『チョークポイント アメリカが仕掛ける世界経済戦争の内幕』書評と要点整理|せかはんのブックレビュー

チョークポイント アメリカが仕掛ける世界経済戦争の内幕(エドワード・フィッシュマン著)出典:Amazon.co.jp(出版社提供画像)
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ニュースとの関連

米中の貿易戦争が再燃し、関税と資源規制が世界市場を揺るがすなかで、経済を「武器」として使う新たな動きが注目を集めています。
トランプ政権が推し進める100%関税や中国のレアアース規制は、単なる通商摩擦ではなく、経済を外交・安全保障の手段として使う「経済戦争」の時代を象徴する出来事です。

エドワード・フィッシュマン氏の著書『チョークポイント アメリカが仕掛ける世界経済戦争の内幕』は、まさにその構造を解き明かす一冊です。
アメリカが金融ネットワーク、半導体技術、決済システムなど、世界経済の「要所=チョークポイント」を支配することで、他国の経済活動を左右する現実を分析しています。

本書は、先日の記事「トランプ関税」で再燃する米中経済対立 レアアース規制が示す“多極化する世界経済”の行方とも深く関連しています。
関税・制裁・供給網など、各国が“見えない戦場”で主導権を奪い合う時代に入っていることを示しています。


書籍の概要

著者エドワード・フィッシュマン氏は、オバマ政権下で経済制裁政策を担当した元国務省高官であり、経済安全保障分野の第一人者です。
本書では、アメリカがどのように経済のチョークポイントを掌握し、それを外交の武器として使っているのかを、イラン・ロシア・中国など具体的な事例とともに解説しています。

金融システム、通信網、半導体技術、物流網——これらはすべて現代の「経済インフラ」であり、同時に国家間の力関係を決める支配装置でもあります。
米国はこれらを通じて他国の経済活動を制限する力を持ち、軍事行動に頼らずとも世界秩序を動かす手段を得ています。
一方、中国やロシアも自国が優位に立つ分野で反撃を試み、各国が「経済的急所=チョークポイント」をめぐる競争に突入しています。


印象に残ったポイント

  • 経済を「戦争の延長線上」に位置づける、現代型の国家戦略を提示
  • 米国は軍事力ではなく、金融・技術・通信という経済的支配力で世界を動かしている
  • ロシア制裁や半導体輸出規制など、現実の政策が本書の理論と完全に重なる
  • 経済兵器の乱用は、最終的に自国の信頼と地位を損なう危険を孕む
  • 日本もエネルギーや半導体分野で同様の脆弱性を抱えており、経済安全保障の再考が必要

せかはんの考察

『チョークポイント』が描いているのは、もはや「貿易戦争」ではなく「経済戦争」という新しい現実です。
かつては自由貿易を標榜していたアメリカが、今では経済を通じて他国の行動を制約する側に回り、金融決済・半導体・通信などの領域を“見えない武器”として使っています。

著者が指摘するように、この構造は永続的なものです。米国が築いた国際的なシステムは、自由を装いながら実質的に支配の道具となりつつあります。
そして、中国やロシアが自らのチョークポイントを構築し始めた今、世界は経済のブロック化と分断へと進んでいます。

東京大学の鈴木一人教授による解説では、日本の脆弱性にも言及しています。半導体素材やエネルギー供給、国際送金システムなど、日本経済の基盤もまた、他国のチョークポイントに依存しています。
この現実を直視し、「経済安全保障」という視点を持つことの重要性を強く訴えています。

『チョークポイント』は、軍事の時代が終わり、経済を通じた覇権競争の時代が始まったことを示す書です。
自由貿易の裏に潜む力の構造を理解しない限り、どの国もこの新しい経済戦争を生き抜くことはできません。


それではまた、次の記事でお会いしましょう。

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