高市早苗氏「ワークライフバランスを捨てる」発言に海外波紋──日本の働き方はどこへ向かうのか

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日本の自民党は、党内総裁選を経て高市早苗氏を新たなリーダーに選出した。これにより、彼女は日本初の女性首相となる可能性が高まっている。

選出後の会見では、高市氏は自身の政治信条を強く示す言葉を投じた。「私はワークライフバランスという言葉を捨て、働いて働いて働いていく」と述べ、国や党を立て直すためには総力を挙げての労働姿勢が必要だと強調した。

出典:AP news


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補足説明

長時間労働文化と意識改革の壁

日本では1980年代以降、「過労死(Karoshi)」という言葉が国際的にも知られるようになりました。長時間労働やサービス残業が常態化し、過労による自殺や健康被害が社会問題として顕在化したことを受け、政府や企業は近年、「働き方改革」や「ワークライフバランス」の改善を掲げてきました。

しかし現実には、「長く働くことが美徳」とされる文化がいまなお根強く残っています。特に管理職層では「自分が率先して働く姿を見せることが部下への責任だ」という意識が強く、こうした価値観が“改革”の足かせにもなっています。

高市氏の発言の真意と現代の働き方のズレ

今回の高市氏の発言も、文脈としては「国のために自民党が一致して立て直しに臨むべきだ」という党内向けのメッセージでした。自民党議員の数が減少し、組織の求心力が弱まる中で、「私自身もワークライフバランスを捨てて働く」という言葉で、政治家としての覚悟を示したものとみられます。
つまり、国民に長時間労働を求めたわけではなく、「限られた議員一人ひとりが職責を果たすべきだ」という呼びかけだったと解釈できます。

ただし、日本社会では「働きすぎ」という言葉自体が過去の悲劇と直結するため、この発言は“過労礼賛”として受け取られやすい側面もありました。特に海外では、過労死の歴史的背景と結び付けて報じられ、批判や皮肉を呼んだのもその文脈ゆえです。

一方で、現代の職場ではその逆の問題も浮上しています。業務効率化が進む中で、仕事ができる社員ほど早く成果を出してしまい、逆に「暇すぎてやりがいを失い、転職する」ケースも増えています。いまの日本は、“働きすぎ”と“働かなすぎ”のバランスが揺らいでいる時代とも言えるでしょう。

経営者にとってワークライフバランスは「生産性と採用力を維持するための経営戦略」であり、社員にとっては「心身の健康を守る最低条件」です。社会全体がその価値観の調整点を模索している中で、高市氏の発言は日本社会の“働き方”をめぐる根深い議論を改めて呼び起こしました。


こうした文脈の中で、海外のSNSでは高市氏の発言をめぐってさまざまな議論が巻き起こっています。
以下では、実際に海外ユーザーたちが寄せたコメントの一部を紹介します。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。

おい、反撃しようぜ。7時間労働・週4日制を取り戻さないと。
この女性、またみんなを“思考停止ドローン”に戻す気かよ。


まずは月曜の午前中を廃止しよう。週の始まりは月曜の午後1時からでいい。


もっと突き抜けよう。毎日“午後だけ勤務”にして、彼女の政策とブランドの柱にすべきだ。
“世界初の午後勤務国家・日本”、偉大なる首相(Prime Minister=PM)が率いるってわけだ。


『首相があんなに働いてるのに、お前らがサボるのか?もっと働け!』って言う上司、絶対出てくるだろうな。


彼女はお前のことを言ってるわけじゃない。自分と党のメンバーについて話してるだけ。
見出しがバカすぎるし、Redditも怠けすぎ。


でも経営層(COE)にはもう響いちゃってるよな……。


ほんと自業自得の問題なんだよな。
客先での導入作業の後、ただ署名すれば済むのに、全ページのスクショを撮って、Excelで全部整理して、説明文を書いて……っていう地獄。
バックアップがあれば全部確認できるのに、それじゃダメだって言う。
“バックアップがあるなら設定を後から見直せる”って発想ができないんだよ。
この国、読むこともされない“書類だけの仕事”が多すぎる。


俺の冗談では“書類で死ぬ”って呼んでる。


千の書類による死、ってやつだな。
この5日間で、実質働いたのは2日。残り3日はスクショ撮ってExcel打ち込みだ。


中小企業のフルスタック開発者だけど、テストのたびにサイトの全ページをスクショして提出させられる。
バグが出た時だけでいいって提案したけど却下。
“スクショがなければサボるかもしれない”って疑われるからだってさ。
疑念が合理性より優先される国なんだよ。


自動テストがないなら、スクショ撮るだけの自動テストでも作れば? 😀


まさに俺の経験と一致する。
義父は週60〜70時間働いてて、家でも仕事してる。
Excelで月次合計を“手計算”して入力してたから、関数の使い方を教えたら感動してたよ。
中小企業の営業部長なのにね。
“職場にいること=忠誠心”って文化が根深い。若い世代で変わっていけばいいけど。


全文読めば分かるのに。なんで誰も理解してないんだ?


明らかに自民党議員の話だよ。
一般国民の課題にもっと真剣に向き合わなきゃって言ってるだけで、そんなに問題ある発言とも思えないけどな。


なんで日本人は保守政党を選び続けるんだ?
戦後の教育や好景気の“新自由主義洗脳”はわかるけど、もう停滞してるのに、なんで変えようとしない?


