を根拠にするのは危険だ」と強く問題提起しています。
奈良県・奈良市側は、日常的に観光客による鹿への暴行を確認した事例は無いとし、巡回警備体制や啓発活動を継続していると表明しています。2025年4月には、都市公園条例を改正し「殴る・蹴る」など鹿への有害行為を禁止行為として明文化したこともまた正当性を主張する対応の一環です。
出典:Unseen Japan
“やらせ”疑惑とガイド証言を巡る炎上
高市氏の発言を巡る報道を受け、日テレ系番組は「“シカ暴行は外国人観光客”との主張の真偽を取材する」番組特集を制作。番組では奈良公園周辺で長年ガイドをしていると紹介された女性ガイドが「暴行行為を見たことはほとんどない」と証言しました。
しかし、放送後にネット上で「彼女は実在する人物ではないのではないか」「この発言はやらせではないか」という誹謗中傷が急増。女性の顔出し写真を拡散し、身元を晒せとの要求をするアカウントも現れました。
これを受けて、彼女の所属とされるガイド会社の代表を名乗る人物がX(旧Twitter)に声明を投稿。「彼女は実在する人物であり、インタビューは本人の実体験に基づくものだ」「誤った憶測が広まり、本人は心身衰弱している」と説明し、誹謗中傷をやめるよう呼びかけています。
関連記事
補足説明
奈良公園には現在、およそ1,300頭前後の鹿が生息しており(奈良の鹿愛護会調べ)、毎年1,000万人以上の観光客と共存しています。鹿は1948年に国の天然記念物に指定され、「神の使い」として古来より保護されてきました。そのため行政も安易に個体数調整や強制的な管理ができず、「共存」を前提とした対応が求められています。
しかし、人と鹿の距離が近すぎるがゆえに、トラブルも後を絶ちません。観光客が鹿を蹴ったり叩いたりする理由としては、鹿がしつこく餌をねだって服や荷物を噛むために驚いて反射的に手や足で払うケース、動物への恐怖や嫌悪感、観光マナー意識の低さ、酒に酔った勢いでの行為などが挙げられます。中には「叩けば言うことを聞く」と誤解している人もいます。必ずしも全てが“悪意”ではないものの、一部の映像が切り取られて拡散されると、あたかも広範に行われているかのように受け取られてしまうのです。
こうした問題を受けて奈良県は2025年4月、都市公園条例を改正し「鹿を蹴る・叩く」といった行為を正式に禁止事項に追加。警察や県職員による巡回を強化し、観光客への啓発活動も進めています。
さらに、元「迷惑系YouTuber」として知られる へずまりゅう(原田 将大)氏 も鹿パトロール活動をきっかけに奈良に移住し、市議会議員に初当選しました。彼の台頭もあいまって、奈良公園の鹿問題は「外国人観光客のマナー」だけにとどまらず、観光政策・地域経済・多文化共生、そして天然記念物という特殊な保護体制の課題までも浮き彫りにしています。
このように、奈良公園の鹿をめぐる議論は「観光マナー」から「政治発言」「メディアの信頼性」にまで広がっています。では、この問題を海外の人々はどのように見ているのでしょうか。実際にSNSや掲示板で交わされた声を紹介します。
海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
奈良の鹿せんべい売りが一番強く鹿を叩いている。そうやって鹿を従わせているんだ。個人的には、奈良は鹿を商業利用しすぎていると思う。本来なら野生で生きるべきで、観光の罠みたいに扱うべきじゃない。
数か月前、日本人男性が中国人に向かって「鹿を殴った」と怒鳴っている動画がなかったっけ?
