時事通信カメラマンの「支持率を下げてやる」発言に波紋 揺らぐ報道の中立性と信頼

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時事通信は10月9日、同社の写真部に所属するカメラマンが自民党本部で高市早苗氏を撮影する際に、報道の公平性を損なう恐れのある発言をしたとして「厳重注意」を行ったと発表した。

発言は10月7日午後、党本部で高市氏の撮影を待つ複数の報道関係者との雑談の中でなされた。カメラマンは「支持率を下げてやる」「支持率を下げるような写真しか出さない」などと語っており、その音声はオンライン配信で録音され、SNS上で急速に拡散した。

録音には他にも不適切な発言が含まれていたが、時事通信は「それらは当該カメラマン本人の発言ではない」と説明し、問題の発言のみを対象に処分を行った。

時事通信の編集長兼取締役である藤野清光氏は、この発言が報道機関としての公正性や中立性に疑念を招きかねないと述べ、社内に対し「報道の品位および中立性を疑われることのないよう、指導を徹底する」とコメントした。

出典:The Japan Times – “Jiji Press photographer reprimanded for improper remarks at LDP”


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補足説明

ライブ映像に録音された不用意な発言と世論の反応

今回の発言は、高市早苗氏と公明党の協議が予定より長引いた際、自民党本部で報道陣が待機していた場面で起きたものです。発言したカメラマンは、現場がライブ配信されていることを知らず、待ちくたびれた雑談の中で「彼女の支持率を下げてやる」などと口にしたとされています。

ただし、この不用意な一言はSNS上で瞬く間に拡散し、ネット上では「報道の中立性を欠く」「傲慢な発言だ」といった批判が相次ぎました。すでに信頼を失いつつある既存メディアへの不信感をさらに強める結果となり、報道倫理をめぐる議論が再燃しています。

また、昨年の兵庫県知事選、東京都議会選挙、そして7月の参議院選挙などでは、SNSや個人発信による情報の影響力が既存メディアを上回る場面が増えており、オールドメディアの存在感の低下が顕著になっています。NHK放送文化研究所の2024年調査によると、「テレビや新聞を信頼できる」と答えた割合は過去10年間で2割以上減少しており、特に若年層ほどその傾向が強いとされています。


高市氏と「放送法」発言が象徴するメディアとの緊張関係

高市早苗氏は総務大臣時代(2016年頃)、放送法第4条に定められた「政治的公平性」をめぐる国会答弁で、「政治的に偏った番組を繰り返す放送局に対しては、電波停止を命じる可能性がある」と発言し、大きな波紋を呼びました。

高市氏は当時、「あくまで放送法に基づく一般論を述べただけであり、報道への介入や圧力の意図はない」と説明していました。しかし、テレビ各局や新聞社などの報道機関はこれを「政権による報道統制の示唆」と受け止め、民放連(日本民間放送連盟)の会長も「表現の自由を萎縮させるおそれがある」と懸念を表明するなど、強い反発が広がりました。

こうした経緯から、高市氏とメディアの間には“報道の自由”と“政治的公平性”をめぐる根本的な溝が生まれました。今回の「支持率を下げてやる」発言も、単なる一記者の軽口というより、こうした長年の緊張関係や不信感が背景にあると見る向きもあります。政治とメディアが互いに不信を抱く構図の中で起きた今回の騒動は、改めて日本の報道環境と政治の距離感を問い直す出来事となりました。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


報道記者が客観的でない形でニュースを伝えようとするのは、本当にがっかりする。


そう。本当にひどいレベルだと思う。小泉寄りの局なんか、もう“中立っぽく見せる努力”すらしていない。高市氏が「奈良の鹿」発言について説明していたインタビューを見たけど、途中で切られてCMに入り、そのまま全然違う話題に差し替えられた。別に高市ファンじゃないけど、あれは報道番組として最低だった。


「客観的」って、出所不明のコメントを報じて、その意味をめぐるネットの憶測で記事を構成することなのか?


残念ながら日本のメディアの多くはこんなもんだ。「中立」「公平」を装っているだけで、実際はガッツリ偏ってる。


新しい首相のファンではないけど、この記者も同じくらいひどい。
メディア倫理なんてもう地に落ちてる。今はニュースよりも「再生数」や「紙面の売り上げ」優先だ。


アメリカみたいにはなるな。俺たちがこんな状況に陥ったのはメディアのせいだ。トランプを金儲けのネタにして、欠点を報じず、視聴率のために持ち上げた。


こういうことが起きると、反体制派や「マスゴミ」陰謀論者の“証拠”にされるんだよ。
彼らは「自分の意見に反する報道=偏向」と決めつけるから、こうした出来事が信頼をさらに壊す。


みんな、この状況がどれだけ怖いことか分かってない。


日本のメディアが「ダメ」だと思われてるのは、むしろ与党に対して全く噛みつけない腰抜けぶりのせいだ。自民党がメディアを支配してるっていう構図自体が問題なんだよ。


「女性だから支持率が下がらない」とでも思ってるのか? 高市氏は自分の言動だけで十分にイメージを悪くできるよ。


ヨーロッパで見たような、極端に党派的で分断的な報道だけは、日本に広がらないでほしい。


彼ら、本当に女性が嫌いなんだな。


よくやったけど、次はこっそり話せよ。


考察・分析

今回の「時事通信カメラマン発言」騒動は、単なる一記者の失言にとどまらず、政治とメディアの信頼関係が制度的にも心理的にも揺らいでいる現実を浮き彫りにしました。

「報道の自由」と「中立の責任」

報道機関は権力を監視する役割を担う一方で、公平性と中立性を保つ社会的責任も負っています。今回の発言は、その両立がいかに難しいかを示す象徴的な出来事といえるでしょう。

