高市新政権で円安・株高、トラスショックの教訓に学ぶ「市場が見ている日本のリスク」

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高市早苗氏の自民党総裁選勝利を受けて、東京株式市場は強い上昇を見せ、日経平均株価は4.75%急騰して47,944.76円を付けた。TOPIXも3.1%上昇。これは、政策期待が株式市場に強く反映された結果と見られる。

一方、為替市場では円が対ドルで1.8%近く値を下げ、1ドル = 約150.13円と、円安水準を更新した。

債券市場でも動きが激しく、30年債・超長期債の利回りが上昇。特に40年国債の利回りは**3.505%**に跳ね上がるなど、長期債の売り圧が強まったことが示された。

これらの動きは、投資家が「高市氏=積極的な財政支出+金融緩和継続」に賭けたポジションを取ったことと深く関連しているとの指摘もある。

出典: Reuters


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補足説明

高市氏の政策は「景気優先型」――海外ではトラス政権を連想する声も

高市早苗氏は総裁選で、「大胆な財政出動」と「日銀との連携による金融緩和の継続」を掲げました。
物価が上がる中でも景気を冷やさず、企業の投資や賃上げを支える考え方です。
この姿勢は、海外では「かつてのイギリスのリズ・トラス政権を思い出す」と話題になっています。

2022年のイギリスでは、当時のトラス首相が「大幅な減税」と「財政拡大」を同時に進めました。
しかし、その時のイギリス経済はすでにコロナショックからの急回復局面にあり、エネルギー価格の高騰や人手不足も重なってインフレ率が10%を超える状況でした。
そうした中で、財源を示さない減税を打ち出したため、「更にインフレが加速するのではないか」「財政が持たないのではないか」と市場が不安に陥りました。
結果、国債が急落し、通貨ポンドが暴落。住宅ローン金利も急上昇し、国民生活が圧迫されました。
この混乱が「トラスショック」と呼ばれ、わずか45日で政権は崩壊しました。
世界の投資家にとっても、「財政の信頼を失う怖さ」を再認識する出来事でした。


「責任ある積極財政」――高市氏はトラスショックの教訓を踏まえている

一方で、高市氏が直面している日本の状況は、当時のイギリスとは大きく異なります。
現在の日本の物価上昇率はおよそ2%前後で、きっかけはエネルギーや食料品などの輸入コストの上昇でした。
しかし最近では、深刻な人手不足を背景にサービス業の人件費が上がり、人件費や構造的な要因による物価上昇も広がっています。

つまり、日本のインフレは「海外要因で始まり、国内の労働需給の引き締まりで支えられる段階」に入りつつあります。
それでも欧米のような過熱した景気環境とは異なり、デフレ脱却がようやく見え始めた局面です。

このため、高市氏は「責任ある積極財政」という言葉を繰り返し使い、景気を下支えしつつも財政の信頼を損なわないよう慎重な姿勢を見せています。
この点で、減税を先行させて市場を混乱させたトラス政権とは異なり、バランスを取った拡張策を目指しているといえます。

また、日本では国債の多くを日本銀行が保有しており、海外の投資家に大きく依存していません。
そのため、イギリスのように国債が一斉に売られて暴落するリスクは小さいと見られています。
ただしその代わりに、円の価値が下がる「円安」という形で信頼の揺らぎが表れることがあります。

実際、高市氏が自民党総裁に選ばれた直後には、円が1ドル=150円を超え、株価が大幅に上昇しました。
市場は「景気刺激への期待」と「財政への不安」が入り混じった状態にあると言えます。


英国の“トラスショック後遺症”を、いま日本はどう見るか

こうした状況を受け、海外の掲示板サイトRedditでは、「トラスショックがいまもイギリス経済と政治に与え続けている影響」をテーマにした議論が行われていました。
投稿のタイトルは、

Liz Truss is long gone – but her fiscal meltdown still dictates every step Labour makes
リズ・トラスはもういない──だが、彼女の財政崩壊はいまも労働党の一挙手一投足を縛っている


