安倍元首相銃撃事件の公判始まる 山上徹也が語った動機と「宗教と政治」の境界線

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日本の元首相・安倍晋三氏を銃撃し死亡させたとして殺人などの罪に問われている山上徹也被告(43)の初公判が28日、奈良地裁で開かれた。山上被告は起訴内容を認め、「すべて事実です」と述べた。

検察側は、山上被告が母親の統一教会(現・世界平和統一家庭連合)への献金によって家庭が崩壊し、教団への恨みを背景に安倍氏を狙ったと主張。弁護側は宗教的虐待による精神的影響を訴え、情状酌量を求めている。


出典:AP通信


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補足説明

安倍元首相銃撃事件の概要

2022年7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で街頭演説をしていた安倍晋三氏が、背後から手製の銃で撃たれて死亡しました。1発目で振り向いた直後に2発目が命中したとされ、犯行後、山上徹也被告はその場で逮捕されました。
銃犯罪が極めて少ない日本では極めて異例の事件で、政治家の遊説や警備体制のあり方に大きな影響を与える出来事となりました。


加害者の動機と自民党・統一教会の繋がり

山上被告は、母親が統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に巨額の寄付を続けたことで家庭が崩壊し、教団に対して強い恨みを抱いたとされています。

寄付総額は1億円近くにのぼるとも報じられ、教団側も「過度な寄付」を一部認めています。
山上被告は、教団と関係があるとみなした安倍氏を狙い、統一教会の実態と政治への影響力を世に知らしめようとしたと供述しています。

統一教会と自民党の関係は、戦後の「反共活動(反共産主義運動)」の流れの中で生まれました。
冷戦期の日本では、共産主義の拡大を防ぐことが国際政治の重要課題となっており、当時の保守政治家の多くが「反共」を掲げてアメリカと歩調を合わせていました。
統一教会も韓国で生まれた反共宗教団体として活動しており、その理念が日本の保守層と一致したことから、自然と接点が生まれたとされています。教団の創設者・文鮮明氏は当時の首相・岸信介(安倍氏の祖父)と親交を持ち、以後も関連団体が自民党議員の講演会を支援したり、政治家がイベントに祝電を送るなどの“ゆるやかな関係”が続いてきました。

2022年の事件後に行われた自民党の内部調査では、国会議員379人のうち179人(約47%)が旧統一教会や関連団体との何らかの接点を認めています。
ただし、その多くは会合出席やメッセージ送付といった限定的な関係であり、選挙支援や資金提供などの「組織的支援」が確認されたわけではありません。つまり、公明党にとっての創価学会のような政治母体的関係ではなく、個別的・人的な繋がりにとどまっていたというのが実情です。


「政教分離」とは何か

統一教会問題を理解するうえで欠かせないのが、日本の「政教分離」原則です。
これは、国家が特定の宗教を優遇したり、宗教が政治権力を支配したりしないように定めた憲法上のルールで、信教の自由と政治の中立を守ることを目的としています(憲法20条・89条)。

ただし、日本ではアメリカのような“完全な分離”ではなく、相互に干渉しない限り共存を認める「緩やかな分離」が採用されています。
そのため、政治家が宗教行事に参加したり、宗教団体が特定政党を支持することは直ちに違法ではありません。問題は、それが国家の政策決定や権力運用に実質的な影響を及ぼす場合です。

統一教会と自民党の関係は、こうした“許容と干渉の境界”を問う事例となりました。
安倍元首相の祖父・岸信介の時代から、冷戦期の「反共」活動を軸に保守政治家との接点が生まれましたが、これは思想的な共鳴や支援活動の範囲にとどまっていました。
しかし、長年にわたって教団関係者が政治家の会合やイベントに関わる中で、宗教団体が政治にどこまで関与してよいのかという線引きが改めて注目されるようになったのです。

事件後の議論は、単に一宗教団体の問題にとどまらず、日本の政教分離のあり方そのものを再検証する契機となりました。


「テロリストの英雄化」問題

事件後、山上被告に対して同情や支持を示す声が一部で広まりました。
SNS上では「彼の行動で教団問題が明るみに出た」と称賛する投稿が相次ぎ、支援金を送る動きまで見られました。Tシャツやステッカーなどで彼を象徴化する“偶像化”も発生し、暴力を正当化する風潮への懸念が国内外で高まりました。

このような“英雄化”は、社会が抱える構造的な不満や不信を映し出す一方で、民主主義における暴力の危うさを改めて突きつけました。


当日の警備体制の問題

事件の検証では、背後の警戒がほとんど行われていなかったこと、要人警護の配置が不適切だったこと、危険を察知してから発砲までに数秒の空白があったことなど、複数の警備上の欠陥が明らかになりました。
警察庁長官と奈良県警本部長は引責辞任し、その後、警察庁が地方警察の警備計画を直接審査・承認する制度に改められました。これにより、日本の要人警護体制は根本から見直されることになりました。


