今回の記事の重要ポイント(三点)
- 2026年春闘では、連合が平均5.94%の賃上げを要求し、日本企業への賃上げ圧力が一段と強まっています。
- しかし、2025年の実質賃金は前年比1.3%減で、年間ベースでは4年連続のマイナスとなりました。名目賃金が上がっても、物価上昇がそれを上回れば生活は楽になりません。
- 日本では、デフレ的な停滞から抜け出す動きと、物価上昇が家計を圧迫する現実が同時に進んでいます。今後の焦点は、賃上げが広く波及し、実質賃金の改善につながるかどうかです。
ニュース
2026年春闘で、日本最大の労組団体である連合は平均5.94%の賃上げを要求した。前年に続く高水準の要求となり、物価上昇と人手不足を背景に、企業に対する賃上げ圧力が強まっている。
一方、2025年の実質賃金は前年比1.3%減となり、年間ベースで4年連続のマイナスだった。名目賃金は上昇しているものの、物価上昇がそれを上回る状況が続いている。
消費者物価の伸びは足元でやや鈍化しているが、基調インフレはなお日銀の目標水準を上回っている。サービス価格にも賃金上昇の波及がみられ、日本では賃金と物価がともに上昇する局面が続いている。
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補足説明
春闘の賃上げ要求が高くても生活が楽にならない理由
2026年の春闘では高い賃上げ要求が出ていますが、それだけで家計の負担がすぐ軽くなるわけではありません。
生活実感を左右するのは、給料の額面そのものではなく、その給料で実際にどれだけ買えるかです。2025年の日本の実質賃金は前年比1.3%減で、年間ベースでは4年連続のマイナスでした。給料が増えても、食品や日用品、光熱費などの値上がりがそれを上回れば、家計は苦しくなります。
名目賃金と実質賃金の違い
名目賃金は、給与明細に書かれているそのままの金額です。
実質賃金は、その名目賃金を物価の上昇分で差し引いて見たもので、実際の「買える力」を示します。
たとえば給料が2%増えても、物価が3%上がれば、実質的には1%分だけ生活が苦しくなります。額面が増えているのに余裕が出ないのは、この差があるためです。
インフレとは何か、日本では何が起きているのか
インフレとは、モノやサービスの価格が全体として上がっていく状態です。
一部の商品だけが高くなることではなく、食料、外食、日用品、サービスなど、広い範囲で価格上昇が続くときに使われます。日本では2025年平均の消費者物価指数が総合で前年比3.2%上昇し、2026年1月時点でも生鮮食品を除く総合は前年比2.0%上昇していました。
ここで物価統計を見るときに重要なのが、「総合」だけではなく、「生鮮食品を除く総合」や「生鮮食品とエネルギーを除く総合」もあわせて見ることです。
生鮮食品は天候や不作の影響を受けやすく、短期間で大きく上下します。
エネルギー価格は原油やガスなど国際市況、為替、政府補助の影響を強く受けます。
そのため、この二つをそのまま入れると、全体の物価の流れよりも、一時的な振れが数字に強く出やすくなります。
日本でよく使われる「生鮮食品を除く総合」は、そうした短期的な振れをならして、物価の基調を見やすくするための数字です。さらに、エネルギーの変動も大きい局面では、「生鮮食品とエネルギーを除く総合」も参考にされます。
つまり、スーパーで感じる値上がりと、政策当局が見ている物価の流れは、同じようでいて少し見ている角度が違います。家計は目立つ値上がりを強く意識しますが、中央銀行はそれが一時的なものか、もっと広い価格上昇の流れなのかを見極めようとしています。
日本のインフレはなぜ起きているのか
インフレには大きく分けて二つあります。
一つは、景気がよくなって需要が増え、価格が上がる需要主導型です。
もう一つは、原材料、エネルギー、輸入品、物流、人件費などのコスト上昇が価格に転嫁されるコスト主導型です。