つまり、あの短命政権の失敗がいまだに英国の財政政策を慎重にさせ、政治の方向性まで変えてしまったという問題意識です。

このスレッドでは、日本のことが直接語られているわけではありませんが、
「一度失った財政への信頼を取り戻すことの難しさ」や「市場が政治をどう監視しているか」といった点は、
現在の日本の状況を考えるうえでも多くの示唆を与えてくれます。

ここからは、そのトラスショック後のイギリス社会が直面する“後遺症”を語る海外フォーラムでの議論の一部をご紹介します。
政治と市場の信頼関係をどう立て直すのか──その問いは、決して他人事ではありません。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。

私たちは自分で自分を袋小路に追い込んでしまった。ただしそれは“財政ルール”のせいではなく、何十年にもわたって複数の政権が持続不可能な基礎的財政赤字を続けてきたせいだ。もし債務残高がGDPの30%程度なら安心して景気刺激的な支出をしても問題なかっただろう。だが今や100%に達し、しかも依然として基礎的赤字が続いている。財務省がさらなる拡大に神経質になるのも当然だ。現状でも政府支出の11%が利払いに消えている――しかも今は“まだ穏やかな経済状況”なのだ。不況が来れば、事態はもっと悲惨になる。


2024年9月時点の財政政策のままなら、英予算責任局(OBR)は2070年には債務残高がGDP比270%に達すると予測している。今対処しなければ、相当厳しい道になる。


政策が高齢者寄りなのは、投票するのが彼らだけだからだ。投票を義務化して、若者に有利な政策を立てればいいのに。


投票の義務化と、“どれも支持しない”という選択肢を明確に設ける――これは面白いアイデアで、基本的には賛成だ。ただ、オーストラリアのように投票が義務の国が、本当に他国より“より良い政府”を持てているかといえば…うーん、微妙だね。


投票を義務化しても、人々が政治に関心を持つとは限らない。むしろ無関心な人がランダムに投票するだけで、結果的に“単純でカリスマ性のある政治家”が有利になる。それに、仮にうまく機能したとしても若者の助けにはならない。イギリスの中央値年齢は41歳(子ども込み)で、成人だけならざっと48歳くらいだろう。高齢者向け政策が支持されるのは、彼らが投票するからだけでなく、単純に数が多いからだ。


債務を管理しながら、長期停滞した成長率をどうにか引き上げる――これこそが今の英国と政府にとって最優先課題だ。これを解決しない限り、成長も公共サービスも投資も防衛も全部ダメになる。借金がなければ教育や治安対策にもっと投資できるが、現状では支出の11%が利払いに消えている。これを減らさない限り、どんな景気後退が来ても耐えられない。財政ルールは絶対に必要だ。債務と赤字を抑え、投資を増やし、信認を維持しないと、再び金利上昇→支出削減の悪循環になる。“ドゥームループ(破滅の連鎖)”の直前まで来ている。


問題は、このやり方では“破滅のループ”に陥る危険があることだ。債務を減らすには成長が必要だが、成長を促す前に支出削減(もしくはインフレに追いつかない支出抑制)を行えば、医療や介護などに波及して経済全体を弱めてしまう。“これしか方法がない”と言い切るのは破滅への道だ。


現政権は本当に財政的に八方塞がりなんだ。有権者は次の3つを同時に求めている:新たな増税はイヤだ/公共サービスはしっかり維持してほしい/年金や高齢者向け支援は削るな……これを満たしながら財政再建など不可能だ。どんな政治家でも打開は難しいだろう。


最大の問題は、政府そのものが統治不能な状態になっていることだ。“ネットゼロ(脱炭素)法”や“平等法”のような法律が、あらゆる政策に影響評価を義務づけ、結果的に行政判断を麻痺させている。これでは財政再建のための方向転換すら難しい。


“成長のための支出”は通用しないことが証明された。今残された道は福祉削減しかない。増税は成長を抑えるし、他の手段はもう残っていない。


実は、GDP比で見ればイギリスの債務はそれほど多くない。だが財務省が国債を“インフレ連動型”で発行したせいで、GDP比での利払い負担がコロンビアに次いで世界2位という状況になっている。


