今回の記事の重要ポイント(三点)
・野党5党の審議拒否で停滞した国会は、皇室典範改正案の審議協議を入口に正常化を探る動きが始まった。ただし対立の本丸は、比例代表45議席削減をめぐる選挙制度の攻防である。
・国民民主党と参政党は、自ら共同提出した国旗損壊罪法案の採決を欠席した。保守系野党にとっても、比例削減阻止が個別政策への賛否を上回る課題になっている。
・比例削減には「身を切る改革」としての支持がある一方、中小政党の議席を直撃し、国会に届く民意の幅を狭めるという懸念も出ている。日本に二大政党制は合っているのかという1994年改革以来の問いに直結する。
ニュース
国会の与野党対立が続くなか、森英介衆院議長の要請を受け、与野党は皇族数の確保に向けた皇室典範改正案の取り扱いについて協議に入る。自民党と日本維新の会は、改正案の協議と並行して衆院定数削減法案の成立も図る方針だ。
衆議院では、中道改革連合、国民民主党、参政党、チームみらい、共産党の野党5党が6月26日から「一切の本会議、委員会に応じない」として審議拒否を続けている。6月30日には、国旗損壊罪法案が全野党欠席のまま衆院本会議で可決され、参議院に送られた。採決には、法案を与党とともに共同提出していた国民民主党と参政党も欠席した。衆院定数削減法案の委員会採決は同日見送られた。
森議長は7月1日、与野党の幹事長らと会談し、国会正常化に向けた調整に入った。野党5党は皇室典範改正案の審議に向けて「静謐な環境」の回復を求めている。会期末は7月17日。
現在の焦点は、皇室典範改正案の審議を入口とした国会正常化と、定数削減法案の行方に移っている。
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補足説明
ここまでの経緯を時系列で整理
今回の国会対立は、短期間にいくつもの出来事が重なって深まりました。初めてこのニュースに触れる方のために、まず流れを整理します。
- 6月22日: 衆参両院の予算委員会で、高市首相が陣営の中傷動画疑惑について、関与が取り沙汰されている秘書の陳述書提出をもって「詳細な答弁とさせていただきたい」と述べ、口頭での答弁を避けました。通告された質問への答弁を書面で代えようとするのは極めて異例の対応です
- 6月23日: 野党側が、首相出席の集中審議や党首討論の確約がない限り、政府提出法案の新たな審議日程の協議には応じない方針を確認しました
- 6月24日: 自民党と日本維新の会が、衆院定数削減法案を共同提出しました
- 6月26日: 与党が定数削減法案と副首都法案を委員長職権で委員会に付託。反発した野党5党が全面審議拒否に入りました
- 6月30日: 国旗損壊罪法案が全野党欠席のまま衆院を通過。定数削減法案の委員会採決は見送られました
- 7月1日: 森衆院議長が与野党幹事長らと会談し、正常化への調整を開始しました
- 7月2日: 議長の要請を受け、与野党が皇室典範改正案の取り扱い協議に入ることになりました
このように、答弁拒否、審議拒否、法案の職権付託という複数の対立が絡み合っています。この記事では「なぜここまでこじれたのか」を、選挙制度の観点から読み解いていきます。
協議がまとまらなければ比例45削減が自動発動する
今回、自民党と日本維新の会が6月24日に共同提出した衆院定数削減法案は、単純な「定数を減らす法案」ではありません。その仕組みはこうです。
- 衆議院に与野党でつくる選挙制度の協議会を設置する
- 協議会が法施行から1年以内に結論を得られなかった場合、比例代表のみを45議席削減する
現在の衆議院の定数は465議席で、内訳は小選挙区289、比例代表176です。この法案が発動すれば、比例は176から131へと約4分の1が削られ、総定数は420になります。
ポイントは「協議がまとまらなければ比例削減が自動的に発動する」という設計です。削減の是非そのものを採決するのではなく、協議の不調を発動条件にする形になっています。国民民主党の玉木雄一郎代表はこの案を「自民、維新に有利。事実上のゲリマンダーになる」と批判したと報じられています。この設計が持つ政局的な意味は、後半の考察・分析で詳しく見ます。
なぜ比例「だけ」を削ると影響が偏るのか
