アメリカが軽自動車に関心?トランプ発言が映す反EVと規制緩和の行方

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米国のトランプ大統領は演説で、日本の軽自動車について「とても小さくて可愛い」と述べ、これらの小型車を国内で生産できるよう商務長官に即時承認を指示したと発言した。軽自動車は日本独自の規格で、米国では安全基準や排出規制の違いにより生産が認められていないと説明し、「同じような車を作るべきだ」と強調した。

報道では、今回の発言は軽自動車の米国導入を示唆する一方、規制の具体的な変更手続きは示されておらず、実現性は不透明とされている。また、日本の税制や都市構造に最適化された仕組みをそのまま米国に適用するには、大幅な制度の再検討が必要になるとの見方がある。

出典 :Motor1


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海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


日本に住んでるからダイハツ・ウェイクに乗ってる。めちゃくちゃ気に入ってるけど、エンジンは本当に小さくて全然速くない。こっちの最高速度はだいたい時速60キロくらいで、それでも速く感じる。80キロを超えると車が「無理やって」と言ってくる感じ。上り坂は戦い。小さな島で2〜5キロ程度の移動が多い環境なら最高だけど、アメリカの高速で時速100キロ前後を20分走り続けるなんて想像できない。


もっと良い軽に乗れば?N-BOXカスタムのターボなら120キロも余裕だし、デリカミニもいける。ダイハツは日本で一番ショボい部類。


いや、車をディスってるんじゃなくて、自分の生活環境には向いてるって話をしてるだけだと思う。


その意見、日本中の軽の使われ方としてはちょっとズレてると思う。うちはN-BOXで家族4人、時速110キロで5時間以上走って問題なし。アルトみたいな軽は確かに速いけど、上位モデルの軽なら普段使いは困らない。問題は事故った時にペシャンコになりやすいこと。


海外の反応の続きはnoteで読むことが出来ます。


考察・分析

軽自動車は「主役」ではなく、反EV・反規制の象徴として使われた可能性

トランプ大統領の軽自動車発言は、一見すると日本の乗り物を称賛した話に見えますが、本質的にはバイデン政権が推進してきた環境規制やEV政策への対抗軸として語られたものです。バイデン政権下では排ガス基準や燃費基準が強化され、新車のEV比率を大幅に引き上げる政策が導入されてきました。トランプ氏はこれを「車を高くして消費者の負担を増やす政策」と批判し、規制の見直しを次々に打ち出しています。

その中で、日本の軽自動車が例示された背景には、シンプルに「安くて小さく、ガソリンで走る車」という対比構造があったと考えられます。高価格なEVと対照的に、軽自動車は価格面で非常に分かりやすく、政治的にも訴求力が高い象徴として扱われました。


「もっと安い車を」という有権者の不満が後押し

アメリカの新車平均価格は5万ドル前後まで高騰しており、中間層の負担感は年々増しています。そのため、「規制のせいで車が高くなっている」「もっと安い選択肢が必要だ」という主張は、多くの有権者の心情と一致しています。

もちろん、価格高騰の理由は環境規制だけではありません。大型SUVが主流になり、メーカーが高単価モデルを中心に展開してきたこと、半導体不足や物流の混乱が続いたことなど、複数の要因が重なっています。それでも、政治的に「高い車=規制のせい」という単純な図式は分かりやすく、軽自動車はその対比として利用しやすい存在と言えます。


軽自動車を「そのまま」米国に導入できない構造的な理由

日本の軽自動車は、660cc以下・全長3.4m以下といった厳格な制約の下で優遇措置を受ける独自規格です。この設計思想は、日本の都市構造や道路事情、税制度と深く結びついています。

一方で、アメリカには連邦自動車安全基準(FMVSS)が存在し、衝突安全性能や車体強度の面で軽自動車が適合できる余地はほとんどありません。現在、公道を合法的に走れる軽車両はごく一部の中古輸入車に限られ、走行可能エリアが制限される州も増えています。

そのため、仮に規制を見直して小型車のカテゴリーを新設するとなれば、都市部限定車両や速度制限付き車両など、軽自動車とは異なるコンセプトになる可能性が高いです。つまり、「軽自動車を輸入する」というより「軽の思想を参考にしたアメリカ版マイクロカーを作る」という発想が現実的です。


日本メーカーにとってのチャンスとリスク

日本メーカーがすぐ恩恵を受けるかというと、必ずしも単純ではありません。

  1. 小型車は利益率が低く、米国市場で成功しにくい。
  2. メーカーは高利益の大型SUV・ピックアップに依存しており、戦略転換は難しい。
    過去にはスマート、トヨタiQ、ホンダ・フィットなどが投入されましたが、採算性の問題から撤退・縮小した歴史もあります。
  3. トランプ政権は「現地生産」を強く求める傾向があり、日本国内の雇用や輸出が増えるとは限らない。

技術的には、日本メーカーは小型車分野で世界有数のノウハウを持ちますが、政治・経済の観点からは「積極参入すべきか」判断が難しい領域です。


交通インフラと都市構造の違いが、軽自動車の評価を分ける

海外の反応を見ても、日本在住経験者の多くが指摘しているように、軽自動車は単なる車種の問題ではなく「生活圏の構造」と深く結びついています。

日本では鉄道網が発達しているため、日常の移動は短距離で済み、軽自動車の機動性と低コスト性が大きなメリットになります。
一方でアメリカは、広大な郊外と高速道路中心の生活圏が主流で、衝突安全性や車体サイズは生活の安全に直結します。その環境では、軽自動車が不安視されるのは当然といえます。

つまり、軽自動車をめぐる議論は、車だけでなく社会インフラ全体の違いが反映されたものでもあります。



総括

今回の騒動は、単なる日本車の話題を超えて、以下のような社会選択の縮図になっています。

  • EVシフトとガソリン車の共存をどう考えるか
  • 安全基準と価格のバランスをどう取るか
  • 都市構造と移動手段をどの方向に変えていくのか

軽自動車という“日本特有の解”をめぐる議論は、アメリカ社会が次にどんな自動車政策を選ぶのかを映す重要な手がかりになります。規制緩和が実現しても、その先にどのような新しい車文化が生まれるかは、まだ定まっていません。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。



関連書籍紹介

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加藤康子・池田直渡・岡崎五朗 著(ワニブックス/2021年刊)

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自動車ジャーナリストと経済安全保障の専門家が、バッテリー調達の構造、中国依存、電力供給の限界、欧米政策の意図などを具体的に議論しています。

今回の記事で扱った「反EV」や「規制緩和」というテーマの背景を理解するうえで非常に役立ちます。トランプ大統領の発言が単なる政治的レトリックではなく、産業構造の現実と結びついていることが見えてくる内容です。


俺は中小企業のおやじ

鈴木修 著(日本経済新聞出版/2009年2月24日刊)

軽自動車メーカーとしてのスズキを世界的企業に育て上げた、故鈴木修氏の経営哲学をまとめた名著です。

「良い車を、可能な限り安くつくる」という軽自動車の核心となる思想が、現場主義や徹底したコスト意識とともに語られています。

今回のニュースで話題となった「安価で実用的な小型車」という概念を理解するうえで、日本メーカーがどのような工夫と苦労を積み重ねてきたのか、その背景を知ることができます。


参考リンク

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