トランプ大統領、核実験再開を指示 米中会談目前の“圧力外交”

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ドナルド・トランプ大統領は10月29日、米国防総省に対し「ロシアおよび中国と同等の水準で核兵器の実験を直ちに開始するよう」指示したと発表した。トランプは自身のSNS投稿で、「他国の核実験プログラムを踏まえ、米国の核兵器を同等の基準でテスト開始するよう国防総省に命じた。このプロセスは直ちに始まる」と述べた。

米国が実際に爆発を伴う核実験を行えば、1992年以来となる。米国はこれまで包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名しつつも批准せず、30年以上にわたり「核実験の中止」を自主的に続けてきた。今回の発表は、その方針を覆す形となり、核政策の大きな転換を意味する。発表は米中首脳会談の直前に行われ、国際社会では軍拡競争の再燃を懸念する声が広がっている。


出典:The Guardian「Trump directs Pentagon to match Russia and China in nuclear weapons testing」


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補足説明

首脳会談直前に打ち出された強硬メッセージ

トランプ米大統領は10月29日、韓国・釜山で予定されていた米中首脳会談を前に、米軍に対して「核兵器の実験を直ちに開始するよう指示した」と発表しました。
この発言は、中国に対して「安全保障面で一切の譲歩をしない」という強い姿勢を示す狙いがあるとみられます。発表のタイミングが会談の直前だったことからも、外交的な圧力としての意味合いが大きいと考えられます。


日米韓との連携を背景にした発信

トランプ大統領はこの数日間、日本および韓国との首脳会談を続けており、日米同盟の結束を強調しました。
また韓国には、原子力潜水艦の開発を認める方針を示し、中国や北朝鮮を強くけん制しています。
こうした一連の流れの中での核実験再開指示は、東アジア全体に対して「米国が軍事的主導権を握っている」と印象づける意図があるとみられます。


米国の核実験とその転換点

米国の核実験は1945年の「トリニティ実験」に始まり、冷戦期を通じて約1,000回以上行われました。
1950〜60年代にはネバダ州や太平洋のマーシャル諸島などで大気圏内実験が繰り返され、その結果、放射性降下物による健康被害や環境問題が深刻化しました。
この反省から、1963年には米・英・ソの3か国が大気圏内実験を禁止する部分的核実験禁止条約(PTBT)に署名し、実験の多くが地下に移行しました。

しかし、冷戦の終結とともに核抑止の役割が見直され、1992年、ジョージ・H・W・ブッシュ政権下で米国は最後の地下核実験を実施。その後、爆発を伴う実験を停止し、爆発を伴わない臨界未満実験やシミュレーションによって核兵器の維持を続けてきました。


自主的な停止と国際的な規範

1996年には国連で包括的核実験禁止条約(CTBT)が採択され、世界的に核実験を行わない流れが定着しました。
米国はこの条約に署名したものの、議会での批准には至らず法的拘束力は持っていません。
それでも米国は30年以上にわたり、自主的に核実験を行わない方針を維持してきました。
こうした「事実上の核実験停止」は、国際社会の信頼を支える一つの柱となってきたのです。


今回の「核実験再開指示」は、この長年続いた流れに変化をもたらす可能性があり、外交的駆け引きにとどまらず、今後の安全保障バランスにも影響を与えるとみられます。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


ほとんどの大統領は日本を訪れて、二度と核兵器を使わないという決意を強めて帰る。トランプは日本を離れると、『ああそうだ、思い出した。そろそろまた始めようぜ』って感じなんだよな。


多分こうだろうな。誰かが広島と長崎の歴史を話したら、トランプは『すごいな、それ見てみたい。いくつか実験して、あとでその映像を見よう』って思ったんだろう。


豆知識だけど、2017年の研究によると、1950〜60年代の米国の核実験によって、米国内で少なくとも34万人の“余分な死者”が出たらしい。放射性降下物への被曝が原因で。
(※研究者による推定値。諸説あり)


太平洋の島々(特にマーシャル諸島)には、核実験のせいで何度も移住を強いられた人々がいる。1940年代後半に避難させられた人たちは、資源のない島に移されたせいで飢え、再び移転させられた。何も解決されていない。


注目されるのが好きなんだろ。じゃあ真ん中に立たせとけばいい。


彼は日本が“帝国”から“アメリカの属国”になったのを見て、“あれ、これって他の国にも効くんじゃ?”って思ってるんだよ。初回でうまくいった手段を、なんで二度と使わないんだ?って感じでな。


あー、それが彼の歴史認識レベルってのが悲しいな。


年寄りども、地球を滅ぼすのに必死だな。もういいから老人ホームに行けよ。


これ、あの“自分は八つの戦争を止めた”って言ってた男と同じやつだろ?