議員定数の削減そのものには、国会のスリム化や経費の削減、「まず政治家が身を切るべきだ」という考え方など、一定の合理性と根強い支持があります。一方で、同じ「削減」でも、どこを削るかによって影響の出方は大きく異なります。
小選挙区は各選挙区で1人しか当選しないため、全国に強固な組織を持つ大政党が圧倒的に有利です。一方、比例代表は得票率に応じて議席が配分されるため、小選挙区では勝ちにくい中小政党や新興政党にとって、ほぼ唯一の議席の受け皿になっています。
しんぶん赤旗が今年2月の衆院選結果をもとに行った試算では、比例45削減を当てはめると、自民・維新の両党で総議席の8割超(78%から82%へ上昇)を占める一方、中小政党は軒並み与党を大きく上回る減少率になるとされています。党派色のある媒体の試算であることは踏まえる必要がありますが、「比例のみの削減は大政党に有利に働く」という方向性自体は、制度の仕組みからも導かれる帰結です。
自党提出の法案採決を欠席した国民民主・参政
今回の局面を整理するうえで欠かせないのが、6月30日の国旗損壊罪法案の採決です。
国民民主党と参政党は、この法案の共同提出者です。両党とも法案の内容には賛成の立場でしたが、与党の国会運営に抗議する野党共同歩調の一環として、採決を欠席しました。「賛成のはずの政党まで欠席した」として、国会運営への信頼を損なう行動だという批判も出ています。
また、両党はいずれも小選挙区よりも比例代表で議席を積み上げてきた政党であり、比例45削減の影響を直接受ける立場にあります。この欠席が持つ政局的な意味は、考察・分析で扱います。
皇室典範改正案とは何か
いま国会正常化の入口として浮上しているのが、皇族数の確保に向けた皇室典範改正案です。
改正案の柱は2つあります。女性皇族が結婚した後も皇族の身分を保持できるようにすること、そして旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎えられるようにすることです。皇族数の減少が続くなかで皇室活動の担い手を確保するための制度改正で、国会では各党による合意形成が続けられてきました。
ただし、養子として皇族となった男系男子に男の子が生まれた場合、その子が皇位継承資格を持つとした規定には、野党から異論が出ています。
もう1つ、このニュースを読むうえで大事な前提があります。皇位継承に関わるテーマは「政争の具にしない」という建前が与野党に共有されており、審議には落ち着いた国会環境が必要とされることです。野党5党が「静謐な環境」の回復を求めているのは、この文脈です。この建前が今の政局でどう機能しているかは、考察・分析で扱います。
海外の反応
今回は国内政局のテーマであり、Redditのコメント数も全体的に少なめです。
そのため関連する複数のRedditスレッドから反応を紹介します。
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
議員削減と大阪「第二首都」構想をめぐる反応
彼女の頭の中には、「実際に日本国民のために統治する」という発想が一度もよぎったことがないみたいだ。最低だ。
たぶん、他の政治家や権力者との人脈づくりの方が大事なんだろうね。
首都が2つあるって、どういう意味なの?
東京への集中を減らすということだと思う。巨大地震が起きた時、東京は大阪よりリスクが高い。
つまり、一つのカゴに卵を全部入れないようにして、大阪も少し発展させるということ。
東京の負担を軽くして、大阪を成長させるなら、経済的には全体としてプラスだと思う。
ただ、大阪の地元住民にとっては、家賃が今のところ大都市としてはかなり妥当な水準なのに、東京並みの価格になって手が届かなくなる可能性がある。
それは、実際に企業や人がそちらへ移って、都市の人口や需要が拡大するなら、という話だけどね。
候補になっている都市は複数ある。この投稿が示しているのは、勝者が実力や条件で選ばれるのではなく、現首相が自分を権力の座に押し上げるのを助けてくれた地元多数派政党の指導部に報いるために選ばれるのではないか、ということだ。
第二首都を置くなら関西にするべきなのはかなり明白だと思うし、その地域で現実的に対応できるインフラを持っている都市は大阪くらいだと思う。
福岡は好きだけど、合理的な選択肢にするには公共インフラが足りない。関東のどこかに置くというのも論外だ。
維新に借りを感じている? この国に住んでいる人間はどうなるんだよ?
