日本のエネルギー転換の理想:脱炭素とグリーン成長
日本は2050年カーボンニュートラルを掲げ、洋上風力や太陽光などの再生可能エネルギーの導入拡大を進めてきました。加えて、自動車分野では2035年に新車販売を100%電動車にするという野心的な目標を掲げ、EV(電気自動車)も脱炭素社会のシンボルとされてきました。
こうした「理想」は、環境政策の象徴であると同時に、新しい産業成長の柱として期待されてきました。しかし現実は、その理想像と大きく乖離しています。
日本の再エネ政策の現実:進まないエネルギー転換
三菱商事の洋上風力撤退に見るコストの壁
三菱商事は2025年8月、秋田・千葉沖で進めていた3か所の洋上風力発電プロジェクトから撤退を発表しました。
原因は風力タービン価格の高騰で、欧州での競争激化やサプライチェーン混乱により採算が取れなくなったためです。合計1.7GW、150万世帯分の供給計画が白紙化されたことは、日本の再エネ戦略にとって大きな打撃です。
出典:Financial Times, Reuters
海外の反応
“That’s a reflection of Japanese culture in play… make you feel at ease, then pull the wool over your eyes.”
「まさに日本的だな。最初は安心させて、最後にサッと撤退して現場を混乱させる感じだよ。」
“Japan has hundreds of nuclear reactors worth of offshore wind energy potential just sitting around untapped. It’s a crime this isn’t being more actively capitalized upon.”
「日本には原発数百基分に相当する洋上風力の潜在力があるのに、ほとんど手つかず。これを活用しないのは罪に等しいよ。」
“The cultural cling to ‘proven’ (read old) technology is an issue too… ‘Japan has been living in the year 2000 since 1970’ rings very true.”
「“実証済み”という名の古い技術に固執する文化も問題。『日本は1970年からずっと2000年に生きてる』って皮肉、本当に当たってるね。」
太陽光パネル廃棄問題と制度の遅れ
日本では2030年代から使用済み太陽光パネルが大量に発生し、毎年数十万トン規模の廃棄が見込まれています。
しかし環境省は2025年、リサイクル義務化法案の国会提出を見送りました。費用負担の分担や既存制度との整合性が未解決で、制度設計の遅れが再エネ普及のボトルネックとなっています。
出典:EECC, Japan Times
海外の反応
“If Japan can’t even establish a recycling system for solar panels, how can they talk about sustainability seriously?”
「太陽光パネルのリサイクルすら整えられないなら、日本は持続可能性なんて本気で語れるの?」
“This is the classic case of pushing renewables without thinking of the end-of-life costs. Short-term PR, long-term disaster.”
「これは典型的な“寿命後のコストを考えずに再エネを推進した”ケース。短期的にはPRになるけど、長期的には災害級の問題だよ。」
火力依存と燃料費高騰の現実
再エネの不安定さを補うため、日本は依然として火力発電に依存しています。しかしウクライナ戦争や中東情勢の不安定化で燃料価格が高止まりし、電気料金の上昇が家計や企業収益を圧迫しています。
これは日本の低いエネルギー自給率と、エネルギー安全保障の脆弱さを改めて浮き彫りにしました。
出典:MarketWatch
海外の反応
“I was looking at my Tepco charts and noticed that I’m paying almost 20-30% more in the past 3 months … prices up more than 40% more..?”
「東京電力の明細を見てみたら、この3か月で支払いが20~30%近く増えてるんだよね…でも料金自体は40%以上も上がってるんだ。」
“Looking at the kWh chart, I am indeed using around 25% more but somehow prices up more than 40% more..?”
「kWhのグラフを見ると確かに使用量は25%くらい増えてるんだけど、なぜか料金はそれ以上に40%以上も跳ね上がってるんだよ。」
EV停滞が示す需要サイドの限界
EVは本来「脱炭素の旗印」でしたが、現実は普及が鈍化しています。バッテリー価格の高止まり、充電インフラ不足、補助金削減が重なり、消費者にとって割高で不便な選択肢に留まっているのです。欧米メーカーは増産縮小、中国の安価なEVが市場を席巻する一方で、日本のシェアは伸び悩んでいます。
これは「供給側(発電)」だけでなく「需要側(消費)」のエネルギー転換も行き詰まっていることを示しています。
出典:BNEF
海外の反応
“How do you slow down what you haven’t even started? Toyota is already behind… Especially with China pushing full speed ahead.”
「そもそも始まってすらいないのにどうやって減速するんだよ?トヨタはもう遅れてるし、中国は全力で突き進んでるのに。」
“Japan doesn’t want to trade dependence on foreign oil for dependence on foreign batteries. That’s why hydrogen looks better.”
「日本は石油依存をバッテリー依存に置き換えたくないんだよ。だから水素の方がマシに見えるんだ。」
“Japanese population is very resistant to change… partially due to having many old people.”
「日本の人たちって変化にすごく抵抗がある。特に高齢者が多いのもその理由だね。」
“You’d think Japan, with no domestic oil, would go all-in on EVs… but corporate rigidity is stronger.”