政治への影響

事件を契機に、与党議員と統一教会の関係が次々に明らかになります。

政府は「関係を断つ」と公言し、国会では「不当寄付勧誘防止法」が成立。
心理的圧力などによる過剰な寄付を取り消し・返還できるようになりました。2025年3月には東京地裁が統一教会に対して解散命令を出し、教団は不服を申し立てています。
事件は、宗教と政治の距離の取り方、信仰と公共の責任をどう両立させるかという、日本社会に根深い問いを投げかけました。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


現代でもっとも“成功した暗殺者”と言っていいだろうな。


あの「ドーナツを全部食べたネズミのミーム」を思い出すよ。「好きにしろ、俺はもう勝った」って顔して座ってるやつ。山上もまさにそれ。刑務所で一生を終えようがどうなろうが、彼はもう目的を果たした。なぜやったのか、その理由にスポットライトを当てさせたんだから。

“Do what you will. I have already won.” (好きにしろ、俺はもう勝った)

いや、あれはネズミじゃなくてフクロギツネ(ポッサム)な。


いやもう彼、完全に“スポットライトの中心”にいるよ。刑務所での生活費を寄付する人も多いし、誕生日にはプレゼントまで届くらしい。死刑になるかどうかなんて関係ない。彼はもう目的を達成したし、現代史で最も“成功した暗殺者”の一人って言っていい。


日本ってさ、昔から政治家が暗殺されるたびに「でもあいつ、ちょっと正しいこと言ってたかもな」みたいな空気になるよね。


まあ、それが問題なんだよ。戦前の日本も、そういう“正義感”を持った右翼の過激派たちが暗殺を繰り返して、結果的に軍国主義が強まっていったんだから。


その通りだな。


アメリカではどうだろうな……。


“成功した暗殺者”ってどう定義するんだろう? 安倍の事件は、少なくともここ数十年で最も衝撃的な暗殺だったと思うけど。


統一教会は結局、事件の後に日本で解散させられたじゃないか。


とはいえ、解散って言っても実際は「宗教法人格を失って資産が清算される」だけで、活動自体は続けられるんだよ。完全に禁止されたわけじゃない。


でもそれでも大きいよ。特に「宗教として認められなくなった」ことの意味はデカい。社会的には“宗教”から“カルト”に格下げされたようなもんだ。信者を集めにくくなったし、社会的地位の高い職に就くことも難しくなる。つまりこれは、日本にとっても、人類にとっても、そして“暗殺者”にとっても大きな勝利だ。


どうしてそうなったの? もう少し詳しく。


ざっくり言うと、山上の母親が統一教会に財産をほとんど寄付してしまって、家が破産寸前になった。で、安倍元首相がその教団と関係していたから、教会の問題を世に知らしめるために彼を狙ったってこと。


山上の動機は、家族を壊した統一教会に世間の目を向けさせることだった。母親が信者で、巨額の寄付をして生活が破綻し、子どもたちはまともな教育を受けられなかった。教会は長年、自民党の一部派閥――特に安倍派――と深く結びついていた。この事件をきっかけに教会は法的・社会的に追及され、結果として日本で事実上“排除”された。自民党も関係を断ち切ることになった。


考察・分析

宗教と政治の境界が問われた事件

安倍元首相銃撃事件は、個人の動機を超えた「政治・宗教・安全保障」の問題を浮き彫りにしました。
統一教会問題をきっかけに、信仰の自由と信者保護の線引きが社会的な議論となり、過度な寄付を防ぐための新法が成立。宗教法人の社会的責任が問われるようになりました。
長く民間に委ねられてきた宗教と政治の関係を、法の下でどう扱うかという課題が初めて可視化されたとも言えます。


政治と宗教の“古いネットワーク”

統一教会と自民党の関係は、戦後の冷戦構造の中で生まれた反共ネットワークに端を発します。
1950年代、共産主義の拡大を懸念した保守政治家たちは、アメリカや韓国の反共団体と連携しました。統一教会もその一つであり、岸信介(安倍氏の祖父)と創設者の文鮮明氏が接点を持っていました。

ただし、統一教会は公明党における創価学会のような母体組織ではありません。
2022年の自民党内部調査によれば、国会議員379人中179人(約47%)が旧統一教会や関連団体との接点を認めたものの、その多くは会合出席や祝電送付など限定的なものでした。
選挙支援や資金提供といった組織的支援は確認されておらず、政治的影響というよりも「不透明な人的繋がり」が問題視されました。


