米特使とロシア高官の通話流出:28項目案と対ウクライナ外交の転換点

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ブルームバーグは11月25日、米政府のスティーブ・ウィトコフ特使と、ロシア大統領府のユーリ・ウシャコフ外交顧問との通話録音が流出したと報じた。通話は10月中旬に行われ、ウクライナ情勢や今後の協議に関するやり取りが含まれていたという。

報道によれば、ウィトコフ氏はトランプ大統領へのアプローチ方法について助言したとされ、外交上の透明性を巡って波紋が広がっている。ロシアは通話の事実を認めつつ、録音流出に強く反発している。

出典:Bloomberg


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海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


トランプ政権って、もう完全に破綻してるし、文字通り西側の全員に対する裏切り者だよ。
連中は金稼いで遊び尽くしたんだから、さっさと権力から降ろすべきだ。
ほんとにロシアのファシストに支配される世界を望んでるのか?


奴らは自分のこと以外どうでもいいんだから、そんな世界でも別に構わないんだろうね。


正直、誰かがちゃんと説明してくれることを願ってる。俺にはさっぱり分からない。


要するに、ロシア側の外交官たちがスティーブ(=スティーブ・ウィトコフ)に「和平案」を渡して、それをウィトコフがアメリカ案として出すのか、それともどこか書き換えるのかを話してるだけ。
公開された内容を見る限り、彼は一切書き換えなかったっぽい。


海外の反応の続きはnoteで読むことが出来ます。


考察・分析

中東モデルがウクライナに持ち込まれた背景

スティーブ・ウィトコフ特使が対ロシア交渉の中心に立った背景には、単なる人員不足以上の理由があると考えられます。

表向きには、ルビオ国務長官がベネズエラ危機対応に追われていたと説明されていますが、より本質的には、トランプ大統領が国務省官僚を信用せず、私的に信頼する側近を“裏ルート(バックチャネル)”として重用する傾向にあります。

ガザ停戦の交渉で一定の成果を挙げたウィトコフ氏は、政権内部で「トランプ流ディール外交」の象徴になっており、中東の成功モデルをウクライナにも適用しようとする流れの中で、ロシア高官との協議に深く関与するようになったとみられます。

しかし、中東紛争とウクライナ戦争は構造が大きく異なり、利害調整を“取引”としてまとめる手法がそのまま機能するかどうかには疑問が残ります。今回のリークは、成功経験の誤用が外交判断を歪めた可能性を示しています。

「28項目案」がロシア優位と見なされる理由

複数の報道によれば、協議されていた28項目案には次のような内容が含まれていたとされます。

・現在の戦線を事実上の国境として固定
・ウクライナのNATO加盟を無期限に棚上げ
・ロシア占領地域の統治権を追認しかねない構造

こうした要素は、ウクライナに大幅な譲歩を求める内容と受け止められています。一部ではジュネーブで修正案が検討されたとされるものの、領土と主権に関わる核心部分はロシア側の要求に沿った形が維持されているとの見方が強いです。

このため「米政権がロシアの要望リストをほぼそのまま取り込んだ案ではないか」という批判が国際社会で広がっています。

トマホーク供与拒否と裏取引疑惑

2025年秋、米国はウクライナが求めていたトマホーク巡航ミサイルの供与を突然停止しました。当初は政策上の慎重姿勢と受け止められていましたが、直後にロシア高官との通話内容が流出したことで疑念が生じています。

タイミングが重なったことで、

「トマホーク供与の拒否はロシアへの“善意のジェスチャー”として扱われたのではないか」

といった見方が一気に強まりました。実際に裏取引があった証拠はありませんが、軍事支援カードを先に手放す構図となったことが、ウクライナと欧州の不信感を高めています。

ブダペスト覚書と「第二のミュンヘン」への警戒

ウクライナ社会が強く反応している背景には、1994年のブダペスト覚書があります。ウクライナは核兵器を放棄する代わりに米・英・露から安全保障の確約を得ましたが、2014年以降のロシアの行動によってその約束は形骸化しました。

この歴史的経緯があるため、ウクライナにとって領土や主権への譲歩を含む和平案は「第二のミュンヘン会談」のように映っています。再び大国同士の合意のために国家の運命が左右されることへの警戒感が、今回の案への拒絶姿勢につながっています。

