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自民党は、2026年度(令和8年度)に向けた税制改正大綱を公表した。今回の大綱では、所得税の非課税枠を現在の年収160万円から178万円へ引き上げる方針が示され、物価上昇や人手不足を背景に、就労調整の抑制を狙う内容となっている。
あわせて、富裕層への最低税率の引き上げや、ふるさと納税制度の見直し、暗号資産課税の改革案なども盛り込まれた。資産形成分野ではNISA制度の拡充が打ち出され、若年層や未成年への投資機会を広げる方向性が示されている。
これらの内容は、与党が目指す税制の方向性をまとめたもので、今後の国会審議や与野党協議を経て、最終的な制度設計が決まる見通しだ。
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海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
全体的に見て問題なさそう。
いわゆる「壁」の話は、社会保険の130万円ラインが動いていない以上、ほとんど意味がない。
見落としていなければ、これは全然悪くない内容に聞こえる。超富裕層への増税は、正直かなり前から必要だった。それに、ふるさと納税の規制強化も妥当だと思う。ポータルサイトが金を取りすぎている感じがする。
新しいジュニアNISA(こどもNISA)、最高だね。
海外の反応の続きはnoteで読むことが出来ます。
考察・分析

1. 所得税の「178万円の壁」は何を変え、何を変えないのか
今回の税制改正大綱では、所得税がかかり始める年収の基準を引き上げる方針が示されました。給与所得者の場合、年収178万円までであれば、所得税がかからない仕組みになります。これは、最低賃金の上昇や物価高を踏まえ、低所得層の負担を軽減する狙いがあります。
低い年収帯では、非課税となる範囲が広がることで、確かに手取りが増える人が出てくる見込みです。一方で、この措置はあくまで所得税に限った話であり、社会保険料の負担や扶養の仕組みが同時に変わるわけではありません。そのため、働き方や手取りの実感が必ずしも大きく変わらないケースもあります。
また、財源確保の観点から、年収が高くなるにつれて基礎控除などの扱いを調整する方向も示されています。その結果、年収600万円台後半あたりで、減税の効果が小さくなる、あるいは昇給しても手取りの伸びが一時的に鈍る区間が生じる可能性が指摘されています。これは税率が急に上がるという話ではなく、控除が縮小することによる構造的な現象です。
この「178万円の壁」については、制度の背景や計算の仕組み、社会保険との関係を含めて前回の記事で詳しく整理しているため、詳細はそちらを参照してください。
2. 暗号資産の税金は「一律20%」になるわけではない
暗号資産の税制については、これまでの扱いを大きく見直す方向性が示されました。従来、暗号資産の利益は雑所得として扱われ、給与など他の収入と合算して課税されてきました。そのため、所得が多い人ほど税率が高くなり、最大で50%を超える負担になるケースもありました。
今回の大綱では、暗号資産の一定の取引について、株式などと同じように他の所得と分けて課税する方式を検討しています。これにより、税率は約20%程度となり、損失についても一定期間繰り越せる仕組みを導入する方向です。
ただし、この見直しはすべての暗号資産や取引に適用されるわけではありません。対象となるのは、国内の登録業者を通じて取引され、制度上の要件を満たす暗号資産に限られる見通しです。海外取引所での取引や、分散型の仕組みを使った取引については、引き続き従来の扱いとなる可能性があります。
また、この税制は関連する法律の改正とセットで導入されるため、実際の適用開始は早くても2027年以降になる見込みです。「暗号資産が一気に優遇される」という理解は正確ではなく、条件付きで段階的に制度化される点には注意が必要です。
3. 防衛費と復興税は「税率」より「期間」が焦点になる
防衛力強化の財源として、2027年以降、所得税額に一定割合を上乗せする仕組みが導入される予定です。これにより、防衛関連の財源を恒常的に確保する狙いがあります。
一方で、現在続いている復興特別所得税については、税率を引き下げる代わりに、課税期間を延長する方向が示されています。単年度の税率だけを見ると、大きな負担増には見えませんが、課税される期間が長くなることで、長期的には支払う税金の総額が増える形になります。
この点は、「増税かどうか」という単純な議論よりも、「いつまで負担が続くのか」という時間軸の問題として捉える必要があります。
4. こどもNISAは貯蓄支援ではなく資産形成の制度である
ジュニアNISAの終了後、その受け皿として、未成年を対象とした新しい非課税投資制度、いわゆるこどもNISAが創設される方向です。
この制度では、年間に投資できる金額や、生涯での投資上限が設定される見込みです。また、一定の年齢までは原則として自由に引き出せない仕組みとされ、短期的な資金需要に使う制度ではありません。
こどもNISAの目的は、子ども名義で長期の資産形成を行う環境を整えることにあります。そのため、単なる貯蓄優遇ではなく、金融教育や家庭内での理解が前提となる制度です。制度が用意されることと、実際に広く使われることの間には、差が生じる可能性もあります。
5. インボイス制度は段階的に「本来の姿」へ近づく
インボイス制度については、導入時の急激な負担増を避けるため、特例措置が設けられてきました。その一つが、納める消費税を大きく軽減できる仕組みでしたが、この特例は終了します。
今後は、新たな経過措置を挟みながら、段階的に本来の制度に近づけていく流れになります。その結果、フリーランスや副業をしている人にとっては、税額そのもの以上に、請求書の管理や取引先との調整といった実務負担が重く感じられる可能性があります。
6. ふるさと納税は「お得な制度」からの転換が進む
