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米ホワイトハウスは21日、ドナルド・トランプ大統領とウラジーミル・プーチン露大統領の会談について、「近い将来に実施する予定はない」との見解を明らかにした。
トランプ氏は当初、ハンガリー・ブダペストでの会談の可能性に言及していたが、正式な日程は決まらず、準備も進んでいないという。
ホワイトハウスによれば、前日にマルコ・ルビオ国務長官とセルゲイ・ラブロフ露外相が電話会談を行い、「実務レベルで十分な協議が行われた」として、首脳会談を改めて設定する必要はないと判断した。
ウクライナ情勢をめぐる緊張や対露制裁の継続も背景にあり、米露関係の停滞が一層鮮明となっている。
ロシア側も「具体的な準備は行われていない」とコメントしており、両首脳の直接対話は当面見送られる見通しだ。
出典:Reuters
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補足説明
戦争の発端と現在の状況
2022年2月、ロシアがウクライナへ全面侵攻を開始して以来、戦争は長期化しています。アメリカをはじめとする西側諸国はロシアへの経済制裁を強化し、ウクライナに武器や資金を支援してきましたが、2025年秋の時点でも停戦条件をめぐる隔たりは埋まっていません。ロシアは併合した地域の支配を維持したまま停戦を求める一方、ウクライナは領土の完全回復を譲らず、和平の見通しは立っていません。
こうした状況の中で、ホワイトハウスは「近い将来、トランプ大統領とプーチン大統領の会談を行う予定はない」と発表しました。これは、首脳会談を行っても具体的な成果が期待できないという判断に基づくものです。クレムリン側も「日程は最初から決まっていなかった」と応じており、両国とも慎重な姿勢を見せています。
アラスカ会談と「行き詰まり」の始まり
数カ月前の8月、アラスカ州アンカレッジで両首脳は直接会談を行いました。トランプ大統領としては初の対露和平交渉の試みでしたが、プーチン大統領は占領地域からの撤退を拒み、ウクライナの中立化を主張。結局、合意には至らず、以降の関係改善も進みませんでした。
この“アラスカ会談の失敗”が転機となり、米露間の信頼構築は再び振り出しに戻りました。トランプ政権内でも「首脳レベルの接触は時期尚早」との意見が強まり、外交の主軸は外相や補佐官クラスの協議へと移りました。
トマホーク供与をめぐる迷走
その後、ホワイトハウス内ではウクライナへの長距離巡航ミサイル「トマホーク」の供与案が検討されました。これが実現すれば、ウクライナはロシア本土への反撃能力を持つことになり、戦局を大きく変える可能性がありました。
しかし、プーチン大統領との電話会談を経て、トランプ大統領は供与を一時中止する決断を下しました。ホワイトハウスは「外交的努力を優先するため」と説明しましたが、実際にはプーチン側の圧力や報復を懸念した判断とみられています。
ゼレンスキー会談と今回の決定
この直後、トランプ大統領はゼレンスキー大統領と会談しました。ところが、停戦条件をめぐって両者の意見は真っ向から対立。ウクライナ側は「譲歩は侵略の容認だ」と反発し、トランプ氏は「現実的な交渉を理解していない」と激怒したと報じられています。
こうした一連の経緯から、ホワイトハウス内では「首脳会談を重ねても成果が得られない」との見方が強まり、今回の「トランプ—プーチン会談の中止」へとつながりました。アラスカ会談の不調、武器供与の迷走、ゼレンスキー会談の失敗——これらが積み重なった結果、米露の首脳外交は再び凍結状態に戻った形です。
海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
プーチンは望んでいたもの(ウクライナへのトマホーク供与阻止)をすでに手に入れたんだから、なんでわざわざトランプと会って戦争を終わらせようとする必要がある?
その通り。プーチンはたった1本の電話で、トランプとゼレンスキーの関係を壊し、トマホークの供与を止め、トランプを笑いものにした。
まるでプーチンがトランプの弱みを握ってるみたいだな。
プーチンに何度もバカにされてるのに、トランプがそれを我慢してるのは本当に理解できない。あんなにプライドの高い男なのに。
ロシアやプーチンのことを助言できる外交官を全員クビにしたのが失敗だったな。
トランプはプーチンに尊敬されたいという欲求が強いけど、知性も政治的手腕も追いついてない。
しかもロシアは金銭的にも道義的にも、トランプを複数の意味で“所有”している。経済的なつながりに加えて、彼の“ヤバいネタ”も握ってる可能性が高い。
トランプはプーチンに電話されると、それを「対等な関係だ」と勘違いする。でも実際はただ利用されてるだけ。
プーチンはトランプを好き勝手に操っても、トランプがSNSで怒り狂うことはない。それが一番怪しい点だ。
前回プーチンがトランプに会ったのは、トランプがロシア産原油の輸入国に制裁をちらつかせたからだ。
ロシア経済のアキレス腱はそこにある。
トランプは“強い男”として見られたいんだ。
プーチンの靴を舐めてでも認められたい。でもプーチンはそんな腰巾着をただの腰巾着として扱う。
みんなそれを分かってるのに、トランプだけが分かってない。
アメリカ大統領の方が圧倒的に権力があるのに、まるで迷子の子犬みたいにプーチンの後をついて回ってる。
たぶんプーチンは、トランプが子どもをレ〇プしてる映像か写真でも持ってるんじゃないか。