欧州の危機感とNATO内部の揺らぎ

欧州諸国の反応も深刻です。ポーランドやバルト三国にとって、ウクライナの譲歩は自身の安全保障が脅かされる事態を意味します。英仏など主要国も、米国がロシア案に接近している可能性に強い懸念を示し、独自の安全保障枠組みや平和維持案を模索し始めています。

この動きは、NATOの結束に微妙な緊張を生じさせています。米国主導の同盟構造の揺らぎが露呈し、欧州が「自前の安全保障」を模索する流れが強まれば、欧米関係の長期的変質につながる可能性があります。

情報戦としてのリークとロシアの利益

リークの出所は明らかになっていませんが、ロシアが今回の事案から戦略的利益を得ているのは確実です。

・米国内の分断を助長する
・米欧間の不信を強める
・ウクライナ支援の一貫性を揺るがす
・「ロシアは和平に前向きだ」という印象を国際社会に与える

ロシアは長年、軍事力と情報戦を組み合わせて敵対陣営の結束を弱める戦略を採ってきました。今回のリークは、こうした情報戦の文脈に位置づけることで、その意義がより鮮明になります。

総括

今回のウィトコフ特使の通話リークと28項目案をめぐる一連の動きは、いくつかの重要な現実を示しています。

・中東での成功モデルをウクライナに適用することの限界が明らかになったこと
・ウクライナが歴史的な不信感を抱えており、大国の合意に運命を委ねないという強い姿勢を保っていること
・欧州が米国の対露姿勢に疑念を抱き、NATO内部で安全保障の重心が揺れ始めていること
・ロシアが情報戦を通じて西側の不信感と分断を拡大させる戦略を続けていること

これらは、ウクライナ戦争が地域紛争を超え、国際秩序全体を揺るがす再編の過程にあることを象徴しています。今回のリークは、米露欧の外交力学がどの方向へ動こうとしているのかを示す重要なシグナルといえます。



関連書籍紹介

ゾルゲ事件80年目の真実

名越健郎(文春新書/2024年11月20日刊)


今回の通話流出問題をめぐる議論では、 「国家間の情報戦がどこまで裏側で進んでいるのか」 「公開情報では把握できない非公式ルートが、歴史を左右することがあるのか」 という本質的な問いが浮かび上がります。

そうした視点で考えるうえで、戦前日本を揺るがせた諜報事件を再検証した本書は、極めて示唆的です。


■日本を揺るがした諜報の実像を、機密解除資料から読み直す

本書は、ソ連の大物スパイとして知られるリヒャルト・ゾルゲの活動を、近年ロシアで解禁された新資料に基づいて再構成しています。

戦前の東京で暗躍し、政府中枢にまで食い込んだその手腕は、長らく「ゾルゲ神話」として語られてきました。しかし本書では、

・ゾルゲの報告はどこまでソ連指導部に届いていたのか ・どの情報が実際に戦略判断を左右したのか ・上官の粛清や内部不信が情報伝達をどのように歪めたのか ・ゾルゲ自身がどこまで“利用された存在”だったのか

など、定説を慎重に検証していきます。 特に、戦後ロシアでゾルゲが“英雄化”されてきた経緯は、現代のロシアが情報戦をどのように語り直しているかという点でも興味深く、今回のような外交リーク問題を考える上でも通底したテーマがあります。


■情報戦は「見えるもの」より「見えない流れ」が支配する

ウィトコフ特使の通話流出をめぐる議論では、「誰がリークしたのか」「どの勢力が得をするのか」を読み解く必要があります。これはまさに、ゾルゲ事件を読み解く際の視点と共通します。

・公的な外交ルートの外で進む“裏チャンネル” ・公式発表と、各国が本音で動かしている非公式の情報網 ・国内外の政治勢力が情報を誰に、どう使わせたいのか

本書は、こうした「国家と情報のリアル」を歴史的な視点から理解するのに最適です。


■歴史を知ることで、情報戦の“現在地”が見えてくる

今回の通話リーク問題は、単なる外交スキャンダルではなく、大国間の情報戦と国内政治の力学が重なる構造を持っています。

ゾルゲ事件を最新の研究成果をもとに読み直すことで、 「国が“見たい情報”と“見たくない情報”をどう扱うのか」 といった本質的な理解が深まります。

今回の記事の補助読書として、非常に相性の良い一冊です。



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