ふるさと納税については、制度の引き締めが続いています。特に、高額な給与収入がある人については、寄付による控除額に上限を設ける方向が示されています。
また、自治体が返礼品や送料、仲介サイトの手数料などに使える経費の割合についても、引き下げる方針が示されています。これは、寄付金ができるだけ自治体に残るようにするための調整です。
その結果、利用者にとっての「お得感」は薄れる一方で、制度本来の趣旨に近づく形になります。
7. 相続税と富裕層課税は「抜け道」を塞ぐ方向へ
相続税では、相続直前に不動産を購入することで評価額を下げ、税負担を抑える手法への対策が盛り込まれました。一定期間内に取得した投資用不動産については、評価の考え方が見直される見込みです。
また、非常に高い所得がある人については、最低限負担すべき税率を引き上げる方向が示されています。これは、金融所得の割合が高い人ほど税負担が軽くなりやすい仕組みを是正する狙いがあります。
総括
今回の税制改正大綱は、家計への配慮を前面に出しながら、その裏側で制度の歪みや不公平感を調整する内容となっています。178万円の壁のように分かりやすい施策が注目を集める一方で、控除の調整や制度の切り替えによって、影響が出る層とそうでない層がはっきり分かれる構造も内包しています。
暗号資産税制の見直しや、こどもNISAの創設は、日本の税制や金融制度を国際標準に近づける動きとも言えます。ただし、いずれも条件付きで段階的に導入される仕組みであり、期待だけが先行すると実態とのギャップが生じやすい分野です。
ふるさと納税やインボイス制度、相続税の見直しに共通しているのは、「お得さ」や「抜け道」を前提とした制度運用からの転換です。これまで見過ごされてきた不公平や非効率に手を入れる一方で、利用者側の負担感や不満が表に出やすくなる局面でもあります。
今回の改正は、誰か一部だけを狙い撃ちしたものではなく、制度全体を長期的に維持するための再設計に近い性格を持っています。その分、短期的な分かりやすさよりも、「なぜそうなっているのか」を理解しないと評価しにくい内容になっています。
税制改正をどう受け止めるかは、立場や収入、働き方によって大きく変わります。ただ、目立つ数字やキャッチーな表現だけで判断するのではなく、制度の切り替わり部分で何が起きるのかを見ることが、今回の大綱を読み解く上で欠かせない視点だと言えるでしょう。
それではまた、次の記事でお会いしましょう。
関連書籍紹介
『一番売れてる月刊マネー誌ザイが作った 新NISA入門』
著者:ダイヤモンド・ザイ編集部(ダイヤモンド社)
今回の税制改正大綱には、こどもNISAの創設をはじめ、資産形成を後押しする政策も含まれています。ただし、制度が拡充されるほど仕組みは複雑になり、「結局、自分は何をすればいいのか分からない」という状態に陥りやすくなるのも事実です。
本書は、新NISAの仕組みを図解とマンガで整理し、投資経験がほとんどない人でも全体像をつかめる構成になっています。無期限化や投資枠拡大といった改正点にも対応しており、「制度は用意されたが、どう使うかは自己責任」という状況で、最初に手に取る一冊として非常に実用的です。
今回の改正で示された「資産形成を促す方向性」を、実際の行動に落とし込むための入口として適しています。
『フリーランス&個人事業主 確定申告でお金を残す!元国税調査官のウラ技 第12版』
著者:大村大次郎(技術評論社)
インボイス制度の経過措置終了や、防衛費をめぐる負担増など、今回の税制改正大綱から見えてくるのは、「知らなかったでは済まされない」局面が本格化しているという現実です。特にフリーランスや副業をしている人にとって、税金の知識はもはや選択肢ではなく、生活を守るための前提条件になりつつあります。
本書は、元国税調査官という立場から、確定申告の基本だけでなく、合法的に手元にお金を残すための考え方を具体的に解説しています。単なるテクニック集ではなく、「税務署は何を見ているのか」「どこで差がつくのか」という視点が盛り込まれている点が特徴です。
増税や制度変更が続く中で、受け身にならず、自分の立場を守るための実践的な一冊として、今回の記事内容とも強く噛み合います。
管理人のインプットツール
以下は、普段記事を書く際に実際に使っているインプット環境です。
ご興味があれば、参考までに置いておきます。
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参考リンク
Reuters: Japan to raise tax-free income threshold to ease inflation squeeze
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/japan-raise-tax-free-income-threshold-ease-inflation-squeeze-2025-12-18/
Yamada Partners 速報: 物価高及び三党合意を踏まえた資料(PDF)
https://www.yamada-partners.jp/hubfs/zeikai/2026/k01.pdf?hsLang=ja-jp
Yamada Partners 速報: 暗号資産の分離課税化(PDF)
https://www.yamada-partners.jp/hubfs/zeikai/2026/k04.pdf?hsLang=ja-jp
Nippon.com: Japan to Implement Income Tax Hike for Defense
https://www.nippon.com/en/news/yjj2025121800937/
通販新聞: ふるさと納税のポータル手数料や大綱の方針
https://www.tsuhannews.jp/shopblogs/detail/75104
note: 税制改正大綱の引用部分(ポータル手数料13%)
https://note.com/wellbound_tokyo/n/n056f6a861dc7