維新はこの国のかなり大きな部分を代表している政党だよ。それが代表制民主主義というものだ。
いや、その線引きを曖昧にするべきじゃない。連立相手として維新と協力するのはいい。
でも、個人的に恩義を感じているから余計なことをするのは駄目だ。そこまで行くと、彼女はもう国民を代表しているのではなくなる。
「個人的」というのはそういう意味だし、それは彼女の仕事ではない。
国旗損壊罪法案をめぐる反応
これって問題なの?
抗議者が旗を燃やしたなんてニュース、今まであった? 自分は見たことがないけど。
それより経済は……。
近所のスーパーでは、ワールドカップ代表チームへの応援メッセージを旗に書いてくださいって客に頼んでいたよ。
自分が日本に住んで5年で見た中では、あれが「国旗への器物損壊」に一番近いと思う。
とても差し迫った問題だね……。
自分はこれに問題を感じない。日本はすでに刑法第4章第92条で、外国国旗の損壊を犯罪にしている。
両方を犯罪化するか、あるいは法律を緩和するか、そのどちらかにするのは筋が通っていると思う。
自分としては、政治的表現の形を犯罪化しないでほしい。
国旗みたいな些細なものから始まり、「国旗を燃やすことが国家への侮辱なら、皇室批判はどうなのか? 政党批判は? 特定政策への批判は?」という話になる。
どんな写真や音楽が一線を越えるのか、という問題にもなる。
こういう国旗崇拝は、いつもナショナリズムの象徴だ。そして権威主義的な動きでもある。
自国の旗である限り、許容されるべきだと思う。
この法律を通すことで、もっと差し迫った問題に使えるリソースが奪われないなら、自分は別に問題ない。
むしろ、これに反対している側の方がひどい。ただ反対のために反対して、みんなの時間を無駄にし、邪魔しているだけだ。
うーん。
日本の国旗を侮辱するのは確かに良くないが、沖縄県は中国のものだと思う人は、中国国内でもごく少ないと思う。
優先しなくてもいいと考える。これ、お金がかかるからね。
今は苦しんでいる住民にその金を回せば?
比例代表削減をめぐる制度論への反応
これって、いいことじゃないの?
間違いなく良いことではない。日本の選挙制度はすでに、与党の自民党にかなり有利に傾いている。実際の得票割合に比べて、より多くの国会議席を得られるようになっていて、小政党は得票割合よりもずっと少ない議席しか得られない。
たとえば、共産党は前回選挙の比例代表部分で総得票の4%強を得たが、176議席中4議席、つまり2.2%しか取れなかった。小選挙区でも総得票の4%強を得たが、289議席中0議席だった。
この変更は、その影響をさらに大きくする。さらに、自民党が得票率50%を大きく下回っていても、多数派政権を作れる可能性を高める。つまり、日本の多くの人が明確に非自民の連立政権を望んでいたとしても、そうなりにくくなるということだ。
これはまた、少数政党が実質的に意味を持たず、ごく少数の巨大な勢力だけが支配する、アメリカ型の制度に近づく一歩でもある。新しい政党が制度に入り込み、勢いを得ることも、はるかに難しくなる。
良いか悪いかだけで片づくものなんてない。常にトレードオフだ。
高市首相の比例議席削減指示をめぐる反応
彼女はそう遠くないうちに退陣するだろうね。
なぜそう思うの? つまり、その根拠や情報源は何?
最近の名誉毀損動画や、選挙資金法を回避した疑惑をめぐるスキャンダルで、彼女の政治生命は終わる可能性が高い。今回は本当に終わりだと思う。
10年前は無傷で逃げ切ったが、それが彼女を増長させただけだった。今、彼女が崩れていく過程を見ているんだと思う。
彼女は権力を握ってから、ほとんどすべての対応をひどく失敗している。
同感。政策に関して、彼女が何度も方針転換していることも忘れてはいけない。
それに、裏で動く人物である麻生太郎とも、財務大臣の片山とも、うまくいっていないという噂もある。
どうして何もかも失敗している人間が、それでも人気を保ち、職にとどまり続けられるんだ?