俺の知る限り、賢くて教育を受けた若者はどんどん日本を出て行ってる。
資本主義社会って“敗者を大量生産”して成り立つんだ。つまりそういうこと。


日本の在外邦人は約120万人。主要国の中ではかなり少ない。
しかも若者ほど、むしろ右派政党を支持する傾向が強いんだ。


実際、日本から移民したいって人はそんなに多くないよ。
俺は中国人だけど、オーストラリアの退屈な生活より日本の方が魅力的に感じるし、同じように日本を選ぶ中国人は多い。


オーストラリアの方がずっとストレスが少ないし、生活も楽だと思う。
ワーホリから日本に戻る時に泣く若者を何人も見た。
日本は観光には最高だけど、住むとなると形式主義と過剰な礼儀で息が詰まる。
俺はオーストラリア人で20年以上日本に住んでるけど、政治の方向次第では考え直すかもな。


たぶん、日本人の大半が政治にも選挙にも関心がないからだろ。
その隙に右翼の連中が大量に押し寄せて勝っちゃう……アメリカと大して変わらんな。


厳密に言えば、今回選んだのは一般国民じゃなくて、自民党の党員だからな。


そう、年配層が“自分たちのやり方”しか知らず、それを若者に押し付けてる。
しかも“それでうまくいくはずだ”と思い込んでる。


年配の人たちは本気で“若者は怠けてる”って思ってる。
自分たちを支えるために若者が働くのが当然って考えだ。
外国人もみんな日本の労働環境を嫌ってる。
永住権(PR)を取ってからシステムを抜けて、小規模ビジネスをするのが定番だ。
でも今の政策はそれを難しくしてる。
PR取得には5年間、一度も税金を滞納してはいけない。
たった1回でも遅れたら失うかもしれない。
日本も移民制限を強めてるけど、そのやり方が極端なんだ。


今の企業社会の感覚からすれば、こんなの現実的じゃないよ。
企業は人材確保に必死で、待遇改善競争をしてる。
残業削減、住宅補助、休日数の多さ――
これらを強調しないと学生は見向きもしない。
中には“週4日勤務”を約束した大手企業まである。
政治家の“働け演説”なんて、企業は相手にしないさ。
どこの国でも同じだけど、政治家も企業の犬だからね。


海外では、高市氏の発言を「過労文化の復活」と見る声と、「政治家としての責任感の表明」と受け取る声が割れています。
ただ一つ確かなのは、どちらの立場から見ても“日本の働き方”が世界から注目されているということです。
長時間労働を美徳とする時代から、「どう働くか」「どう休むか」を問う時代へ──。
今回の発言は、その価値観の転換点を象徴する出来事となりました。


考察と分析:政治メッセージと「働き方」の現実のずれ

今回の高市氏の発言は、本来「国民全体への号令」ではなく、自民党内に向けた決意表明という文脈で語られたものです。
党の議席が減る中で、少数精鋭として国政を支えるには、議員一人ひとりがこれまで以上に責任を果たさなければならない──。
その覚悟を象徴的に表したのが「ワークライフバランスを捨てて働く」という一言でした。

しかし日本では、過労死や長時間労働の歴史があるため、こうした発言は容易に“働きすぎ礼賛”と受け取られやすいという難しさがあります。
とくに海外では、政治家の言葉が「文化の象徴」として報じられる傾向が強く、高市氏のコメントも「再び過重労働を正当化するサイン」と見なされた面がありました。


日本の職場に残る「長く働くことが誠実」という価値観

日本では依然として、「働いている時間が長い=真面目で努力家」という意識が根強く残っています。
一方で、働き方改革の進展や人手不足により、企業は徐々に**“成果重視・時間より効率”**の方向へ舵を切りつつあります。
しかしこの変化のスピードは遅く、世代や業種によって意識の差が大きいのが実情です。

また近年は逆に、「仕事ができる人ほど暇すぎて転職する」という新たな現象も見られます。
業務の効率化が進んだことで優秀な人材ほど早く成果を出し、その後の時間を持て余す。
それがやりがいの喪失につながり、より挑戦的な環境を求めて離職するケースも増えています。
「働きすぎ」と「働かなさすぎ」の狭間で、いまの日本社会は新しい均衡点を探している段階にあると言えます。


欧州が示す“ハイブリッドの現実”

欧州ではコロナ禍をきっかけにリモートワークが一時的に主流となりましたが、現在は出社と在宅を組み合わせる“ハイブリッド型”が定着しています。
フルリモートは生産性やチームの一体感を損ねるとの声が強まり、多くの企業が「週のうち数日はオフィス勤務」という形に戻しました。
ただし、通勤時間の削減や柔軟な勤務制度といった“働く自由度”の確保は維持されており、
「働く時間を減らす」ではなく「働く方法を選べる」ことが重要視されるようになっています。


総括:高市氏の発言が映す「日本の働き方」の現在地

高市氏の「ワークライフバランスを捨てて働く」という言葉は、実際には自民党の議員に向けた決意表明でした。
議席減少の中で、党を立て直すために一人ひとりが責任を果たすという文脈での発言です。
しかし、日本では過労死や長時間労働の記憶が強く、こうした言葉はすぐに“働きすぎの肯定”と結びつけられてしまいます。

社会の実態を見ると、いまは「働きすぎ」と「暇すぎ」の両極が同時に存在しています。
効率化が進み、仕事ができる人ほど早く成果を出して時間を持て余し、一方で長時間働き続ける人も減っていません。
つまり、問われているのは「どれだけ働くか」ではなく、「どう働くか」ということです。

欧州ではコロナ禍を経て、完全リモートから出社と在宅を組み合わせた柔軟な働き方が主流になりました。
日本でも、時間や場所ではなく、働き方の自由度と働きがいをどう確保するかが次の課題となっています。

今回の発言は、そうした「働く意味」をめぐる議論を再び浮き彫りにしたと言えるでしょう。

それではまた、次の記事でお会いしましょう。



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人生100年時代の「学び直し」「キャリアの複線化」「働き方の再設計」を考える上で、最適の入門書です。


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