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北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が、13歳前後とみられる娘キム・ジュエ氏を後継者候補として位置付けている可能性があるとの分析を、韓国の国家情報院(NIS)が12日、国会で報告した。
NISはこれまで後継者育成段階としてきた表現から一歩進め、「後継者に内定した段階に入った」との見方を示したと伝えられている。これはジュエ氏が軍事行事などへの出席を増やし、施策への意見を示す動きが出ていることなどを根拠としているという。
近く開かれる朝鮮労働党大会でも、彼女の扱われ方が注目されている
出典:Reuters
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補足説明
1. 「終わらない戦争」が独裁を正当化してきた
北朝鮮の体制は、民主的な手続きではなく、次の国家神話によって正統性を維持しています。
- 初代・金日成(キム・イルソン)から続く「白頭の血統」による統治
- 朝鮮戦争(1950〜53年)が今も休戦中であり、「米国と対峙する戦時下にある」という論理
北朝鮮にとって朝鮮戦争は、終わった過去ではありません。
休戦が続く以上、国家は常に戦時体制であり、内部の結束を最優先しなければならないという理屈が成立します。
この物語を維持するためには、血統の継承は単なる世襲ではなく、国家の存続そのものを意味します。
2. 「象徴」の娘と「実務」の妹:役割の分担
後継者問題では、金正恩氏の妹、金与正(キム・ヨジョン)氏との対立が注目されがちです。
しかし実際には、合理的な役割分担が進んでいると見る方が自然です。
- キム・ジュエ:血統の神聖さを象徴するアイコン
- 金与正:実務と対外政策を握る「最強のナンバー2」
北朝鮮では、血統の正統性が絶対です。
金与正氏にとっての生存戦略は、自らトップに立って血統のロジックを壊すことではなく、幼い後継者を支える摂政として影響力を確保することにあります。
3. 「粛清の歴史」から見る早期指名の意図
北朝鮮の権力継承は、常にライバルの排除とセットです。
金正恩政権も、その発足過程で凄惨な粛清を行ってきました。
- 張成沢(チャン・ソンテク)処刑(2013年):金正恩氏の叔父(母方の親族)で、若い金正恩氏の政権発足を支える「後見人的な実力者」と見なされていた人物を排除
- 金正男(キム・ジョンナム)暗殺(2017年):金正恩氏の異母兄で、海外にいたものの「担ぎ上げれば別の最高指導者になり得る血統上のライバル」を排除
13歳での早期露出は、こうした内乱の芽を事前に摘むための先手必勝策であり、国内外に「後継者は決まった」と認めさせるための政治技術といえます。
4. 国際社会が恐れるのは「核の指揮命令系統」
米国、韓国、中国が注視しているのは、13歳の少女そのものではありません。
焦点は核のボタンの行方です。
後継者が幼いほど、実際の意思決定は「側近集団」や「軍」のパワーバランスに左右されやすくなります。
その結果、挑発が増える、事故が起きる、権力闘争が表面化するなどのリスクが高まります。
中国もまた、この問題を核だけで見ていません。
中国は北朝鮮の核を嫌っていますが、それ以上に「体制崩壊=米韓勢力の国境進出」を恐れています。
そのため中国は、不本意ながらも北朝鮮を緩衝地帯(バッファ)として維持せざるを得ない立場にあります。
5. 「統一」は簡単なハッピーエンドではない
北朝鮮の体制が揺らぐと、必ず「統一すればいい」という話が出ます。
しかし現実には、統一は戦争より難しい国家プロジェクトになり得ます。
理由は、南北の生活水準と経済力の差が、あまりにも大きいからです。
例えば、冷戦が終わった後に統一を経験した国としてドイツがよく引き合いに出されます。
当時の東西ドイツでさえ、所得格差は2〜3倍程度でした。
それでも統一後の負担は非常に重く、社会の統合には長い時間がかかりました。
一方、現在の南北朝鮮は、所得格差が20〜30倍規模に達すると推定されています。この差は、単に道路や電気などのインフラを整備すれば埋まるものではありません。
70年以上隔離され、徹底した思想教育を受けた数千万人を自由主義社会へ統合するには、世代単位の時間とコストが必要になります。
統一は理想論として語りやすい一方で、現実には政治・経済の負担があまりにも重く、簡単なハッピーエンドではありません。
結論:安定化策か、あるいは危険信号か
今回の動きは、体制を固める安定化策であると同時に、金正恩氏の健康不安などを疑わせる危険信号でもあります。
核保有国のトップが交代するプロセスは、東アジア、そして世界全体の安全保障に直結する重大な局面です。
「13歳の後継者」というテーマは、単なるゴシップではなく、朝鮮半島情勢が新たなフェーズに入ったことを示すシグナルとして受け止める必要があります。
海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
北朝鮮の将軍たちは、金与正でも娘でも後継者として受け入れるのか?
