ホルムズ海峡封鎖で静かに始まる資源枯渇 ヘリウム・ナフサ・LNG不足が世界を揺らす

今回の記事の重要ポイント(三点)

・ホルムズ海峡の混乱は、原油だけでなくLNG、ナフサ、ヘリウムなどの不足として世界経済に広がり始めている。

・この中でも特に厄介なのがヘリウム不足で、半導体やMRIのような代替しにくい分野に先に影響が出やすい。

・ナフサ不足は石油化学や包装材、LNG不足は電力、肥料原料不足は食料価格に波及しやすく、影響はすでに原油高の外側へ広がっている。


ニュース

Reutersが伝えたところによると、ホルムズ海峡を巡る情勢は3月末時点で一部の船舶に通航再開の動きが出ているものの、タンカー攻撃は続いており、通常航行の安全が回復したとは言えない状態が続いている。中国のコンテナ船が海峡を通過した一方で、ドバイ沖では大型タンカーが攻撃を受けた。

影響は原油価格だけでなく、LNG、ナフサ、ヘリウムなどの産業用原料にも広がっている。ナフサの供給不安は石油化学分野の生産に波及し始め、ヘリウム不足は半導体など技術系サプライチェーンに影響が出始めている。


関連記事


補足説明

原油だけで終わらない供給不安

ホルムズ海峡の混乱で細っているのは、原油だけではありません。

LNG、ナフサ、ヘリウム、さらに肥料原料や一部の工業素材まで、同じ海域や湾岸インフラに強く依存しています。そのため海峡の機能が落ちると、燃料価格の上昇だけでなく、発電、化学、半導体、医療、農業まで同時に圧迫されます。
ヘリウム、ナフサ、肥料、アルミニウムのような中間投入材は表面上は目立ちにくい一方、止まると幅広い産業に波及しやすいのが特徴です。


ナフサ不足で起きること

ナフサは石油化学の基礎原料です。

これが細ると、樹脂、プラスチック、包装材、自動車部品、家電部材の供給が苦しくなります。影響が広いのは、ナフサが工場の奥で使われる原料でありながら、その先で食品包装から工業部品まで幅広くつながっているからです。
見えにくい不足ですが、長引けば生活用品や製造業の両方にじわじわ効いてきます。

代替手段が全くないわけではありません。他地域からの調達や原料の振り替えは可能です。ただ、石油化学設備は急に原料を切り替えにくく、短期では値上がりと供給不安を避けにくい状態です。


LNG不足は電力に響く

LNG(液化天然ガス)が細ると、まず発電用燃料が不安定になります。

原油は備蓄や増産の議論がしやすい一方、LNGは船、受入基地、契約の制約が大きく、止まった時の立て直しが遅れやすい資源です。だから不足が長引くと、電力コストや企業のエネルギー負担として広がりやすくなります。

代替策としては、他地域からの追加調達や別燃料への切り替えがあります。ただし、どれもコスト増を伴いやすく、元の水準をそのまま置き換えられるわけではありません。


ヘリウム不足が特に厄介な理由

この中で特に厄介なのがヘリウムです。

カタールは世界のヘリウム供給のおよそ3分の1を担っており、ガス処理や輸出が止まると、その影響が世界市場にそのまま跳ね返ります。しかもヘリウムは市場規模が小さく、輸送や保管にも制約があるため、原油のように別の地域がすぐ埋め合わせることが難しいです。供給が少し細るだけでも、価格上昇より先に現場で不足感が出やすい資源です。

半導体分野では、ヘリウムは冷却や精密工程で使われます。不足が進むと、すぐに全面停止とまではいかなくても、生産の遅れ、優先出荷、調達コストの上昇が起きやすくなります。AI向けチップ需要が強い時期だけに、影響はなおさら目立ちやすいです。

医療でもヘリウムは重要です。MRIの超伝導磁石の冷却に使われるため、医療用途は優先されやすい一方、その分だけ他分野へのしわ寄せが起きやすくなります。最近のMRIにはヘリウム消費を抑えた機種もありますが、重大故障や保守の局面では補充が必要で、影響がゼロになるわけではありません。

代替手段として現実的なのは、他地域からの供給振り替えと優先順位の変更です。実際に大手ガス会社は他地域からの供給を回す対応を進めています。ただ、これは不足を解消するというより、限られた量をどこに先に回すかという調整です。用途によっては他の気体に簡単に置き換えられないため、長引くほど納期と配分の問題が前面に出てきます。


