日本の実質賃金、9か月連続マイナス 賃上げと物価のはざまで揺れる家計

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厚生労働省の発表によると、2025年9月の実質賃金(物価変動を考慮した賃金)は前年同月比1.4%減少し、9か月連続のマイナスとなった。名目賃金は1.9%増だったが、物価上昇率3.4%を下回ったため、実質的な購買力は低下している。
物価高が続く中で賃上げの動きは限定的で、家計の負担増や消費の停滞が懸念されている。


出典:Reuters


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補足説明

実質賃金とは

実質賃金とは、給料の名目額から物価上昇の影響を差し引いた「生活の実感に近い賃金」を指します。
たとえ給与が増えても、物価がそれ以上に上がれば実質賃金は下がります。現在の日本ではまさにこの状態が続いています。

なぜ下がり続けるのか

主な原因は、物価の上昇が賃上げのペースを上回っていることです。
エネルギーや食料品の値上がり、円安による輸入コストの増加などが重なり、名目賃金の伸びでは追いつけない状況になっています。また、大企業では賃上げが進んでいるものの、中小企業や非正規雇用にはまだ十分に波及していません。

対策が難しい理由

日銀が金利を上げて円安を抑えようとすれば、景気が冷え込むリスクがあります。一方で、今の低金利を続ければ物価高が長引きかねません。
政府や企業が進める「賃上げによる改善」にも限界があり、短期間で好転させるのは容易ではありません。

それでも明るい兆しも

来春の春闘では、労働組合の連合が「5%以上の賃上げ」を掲げています。これは30年以上ぶりの高水準です。
ただし、裏を返せばそれが「上限」と見られている面もあります。物価上昇率が3%前後で続けば、実質的な改善は小幅にとどまる可能性があります。

それでも、政府は最低賃金を全国平均で1200円に引き上げる方針を掲げており、賃金底上げへの流れは続いています。
世界的にもインフレが落ち着きつつあるため、エネルギー価格や為替が安定すれば、日本の物価上昇も和らぐ可能性があります。

来春以降、賃上げと物価のバランスがどう動くかが焦点となります。
この問題を、海外の人々はどのように見ているのでしょうか。次に、SNS上での反応をご紹介します。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


韓国やシンガポールの給料は日本より高い。どの国もインフレに対応しなければならないが、日本だけがまともに対処できていないように見える。高市が物価高を止められなければ、1年以内に政権を失うだろう。


1年で解決できる話じゃない。誰にもできない。経済を立て直すには何年もかかるし、国民自身の犠牲すら必要になる。手っ取り早い解決策ほど、結局あとでしっぺ返しを食らう。


もちろんそうだが、日本人はそんなに我慢強くない。毎月物価が上がっていくのを見たら、そりゃ怒るさ。5kgの米が4000円なんて馬鹿げてる。


海外の反応の続きはnoteで読むことが出来ます。


考察・分析

政策の構造的課題(マクロの視点)

日本の実質賃金が長期的に伸び悩む背景には、単なる円安や物価高だけでなく、30年に及ぶ構造的な低成長があります。企業は収益を上げても、人件費ではなく内部留保や株主への還元を優先する傾向が強まり、賃金分配の割合が低下しています。
また、労働市場では非正規雇用が全体の約4割を占め、賃金交渉力の弱い層が増えていることも大きな要因です。結果として、「企業は利益を出しても給与は上がらない」という構造が定着し、賃金抑制が常態化しています。

政府は賃上げ促進税制などの支援策を打ち出していますが、企業側が賃上げに踏み切るには長期的な需要の安定が不可欠です。つまり、「経済の構造そのもの」を変えない限り、賃金上昇が一時的で終わるリスクは残ります。


家計への影響(ミクロの視点)

実質賃金の低下は、家計の生活スタイルにも大きな変化をもたらしています。節約志向が強まり、外食・娯楽・旅行といった可処分支出が減少。一方で、食料品や電気代など生活必需品の価格上昇が続き、家計のやりくりは年々厳しくなっています。これが消費全体を冷やし、企業の売上にも悪影響を及ぼすという「負の連鎖」が起きています。

特に単身世帯や子育て世帯では、実質的な生活水準が明らかに下がっており、社会全体の消費マインドの低下にもつながっています。この悪循環を断ち切るには、賃上げだけでなく、住宅費・教育費・エネルギー費といった生活コストの安定化も必要です。


総括

実質賃金のマイナスが続く中で、日本経済の課題は「一時的な物価対策」から「長期的な所得構造改革」へと移りつつあります。企業が利益を労働分配へと戻し、家計が安心して消費できる循環を取り戻せるかどうかが今後の鍵です。

来春の春闘で掲げられている「5%以上の賃上げ」は確かに前進の兆しですが、それが広く中小企業や非正規雇用にも波及しなければ、生活実感としての改善にはつながりません。最低賃金の引き上げやエネルギー価格の安定など、複数の政策を組み合わせた「総合的な底上げ」が求められています。

長く停滞してきた日本の賃金構造がようやく転機を迎えるのか、それとも再び停滞へ戻るのか。今後の春闘と物価動向が、その分かれ目となりそうです。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。



関連書籍紹介

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参考リンク

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