金与正は完全に冷酷だ。反対した奴はたぶん収容所送りだろ。
面白いのは、金正日が死んだとき、北朝鮮ウォッチャーの中には「金与正が新しい将軍様になるべきだ」って言ってた人が結構いたことだ。
兄より進歩的だと噂されてたから。
読んだ限りでは、家族の中で一番進歩的だったのは長男で、中国の経済改革路線を真似したがってたらしい。
でもそれで父の後継者としての信頼を失った。
それと、(金正恩の)叔母の夫で、亡父が摂政として任命した人物も同じ方向性を望んでた。
後継後、その人物は中国を訪れて、密かに中国の承認や支援を得て指導部を変えようとしたが、引退間近だった胡錦濤はその件に沈黙した。
計画が漏れて、その人物は対空砲で処刑された。
その後、中国の保護下でマカオに住んでいた長兄も暗殺された。
北朝鮮って、中国にとっては本当に厄介なトゲだろうな。
でも、もう一つの選択肢は「中国国境のすぐ隣に、西側寄りで統一された朝鮮」ができることだぞ。
2010年にウィキリークスが大量の米外交公電を流出させたけど、その中に「中国は報道で言われるほど北朝鮮に影響力がない」「北朝鮮の核挑発には中国側も腹を立てている」みたいな、中国当局者のオフレコ発言が含まれてた。
当時の韓国の次官(チョン・ヨンウ)も、中国当局者が「米国と同盟関係にあっても、中国に敵対的でなければ、韓国主導の統一を北京は容認できる」と伝えたと述べていた。
もちろん16年も経って状況は変わったが、その公電は「中国が北朝鮮に長年うんざりしている」ことを示していた。
ただ北朝鮮が完全崩壊すると、韓国と中国の両方にまたがる大規模な難民危機になる。誰もそれは望んでいない。
韓国が「完全統一」を望むとは思えないな。
貧困で教育もなく、長年洗脳された何千万人もの人が突然出てくるわけだろ?
現実世界に段階的に追いつかせる形にするんじゃないのか。
たしか北朝鮮人と韓国人は同じ民族で、韓国の法律上も同等に扱う、みたいな規定がある(たぶん)。
それは知らなかった。
望んではいるだろうけど、現実にやったらドイツ統一のコストが「100均に行くレベル」に見えるくらいになる。
経済的影響だけで韓国は外部からの大規模支援なしには潰れる。
それに、長年洗脳されてきた何千万人に新しい現実を受け入れさせるってどうやるんだ?
結局、企業が「北朝鮮が抱えてるレアアース資源を搾取する時が来た」と判断したときに統一が起きるんだろ。
中国国境のすぐ隣に、西側寄りで統一された朝鮮、だって?
正直言おう。韓国にある米軍資産の量を考えたら、統一朝鮮は西側寄りじゃなくて西側の属国になる。
米軍を追い出そうとした瞬間、また分裂する。
そのために何百万人も死んで…また繰り返すだろう。
ベネズエラの大統領を気まぐれで誘拐した国が、朝鮮を簡単に手放すわけがない。
金与正は受け入れるのか?