今の日本では、食料や輸入コストの上昇、円安の影響に加えて、賃上げ分をサービス価格へ転嫁する動きも出ています。つまり、コスト上昇が先行しながら、そこに賃金と価格の連動が少しずつ重なっている局面です。
なぜ日銀は2%の物価目標を重視するのか
日本銀行は、消費者物価の前年比2%を「物価安定の目標」としています。
これは、物価をまったく上げないことを目指しているわけではありません。長くデフレが続いた日本では、企業も家計も「どうせ値段は上がらない」という前提で動いてきました。日銀は、2%程度の安定した物価上昇が定着すれば、企業が賃上げや価格転嫁をしやすくなり、金融政策も動かしやすくなると説明しています。
ここで重視されるのも、目先の値動きが大きい品目をならしたうえで、物価の流れが持続的に2%前後で定着しているかどうかです。だからこそ日銀は、総合指数だけでなく、生鮮食品を除く指数や、必要に応じて生鮮食品とエネルギーを除く指数も見ながら、基調的な物価を判断しています。
なぜインフレ目標があっても家計は苦しいのか
政策として望ましいインフレと、家計が感じるインフレは同じではありません。
中央銀行にとっては2%前後の安定した物価上昇が理想でも、家計から見れば、賃金が十分に上がる前の値上がりはそのまま生活苦です。特に食料品や光熱費の上昇は毎日の支出に直結するため、負担感が強くなります。
しかも、家計は統計全体ではなく、日々の買い物で値上がりを実感します。米、野菜、外食、電気代、ガソリン代のように、頻繁に目にする項目が上がれば、全体の物価上昇率以上に「生活がきつくなった」と感じやすくなります。
春闘が日本経済の焦点になる理由
春闘が重要なのは、物価上昇で落ちた購買力を賃上げで取り戻せるかどうかがかかっているからです。
物価だけが先に上がれば、実質賃金は下がり、消費は弱くなります。反対に、賃上げが大企業だけでなく中小企業にも広がり、物価上昇を上回るようになれば、ようやく家計の負担感は和らぎます。
日本では、人手不足を背景に賃上げ圧力が続いており、賃金と物価がともに上がる局面が定着するかどうかが今後の焦点になっています。
特に重要なのは、春闘の高い数字が一部の大企業だけで終わるのか、それとも裾野の広い雇用全体に波及するのかという点です。日本の生活実感を本当に変えるのは、見出しになる大企業の賃上げ率よりも、その流れが中小企業や非正規を含む広い労働市場に届くかどうかです。
日本経済はいまどんな局面にあるのか
いまの日本では、デフレ的な停滞から抜け出そうとする動きと、物価上昇が家計を圧迫する現実が同時に進んでいます。
春闘の数字が高いこと自体は前向きな変化です。ただ、本当に重要なのは、その賃上げが広く波及し、実質賃金の改善にまでつながるかどうかです。そこまで進んで初めて、多くの人にとってインフレは「ただ苦しいもの」ではなく、経済の正常化として実感されるようになります。
海外の反応
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
ああ、そうだよね。企業はもっと利益を増やしながら、従業員には相変わらず雀の涙みたいな賃金しか払わない。で、誰も物を買えなくなって、利益が出ないのはなぜだろうって不思議がるわけだ。
大丈夫。そのうち観光客が全部買ってくれるよ。
外国人が旅行する余裕すらなくなったら、そうもいかないけどね。もう資本主義の末期段階に近づいてる。
幸い、他の国ではちゃんと実質賃金が伸びてるところもある。
賃金は上がっていても、あらゆる物価上昇で相殺されてるけどね。
実質賃金の上昇っていうのは、インフレ調整後の賃金上昇のことだよ。
日本ではここ4年ほど、実質賃金は下がる一方だ。
AIが全部買ってくれるよ。
サナエコインを買え。月まで飛ぶぞ!
サナエトークン騒動とは何だったのか 政治ミームコインとWeb3投機が衝突した事件の構造 – せかはん(世界の反応)
「停滞」してた頃のほうが、今みたいにインフレ経済へ転じた後よりも、普通の人はまだ暮らしやすかったと思うけどね。反論ある?