経済を成長させ、景気を押し上げる“最も単純で明白な方法”がある。それは――EUに再加盟することだ。実際、“再加盟する”と発表するだけでも株式市場は数%上昇するだろう。2016年の国民投票の結果が出た時と真逆の反応だ。もし本当に再加盟すれば、英国の貿易量は10%以上増える。調査によれば、ブレグジットによる貿易損失は2022年時点で13.2%に及んでいた。さらにOBR(予算責任局)の試算では、ブレグジットによって英国経済全体の規模は4%縮小した。生活費高騰の原因の一つでもあり、EUが担っていた行政・規格・監督機関を国内で重複して維持するコストも増大している。EU再加盟は、経済と税収を最も素早く改善できる単一の政策だ。ただし唯一の問題は――人口の3分の1強が、再加盟の話を聞いた瞬間に“史上最大の駄々っ子”のように発狂するだろうということだ。


長期的には確かにプラスになるかもしれない。だが短期的にはそうはいかない。再加盟条件を巡って果てしない交渉が続き、経済には再び不確実性が生じる。他の問題への対処も後回しになりかねない。だから、あなたが描くような“即効性のある万能策”ではないと思う。


確かにその通りの面もある。でも、再加盟を発表した瞬間に株価が上がるのは間違いないと思う。2016年の国民投票後、株式市場がどんな反応を示したかを思い出してほしい。あれと逆の現象が起きるはずだ。しかもEU加盟の条件は今さら不確実ではない。すでに規則や基準は文書化されており、20か国以上の加盟例もある。英国自身もほんの数年前まで加盟していた。


市場は“結果の見通し”だけでなく、“リスクや変動の幅”も織り込む。確かに再加盟は長期的にはプラスだが、短期的にはリスクと不確実性を大きく高める。再加盟後に英国が割戻金を受け取れるのか、EUへの追加入金が必要なのか、ユーロ導入義務はあるのか、移民流入はどうなるのか――こうした不確定要素が投資のブレーキになる。たとえば、将来の規制が変わる可能性がある中で“現行ルールを前提にした新製品開発”を行う企業はいない。


いま我々は重大な岐路に立っている。“市場の機嫌を取るための自縄自縛の財政ルール”にしがみつき続けるのか、それとも生活水準を引き上げ、成長を回復させるための支出に踏み切るのか――。だが、この人は“もし債券市場がそれを嫌ったらどうなるか”を全く語っていない。もしIMFの支援が必要になれば、そんな支出拡大は長く続かない。結局のところ、それは“国の将来を賭けたギャンブル”であり、福祉費は持続不可能なままだ。


理解していない人のために説明すると――まず最初に起きるのは、新規国債の利払い急騰だ。10年債利回りは今4.56%だが、財政ルールを破ればほぼ確実に5%を超える。すると借入コストが上がり、利払いのためにさらに借金が増え、債務が膨らみ、信認が落ち、また金利が上がる――という悪循環(ヴィシャスサイクル)に陥る。最終的には“誰もイギリス国債を買わなくなり”、強制的に歳出削減に追い込まれるだろう。


これらの議論を読むと、トラス政権の失敗は決して「遠い国の出来事」ではなく、今の日本が抱える課題とどこか重なる部分があるように感じられます。
財政赤字を抱えながら成長をどう取り戻すのか。高齢化が進むなかでの政策の偏り、投票率の低下、そして「増税は避けたいが、支出も減らしたくない」という国民感情――どれも他人事ではありません。

イギリスでは、そうした矛盾が一気に表面化し、市場の信頼を失ったことで金利と通貨が大きく揺らぎました。
日本もまた、長く続いた低金利と財政支出のバランスの上に成り立つ“静かな安定”の中にありますが、その土台がどこまで持続可能なのかは慎重に見極める必要があります。

「政治の都合ではなく、市場の信頼が国の針路を左右する」――トラスショックが残した教訓は、いまの日本にとっても多くの示唆を与えているように思います。


考察と分析:日本がいま試されていること

高市氏の「責任ある積極財政」とは何か

高市氏は「責任ある積極財政」を掲げ、物価高への対策と景気の底上げを両立させようとしています。
注目されるのは、ガソリン税の暫定税率を撤廃する案と、低・中所得層を対象とした「給付付き税額控除」です。
前者は燃料価格を直接下げることで生活コストを抑え、後者は減税と給付を組み合わせて可処分所得を増やす狙いがあります。
いずれも「即効性のある家計支援」としては有効ですが、同時に財源の裏付け出口戦略が問われます。