“英雄化”が映した社会の不信

事件後、山上被告に対して同情や支持の声がSNS上で拡散し、支援金を送る動きまで生まれました。
こうした現象の背景には、政治やメディアへの不信感、社会的格差、宗教トラブルへの無関心など、長年積み重なった閉塞感があります。
暴力を“正義の行動”と誤解させるほどに、社会の信頼が揺らいでいることを示したとも言えるでしょう。


安全神話の崩壊と警備体制の転換

事件は、日本の「安全神話」を根底から覆しました。
警察庁の検証では、背後警戒の欠如や警備計画の不備が明らかになり、警察庁長官と奈良県警本部長が辞任しました。
その後、警備計画を警察庁が直接承認する体制へと改め、地方任せだった警備方針を抜本的に見直しました。
これにより、国内の要人警護は形式的な儀式から、実際のリスクを想定した体制へと進化しました。


ポスト安倍時代と保守再編

現在の高市早苗政権は、安倍時代の安全保障・経済政策を基本的に継承しています。防衛力の強化や経済安全保障の推進、インド太平洋重視の外交方針などはその流れを汲むものです。
ただし、安倍政権が二階俊博氏や公明党ルートを通じて中国との複数の対話チャンネルを維持していたのに対し、高市政権ではその回路が限定的です。外交面での柔軟性よりも、安全保障上の抑止力と国益重視の姿勢が前面に出ています。

一方で、高市政権は宗教団体や派閥への依存を減らし、政策決定を内閣主導で進める体制を強化しています。政治の自律性を高め、特定の支持基盤に縛られない政策運営を目指している点が特徴です。
全体としては、安倍政権の「現実主義的保守」から、高市政権の「政策主導型・警戒的保守」へと、重心が移りつつあるといえます。


総括

安倍元首相銃撃事件は、日本社会に潜在していた「宗教と政治」「安全と油断」「個人と国家の信頼」の問題を一気に表面化させました。
統一教会問題をきっかけに政治の透明性が問われ、警備体制の改革や法整備が進みましたが、同時に社会の分断や政治への不信も深まりました。

この事件の教訓は、暴力ではなく制度と対話で社会を変えていくことの大切さにあります。
政治が閉じた世界でなく、国民の疑問や不安に真正面から向き合う仕組みを作れるかどうか。
それこそが「ポスト安倍時代」の日本が問われている最大の課題です。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。



関連書籍紹介

『「山上徹也」とは何者だったのか』

鈴木エイト 著(講談社+α新書)

安倍元首相銃撃事件をきっかけに、日本社会が直面した「宗教と政治」の問題を最前線で追い続けてきたジャーナリスト・鈴木エイト氏。
本書は、彼が長年にわたり取材してきた旧統一教会と政界の関係、そして事件の中心人物・山上徹也の実像に迫る渾身のルポルタージュです。

著者は事件の加害者を英雄視することも、単なる犯罪者として切り捨てることもせず、彼の手紙、弁護士や家族の証言を通じて「なぜこの事件が起きたのか」を静かに掘り下げていきます。
そこには、宗教2世問題や家庭崩壊、政治と信仰が交錯する現代日本の影が浮かび上がります。


『暗殺』

柴田哲孝 著(幻冬舎)

実際の事件をモチーフに、緻密な取材と大胆な想像力で描かれた社会派サスペンス。
奈良で元首相が凶弾に倒れる――その瞬間から始まるのは、誰もが知る“現実”の裏に潜む、もうひとつの真実です。

警察が発表した「公式の筋書き」に潜む矛盾。消えた弾丸、遅れた現場検証、そして不自然な沈黙。
作者・柴田哲孝は実際の報道資料や司法関係者への取材をもとに、フィクションの枠を超えた“もしも”を描き出します。
物語の中心にあるのは、国家、宗教、そして個人の信念が交錯する「この国の闇」。
単なる陰謀論ではなく、読者の現実認識そのものを揺さぶる構成が高く評価されています。


参考リンク

AP: Trial begins for man accused of killing former Japanese PM Abe(2025年10月28日配信) AP News

Reuters: Security lapses that sealed Abe’s fatal shooting(2022年7月19日) Reuters

Washington Post: Japan police chiefs resign over security lapses(2022年8月25日) The Washington Post

The Atlantic: Abe assassination & Unification Church background(2023年9月) The Atlantic

The Guardian: Church acknowledged “excessive” donations from suspect’s mother(2022年9月23日) ガーディアン

Japan NPO Center: 不当寄付勧誘防止法の概要(2023年3月) 日本NPOセンター

AP: Court orders dissolution of Unification Church(2025年3月25日) AP News

Reuters: Unification Church vows to fight loss of legal protections(2025年3月27日) Reuters

Wikipedia(事件の時系列・医療会見の要点の整理用に参照) ウィキペディア

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