明確で望ましい代替候補がいない時、人々がどれだけのことを許容するかには驚くと思うよ。
自民党内の彼女のライバルたちが、彼女に不利な証拠を全部、文春にリークしているんだよ。
考察・分析
答弁拒否は入口、本丸は選挙制度だった
まず確認しておきたいのは、答弁拒否の問題自体は決して軽視できないということです。首相が国会で説明を尽くすことは議院内閣制の基本であり、通告された質問への答弁を書面で代えるという対応が異例であることは間違いありません。
しかし、今回の野党の抵抗の強さを、答弁拒否への抗議だけで説明するのは不十分です。審議拒否がここまで全面化した背景には、比例45削減という選挙制度の本丸があります。
その証拠が、国旗損壊罪法案の採決欠席です。もし争点が答弁拒否だけなら、各党は個別の法案ごとに賛否を示す余地がありました。共同提出者である国民民主党と参政党が、批判を承知で欠席を選んだという事実は、野党共同歩調を崩せない事情、すなわち比例削減阻止が、それだけ重いことを示しています。
野党側から見れば、この法案は協議のテーブルに時限爆弾を置かれたに等しい構図です。協議に応じなければ比例が削られ、応じても与党側が譲らなければやはり削られる。そして国民民主党も参政党も、比例代表で議席を積み上げてきた政党です。両党にとって比例45削減は、政策の問題ではなく生存条件の問題です。だからこそ、自党の法案の採決欠席という批判覚悟の行動にまで踏み切ったと整理できます。
答弁拒否は対立が表面化する入口でした。しかし、対立をここまで深刻にしているのは、選挙制度の主導権争いです。
連立の成果作りを急ぐ高市政権と維新
与党側には、この法案を急がなければならない事情があります。
日本維新の会にとって、議員定数削減は「身を切る改革」の看板政策であり、連立入りの成果として示す必要があります。副首都法案も同様に、維新が長年掲げてきた重要政策です。高市政権にとっては、これらを前に進めることが維新との連立維持の条件になります。高市首相と維新の吉村洋文代表は、7月17日の会期末までに定数削減法案の成立を目指すことで一致したと報じられており、両党は法案成立に向けた覚書の調整も進めています。
自民党にとっても、比例削減は長期的には小選挙区に強い大政党に有利に働く可能性があり、反対する動機は乏しいのが実情です。党内には「比例だけの削減は中小政党への影響が大きく、野党との関係を損なう」という慎重論もありましたが、最終的には高市首相の指示のもとで法案が了承されました。
つまりこの対立は、「連立の成果を作りたい与党」対「生存条件を守りたい野党」という構図であり、答弁拒否はその表面に現れた一断面だと見ることができます。
皇室典範という降り口さえ駆け引きのカードになっている
完全停滞に見えた国会が動き始めたのは、皇室典範改正案という「双方が降りられる出口」があったからです。
野党にとって、審議拒否を続けたまま皇室典範の審議まで止めれば、「皇位継承を政争の具にした」という批判を受けかねません。「静謐な環境」の回復を求めるという形は、与党の国会運営への抗議を続けながら、審議復帰への名分を確保する動きだと読めます。与党側にとっても、議長の要請に応じる形であれば、野党への譲歩ではなく仲介の受け入れとして正常化に踏み出せます。双方の面子を保てる出口として、皇室典範が機能し始めているわけです。
ここで見逃せないのは、維新の遠藤敬国対委員長が「定数削減法案などの衆院採決後に皇室典範改正案の審議に入る」べきだと主張していることです。国会正常化の入口であるはずの皇室典範審議さえ、定数削減の採決と結びつける交渉カードになっています。どちらを先に処理するかという順番の争いが、そのまま定数削減法案の成否に直結するからです。
今後の見どころは3つあります。第一に、皇室典範改正案の審議入りと引き換えに、定数削減法案の扱いがどう調整されるか。第二に、自民・維新が会期内成立にこだわった場合、7月17日の会期末を前に会期延長や採決強行に踏み切るのか。第三に、野党側が「静謐な環境」を名分に審議へ復帰した後、集中審議や党首討論の要求をどこまで押し込めるか。いずれのシナリオでも、交渉の中心に比例45削減があり続けることは変わりません。