そういう映像は常に新しく出てくるよ。
実際には、大勢の人が奈良を訪れていて、鹿は基本的に餌をねだっている。それも奈良が鹿せんべいを売って観光客にあげさせ、鹿にお辞儀させるよう仕向けているからだ。
仮に0.01%の人がひどい奴で鹿を強く押したり、蹴ったり、殴ったりしても、絶対数で見ればかなりの人数になる。
いや、個人的にはたとえ1人でもそういう奴がいるのは多すぎると思う。
実際、自分が鹿にひどいことをする人を見たのは一度だけ(奈良に3回行って、合計1時間ほどしか歩いていないけど)。それが誰だったかというと、日本語を流暢にしゃべる浮浪者風の日本人男性で、鹿を邪険に押しのけていたんだ。
今では観光客の9割は外国人だろうから、10万人に1人の問題児が外国人で、それが撮影され、ヘイトを煽ることになるのだと思う。
でも、みんな分かっておくべきなのは、一つの出来事を撮影したからといって、それが統計的に意味を持つわけじゃないってことだ。
人は一般的に、一つの事例をカメラで撮っても統計的には何の意味もないことを理解すべきだ。
誰も分かっていないけど、最悪の0.1%の行動を強調すれば、どんな集団だって悪魔化できる。結局、人々は「あの集団はみんなそうだ」と思い込むけど、実際はほとんど誰もそうじゃないんだ。
古典的な手口だよ。敵を作って、それに対して人々を団結させるんだ。
反論もできず社会的に自分を守れない相手を“敵”に仕立てれば、人々をまとめるのは簡単だ。
本気で動物を守るつもりなら、観光の道具みたいに扱ったりしないはずだ。
政治家は票が欲しいだけで、「観光客が問題を起こしている」とでっち上げれば票になると思っているんだ。観光客が来なくなったら、きっと今度は「日本を好んでくれた観光客はどこに行ったんだ?」と嘆くに違いない。
政治家による反外国人のレトリックには現実的な結果が伴うだろう。果たして彼らはそれをコントロールできるのか?国民の外国人に対する怒りを制御できるのか?
彼女の“証拠”なんて、差別的な想像力の中にしか存在しない。
でも、こういう投稿は見かけないだろうね。日本人男性が鹿を斧で殴って殺した事件(車に触れられたから)については、あまり広まらない。
「観光客が鹿を蹴っている」のか「観光客が鹿を蹴るのを見た」のか?この二つは全然違う発言だ。
鹿を殺している狂った日本人もいるんだから、少数の観光客が鹿を殴ったとしても同じ扱いにすべきだ。
世界中どこの保守派だって簡単に騙される。違う人種+犯罪を混ぜれば「私に投票しろ」という話になる。
奈良の鹿は本当にめんどくさい。せんべいをあげたら妻に群がってきた。蹴飛ばしたいどころか、群れごと“かめはめ波”したいくらいだったけど…やらなかったよ。この外国人はね。
せんべい売りが鹿を叩いているのは確かだよ。だって鹿は売り子には群がらないからね。
今どき証拠なんて必要ある?
追記:なんでこれが低評価されてるのか分からないな。皮肉だって分からない人が多いらしい 🤣
調べればいくらでもあるよ。
外国人が鹿を虐待している証拠?奈良市の担当者自身が「そんな報告はない」と言っているのに?
だって正式に苦情を出す前に追い出されるからだよ。
何千人もの観光客がいる場所で、動画もSNS投稿も一切ない?そんなのウソだね。要するに反外国人レトリックで票を集めたいだけ。でも彼女の支持率を見れば、上手くいってないけど。
その手のアカウントをフォローすれば山ほど出てくるよ。観光客は何百万といるから割合的にはごくわずかだろうけど、バズる動画は確かに大量にネット上にある。
自分は日本に住んでいて日本関連の投稿も追っているけど、一度も見たことないね。しかも証明責任は彼女にある。主張した以上、証拠を出すべきなのに出していない。だから今のところ全部デタラメだよ。
そうだね。ただ、統計的に大したことがなくても、SNSでは映像が拡散してバズってしまうんだ。
まとめると、コメント欄では「外国人観光客が鹿を虐待している」という話を一方的に信じるのは危ういという声が多く見られました。
多くの人が「映像は一部の極端な例にすぎず、統計的には意味を持たない」「少数の行為を誇張すればどんな集団でも悪者にできる」と指摘しています。中には「実際に鹿に乱暴していたのは日本人だった」という体験談もあり、むしろ政治的に“敵”を作るための言説ではないかという見方が強い印象です。
一方で、奈良そのものが鹿を観光資源として過度に利用しているという批判や、売り子が鹿を叩いているという指摘もあり、「鹿を守る」という大義名分と現実の矛盾も浮き彫りになっていました。
奈良の鹿問題が映す「観光・政治・社会」