まだ判断するには早すぎる。
いや、人類史の大半を見れば、通貨の価値を薄めた先に何があるかなんてだいたい分かるだろ。今回だけは違って、急に良くなると本気で思ってるなら、その楽観剤の仕入れ先をぜひ教えてくれ。
歴史上、安定した経済圏、たとえば日本みたいな国では、たいてい2〜4年で賃金がインフレに追いつく。
日本は本格的なインフレ局面に入ったばかりで、特にここ2年まではインフレ率もかなり低かった。
ヨーロッパではこの流れがもっと早く始まったけど、賃金は追いついている。日本だけが特別みたいに、机上の空論で批判する理由はあまりないと思う。
今のヨーロッパの状況にはそこまで詳しくないのは認めるけど、その主張にはかなり懐疑的だね。少なくともオーストラリアやアメリカみたいな他の西側諸国では、銀行が何を言おうとそんな話にはなってない。
それに、インフレにもいろいろある。ヨーロッパが君の言う通り健全なら、それは需要超過型インフレ、つまり少ないモノを多すぎるお金が追いかけている状態だからかもしれない。
日本が苦しんでいるのはコストプッシュ型インフレだ。エネルギーや原材料価格の上昇、通貨安なんかで生産コストが上がっている。だから、それに見合う賃上げなんて実質ほぼ不可能なんだよ。
素人考えだけど、このインフレは日本にとって「変わるか、死ぬか」を迫る圧力なんじゃないかと思う。労働文化の面でも、イノベーションの面でもね。
賃金が上がるだけじゃなくて、人材を引きつけて引き留めるために、働き方そのものも魅力として使われるようになるかもしれない。つまり、もっと欧米的な「9時から5時で帰る」スタイルに近づくかもってこと。
賃上げを伴う景気改善があると、その結果として多少のインフレは起きる。でも、インフレが起きたからといって、それが賃上げを伴う景気改善につながるわけじゃない。
これから富裕層と中間層、貧困層の格差は、他の国と同じようにますます広がっていくだろう。外国人嫌悪や過激思想もさらに強まり、利己主義が当たり前になっていくはずだ。けれど、株価さえ高ければ彼らは気にしない。これは、株高でかなり利益を得ているFIRE志向の自分が言うんだから間違いない。
サラリーマンからもっと多くのエネルギーを搾り取るために、資産価値をさらに削らなきゃならないってわけだな。
日本がもう高齢化社会で、経済を立て直す意志もエネルギーも失っていることを忘れてる。
どれだけ頑張っても、あるいは頑張らなくても賃金が変わらないなら、その賃金評価システムのほうがおかしいってことだ。
日本はもう物価が安い国じゃない。
日本は安いよ。日本を出られるだけの余裕があれば、それがよく分かる。
この前3週間日本を旅行した者として言うけど、少なくともカナダやアメリカと比べたら、日本はかなり安いよ。
日本は本当に安い。文字通り、G7でいちばん安い国だ。
あなた達が言ってる「安い」は、円が弱いのを見た外部の人間の視点でしょ。でも為替を抜きにして、実際に日本で暮らしていたら分かるはずだよ。モノやサービスの値段がどんどん上がる一方で、賃金は伸びないから、国内の生活コストでみんな苦しんでるんだ。
考察・分析
春闘5.94%要求が示す賃金交渉の転換
2026年春闘で連合が平均5.94%の賃上げを要求したことは、今年の交渉数字という以上の意味を持っています。3年連続で5%を超える要求が続いていること自体が、日本企業の賃金設定の前提が変わり始めていることを示しています。背景にあるのは、続く物価上昇と、少子高齢化を背景にした慢性的な人手不足です。2025年の賃上げ実績は5.25%と34年ぶりの高水準で、2026年も企業の63.5%が賃上げを予定しているという調査結果が出ています。
ここで重要なのは、賃上げが景気拡大の結果として行われるだけではなく、採用維持と離職防止のための経営課題になっていることです。これまでの日本企業は、デフレ期の感覚を引きずりながら固定費である賃金の引き上げに慎重でした。しかし今は、上げなければ人が来ない、残らないという局面に入りつつあります。春闘の高水準要求は、日本の労働市場が数量よりも人材確保の質で争う段階に入ったことを映しています。
実質賃金4年連続マイナスが意味するもの
その一方で、家計の実感はまだ厳しいままです。2025年の実質賃金は前年比1.3%減で、年間ベースでは4年連続のマイナスとなりました。しかも2025年は月次でも全12カ月で前年同月を下回りました。賃上げのニュースが増えても、生活が軽くなったと感じにくいのは、給料の額面よりも購買力の回復が遅れているからです。