「議員削減」という言葉の強さと危うさ
議員定数削減は、世論の支持を得やすい政策です。「政治家を減らせ」「身を切る改革」という言葉は分かりやすく、反対する側は「自分たちの議席を守っているだけだ」と見られやすい。野党にとって、この批判の構図こそが最大の足かせになっています。
しかし、定数削減には必ず「どこを削るのか」という問題がつきまといます。
比例を削って削られるのは、単なる議員の人数ではありません。小選挙区では拾えない民意の受け皿です。日本の政治には現在、保守、改革保守、中道、リベラル、左派、新興政党まで、多様な立場が混在しています。その多様性が国会に反映されるルートは、実質的に比例代表しかありません。
定数削減を支持する立場から見れば、これは「まず政治家が身を切る」という当然の要求です。反対する立場から見れば、民意の受け皿を削る制度変更に見えます。どちらの見方にも、それぞれの筋があります。ただ、賛成・反対のどちらを取るにしても、「何議席減らすか」という数字だけでなく、「どの議席を減らすと、どの民意が届きにくくなるのか」という中身まで見ないと、この問題は判断しにくいように思います。
日本に二大政党制は合っていたのか
この問題は、さらに根の深い問いにつながります。1990年代の政治改革で導入された小選挙区中心の制度は、政権交代可能な二大政党制を理想として設計されました。1994年の改革から30年あまり。その理想はどこまで実現したでしょうか。
この設計に成果がなかったわけではありません。政権交代のプレッシャーは与党への緊張感を生み、2009年には実際に政権交代も起きました。責任の所在が明確になり、政権選択を有権者に直接問えるという小選挙区制の長所は、今も失われていません。
一方で、課題も積み上がってきました。自民党が巨大な包括政党として残り続け、野党側は政策論よりも「反自民」の候補者調整に追われる構図が続いています。小選挙区では死票が増え、有権者は「支持したい候補」よりも「勝たせたくない候補を止められる候補」への投票を迫られる場面が増えます。政党の多様性は見えにくくなり、自民党内の派閥や政策グループが事実上の「多党制」の役割を代替してきた面もあります。
二大政党制の本家とされるアメリカでも、第三党は育たず、勝者総取りの制度が政治的分断を深めているという指摘が近年強まっています。もっとも、多党制の側にも連立協議の不安定さや「決められない政治」への批判があり、どちらの制度にも代償はあります。そのうえで、日本がいま二大政党型の方向へさらに一歩進むべきなのかどうか。比例45削減は、この問いを正面から突きつけています。
中選挙区復活ではなく、現代型複数人区という選択肢
では、対案はあるのでしょうか。
「昔の中選挙区制に戻せ」という主張は昔からありますが、これには金権政治や派閥政治の復活という批判がつきまといます。実際、かつての中選挙区制では、同じ政党の候補同士が争うために政策では差がつかず、個人後援会とカネの力がものを言う構造がありました。
ただ、当時と現在では制度設計の道具立てが違います。政治資金のデジタル化・即時公開、収支のオンライン監査、選挙運動のルール整備といった仕組みを組み合わせて、「複数人区の民意反映力」と「資金の透明性」の両立を目指す。そうした現代型の制度も、選択肢の一つとして検討する余地はあるはずです。
複数人区であれば死票は減り、中小政党や地域政党にも議席への道が残ります。有権者の選択肢は増え、小選挙区制のような過度な二択化を避けられます。もちろん代償もあります。同党候補間の競争や地元利益誘導が再燃するおそれに加え、政権の安定性が下がるという二大政党制側からの反論にも理があります。それでも、こうした損得を比べる議論の入口にすら立てていないのが現状のように見えます。
いま必要なのは、比例を削るか守るかの二択ではなく、多様化した日本の民意をどう国会に反映させるかという制度設計の議論そのものではないでしょうか。
