金高騰が示す“通貨不安”の時代――インフレに備える資産戦略

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日本の株式市場と資産市場がそろって勢いづいている。自民党総裁選で高市早苗氏が勝利し、景気刺激を重視する政策が続くとの見方が広がったことが大きな追い風となった。

東京市場では日経平均株価が過去最高水準に迫る上昇を見せ、投資家の間では「財政出動の拡大」と「日銀の緩和維持」への期待が一段と高まっている。円相場は対ドルで約2か月ぶりの安値をつけ、長期金利も上昇。市場全体がインフレへの備えを意識し始めている。

その流れは実物資産やデジタル資産にも及んでいる。金の国際価格は1トロイオンス(約31.1g)あたり3,977ドル前後まで上昇し、過去最高値に接近。ビットコインも再び最高値圏に入り、投資家が通貨価値の下落リスクに備える姿勢を強めている。

株式、金、そして暗号資産が同時に上昇する展開となっており、世界的に「インフレと通貨不安」に対する意識が強まっていることをうかがわせる。新政権の経済運営と、日銀の政策判断が今後の市場の方向性を左右しそうだ。

出典:Economic Times


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補足説明

前回の記事(高市新政権で円安・株高、トラスショックの教訓に学ぶ「市場が見ている日本のリスク」)では、急激な円安とそれに伴う株高がもたらすリスクに焦点を当てました。
政策期待が裏目に出た英国・トラス政権の例を引き合いに出したことで、「このまま日本も危ういのでは」と感じた方も多かったかもしれません。

しかし本来こうした局面こそ、感情的に動くのではなく、基礎的な金融知識で“備える”ことが大切です。
インフレとは物価が上がることだけを指すのではなく、お金の価値が下がる現象でもあります。
つまり、同じ1万円でも「買えるものが少なくなる」ということです。

このとき最もリスクが大きいのは、資産をすべて“円”のまま持っていることです。
日本の金利が低いまま、物価や輸入コストが上がれば、預金の実質的な価値は目減りしていきます。
そこで世界の投資家たちは、株式・金(ゴールド)・外貨・暗号資産など、自国通貨以外の価値を持つ資産へと少しずつ移しています。

これから紹介する海外の反応は、まさにその流れを示すものです。
日本株や金、そしてビットコインの高騰をめぐり、世界の投資家が何を考えているのか――そこには、インフレ時代を生き抜くためのヒントが隠されています。


日本株の高騰に対する海外の反応

出典:Reddit
Japan stocks hit record after ruling party names pro-business leader
与党新党首に“親企業派”、市場は好感し日本株が急伸

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


円の価値が他の通貨に対して下がった。


それこそが大企業の大半が望むことだ。円安になれば輸出企業は儲かるからね。


でも日本は巨大な輸入国でもある。国民(有権者)はこの円安を歓迎しないはずだ。


アベノミクスをそのまま続けるだけだと思う。大企業は過去最高益を更新し続け、一般の人たちは苦しみ続ける。
トリクルダウン(富の滴り落ち)経済なんて機能しない。


さて、レタスより長持ちするかな?(※トラス首相の短命政権を皮肉)


円は1ドル=147円から151円まで下がった。しかもドル自体も弱くなっているのに、だ。


金の価格高騰に対する海外の反応

出典:Reddit
What does the rapid appreciation of gold value mean?
金の価値が急上昇 ― 背景に何があるのか

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。

もし理由を推測するなら、アメリカ国内の政治的混乱を受けたドル急落が原因だと思う。
投資家、特に海外勢は、ドルに依存しない「価値のあるもの」へと資金を移している。だから金(ゴールド)なんだ。


実際のところ、主な要因は各国中央銀行による金の大量購入だよ。ドル離れが進んでる。ETFの取引量はまだ増えてないから、これはまだ序盤だ。


世界はドル依存から徐々に離れつつある。
現在、世界の資産の約70%がドル建てだけど、今後10年で40%前後まで下がると思う。
債券投資家たちはこの変化にまだ備えていない。業界ではいまだに米国債利回りを“リスクフリー金利”と呼んでるしね。
とはいえ、ドルとその金融システムが依然として世界最高水準なのは確か。
ただ、今の市場はそれを「完璧に織り込んで」いる。少しずつでもドル資産の比率を下げていくのは賢明だと思う。


現政権が発足してからドルは約11%下落した。
政府は明らかに、通貨安を促進するような政策に全力を注いでいる。
国家債務の実質的な負担を減らすため、意図的に通貨を安くしているんだ。
問題は「その下落がどこで止まるか」だけだ。


素朴な疑問なんだけど、どうしてドル安が国債の負担を減らすの?


生産性は“実物ベース”で測る。一方、債務は“名目ベース”なんだ。
たとえばドルの価値が半分になっても、米国が作り出すモノ(トウモロコシでも車でも)はほとんど変わらない。
だから、借金を返すために必要な「実質的なモノの量」が減る=実質的な債務削減になる。
ただしこれは「通常のインフレによる下落」ならの話。
「米国が返済不能になるかもしれない」という理由でドルが売られた場合は、長期金利が跳ね上がって失敗に終わる。
インフレ圧力も金利を押し上げるから、ドル安で一時的に債務は軽くなっても、国民の実質所得は下がる。
要するに、実質的にはただの“値上がりした借金帳消し”で、うまい話ではないんだ。


なるほど、とても分かりやすい。
ということは、ドル安でもアメリカのGDP自体は変わらず、米株(VOO)への投資も馬鹿げてはいないってこと?
それとも海外株(VXUS)に分散した方がいいのかな?


