【書評】『国力研究』は高市新政権の設計図か 日本をどう「強く、豊かに」するのか


国力研究 日本列島を、強く豊かに。

高市早苗首相の誕生により、日本は戦後初となる女性首相の時代に入りました。
組閣人事や発言の一つ一つが注目される中、「この政権はどこへ向かうのか」「何を優先し、何を切り捨てるのか」を見極めようとする動きが広がっています。

その答えを探す上で、ほぼ避けて通れない一冊が
『国力研究 日本列島を、強く豊かに。』です。

本書は選挙後に慌ててまとめられた政策集ではありません。
高市氏が長年にわたり構想してきた国家像を、外交・安全保障・経済・技術といった複数の専門分野から検証し、整理した「政策の原型」と言える内容です。


なぜ今、この本を読むべきなのか

今回の高市内閣は、「国力強化」という言葉を政権の中核に据えています。
ただしこの言葉は、抽象的であるがゆえに誤解も招きやすい。

軍事力の話なのか。
経済成長の話なのか。
それとも精神論なのか。

『国力研究』を読むと、その答えは明確です。
本書で語られる国力とは、単一の政策や分野を指すものではありません。

外交、防衛、経済、技術、人材、情報。
これらを分断せず、一つの体系として組み上げること。
それこそが高市氏のいう「強く、豊かな日本」の正体です。

高市首相が掲げる経済安全保障、宇宙政策、防衛産業の再構築といった施策は、突発的な思いつきではなく、本書で整理された思想の延長線上にあります。


書籍の構成と「国力」という考え方

本書の最大の特徴は、政治家の単独著作ではない点にあります。

前駐中国大使の垂秀夫氏、元国家安全保障局次長の兼原信克氏、経済学者の若田部昌澄氏など、外交・安保・経済の実務を知る専門家10名が参加し、質疑応答形式で議論が進みます。

扱われるテーマは極めて具体的です。

・中国との現実的な向き合い方
・スパイ防止法と情報管理体制
・防衛装備移転と産業基盤
・円安、デフレ脱却、財政規律
・宇宙産業と次世代技術

これらを、高市氏は「外交力」「情報力」「防衛力」「経済力」「技術力」「人材力」という複数の柱に整理し、国力として再定義しています。

重要なのは、これらが並列ではなく、相互依存の関係として描かれている点です。

防衛力は経済力なしに維持できない。
経済力は技術と人材なしに生まれない。
技術は教育と研究投資なしに育たない。

この循環構造が、本書全体を貫く基調になっています。


「タカ派」というレッテルでは読み解けない本質

高市氏はしばしば「安全保障重視」「強硬派」として語られます。
確かに本書でも、防衛力の抜本的強化やセキュリティ・クリアランスの必要性は強調されています。

しかし、読み進めるほどに浮かび上がるのは、より根源的な問題意識です。

それは
「国家の基礎体力が衰えているのではないか」
という危機感です。

装備や制度を整えるだけでは不十分で、それを支える人材、産業、研究環境が崩れれば、国家としての持続性は失われる。

書き下ろしの「総合的な国力強化の方向性」や「宇宙政策論」では、この問題意識がより鮮明になります。

宇宙や先端技術を、単なる夢物語としてではなく、
・産業競争力
・安全保障
・人材育成
を同時に支える基盤として位置づけている点は、従来の政治家像とは明確に異なります。


投資・産業の視点から見た示唆

本書は政策論であると同時に、将来の産業地図を読むヒントにもなります。

国策として重視される分野がどこにあるのか。
どの産業が中長期で支援を受けやすいのか。

宇宙、航空、防衛、サイバーセキュリティ、先端半導体。
これらは単なる成長分野ではなく、「国家戦略と不可分な産業」として位置づけられています。

高市政権の下で、これらの分野が優先的に整備されていく可能性は高く、政策動向と産業動向を結びつけて考える上でも、本書は有効な資料と言えるでしょう。


まとめ 新政権を理解するための基礎文献

『国力研究』は、思想書でもなく、スローガン集でもありません。
高市早苗という政治家が、日本をどう設計し直そうとしているのか、その思考過程を追体験できる一冊です。

右か左か。
賛成か反対か。

そうした二項対立を一度脇に置き、
「日本という国家を、今後どう持続させるのか」
という問いに正面から向き合いたい人にとって、本書は極めて示唆に富んだ内容になっています。

高市新政権の政策を理解するための予習として、
あるいは日本の将来を考えるための材料として、
今こそ読み返されるべき一冊です。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。


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