総括
「議員削減」の裏で削られようとしているもの
今回の国会対立は、表面だけを見れば、答弁拒否と審議拒否の応酬という、よくある与野党の駆け引きに見えます。
しかし、国民民主党や参政党が自ら共同提出した国旗損壊罪法案の採決まで欠席したことで、対立の本丸が比例45削減にあることが浮かび上がりました。比例削減は「議員定数削減」という分かりやすい看板を持つ一方で、国会に届く民意の幅を狭める可能性を持っています。高市政権と維新にとっては連立の成果作りであり、野党にとっては自党の生存条件を左右する制度変更です。そして、皇室典範改正案という停滞の出口が見えてからも、その審議の順番さえ定数削減をめぐる駆け引きのカードになっています。
そしてこの問題は、1994年政治改革以来の問いに私たちを引き戻します。日本に二大政党制は本当に合っていたのか。小選挙区中心の制度は、多層化した日本の民意を受け止められているのか。「議員削減」という言葉の裏で、削られようとしているのはどの民意なのか。
今回の政局は、単なる国会の駆け引きではなく、日本の選挙制度がどこへ向かうのかを問う局面でもあります。削減に賛成する立場にも、反対する立場にも、それぞれの理屈があります。だからこそ、「議員を減らす」という言葉に出会ったとき、「それで削られるのはどの民意か」という角度からも一度眺めてみると、このニュースの見え方が少し変わってくるかもしれません。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
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関連書籍紹介
『政治改革再考 変貌を遂げた国家の軌跡』
待鳥聡史(新潮社/2020年05月刊)
1990年代に立て続けに行われた選挙制度改革・省庁再編・司法制度改革・地方分権を「一つの大きな政治改革」として捉え直し、それが日本という国家をどう変えたのかを検証する一冊です。小選挙区制の導入がどんな理想のもとで設計され、その後どのように当初の意図から離れていったのかが、比較政治学の視点から丁寧に描かれます。
今回の記事で扱った「日本に二大政党制は合っていたのか」という問いは、本書が正面から検証したテーマです。比例45削減のニュースを入口に、そもそも1994年改革は何を目指していたのかまで遡って考えたい方におすすめします。
『民主主義の条件』
砂原庸介(東洋経済新報社/2015年03月刊)
選挙制度・政党組織・二院制・選挙管理という4つの視点から、「有権者の声が政治に反映されにくいのはなぜか」を基礎から解きほぐす政治学の入門書です。小選挙区制と比例代表制それぞれの長所と短所、死票の問題、一票の格差と定数配分など、選挙制度のニュースを読み解くための道具が一通り揃います。
今回の記事で扱った「比例だけを削ると何が起きるのか」という論点を、制度の仕組みから自分の頭で判断できるようになりたい方に向いています。政治不信を嘆く前に「仕組み」を知りたいという読者にこそ手に取ってほしい一冊です。
参考リンク
- 高市首相「金曜夜から寝てない」 中傷動画めぐり答弁拒否、陳述書の提出で済まそうという異例の対応|東京新聞
- 高市首相、中傷動画の追及かわす 答弁準備で「睡眠取れず」―野党反発、秘書招致を要求|時事ドットコム
- 与野党対立、衆院にも拡大 定数・副首都強行で審議拒否|時事ドットコム
- 自民・維新 衆院定数 比例のみ45議席削減法案を共同提出|NHK
- 【詳しく】国旗損壊罪法案 衆院本会議で可決 全野党が欠席|NHK
- 衆院比例45削減案 自維が総議席の8割超に|しんぶん赤旗
- 副首都・定数削減、与党が強行 野党、審議拒否を継続―森衆院議長、与野党幹部と1日会談|時事ドットコム
- 皇室典範改正案 与野党が協議へ 与党は定数削減法案成立も図る|NHK
- 皇室典範改正案 養子の男の子に皇位継承資格 審議で論点に|NHK