実質賃金が下がり続けると、家計は防衛的になります。外食や旅行、耐久消費財への支出を抑え、日々の買い物も節約志向が強まります。すると内需の力強い回復は起こりにくくなり、企業も恒久的なベースアップに慎重になります。賃上げが進んでいるのに景気全体の勢いが弱いのは、物価上昇が家計の購買力を先に削っているからです。
いまのインフレは何でできているのか
日本の物価上昇は、単純に景気が良くて起きているわけではありません。2025年平均の消費者物価指数は、総合で前年比3.2%上昇し、生鮮食品を除く総合でも3.1%、生鮮食品とエネルギーを除く総合でも3.0%上昇しました。2026年1月時点でも、生鮮食品を除く総合は2.0%で、基調的な物価上昇はまだ目標水準を上回っています。
ここで見えてくるのは、日本のインフレが輸入コスト主導と国内サービス価格上昇の混合型になっていることです。食料やエネルギー、円安による輸入価格の上昇が先行し、そのうえに賃上げ分をサービス価格へ転嫁する動きが少しずつ重なっています。2026年1月の企業向けサービス価格指数は前年比2.6%上昇で、建設や人材派遣など、人件費を反映しやすい分野で上昇が続いています。
これは日本経済にとって前進でもあります。長く価格転嫁が進まず、賃金も上がりにくかった日本で、賃金と価格がようやく連動し始めているからです。ただし、その移行期には家計が先に痛みを感じやすい。物価と賃金の好循環が完成する前に、生活コストの上昇が先に出るためです。今回のテーマの難しさは、この時間差にあります。
内部留保636兆円をどう見るべきか
賃上げをめぐる議論では、企業の内部留保がよく取り上げられます。2024年度の内部留保は637兆円規模に達し、労働分配率は53.9%と低水準でした。数字だけ見れば、企業は十分に余力を持ちながら賃金に回していないようにも見えます。
ただし、この数字の読み方には注意が必要です。内部留保は、そのまま自由に取り崩せる現金の山ではありません。利益剰余金として計上されていても、その中身は設備投資、子会社株式、在庫、研究開発の積み上がりなどに姿を変えている場合があります。とくに中小企業では、帳簿上の利益があっても手元資金には余裕がなく、固定費であるベースアップに踏み切りにくい企業も少なくありません。内部留保の多さは企業部門全体の余力を示す一方で、それが即座に賃上げ原資になるとは限らないという点が重要です。
そのうえで残るのは、利益配分の問題です。企業が生んだ付加価値のうち、どこまでを賃金に回し、どこまでを投資や留保に回すのか。日本ではこの配分が長く資本側に寄ってきました。いまの高水準春闘は、その配分を賃金側へ戻せるかどうかを問う局面でもあります。
賃上げの成否は中小企業で決まる
日本経済全体を考えるなら、大企業の回答額だけを見ても十分ではありません。雇用の大半を支える中小企業まで賃上げが広がらなければ、実質賃金全体は改善しにくいからです。連合が中小企業でより高い賃上げを求めているのも、そのためです。大企業だけが高い賃上げを続けても、社会全体の生活実感は変わりません。
中小企業にとって鍵になるのは価格転嫁です。原材料費や人件費の上昇を取引価格へ反映できなければ、賃上げは一時的な対応で終わります。逆に言えば、日本経済が賃金と価格の循環を定着させられるかどうかは、下請けや地域企業まで含めた価格転嫁の広がりにかかっています。ここが詰まれば、春闘の高水準も一部企業だけの現象で終わります。
日銀の正常化はなぜ難しいのか
賃金と物価の循環が強まれば、日銀は金融政策の正常化を進めやすくなります。実際、日銀は政策金利を0.75%へ引き上げたうえで、経済・物価が見通し通りに進めば利上げを続ける考えを示しています。為替変動が物価や期待インフレ率に与える影響も以前より大きくなっており、円安の放置は難しくなっています。
ただし、日本には利上げを急ぎにくい事情があります。政府債務が大きく、金利上昇は国債費の増加につながります。財務省の英語版資料でも、国債残高は巨額で、金利環境の変化が財政に与える影響の大きさが確認できます。金融政策の正常化は必要でも、急激な金利上昇は財政運営に重い制約を与えます。
家計側の制約もあります。住宅金融支援機構の利用者調査では、2025年度の住宅ローン利用で変動金利型が75.0%を占めました。金利上昇は住宅ローン返済額の増加を通じて、賃上げ分の一部を相殺しかねません。春闘で数%賃金が上がっても、ローン負担や生活コストが同時に上がれば、可処分所得の改善は限定されます。
労働市場改革がなければ賃上げは続かない