たぶん無理だろうな。金の娘を排除する計画は、すでにできてるはずだ。
金与正はとんでもなく冷酷だけど、これまで兄への完全な忠誠以外を見せたことがない。
その忠誠が娘に引き継がれない根拠もない。
おそらく、彼女は裏から可能な限り権力を握ろうとするだろう。
でも北朝鮮社会は「金王朝」とその指名した後継者への絶対的崇拝で成り立っている。
だから、仮に彼女がクーデターを起こそうとしても成功するとは思えない。
まあ、彼女に忠誠を見せない奴は死ぬからな。
そういう意味では、北朝鮮で生きてるほぼ全員が忠誠を示してると言える。
これが最初に思ったことだ。
金正恩どころかプーチン以上に、あいつを敵に回したくない。
正直、金与正が娘を倒そうとするとは思えない。
動機は何だ?権力?
彼女は国内で2番目に強い女で、誰にも命令されない立場だ。
指名された後継者を引きずり下ろしたら、制御不能な混乱を生む。
そんな火種を自分で作るほど愚かじゃないだろ。
考察分析:後継者演出が示す北朝鮮の戦略とリスク
1. 後継者演出は「個人の健康」より「体制の時間割」を語る
後継者の話題は健康不安と結び付けられがちですが、より重要なのは北朝鮮の政治が持つ時間割です。北朝鮮の大規模な党行事は、国内向けに権威と統制を再確認し、エリート層に次の配分を示し、対外向けにメッセージを投げる場になります。2026年2月下旬に予定される党大会(数年おきの節目の大会)を控え、後継者像の扱いが注目されているのは、その時間割に合致します。
体制の視点では、後継者を示すことは、権力を手放す宣言ではありません。むしろ、統治者本人が健在なうちに、党と軍と治安機関に対して「次の秩序」を先に刷り込む行為です。若年であればあるほど、象徴としての価値が先行し、実務は周囲が担う余地が生まれます。これは短期的には安定化に見えますが、長期的には周辺の権力競争の温床にもなり得ます。
2. 核保有国の継承が危険なのは「核のボタン」より指揮命令の冗長性
核の議論はしばしばボタンの所在に集約されますが、現実のリスクは指揮命令系統の冗長性と、危機時の意思決定の透明性の低さにあります。
後継者が幼いほど、実権は側近ブロックに分散しやすくなります。すると、平時は強いが危機時に弱い統治形態になりがちです。たとえば、対外挑発や兵器展示は、内部結束を固める道具としては有効でも、相手国の誤解と偶発を招くリスクを上げます。党大会前後は軍事的な示威が強まりやすいとの見方もあり、こうした局面で意思決定が複層化していると、誤判定の危険が上がります。
ここで重要なのは、北朝鮮が核を単なる軍事兵器ではなく、体制保証の中核に置いている点です。体制保証の中核を握る組織は、対外強硬を正当化しやすくなり、外交の余地を狭めます。後継者演出が強まる局面は、国内的には結束、対外的には硬化という二面性が出やすい局面です。
3. 党大会の政治学:実績の演出、配分の宣言、忠誠の再編
党大会は、政策目標の提示と同時に、勝ち組と負け組を決める配分の場でもあります。経済計画の点検、軍需産業の成果誇示、地方建設の成果提示などは、国内向けの正統性の材料です。金正恩氏が各種施設を視察し成果を強調する動きが報じられているのは、典型的な事前演出といえます。
この文脈で後継者が登場する場合、意味合いは二つあります。
1つ目は、血統の連続性を示して忠誠の基準を単純化すること。誰に従うべきかを明確にすることで、内部の迷いを減らします。
2つ目は、エリート層にとっての将来予測を可能にすること。特に、治安機関、党組織、軍の上層がどのラインに付くべきかを早めに理解できると、短期の不安定化を抑えやすい一方、ライン争いが固定化する危険もあります。
4. 金与正の位置付けは「後継者か」ではなく「統治装置か」
金与正氏をめぐる論点は、トップに就くか否かより、統治装置としてどう機能するかにあります。幼い後継者が象徴として前面に出るなら、実務を回す実力者は必要です。これは、体制が合理的に振る舞う場合ほど起きやすい配置です。
ただし、実務者が強すぎると、象徴を押しのけるのではなく、象徴の名の下に自分の権力を拡大する誘因が生まれます。表面上は忠誠の形式を保ちつつ、内部で人事と利権と治安の実権を握る構図です。これが安定に見えるか、危うさに見えるかは、後継者の露出の頻度と、象徴に付随する称号や序列の扱いがどの程度まで上がるかで判断材料が増えます。