肥料と工業素材にも波及

不足は先端産業だけの話でもありません。

湾岸地域は肥料原料の重要な供給地でもあり、ここが詰まると農業コストに時間差で跳ね返ります。肥料は高いから使わないでは済みにくく、使用量が減れば収量に影響しやすいため、最終的には食品価格へ波及しやすい分野です。

工業素材でも影響が出ています。中東の製錬所への攻撃を受けてアルミニウム価格は4年ぶりの高水準に上がっており、缶、建材、自動車、電線など幅広い分野にコスト上昇が広がる可能性があります。


代替しやすいものと、しにくいもの

比較的代替しやすいのは原油です。

備蓄放出や輸入先の分散、他地域の増産である程度の穴埋めができます。もちろん価格は上がりますが、まだ選択肢があります。

中間にあるのがLNGとナフサです。代替調達は可能でも、輸送、設備、契約の制約が大きく、すぐには置き換えにくいです。だから価格上昇と供給不安が同時に起きやすくなります。

最も代替しにくいのがヘリウムです。使う量は小さくても、代替の難しさではこちらの方が厄介です。少し高くても買えば済む、では終わりにくく、足りなくなればどこへ優先配分するかの話になりやすいからです。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


この戦争で、AIバブルが弾けるかもしれない。
AIって学習にも推論にもものすごい電力を食うんだけど、そのコストはこれまで投資マネーがかなり無理して支えてきた。
でもエネルギー価格が上がれば、その構図はだんだん持たなくなる。

しかも問題は電気代だけじゃない。
AIの設備増強には、ヘリウムや硫黄みたいな資材や、複雑な国際供給網が必要だから、輸送費や保険料まで上がると、チップや関連機器の値段もまとめて押し上がる。
そのうえ、これまで大きな資金を出してきた湾岸諸国も、戦争の影響で国内経済が傷んでいて、投資を今まで通り続けられるか怪しくなっている。

AI業界は今、電力コスト、供給網、資金の3方向から一気に圧力を受けかねない。


イランがこの地域のデータセンターを吹き飛ばしてるのにも理由があるんだよ。


これでAIバブルが弾けてくれたらいいのに。もううんざりだ。コロナ以降ずっと生活が最悪すぎる。


いや、バブルは弾けないと思う。ただ主導権が中国に移るだけだ。中国は備蓄も新たなエネルギー源もものすごい勢いで積み増してきたから、イラン・ロシア対アメリカの戦争が起きても耐えられる。


想像してみろよ。アメリカの戦争が、結果的にアメリカ育ちのAIバブルを爆発させるんだぜ。
そうなったら、かなり特殊な意味で笑える話だ。


ヘリウムはAI向けチップだけに必要なわけじゃない。病院でも使うし、研究分野でも広く使われてる。


その通りなんだけど、AI企業にも少しは痛い目を見てほしい気持ちはある。まあ真っ先に被害を受けるのは他のみんなだって分かってはいるけど。


この状況で文字通り唯一の救いがあるとすればそこだな。ただ、今の景気はAIブームでかろうじて支えられてるから、それが崩れたら張りぼて全体が一緒に崩れる。


そのAIブームって誰のためのブームなんだ? 株主と億万長者のためか?
こっちは庶民ごとケツから吹き飛ばされてるんだが。


そう、AIブームなんてメタバースと同じくらい投機的だよ。誰も実際には儲かってなくて、全部「将来の利益」の話ばかり。AIでちゃんと稼げてる経済なんてない。ただの流行り文句だ。
それはそれとして「ケツから吹き飛ばされる」は名フレーズ。


運が良ければ、このままずっと流行り文句のままで終わるかもな。


問題は、いずれどこかで弾けるってことなんだよな。しかも膨らめば膨らむほど後がひどくなる。どうせ酷いことになるなら、今のうちに弾けた方がまだマシだ。


今後肥料、特に窒素とリンも不足する。湾岸アラブ諸国は世界供給のかなり大きな部分を担ってるからな。価格は大きく跳ね上がるし、貧しい農民は買えなくなる。そうなると世界は食糧不足に直面するぞ。


半導体だけじゃない。MRIを受ける費用も跳ね上がる。


幸い、最近のMRIの大半はゼロ・ボイルオフ方式だけどね。
ソースは、自分が大手企業で放射線機器を管理してるから。

※ゼロ・ボイルオフ方式:液体ヘリウムが蒸発して失われにくいよう、装置内で再冷却しながらほぼ閉じた状態で維持する仕組み。従来型に比べてヘリウム補充の頻度を大きく抑えられる。


もし今後数日でヘリウム供給が尽きたとして、今使われてる機器はどれくらいで動かなくなるんだ? それとも影響を受けるのは新規導入される装置だけって話?