政府は「新しい資本主義」の実行計画で、リスキリング支援、ジョブ型を含む賃金制度改革、成長分野への労働移動を構造的賃上げの柱に据えています。これは、春闘の数字だけでは賃上げが長続きしないからです。人手不足による押し上げだけでは、生産性が伴わない限り企業はどこかで賃上げ余力を失います。
持続的な賃上げに必要なのは、労働者がより付加価値の高い分野へ移り、企業がその能力に見合う処遇を提示できることです。日本型雇用のよさを残しつつも、職務やスキルの価値を賃金に反映する仕組みへどこまで移行できるか。ここが進まなければ、高水準の春闘は毎年のイベントに終わり、実質賃金の改善にはつながりにくくなります。
手取りを圧迫する社会保険負担の問題
賃上げの見出しが増えても、生活実感が改善しにくい理由として、社会保険料や税の負担も無視できません。額面が上がっても、そのまま手取り増になるわけではないからです。厚生労働省の資料では、2026年度から子ども・子育て支援金制度が段階的に導入される設計になっており、政府は社会保障改革の効果で実質負担は生じないと説明しています。
ただ、家計の側から見れば、賃上げ分が別の負担増で薄まるのではないかという感覚は残ります。さらに、社会保険の適用拡大や「年収の壁」の問題も、手取りと労働供給の両方に影響します。名目賃金が増えても、保険料や税負担、就業調整の問題が残るなら、消費の力強い回復にはつながりにくい。この点は、今後の春闘報道でさらに注目されるべき論点です。
インフレ時代の生活防衛という視点
ここまでの議論はマクロ経済ですが、国民にとって重要なのは、自分の生活をどう守るかです。インフレ局面では、現金だけを持っていると購買力が目減りしやすくなります。賃上げが物価に追いつかない期間が続くなら、家計は支出構造の見直しと、長期的な資産形成を同時に考える必要があります。これは投機を勧める話ではなく、インフレ下では「働いて得る所得」と「保有資産の価値」の両面で防衛が必要になるという意味です。
今回の議論が海外SNSでも注目されたのは、日本がいまだに「安い国」と見られている一方で、国内居住者には物価高と賃金停滞の圧力が残っているからです。旅行者にとって安く見える日本と、生活者にとって苦しい日本は両立します。円安による外からの魅力と、内側の生活コスト上昇は同時に存在し得るからです。
総括
2026年春闘は、日本経済がデフレ型からインフレ型へ移る過渡期を象徴する出来事です。連合の5.94%要求は、高水準の賃上げが一時的な例外ではなく、新しい交渉水準として定着するかどうかを問うものになっています。
ただし、現時点では好循環が完成したとは言えません。2025年の実質賃金は前年比1.3%減で4年連続マイナス、しかも月次では1年を通じて前年割れでした。物価上昇の痛みが、賃上げの恩恵をまだ上回っています。
これからの焦点は明確です。大企業の賃上げが中小企業や非正規まで波及するか。価格転嫁が経済全体に広がるか。日銀が金利、為替、財政、家計の制約を見ながら正常化を進められるか。さらに、社会保険負担や労働市場改革が手取りと生産性の改善につながるか。この条件がそろって初めて、インフレは生活を圧迫するものから、経済の更新を伴うものへ変わっていきます。
いま日本で起きているのは、賃上げか物価高かという単純な二択ではありません。低賃金と低価格を前提にしてきた日本社会が、その前提そのものを書き換えられるかどうかの局面です。その成否を決めるのは、名目賃金の見出しではなく、実質賃金と生活実感が本当に改善するかどうかです。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
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参考リンク
- 実質賃金:4年連続マイナス、賃上げの実感消える | nippon.com
- 毎月勤労統計調査 令和7年分結果速報 名目賃金は5年連続プラスも実質賃金は4年連続のマイナス | 社会保険労務士PSRネットワーク
- 物価高なのにインフレ目標2%は「達成されていない」と日銀が判断する理由とは? | ダイヤモンド・オンライン
- 総裁記者会見 2026年1月26日(日本銀行)
- わが国の経済・物価情勢と金融政策(日本銀行)
- 最近の金融経済情勢と金融政策運営(日本銀行)
- 消費者物価指数の解説(総務省統計局)
- Performance of Core Indicators of Japan’s Consumer Price Index(Bank of Japan)
- Core Inflation and the Business Cycle(Bank of Japan)


