中国、レアアース規制を1年延期 米国産大豆の購入再開へ 米中協議の裏で進む“資源外交”

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ロイター通信によると、スコット・ベッセント米財務長官は10月26日、マレーシアでの米中貿易協議後、中国がレアアース輸出の新ライセンス制度を1年延期し、内容を再検討する見通しを示した。

また、中国は今後数年間にわたって米国産大豆の大規模購入を再開する方針。ベッセント氏は「トランプ大統領と習主席が今週発表する貿易合意により、米国の大豆農家は今後数年にわたり恩恵を受けるだろう」と述べた。

さらに、TikTokの米国移管を巡る取引条件も最終調整済みで、来週の首脳会談で正式合意に達する見込みだという。


出典:Reuters


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補足説明

米中摩擦の「一時休戦」とも言える展開

今回のベッセント財務長官の発言は、春以降続く米中通商摩擦の緊張を一時的に緩和するサインとみられています。

2025年春、トランプ政権は電気自動車や鉄鋼、太陽光パネルなどに最大100%の関税を課す「トランプ関税政策」を発動し、世界各国が懸念を示しました。中国はこれに対抗し、レアアース輸出規制の強化など経済的圧力を強めてきましたが、今回の「規制1年延期」はそうした対立を一時的に緩める狙いがあるとみられます。


レアアースをめぐる主導権争い

レアアース(希土類)はEVや風力発電、軍需部品などに欠かせない資源であり、中国が世界の供給をほぼ独占してきました。
しかし近年、米国はこの依存構造の見直しを進めています。オーストラリアとの間では重要鉱物供給枠組みを締結し、同国の鉱山資源を米国の供給網に組み込む取り組みが始まりました。また、インドや日本との「クアッド」協力、アフリカ諸国との採掘交渉も進められており、中国一国に頼らないサプライチェーンの形成が進行中です。
これにより、中国が外交カードとして使ってきたレアアースの輸出規制は、以前ほど強力な圧力手段ではなくなりつつあります。


「大豆購入再開」の政治的意味

一方で、中国による米国産大豆の購入再開は、トランプ政権にとって農家支援を強調できる象徴的成果です。
ただし、中国側から公式な声明はまだ出ておらず、実際の合意内容は今後の発表を待つ必要があります。
こうした“成果発表”は、経済交渉というよりも国内向けの政治的演出としての意味合いが強いとも指摘されています。


海外では「懐疑と皮肉」の声も

このように、表向きは“歩み寄り”を演出している今回の発表ですが、裏を返せば双方の思惑が入り混じった政治的な取引でもあります。
そのため海外では、この発言を額面通りに受け取らず、ベッセント氏や米政府の信頼性そのものを疑問視する声が多く上がっています。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


最初の一文からしてこれだ。
「中国が〜するだろうと予想している」。
つまり、また嘘っぱちってことだ。


話がうますぎるな。
もし本当なら、中国はその見返りに一体何を得るんだ?


中国が欲しいものはひとつだけだ。
アメリカが「与える」ことはできなくても、「楽にする」ことはできる。
台湾だ。


たぶん米国は関税を元の水準に戻すだけだ。
中国が譲歩したように見える「大豆購入」や「レアアース輸出」なんて、もともと関税前に普通にやってたことだ。
つまり、自分で火をつけてから「火を消した」とアピールしてるだけ。
トランプの最大の武器は、「嘘みたいな話を本当に思わせること」だよ。


仮に本当だとしても、中国がこれまでのアメリカのように無茶苦茶な交渉をしない理由はない。
分断されたアメリカに残されたカードは軍事力だけ。
それさえも脅かされる日が来るだろう。
そして、未来の軍事力はレアアースに大きく依存している。


やつらの言うことは全部嘘、やることは全部詐欺だ。


「政府閉鎖は先週終わる」とか言ってたのと同じだな(笑)


この政権で真実を知りたいなら、相手側が何を言ってるかを見ろ。


中国政府が正式に発表するまでは、一言たりとも信じるな。
他国との取引も同じだ。その国側が合意条件を公表するまでは、この政権の「通商関連の発表」に耳を貸す価値はない。
トランプはこれまで何十回も「交渉はほぼ完了」と言ってきたが、中国政府は「そもそも一度も話し合っていない」と否定してきた。


おい、もう一回自分の最初の一文を読んでみろよ。
とんでもない時代に生きてるな。


中国も信用ならないが、少なくとも貿易交渉に関しては相手国が反論できるから、嘘をつく理由がない。
一方トランプ政権は、くだらない嘘や簡単にバレる嘘まで平気でついてきた。だから真実を語ることなんて絶対にない。