5. 対外関係の読み方:米韓向けだけではなく、中国とロシア向けの信号
後継者演出は米韓への威嚇というより、複数の相手に同時に信号を送るための装置です。
中国向けには、体制が崩れないこと、秩序が継続すること、国境地帯の安定が維持されることを示す効果があります。中国が最も嫌うのは急激な崩壊と難民流入であり、後継の連続性を示すことは、その不確実性を下げる方向に働きます。
ロシア向けには、反米陣営としての結束の継続、軍事協力の長期化を示しやすくなります。近年の北朝鮮はロシアとの関係を強める文脈で語られることが多く、党大会はその路線を再確認する場にもなり得ます。
米国向けには、交渉の余地を残しつつ、抑止の中核は揺らがないという二重のメッセージになります。体制の連続性を示すことで、短期的な譲歩期待を下げ、長期戦を前提にした交渉姿勢を固める効果が出ます。
6. 後継者演出は「国内の疲弊」を覆うための物語でもある
北朝鮮の政治は、軍事と血統だけで回っているわけではなく、生活の不満を管理する必要があります。統制経済、制裁、資源不足の中で、体制は「成果の演出」と「敵の設定」を繰り返します。後継者演出は、未来の約束として機能し、国民に対しては不満の矛先を外へ向けさせる効果も持ちます。
党大会が近い局面でこの物語を強めるのは、国内統治の技術としても自然です。逆に言えば、後継者演出が強くなるほど、経済や生活の改善を別の物語で埋める必要が高まっている可能性もあります。
総括
今回の後継者をめぐる動きは、北朝鮮が血統の連続性を使って体制の予見可能性を高め、党大会という節目の政治行事に向けて忠誠と配分を再編しようとしている流れの一部として理解すると、全体像が見えやすくなります。
一方で、後継者が幼いほど、実権は周辺に分散し、危機時の意思決定が見えにくくなります。核保有国の統治がこの形に近づくほど、挑発と偶発のリスクは構造的に上がります。
安定化のための布石であると同時に、将来の不確実性を増やし得るサインでもある。今回のニュースは、その二面性を抱えたまま、朝鮮半島情勢が次の局面へ進む可能性を示しています。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
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関連書籍紹介
三階書記室の暗号 北朝鮮外交秘録
太永浩(文春文庫)
北朝鮮の駐英公使を務め、後に亡命した最高位級の外交官による回顧録です。
今回の記事で触れた張成沢(チャン・ソンテク)の処刑や金正男(キム・ジョンナム)の暗殺が、単なる残虐行為ではなく、体制維持のための冷徹な「政治技術」であったことが、当事者の視点から生々しく綴られています。
北朝鮮が核開発を絶対に諦めない理由、そして側近たちが金正恩氏の機嫌を伺いながら権力構造を維持する「三階書記室」の実態を知ることで、13歳の娘を早期に露出させた「失敗できない継承」の重みが、より立体的に理解できるはずです。
金正恩と金与正
牧野愛博(文春新書)
長年、最前線で北朝鮮情勢を追い続けてきたジャーナリストによる、兄妹体制を解剖した一冊です。
この記事で考察した「妹・金与正氏が実務装置としていかに機能しているか」という力学を理解する上で、これ以上のテキストはありません。
北朝鮮社会に根強い家父長制という伝統的な壁がありながら、なぜ「血統」というOSがそれを上書きし、女性の権力を正当化させるのか。そのパラドックスを詳しく解説しています。
今回浮上した「娘への継承」が、これまでの兄妹体制からどうアップデートされるのかを読み解く上でも、重要なヒントを与えてくれる一冊です。
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参考リンク
North Korea’s Kim to tout power and military gains at party congress(Reuters)
Hype over Kim Jong Un naming his daughter as heir runs ahead of the facts(NK News)
Kim Jong Un set to pick daughter Kim Ju Ae to lead North Korea, South Korea says(ABC News Australia)