奈良公園の鹿をめぐる議論は、一見すると「観光客のマナー」や「動物愛護」の範疇に収まる話題に見えます。しかし、実際には観光政策、政治発言のあり方、メディアの責任、そして社会における外国人観の問題が複雑に絡み合っています。
1. 観光資源としての鹿と矛盾
奈良公園の鹿は天然記念物として保護されながら、一方で「鹿せんべい」を売ることで観光収入を生む資源でもあります。つまり「守るべき対象」であると同時に「経済を支える存在」として利用されている矛盾があり、鹿と人とのトラブルが起きやすい構造を内包しています。鹿が人に慣れすぎてしまった結果、観光客が驚いて手や足で払う――という状況は、この矛盾の延長線上にあると言えるでしょう。
2. 実は「害獣」としての顔もある鹿
奈良では“神の使い”として崇められてきた鹿ですが、全国的に見れば状況はまったく異なります。北海道や本州の農村部では、シカは農作物や森林を荒らす害獣として扱われ、駆除対象となっています。実際、農林水産省の統計ではシカによる農作物被害額は年間数十億円規模にのぼります。
奈良公園の鹿は特別な文化的背景をもって守られている存在であり、その特異性を理解しないと「なぜ奈良では暴力をふるうのが問題になるのか」という文脈が見えにくくなります。
3. 高市氏発言とその文脈
総裁選出馬中の高市早苗氏が「外国人観光客が鹿を蹴っている」と語ったことは波紋を広げましたが、その後の取材では「昔から日本人も鹿を乱暴に扱ったら批判を受けてきた。日本人だから、外国人だから、ではない」と補足しています。つまり、彼女は外国人を一方的に敵視したのではなく、観光客全般に対して「国籍を問わず鹿を大切にしてほしい」と訴えていた点も見逃せません。
ただし、一部の映像やSNS投稿を根拠にした発言が「外国人観光客だけが問題を起こしている」と受け止められやすかったのも事実であり、政治家の発言にはより慎重さと具体的根拠が求められます。
4. メディア報道と“やらせ”疑惑の炎上
テレビ取材で紹介されたガイドの証言をめぐって「やらせではないか」という疑惑が広まり、本人への誹謗中傷や顔写真の拡散にまで発展しました。ここでは、報道側が透明性を十分に確保できなかったことも問題ですが、それ以上に「やらせ」と決めつけてしまった視聴者側の行動が炎上を拡大させた側面もあります。真偽の確かめにくい情報がネットで一気に共有され、実在の人物に過剰な攻撃が集中したことは、現代社会のリスクを象徴しています。鹿問題はメディアの責任だけでなく、情報を受け取る側の態度にも課題があることを浮き彫りにしました。
5. 外国人観光と多文化共生の課題
奈良の鹿問題は、単に「観光地でのトラブル」ではなく、日本が観光立国を掲げる中で直面する多文化共生の現実を映し出しています。観光客の増加によって摩擦は避けられないものの、それを「外国人の問題」と矮小化するのではなく、教育・啓発・インフラ整備といった包括的な対応が不可欠です。
総括
奈良公園の鹿をめぐる一連の騒動は、外国人観光客を悪者にするか否かという単純な対立ではなく、日本社会が「観光・政治・メディア・共生」をどう扱うかを映す鏡になっています。全国では害獣とされる一方、奈良では文化的象徴として守られる――この二面性こそが議論を複雑にしているのです。高市氏自身も「日本人・外国人を問わず鹿を大切に」と述べており、本来は国籍の線引きを超えた普遍的な課題です。動物愛護の観点だけでなく、観光資源の管理、政治家の発言責任、そして市民と外国人観光客の相互理解――多面的な課題として捉える必要があるでしょう。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
おすすめ書籍
『奈良公園の案内書 ~極(きわみ)~』
奈良公園を深く知りたい人に向けた決定版ガイド。観光名所やアクセス情報だけでなく、鹿との付き合い方、歴史や文化的背景に至るまで丁寧に解説されています。一般的な旅行本よりも一歩踏み込んだ内容で、奈良をじっくり歩きたい人や、外国人観光客を案内する立場の人にも役立つ一冊です。
『明日、シカに会いに行こう -奈良公園で見つけた幸せのかたち-』
奈良公園の鹿と人との温かな交流を、美しい写真とともに描いた一冊。観光ガイドとしてだけでなく、鹿をめぐる文化や日常の風景を切り取った“癒やしのアルバム”のような内容です。記事を読んで「実際に奈良の鹿に会ってみたい」と思った方にぴったりで、旅の予習にも、読み物としても楽しめます。
[…] 奈良公園の鹿をめぐる論争|高市早苗氏の発言と観光・メディア・共生の課題 […]