米株と海外株、両方持っておくのが一番だね。分散しておくに越したことはない。


その通り。もし米国経済が実際に生産を維持できているなら、株価はインフレも実質成長も織り込む。
ただし、貿易障壁の復活やサプライチェーンの多様化など、企業活動を妨げる要因も多い。
だから最終的には分散投資が最も堅実。その代わり、大きなリターンは平均化される。
投資界隈で言う通り、「迷ったら時価総額で割り振れ」ってやつだ。


考察・分析

円安株高の裏にある構造変化

現在の日本株の上昇は、多くの投資家にとって明るいニュースとなっています。
高市政権のもとで財政拡張と金融緩和が続くとの見方が広がり、企業業績の改善や国内景気の回復を期待する声が強まっています。
「円安が進むだろう」という予測と「企業が成長するだろう」という期待が重なり、市場全体を押し上げているのが今の株高です。

実際、為替が150円台まで下落するなかで輸出企業の収益は増え、賃上げや設備投資にも広がりの兆しが見えます。
内需にも温かい風が吹き始め、久しぶりに“景気の好循環”が感じられる局面です。

ただし注意すべきは、この流れが行き過ぎた円安やインフレに転じた場合です。
円の価値が急速に下がれば、輸入コストの上昇が家計を直撃し、実質所得が減少します。
物価上昇が企業利益を上回れば、消費が冷え込み、せっかくの好循環が途切れるリスクもあります。

つまり、今の株高は“勢い”ではなく“バランス”が問われる段階にあります。
財政拡張と金融緩和が適切に運営され、円安が企業成長を支える範囲に収まれば、
この上昇は一時的なブームではなく、持続的な成長の入り口になる可能性があります。


世界で進む「脱ドル」とドル安、そして円安

いま世界では、中国やロシアを中心に「ドル離れ」の動きが加速しています。
各国の中央銀行はドル資産を減らし、代わりに金を積み増しています。
こうした動きは米国の政治的不安定――今回の政府閉鎖や財政赤字拡大――を背景に、ドルそのものへの信頼が揺らぎ始めているためです。

結果として、金やビットコインといった「通貨に代わる価値の保存手段」への資金流入が進み、ドルはやや下落。
ところが、それ以上に円が下がっているのが現状です。
これはすなわち、ドルだけでなく他の資産に対しても、円の価値が急激に落ちていることを意味します。


インフレと貯金の関係

日本ではデフレが何十年も続きましたが、本来多くの国では、物価上昇率(インフレ率)2〜3%が“健全”とされています。
つまり、毎年2%ずつお金の価値が下がるということです。

たとえば、毎年2%のインフレが続いた場合――

  • 10年後には、同じ1万円で買えるモノの量は約8,200円分に減ります。
    今1万円で買えるスーパーの食料品や日用品が、10年後には1万2,000円ほど必要になる計算です。
  • 20年後には、購買力は約6,700円分にまで低下します。
    つまり、現在1万円で支払っている光熱費や保険料が、20年後には約1万5,000円になっているイメージです。
  • 30年後には、1万円の価値はおよそ5,500円分にまで目減りします。
    老後を迎える頃、同じ生活を維持するのにほぼ倍の支出が必要になるということです。

もし金利がほぼゼロのままなら、貯金をしていても実質的には「20〜40%の資産価値を失う」ことになります。

この視点で見ると、「貯金だけに頼る」という行動は、実は“じわじわと損をしている”状態です。
日本のように長く低金利が続く国では、インフレが続くほど、預金の実質的な価値が静かに減っていくのです。


年金制度の限界とNISAの重要性

日本の公的年金には「マクロ経済スライド」という仕組みがあります。
これは少子高齢化とインフレに合わせて年金の給付額を自動的に抑制する制度で、将来の実質的な受取額は目減りすることがほぼ確実です。
したがって、老後資金を年金だけに頼るのは現実的ではありません。

その代替として注目されているのが、NISA(少額投資非課税制度)です。
新NISAでは非課税で長期運用ができ、積立投資による資産形成が可能です。
株式や投資信託を通じて、通貨や国の枠を超えた分散ができます。

たとえば、

  • 国内外のインデックスファンドで幅広く分散する
  • 金やコモディティを少しだけ保有して通貨下落に備える
  • 暗号資産は値動きが激しいためごく少額に留める

こうした“複数の資産でお金の価値を保つ”という考え方が、これからの時代には必要になります。


総括|これからの備え方

いまの日本経済は、久しぶりに「明るい材料」が揃いつつあります。
企業の設備投資や賃上げが進み、株式市場も勢いを取り戻しています。
ただし、その裏には財政拡張と円安という“諸刃の剣”があり、行き過ぎればインフレや実質所得の低下を招く危険性もあります。

こうした不確実な時代に求められるのは、政府や中央銀行の政策を予測することではなく、
自分の資産をどこに置くかを「意識的に選ぶ」ことです。

海外ではすでに、ドルや円といった単一通貨に依存せず、複数の資産でリスクを分散する考え方が主流になっています。
日本でも、預金を一気にリスク資産へ移す必要はありませんが、
少しずつでも「円以外の価値を持つ」行動を始めることが、最も現実的なインフレ対策になります。

長期・分散・積立という投資の基本は、派手さはありませんが、
どんな相場でも自分の資産を守り抜くための確かな土台です。
“円安や株高に一喜一憂する側”から、“自分の資産を守り育てる側”へ。
いまこそ、その第一歩を踏み出すときかもしれません。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。



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