いや、トランプはそういうリークを怖がってるタイプじゃない。
彼の支持者は何が出ても「フェイクニュース」で済ませる。
彼が本当に嫌うのは、“弱く見えること”。
プーチンが握ってるとしたら、それは“屈辱的な姿”の映像だろう。
その通り。むしろプーチンが握ってるのは、金持ち共和党ドナーたちのヤバい証拠の方かもしれないな。
実際は、プーチンがトランプを使ってウクライナへのトマホーク供与を止めただけ。もう会う必要なんてない。
そう、それが全て。プーチンは最初から行く気なんてなかった。欲しいものは全部手に入れた。トランプはまたしても利用された。
トランプは「交渉できる」と思ってるけど、アメリカにはロシアが欲しいものなんて何もない。
金で動く相手しか知らない彼には、権力を“奪う”という発想が理解できない。
人生すべて間違った教訓で学んできたから、今の彼はこの分野で全く通用しないんだ。
考察・分析
米露関係の「停戦不能構造」
2022年のロシアによるウクライナ侵攻以来、米露の溝は制度的に固定化しつつあります。
アラスカで行われた8月の首脳会談は「停戦への糸口」として注目されましたが、領土問題をめぐって議論は平行線。ロシアは実効支配地域の維持を譲らず、米国は撤退を停戦の条件とする立場を崩しませんでした。そのため、実務レベルの協議を残しつつ、首脳級の交渉は一時的に凍結される方向に傾きました。今回の「会談見送り」は、この“行き詰まり”を正式に確認した形といえます。
トマホーク供与とインド要因が生んだ「交渉圧力」
9月以降、ホワイトハウス内部ではウクライナへの長距離巡航ミサイル「トマホーク」の供与が検討されていました。
この兵器は、ロシア本土の補給線や後方施設を直接攻撃可能であり、供与が実現すればロシアにとって戦略的脅威となります。つまり、米国は外交上の強力な“レバレッジ”を一時的に握っていたことになります。
同時期、インドがロシア産原油の購入を縮小したとの報道も出ました。
インドは制裁対象外としてロシアのエネルギー収入を支える存在でしたが、米国との関係を重視し調達先を多様化させつつあります。ロシアにとっては外貨収入が不安定化し、経済・軍事の両面で圧迫が強まる局面でした。
こうした中で、プーチン大統領がブダペストでの「早期会談」に前向きだったのは自然な流れです。
アラスカ会談からわずか数カ月で再び首脳対話を求めた背景には、**「交渉によって米国の圧力を一時的に緩和したい」**という思惑が透けて見えます。
そして「供与中止」がすべてを変えた
しかし、トランプ大統領はプーチンとの電話会談後にトマホーク供与を一時中止。
その瞬間、ロシア側は急ぐ理由を失いました。米国が強い交渉カードを自ら取り下げたことで、会談の意義は薄れ、クレムリンも「日程はそもそも未定」と発表。外交的には、“交渉の舞台が消えた” という形です。
これは、表向きには「慎重な判断」ですが、実際にはロシアに時間を与える結果となり、戦場と経済の両面で立て直しの余地を許す決定ともいえます。
つまり、トランプ政権は国内政治的には「平和を重視するリーダー」を演出できた一方で、戦略的にはロシアに譲歩した格好です。
総括:外交の“取引”が示す世界秩序の揺らぎ
今回の一連の流れは、米露関係の変化を象徴しています。
アラスカでの不調、トマホーク供与計画、インドの原油圧力、そして供与中止と会談中止。
これらは連続した因果の鎖であり、「米国が交渉カードを切るタイミングを誤ると、国際的な主導権を失う」ことを示しています。
ロシアは依然として軍事・経済両面で苦境にありますが、時間を味方につける戦略を取っています。
一方の米国は、国内世論を意識した「静的外交」に傾きつつあり、トランプ政権の判断が今後の停戦構図をどう左右するかが注目されます。
それではまた、次の記事でお会いしましょう。
関連書籍紹介
『もしロシアがウクライナに勝ったら』
カルロ・マサラ著(2025年6月17日刊)
ウクライナ戦争の終結後、世界はどう動くのか。
本書は、ロシアが勝利した場合に起こりうる国際秩序の変化を緻密に描いた近未来シミュレーションです。
NATOの結束が揺らぎ、ロシアは再び軍事的行動を拡大し、中国は南シナ海で静かに勢力を広げていく。
トマホーク供与の中止や米露関係の冷却といった現在の動きとも重なり、現実の延長線上にある危機を予感させます。
欧州の不安定化はやがてアジアにも及び、日本の安全保障にも影を落とす。
戦争が終わっても平和が訪れない世界を、冷静な筆致で描いた一冊です。
『ウクライナ戦争と外交 外交官が見た軍事大国の侵略と小国の戦略』
松田邦紀著(時事通信社、2025年5月2日刊)
2021年から2024年まで駐ウクライナ大使を務めた元外交官が、戦時下の現地と国際外交の裏側を克明に記録したノンフィクション。
ウクライナの抵抗、G7の支援、そして日本外交の苦闘を外交官の目線で描く。
トランプ政権誕生後の停戦交渉や日本の安全保障への示唆など、現在の国際情勢を理解するうえでも貴重な一冊。
参考リンク
Reuters: No plans for immediate Trump–Putin meeting, White House says (2025/10/21)
AP News: Trump confirms Putin talks are off “for now”
The Guardian: Plans for Trump–Putin talks in Budapest shelved



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