ヘリウムは画像診断で使う磁石を極低温まで冷やすのに使われるんだよ。


MRIには超伝導磁石が必要なんだ。超伝導っていうのは、電流が時間とともに失われず、その結果として磁場の強さも保たれる状態のこと。ただし、今わかってる超伝導体は全部かなり低温じゃないと機能しない。温度が高すぎると普通の導体に戻ってしまう。だから磁石を冷やすためにヘリウムが使われる。


とはいえ、検査のたびに減るわけじゃない。失うのは緊急停止の時くらいで、そんなのはめったに起きない。


言う通り、重大故障の時には補充が必要になる。でもそれだけじゃなくて、数年ごとにも交換が必要なんだよ。それを世界規模で想像してみな。


なのに一方で、風船なんかに使って無駄遣いさせて、そのうえゴムやプラスチックで環境まで汚してる。天才的だよな。


考察・分析

物流の迂回が不足を深くする構図

ホルムズ海峡の混乱で重くなっているのは、資源そのものの不足だけではありません。運べるはずのものが予定どおり届かないこと自体が、新たな供給不足を生んでいます。

とくに厄介なのは、海峡を完全に閉じ切らなくても機能不全は起きることです。一部の船が通れても、攻撃リスクが残る状態では、船社は通常どおりの配船や補給を組みにくくなります。保険料、警備コスト、迂回の判断、港での滞留が重なると、数字の上では「輸出は止まっていない」のに、実務では届く時期も量も読めなくなります。

この不安定さは、原油のような巨大市場より、ヘリウムのような小さくて扱いの難しい資源に先に表れます。市場が小さいぶん、少しの遅れや滞留でも一気に現場の納期へ跳ね返るからです。平時には効率的だった最短ルート・最少在庫の仕組みが、有事にはそのまま脆さになります。


ヘリウムが映し出す先端産業の細い土台

ヘリウム不足が象徴的なのは、量が小さいのに影響が大きいからです。原油のように毎日目に見える資源ではありませんが、止まると困る分野が極めてはっきりしています。

半導体では冷却や精密工程に使われ、医療ではMRIの超伝導磁石を支えています。つまり、最先端産業と医療インフラという、一見別の世界が同じ資源でつながっています。しかもヘリウムは、価格が上がれば別の材料で簡単に代替できる類のものではありません。だから不足が深まると、市場価格の問題より先に、納期と優先配分の問題として表に出やすくなります。

ここで見えてくるのは、AIや先端技術の成長が、電力や投資資金だけで支えられているわけではないという現実です。巨大なデータセンターも高性能半導体も、こうした小さくて代替しにくい資源が止まらず届くことを前提に成り立っています。派手に見える成長産業ほど、実は細い部材と工程の上に乗っているということです。


ナフサとLNGが遅れて広く効く理由

ヘリウムが先に現場を詰まらせる資源だとすれば、ナフサとLNGは少し遅れて、より広く経済全体を圧迫する資源です。

ナフサ不足は石油化学の川上で起きますが、影響はそこで止まりません。プラスチック、包装材、合成樹脂、自動車部品、家電部材へと広がり、さらに食品包装や物流コストへも浸透していきます。消費者が値上がりを実感する頃には、かなり多くの工程に負担が積み上がっています。原油高が直接家計を打つというより、石油化学を通じて生活コストへ遅れてしみ出してくる構図です。

LNG不足も同じで、単なる燃料不足では終わりません。発電コストが上がれば、工場の操業、データセンターの運営、冷蔵物流まで押し上げられます。電力はあらゆる産業の前提なので、LNGの不安定化は、家計向けの電気料金だけでなく、経済全体の稼働コストを底上げします。

この二つに共通するのは、足りなくなった瞬間に全面停止するのではなく、コスト上昇と供給不安がじわじわ広がることです。だから原油高ほど見出しになりにくい一方、長引くと景気への打撃はむしろ重くなります。


軍事と産業の境目が薄れる局面

今回の危機では、資源と物流だけでなく、軍事と産業の境目が一段と薄くなっています。海峡の通航リスクが高まるだけでなく、湾岸地域のエネルギー施設や関連インフラそのものが攻撃対象になれば、単なる輸送障害ではなく、生産拠点の機能低下へ直結します。