そう。止める戦争が尽きたから、今度は自分で新しい戦争を始めて“止めた”ことにしようとしてるんだよ。
貿易戦争の時と同じだ。自分で火をつけて、鎮火して“勝利”を宣言する。


彼は“戦争を未然に止めてる”んだよ!(皮肉)


この人、ハリケーンを核で止めようって提案してたやつだよな。

「ハリケーンに核爆弾」のアイデア、トランプ大統領が打診? 米報道 – CNN.co.jp


その時ノーベル平和賞もらえなかったから、今度は世界そのものを吹っ飛ばす気なんだろ。


考察・分析

対中交渉カードとしての軍事的圧力

今回の発表が米中首脳会談の直前に行われたことは偶然ではありません。
トランプ大統領は、中国との経済・安全保障交渉において、軍事的優位を明確に示すことで、交渉を有利に進めようとしています。
米国は、レアアースや農産物をめぐる経済協議と並行して、安全保障分野での圧力を強化しており、核実験再開の示唆もその延長線上にあります。

また、台湾海峡や南シナ海での緊張が続く中、核抑止力をあらためて誇示することで、中国に対し「軍事的挑発には報復も辞さない」という姿勢を明確にする狙いもあるとみられます。
今回の発表は、会談を前にした外交的“けん制”であると同時に、国内外に向けた力の誇示でもあります。


日米韓の連携強化と地域戦略の再構築

米中会談を前に、トランプ大統領は日本および韓国との首脳会談を相次いで行いました。
日本との会談では防衛協力の強化を再確認し、韓国に対しては原子力潜水艦の開発を認める方針を打ち出しました。
これは、中国や北朝鮮を強く意識した動きであり、日米韓の連携を軸とした「対中包囲網」を再構築する意図がうかがえます。

特に原潜開発は、米韓間でこれまで慎重に扱われてきた分野であり、今回の方針転換は東アジアの抑止構造を変える可能性があります。
米国はインド太平洋戦略の一環として、同盟国を前方配置し、軍事的ネットワークを再編する方向に舵を切っているとみられます。


冷戦型思考の再浮上と抑止力の再定義

米国が爆発を伴う核実験を最後に実施したのは1992年。
それ以降は臨界未満実験やコンピューター・シミュレーションによって核兵器の維持を続けてきました。
30年以上にわたるこの「自制の慣行」は、冷戦終結後の国際秩序を支える象徴でもありました。

しかし、ロシアは極超音速兵器「アバンガルド」、中国は新型核実験施設の整備を進めており、米国内では「他国が軍拡を進める中、米国だけが停止を続けてよいのか」という議論が高まっています。
トランプ大統領の発言は、こうした国内世論に応えると同時に、抑止力の“見せ方”を再定義しようとする試みとみられます。


中間選挙を見据えた政治的意図

今回の強硬な発言は、2026年に行われる中間選挙を見据えた“政権防衛”の側面も否定できません。
トランプ政権は、経済停滞や外交課題への批判を受ける中で、「強いアメリカ」を再び掲げ、保守層や安全保障重視層の支持を固めようとしています。

共和党支持者の間では、「ロシアや中国が核開発を進める中、米国だけが自制を続けるのは弱腰だ」という意識が強く、核実験再開の示唆はその声に応える形でもあります。
一方、民主党や軍縮専門家からは「核軍拡競争の再燃を招く危険な挑発だ」との批判が広がっています。


総括

今回の「核実験再開指示」は、単なる軍事政策の発表にとどまらず、外交戦略、同盟国へのメッセージ、そして中間選挙をにらんだ国内政治の要素が絡み合った動きといえます。
米国が30年以上守り続けてきた「核実験を行わない」という国際的な信頼の象徴を揺るがすことは、短期的には政権への求心力を高める一方で、長期的には国際的孤立を招くリスクもはらんでいます。

トランプ大統領の狙いが、外交上の揺さぶりなのか、本格的な軍備再強化の布石なのか。
その答えは、今後の米中関係と東アジアの安全保障バランスを大きく左右することになりそうです。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。



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