SNSの普及によって、記者や報道機関の発言は瞬時に拡散される時代となりました。個人の雑談であっても、組織全体の姿勢として受け取られることがあります。報道する側も、これまで以上に透明性と説明責任を求められる立場に置かれています。

一方で、メディアへの信頼度は年々低下しています。「報道の自由」という理念を掲げながら、不適切な言動を擁護する姿勢は国民の理解を得にくくなっています。今回の件は、自由の名のもとで守られてきた報道現場が、自らの倫理を見つめ直す段階に入ったことを示しているといえます。

「旧メディア」と「SNS世代」 世論の主導権をめぐって

昨年の兵庫県知事選や7月の参議院選挙など、近年の選挙戦ではSNSの影響力が際立っています。内閣府の「情報通信白書2024」によると、10〜30代の約6割が政治情報をSNSから得ており、テレビを主な情報源とする層は3割に満たないとされています。

この変化により、報道機関の発信そのものが世論の対象となりました。誰が情報を支配するのかという構図が、大きく変わりつつあります。今回の発言も、既存メディアへの不信とSNS世論の監視力が交錯する中で起きたとみられます。報道機関は発信者であると同時に、監視される存在にもなっているのです。

政治とメディアの冷戦構造

高市氏の放送法発言をきっかけに、政治とメディアの間には深い溝が生まれました。政治家から見れば「偏向報道」、報道側から見れば「権力による圧力」。それぞれが自らの正義を掲げ、互いを疑う関係が続いています。

さらに、日本特有の記者クラブ制度も、政治とメディアの関係を複雑にしています。
長年にわたって限られた記者だけが情報を得られる構造が続いた結果、政治家と報道機関の間に“馴れ合い”と“対立”の両方が生まれました。政治側は「好意的な報道」を期待し、メディア側は「情報の出入り口を握られている」という意識を持つようになります。
この微妙な力関係が積み重なり、不信感や緊張が蓄積してきたことが、今回のような問題を引き起こす土壌になったといえるでしょう。

信頼回復に向けた課題

報道機関が社会的信頼を取り戻すためには、透明性の向上と説明責任の徹底が欠かせません。内部のチェック体制や倫理教育を強化し、記者一人ひとりの言動が組織全体の信用に直結するという自覚を持つことが求められます。

一方で、政治側も「公平性の確保」や「メディア批判」を政争の道具として使うのではなく、建設的なメディア政策の議論へと発展させる必要があります。国民が求めているのは、どちらの陣営が勝つかではなく、事実に基づいた信頼できる情報環境です。

報道と政治の対立を乗り越え、社会全体で信頼の再構築を進められるかどうか。そこに、この事件が投げかけた本質的な問いがあるといえるでしょう。


総括

今回の騒動は、報道倫理の問題であると同時に、日本社会における「情報の信頼危機」を映し出した事件でした。政治家とメディアのどちらかが悪という単純な構図ではなく、信頼を損なう仕組みそのものに課題があります。

いま求められているのは、互いを批判し合うことではなく、事実と透明性を基盤とした公共空間をどう守るかという冷静な議論です。報道が自らを律し、政治がそれを支え、国民が主体的に情報を選び取る。そうした循環を取り戻せるかどうかが、今後の日本社会の信頼を左右する鍵となるでしょう。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。



関連書籍紹介

『持続可能なメディア』(朝日新書 / 下山 進 著)

2025年3月刊行。
新聞やテレビなど既存メディアが直面する「持続可能性の危機」をテーマに、国内外の取材を通じて“生き残るメディア”の条件を探る一冊。
報道の信頼回復や地域メディアの役割、AI時代の情報の質など、現代のジャーナリズムが直面する課題を多角的に描いています。


『ブレない人』(講談社 / 望月 衣塑子 著)

2025年8月刊行。
東京新聞記者として知られる望月衣塑子氏が、自らの記者人生を振り返りながら「沈黙しない」姿勢の背景を語る自叙伝。
ジャニーズ事務所問題や旧統一教会問題など、記者会見での鋭い質問や発言で世間の注目を集め、賛否両論を巻き起こしてきた望月氏が、報道の現場で何を見てきたのかを率直に綴っています。
同調圧力の強い社会で、信念を持って問い続けるとはどういうことかを問う一冊です。


参考リンク

The Japan Times|Jiji Press photographer reprimanded for improper remarks at LDP(2025/10/09)

メディア選択 “選び取る” 時代に ― 全国メディア意識世論調査・2024 の結果から(J-STAGE)

第17回 メディアに関する全国世論調査(2024年)報告書(PDF)

NHK『クローズアップ現代』問題及び放送法をめぐる国会論議(PDF)

放送法の「政治的公平性」に関する政府見解の撤回と報道の自由の確保を求める意見書(日本弁護士連合会、PDF)

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