「日本は資源がない国だからEVに全力投資すると思うでしょ?でも現実は、企業の硬直性と先延ばし文化が勝っちゃってるんだよ。」
日本のエネルギー転換にある理想と現実のギャップ
補助金頼みの限界
再エネやEVの普及は、各国とも初期は補助金に支えられて市場を拡大してきました。日本も例外ではなく、固定価格買取制度(FIT)で太陽光発電が爆発的に導入され、EV購入補助金で一定の普及を見せました。しかし想定されたほどコストは下がらず、補助金が縮小されると導入ペースも鈍化。結果として「補助金がある時だけ成り立つ市場」であることが露呈しました。
海外の一部では補助金を投資として活用し、産業の競争力強化に繋げたケースもありますが、日本は制度の出口戦略を描けず、「補助金が切れたら普及も止まる」という悪循環に陥っています。これは、市場の自立を阻み続ける大きな要因です。
国際競争力の低下
欧州は政策主導で再エネとEVを急速に拡大し、中国は圧倒的な規模と価格競争力で国際市場を席巻しました。米国はシェールガスという自国資源を背景に、IRA法で巨額の補助を通じて「産業育成」と「エネルギー安保」を両立させています。
一方、日本は「技術力はあるが政策が弱い」というジレンマに陥っています。太陽光パネルは中国製が市場を支配し、風力タービンも欧州勢に依存。EVでも中国や韓国に後れを取り、バッテリー市場での存在感も薄れつつあります。結果として「技術的ポテンシャルを持ちながら産業競争力を確立できない」という二重の不利を抱えているのです。
社会的合意の不足
日本ではエネルギー転換に関する社会的合意形成が難航しています。原子力発電は福島第一原発事故以降、再稼働に強い地域反発があり、洋上風力や太陽光も景観や環境影響を理由に地元から反対運動が起きやすい構造です。
欧州のように「社会全体で負担を分かち合う」という意識が十分に根付いていないため、「理想を掲げても実行に移せない」状況が繰り返されています。その結果、計画は掲げられても遅延や縮小に追い込まれ、日本全体がエネルギー転換のモメンタムを失っているのが現実です。
日本が取り得る未来シナリオ
原子力再評価
小型モジュール炉(SMR)の導入や既存原発の再稼働は、安定電源の確保において有力な選択肢です。温室効果ガス排出を抑えつつ、大規模なベースロード電源を確保できる点は再エネや火力にない強みです。しかし一方で、廃棄物処理や安全性、そして何より国民の信頼回復が大きな壁として立ちはだかります。日本が原子力をどう位置づけるかは、今後のエネルギー戦略の根幹に直結します。
再エネ産業の国産化
洋上風力や太陽光パネル、バッテリーを国内で生産し、中国依存から脱却するシナリオです。これによりエネルギー安全保障を高め、雇用や産業振興にもつなげられます。ただし、巨額の初期投資と生産コスト高をどう社会で分担するかが最大の課題です。短期的には電気料金が上昇する可能性もあり、「産業育成」と「国民負担」のバランスが問われます。
多様な低炭素エネルギー
EVシフト一辺倒ではなく、水素や合成燃料、ハイブリッド技術を併用し、産業構造に適合させながら段階的に低炭素化を進める道です。これにより既存の自動車産業やインフラを活かしつつ、無理のない形で移行を進められます。ただし、世界市場がEVシフトを加速するなかで「独自路線」が孤立するリスクもあるため、国際戦略と整合性を保つことが不可欠です。
需要効率化
供給を増やすだけでなく、「使う量を減らす」方向で社会を設計し直すシナリオです。スマートグリッドやデジタル技術を活用した効率化、省エネ家電や断熱住宅の普及、さらにはライフスタイルの変革を通じて電力消費を抑制します。これにより高コスト電源の増設を避けつつ持続可能性を高めることができますが、国民の行動変容や大規模なインフラ投資が必要となり、政治的リーダーシップが不可欠です。
日本のエネルギー転換:理想と現実のギャップが示すもの
洋上風力撤退、太陽光リサイクル頓挫、火力依存のコスト高騰、EV停滞――。これらは単なる個別の事例ではなく、日本が直面する「理想と現実のギャップ」を鮮明に示しています。
そのギャップは国民生活に直接跳ね返っています。電気料金の上昇は家計を直撃し、産業界のコスト増は雇用や給与に波及。再エネ停滞は地方経済の雇用機会を奪い、EV停滞は消費者の選択肢や維持コストの制約につながっています。エネルギー転換の行き詰まりは、単なる政策論争ではなく暮らしと競争力を左右する「生活の問題」なのです。
いま求められているのは、補助金頼みや目標の掲示ではなく、制度改革・産業戦略・社会的合意を伴った「実行力あるエネルギーモデル」です。日本はその転換点に立たされており、選択を迫られています。
それではまた、次の記事でお会いしましょう。
おすすめ書籍一覧
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・再エネ導入で生じる社会的摩擦や地域トラブルを整理し、持続可能な再エネ社会の構築を実践視点で探る一冊。社会学・制度設計に注目したい方にも◎
・2023年刊。ウクライナ危機など地政学リスクも踏まえ、2050年に向けた日本のエネルギー政策・産業戦略を提示する試み。実務者向けの提案が多く含まれています。
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