台湾が2029年まで無事でいられるとは思ってない。


TikTokだけ具体的で、大豆とレアアースは憶測のまま。
実にこの政権らしいよ。


考察・分析

米中関係の「休戦」と「探り合い」

今回の合意は、表面的には米中の歩み寄りのように見えますが、実際には双方が時間を稼ぐための「一時的な休戦」に近いものです。
米国は選挙を前に経済政策の成果を演出したい意図があり、中国は景気減速と外資流出が進む中で、対外的な安定を優先したいという事情があります。つまり、どちらも本質的な譲歩をしたわけではなく、次の展開に備えて呼吸を整えている段階といえます。

特に中国にとって、レアアース輸出の制限を強化し続けることは、自国産業にも跳ね返りかねない状況です。半導体や電気自動車、AI分野などのサプライチェーンは依然として米ドル経済圏に依存しており、過度な制限は中国国内の製造業にも影響を及ぼします。したがって今回の「1年延期」は、対外戦略というよりも、自国経済の安定を優先した調整的な判断と見ることができます。


米国が進める「資源地政学」の構図

一方で米国は、レアアースをはじめとする重要鉱物の供給網を多角化する動きを加速させています。
オーストラリアとの協力関係に加え、日本やインドとの経済安全保障枠組みでも、採掘から精製までを中国以外で完結させる体制づくりを進めています。さらにアフリカ諸国との間でも開発交渉を進めており、複数の供給ルートを組み合わせることで、特定国への依存度を減らす狙いが見られます。

この流れは単なる貿易競争にとどまらず、資源を軸とした新しい地政学的な対立構造の一部でもあります。
米国が推し進める「ポスト中国」の供給網が定着すれば、レアアース市場での中国の影響力は時間とともに薄れていく可能性があります。


政治ショーとしての通商発表

今回の発表を額面通りに受け取るのは早計です。
トランプ政権にとって、中国との「合意」や「成果」は国内向けの政治的メッセージとして大きな意味を持っています。
米国産大豆の購入再開は、農業州の支持層にとってわかりやすい成果として映る一方、具体的な契約内容や履行時期は不明確なままです。
こうした発表が、選挙を前にした「経済好転の演出」として利用されていることは否定できません。

Redditなど海外のSNSでは、「また口先だけだ」「選挙向けの芝居だ」といった批判的な反応が多く見られました。これは過去にも同様の“口約束外交”が繰り返されてきたことへの不信感の表れといえます。
ベッセント財務長官の発言も、市場や世論を動かすことを意識した演出の側面が強いとみられます。


総括

今回の米中協議は、レアアースと大豆という異なる分野を通じて、経済・資源・政治が密接に結びついた現代の国際構造を浮き彫りにしました。
米国は脱中国依存の動きを強め、中国は国内経済の不安定さを抑えるために一歩引いた形となっています。
しかし、その背景には両国の政治的思惑が重なり合っており、今回の「緊張緩和」も恒久的な安定を意味するものではありません。

ベッセント財務長官の発言が実際の政策転換につながるのか、それとも選挙前の一時的な演出にとどまるのか。
世界は今、その行方を静かに見つめています。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。



関連書籍紹介

エブリシング・ヒストリーと地政学

エミン・ユルマズ 著(文藝春秋、2025年10月刊)

今回の米中協議の背景には、資源・通貨・技術をめぐる長期的な駆け引きがあります。
そうした「マネーが動かす地政学」の構造をより深く理解したい方におすすめなのが本書です。
歴史を通じて、マネーがいかに文明を壊し、そして新たな秩序を生み出してきたのかを読み解きます。
ローマ帝国の貨幣崩壊から米中半導体競争まで、経済と政治の交差点を貫く視点が学べる一冊です。


地図でスッと頭に入る世界の資源と争奪戦

編集:昭文社出版編集部/監修:村山秀太郎(2023年6月刊)

エネルギー、食糧、水、そしてレアアース。
私たちが日々の暮らしの中で当然のように使っている「資源」は、いまや国家の命運を左右する最前線にあります。
本書は、複雑化する世界の資源争奪戦を「地図とビジュアル」でわかりやすく解き明かす入門書です。

ロシアのウクライナ侵攻によって露呈したエネルギー依存、レアアースやリチウムをめぐる米中対立、
北極圏やアフリカで進む新たな資源競争まで、世界の動きを地理的に俯瞰できます。
また、資源を持たない日本が直面するエネルギー自給率の低さや、海洋資源・メタンハイドレート開発などの挑戦も紹介。
「資源の地政学」を学ぶうえでの最初の一冊として最適です。


参考リンク

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