膨らむ固定費:社会保障と防衛費の板挟み

財政を圧迫しているのは「削れない支出」です。
社会保障費はすでに140兆円を超え、今後も高齢化によって増え続ける見通しです。
医療・介護・年金のどれもが、増やすのは容易でも減らすのは難しい構造になっています。

さらに、防衛費も急速に膨張しています。
政府は2027年度に**GDP比2%**を目標に掲げ、装備更新やサイバー防衛、弾薬備蓄などに恒常的な支出が必要です。
高市氏はこれらを「将来への投資」と位置づけ、一部を建設国債で賄う案にも言及してきました。
しかし、財務省は「財政規律の緩みにつながる」として慎重姿勢を崩していません。

さらに2025年、トランプ政権が復帰したことで、
日本にとっては新たな外圧が加わりました。
トランプ大統領はすでに同盟国に対して防衛費の実質的な負担増を求めており、
同時に、中国や欧州に対する高関税政策を復活させています。

これにより、世界的にモノの価格が再び上昇し、輸入インフレが日本経済にも波及しています。
エネルギー・食料・原材料コストの上昇は家計を直撃し、
日銀は再び「物価安定と金利引き締め」の狭間に立たされています。

財政と市場:両立しない“積極財政”の難しさ

高市氏が掲げる「責任ある積極財政」は、
景気を下支えしつつ、成長投資を通じて税収増を狙う構想です。
しかし、金利が上昇している今の環境では、
財政出動を拡大するほど利払い負担が増えるという構造的なジレンマに直面します。

トランプ政権による世界的インフレ圧力、
防衛費と社会保障費という“二重の固定費”、
そして利上げが進む中での国債発行――
この三つが同時に進めば、日本の財政は過去にない形で市場の試練を受けるでしょう。

政治がどれだけ意欲的な政策を掲げても、
市場が「日本は持続可能だ」と信じなければ、金利と為替は一瞬で反応します。
トラスショックが示した通り、信頼の喪失は数週間で通貨と国債を揺るがすのです。


総括:政治と市場、どちらを信頼させられるか

いまの日本経済は、長年の低金利と財政支出の上に成り立つ“静かな安定”を保っています。
しかし、その土台だった金融緩和も、国際環境も、すでに大きく変わりました。

短期的には家計支援が求められる一方で、
中期的には「財政の出口」と「成長戦略」をどう描くかが問われています。
英国のトラス政権は、その筋道を示せなかったことで市場の信頼を失い、
わずか数週間で崩壊しました。

いまの日本にも、似た構図が静かに迫りつつあります。
金利上昇、防衛費の膨張、社会保障の重圧、そして世界的なインフレ――
それらが一度に重なれば、いまの“静かな均衡”はあっけなく崩れるかもしれません。

「政治の都合ではなく、市場の信頼が国の針路を決める」。
その教訓をどう受け止め、どう次の一手を示せるか。
それが高市政権(仮)にとっての最初の試練であり、日本全体にとっての分岐点となるでしょう。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。



関連書籍

『国力研究 日本列島を、強く豊かに。』

著者:高市 早苗(産経新聞出版/2024年)

高市氏が自らの政策理念をまとめた一冊。
エネルギー、食料、安全保障、経済、テクノロジー――。
「日本の国力をいかにして再び取り戻すか」をテーマに、
自民党政調会長時代の議論や将来の国家像を具体的に語っています。

本書では、防衛力の強化を「将来への投資」と位置づけ、
財政健全化との両立をどう実現するか
という視点が繰り返し示されています。
今回の記事で触れた“責任ある積極財政”の背景を理解するうえでも、最も直接的な資料と言えます。


『きみのお金は誰のため ― ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』

著者:田内 学(東洋経済新報社/2023年)

お金と社会の関係を、物語形式でわかりやすく解説したベストセラー。
貨幣とは何か、社会とはどう成り立つのか――。
「財政とは信頼の循環である」という視点から、
トラスショック後の“市場と政治の関係”を考える手がかりにもなります。


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