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いま再び注目を集めている「トランプ関税」。
アメリカが中国に対して100%関税を発動し、世界の市場が混乱するなかで、保護主義の行方があらためて問われています。
この書籍『トランプの貿易戦争はなぜ失敗するのか』(リチャード・ボールドウィン著)は、まさにその根底にある「経済ナショナリズムの構造」を解き明かす内容です。
先日の記事「トランプ関税」で再燃する米中経済対立 レアアース規制が示す“多極化する世界経済”の行方」とも深く関係しており、今起きている関税戦争を理解する上で格好のテキストになっています。
書籍の概要
著者のリチャード・ボールドウィン氏は、世界経済フォーラム(WEF)などでも知られる国際経済学の第一人者です。
本書では、2025年に再燃した米中貿易戦争の原点を、トランプ政権期の「貿易の大ハッキング」まで遡って分析します。
関税の導入は一見、国内産業を守る政策のように見えますが、実際には世界貿易体制を混乱させ、アメリカ自身の産業競争力も損なう。
著者は、こうした「経済の内向き化」がどのように生まれ、なぜ国民の支持を得てしまうのかを、政治経済・心理・歴史の観点から丁寧に解説しています。
印象に残ったポイント
- グローバル化の逆流は偶然ではなく、「不満の積み重ね」という必然的な反動である
- トランプ関税は短期的な政治的支持を得たが、経済的には中間層を救わなかった
- 米国の関税政策が結果的に中国の製造業再編を加速させた
- 保護主義は国際協調を損ねる一方、政治家には強力な“選挙戦略”として機能する
- 日本もまた、円安や産業空洞化のなかで同じ構造的圧力に直面している
せかはんの考察
この本が伝えているのは、単なる「関税論」ではなく、グローバル経済の構造変化そのものです。
ボールドウィン氏は、世界が共有してきた「自由貿易という共通言語」が崩れ、各国が自国の生産と雇用を最優先にする「経済的ナショナリズム」へと傾いている現実を描いています。
トランプ政権の関税政策は、その象徴的な出来事でした。
しかし、著者はそれを単なる誤りとは見なさず、「民主主義国家が抱える構造的な不満の表出」として分析しています。
人々の不安や怒りを背景に、関税という“政治的にわかりやすい解決策”が選ばれてしまう。
それがボールドウィン氏の言う「不満ドクトリン」です。
この考え方は、現在の日本にも重なります。
円安や実質賃金の低下が続くなかで、「国内回帰」や「保護的政策」を求める声が高まっていることは、米国の構図とよく似ています。
著者が警告するように、こうした政策は短期的には安心感を与えるものの、長期的には経済の信頼性を損ない、国際的な孤立を招く危険をはらんでいます。
グローバル化の“逆流”が止まらない今、私たちは「誰のための保護主義なのか」を問われているのかもしれません。
関税をめぐる議論は、経済だけでなく社会の分断や民主主義の形にも影響を与えます。
本書はその現実を冷静に突きつける、時代の鏡のような一冊です。
それではまた、次の記事でお会いしましょう。