この構図が意味するのは、戦争の影響が原油市場だけに閉じなくなったことです。発電、化学、半導体、医療に必要な中間投入材まで軍事的リスクにさらされると、産業側は平時のコスト計算だけでは立ち行かなくなります。安く調達できるかどうかより、止まった時にどこまで持ちこたえられるか、自前で何を持っているかが重くなります。

その結果、経済安全保障は抽象論ではなく、特定の原料、特定の港、特定の工程の問題として現れます。どの資源を国内で持てるのか、どこまで在庫と代替ルートを確保できるのかが、そのまま産業競争力と安全保障の一部になっていきます。


危機が広げる国と企業の格差

この危機が長引くほど、同じ資源高でも受ける打撃は均等ではなくなります。中東依存の高い地域、海上輸送への依存が強い地域、在庫や代替原料の余地が小さい企業ほど不利になります。

逆に、天然ガス系原料の基盤やヘリウム生産能力を持つ国、自国内のエネルギーや素材供給網をある程度持つ国は、危機の中で相対的な優位を得やすくなります。ここで開く差は、単なる価格差ではありません。そもそも作り続けられるかどうか、生産を止めずに済むかどうかの差です。

平時にはグローバル化の効率が競争力を決めましたが、有事には持久力と代替能力の方が効いてきます。今回のホルムズ危機は、その転換をかなりはっきり見せています。


総括

今回のホルムズ海峡危機で重いのは、原油価格の上昇そのものより、物流の不安定化と中間投入材の同時不足が重なっていることです。ヘリウムは少量でも先に現場を詰まらせ、ナフサは時間差で生活コストへ広がり、LNGは電力と産業コストを底上げします。単一の資源高ではなく、複数の工程が少しずつ詰まることで経済全体が圧迫される局面に入っています。

とくにヘリウム不足は、現代経済の弱点をよく示しています。量は小さくても代替が難しく、半導体と医療の両方に直結しているため、わずかな供給の細りでも影響が表面化しやすいからです。大きな産業や先端技術も、結局はこうした小さな資源に支えられています。

問われているのは、海峡がいつ再開するかだけではありません。止まった時に何が先に詰まり、どこまで耐えられるのかです。今回の危機は、効率性だけを追ってきた供給網の弱さと、地政学的レジリエンスを組み込んだ再設計の必要性を、かなり鮮明に示しています。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。


▼記事が面白かったら応援クリックお願いします!▼

▲更新の励みになります!▲


関連書籍紹介

『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』

クリス・ミラー 著/千葉敏生 訳(ダイヤモンド社/2023年2月16日刊)

ヘリウム不足がなぜ半導体やAI向け設備にまで波及するのかを、より大きな構図で理解するのに向いた一冊です。半導体は単なる電子部品ではなく、国家安全保障、産業政策、軍事力、そして世界経済そのものを左右する戦略物資になっています。

今回のホルムズ危機では、原油高そのものよりも、ヘリウムのような代替しにくい中間投入材が供給網を揺らす点が重要でした。この本を読むと、なぜ一見地味な資源不足が先端産業全体に連鎖しうるのか、その背景がつかみやすくなります。AIブーム、米中対立、供給網の分断がどうつながっているかを押さえたい人に特におすすめです。


『現代日本の地政学 13のリスクと地経学の時代』

日本再建イニシアティブ 著(中央公論新社/2024年3月29日刊)

ホルムズ海峡の緊張を、日本にとっての地政学リスクとして広く捉え直したい時に役立つ一冊です。中国、北朝鮮、ロシアといった安全保障上の問題だけでなく、エネルギー、サイバー、気候変動まで含めて、日本が直面する複合的なリスクを整理しています。

今回の記事では、原油だけでなくLNG、ナフサ、ヘリウム、肥料原料まで不足が波及する構図を扱いました。この本は、そうした資源・物流・経済の問題を「戦争の副作用」ではなく、日本の国家戦略と経済安全保障の課題として考える視点を補ってくれます。目先のニュースを越えて、なぜ日本がこうした chokepoint に弱いのかを掘り下げたい人に合う本です。


参考リンク

China confirms three ships passed through Strait of Hormuz(Reuters)

Six vessels attacked in Gulf, Strait of Hormuz as war puts merchant ships on front lines(Reuters)

Helium shortage has started impacting tech supply chains, execs say(Reuters)

Helium stocks of South Korea’s chipmakers to last until June, sources say(Reuters)

Iran war chokes petrochemical supply, sends plastic prices soaring(Reuters)

Energy demand from AI(IEA)

Iran war chokes off helium supply critical for AI(The Wall Street Journal)

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA