今回の記事の重要ポイント(三点)
・2026年7月13日、韓国のKOSPI(韓国総合株価指数)は8.95%安と急落し、今年7回目のサーキットブレーカーが発動した。SKハイニクスは15.37%安と上場以来最大の下落となったが、15日には一転して指数が6.24%高となり、買い注文を抑えるサイドカーが発動する乱高下となった。
・背景には個人投資家の「借金投資」の膨張がある。信用融資の残高は6月に過去最高の38兆ウォン(約4兆円)台に達し、韓国銀行の集計では、未収金とレバレッジETFを加えた関連資金が5月末時点で約75兆ウォンに積み上がっていた。サムスン電子とSKハイニクスの2社だけでKOSPI時価総額の半分超を占める。
・借金による集中投資が社会全体に広がった背景には、賃金と貯蓄では住宅価格に届かず、年金への信頼も揺らぐ構造がある。個人の射幸心だけでは説明できない「合理的な絶望」の存在が、この問題を一過性の相場現象ではなく社会問題にしている。
ニュース
7月13日、韓国のKOSPIは前営業日比8.95%安の6,806.93で取引を終えた。下落率はパンデミック以来最大で、午後1時28分には全銘柄の取引を20分間停止するサーキットブレーカーが発動した。発動は2026年に入って7回目となる。SKハイニクスは15.37%安の184万5,000ウォンと上場以来最大の下落率を記録し、サムスン電子も10.7%安で引けた。要因としては、SKハイニクスの米ナスダック上場後の利益確定売り、メモリー半導体市況が天井に近いとの見方、4〜6月期営業利益が市場予想を下回るとのアナリスト観測、米イラン間の戦闘再燃が挙げられている。
SKハイニクスは7月10日、米ナスダック市場にADR(米国預託証券)を上場したばかりだった。調達額は266.5億ドルと、外国企業による米国での株式売り出しとして史上最大になったと報じられている。この米国上場株が14日のニューヨーク市場で27.29%高と急騰し、韓国の原株に対して50%を超える価格差が生じた。英バークレイズの目標株価引き上げや、6月の米消費者物価指数の下振れが買いを勢いづけたとされる。これを受けた15日のソウル市場では、KOSPIが6.24%高の7,284.41まで急反発し、取引開始直後には買い方向のサイドカーが発動した。SKハイニクスは8.83%高、サムスン電子は6.27%高で引け、外国人投資家は2.34兆ウォンを買い越した。
乱高下の裏では個人投資家の強制決済が急増している。委託売買の未収金に基づく反対売買(証券会社による保有株の強制処分)は、7月1日から10日までの累計で4,258億ウォンに達し、9日には単日で1,422億ウォンと過去最大規模に膨らんだ。信用融資の残高は6月23日時点で38兆4,786億ウォンと過去最高を更新していた。
金融監督院の李賛珍(イ・チャンジン)院長は6月22日、5月末に導入されたばかりの単一銘柄レバレッジETFについて「証券会社を潤しただけ」と承認の拙速を認める異例の発言を行い、翌23日にはKOSPIが9.99%安と過去最大の下げ幅(910ポイント)を記録した。7月15日午前には金融当局が李在明(イ・ジェミョン)大統領への業務報告を行い、大統領は単一銘柄レバレッジETFについて「補完対策を速やかに用意する」よう韓国取引所理事長らに指示した。7月15日時点の焦点は、膨らんだ借金投資の解消がどこまで広がるか、そして規制そのものが次の急落の引き金にならずに市場を落ち着かせられるかに移っている。
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補足説明
「借金投資」とは何か 証券会社から借りて株を買う仕組み
韓国で「빚투(ピットゥ、借金投資)」と呼ばれているのは、借りたお金を上乗せして株を買う投資です。代表が信用取引(信用融資)で、手元の資金や保有株を担保に証券会社から借り入れ、手元に100万円しかなくても200万円分、300万円分の株を買います。株価が上がれば、利益は元手だけの場合の2倍、3倍になります。
問題は下がったときです。借りたお金は、株価がいくら下がっても減りません。担保にしている株の価値が一定の水準を割ると証券会社は追加の担保(追証)を求め、期限までに入金できなければ、保有株を本人の意思と関係なく売却して貸したお金を回収します。これが反対売買です。7月上旬の10日間では、日本円でおよそ450億円分の株がこの仕組みで強制的に売られました。決済資金の不足分を証券会社が3営業日だけ立て替える未収取引も同様で、期限までに埋められなければ翌営業日に強制処分されます。
この借金投資の規模が、いま過去最高の水準にあります。信用融資の残高は6月に38兆ウォン(約4兆円)を超え、昨年末の27兆ウォンから半年で10兆ウォン以上増えました。ロイター通信によれば、レバレッジ型の投資全体では5月末に過去最高の60兆ウォンに達しています。しかも借入の向かう先は偏っていて、サムスン電子とSKハイニクス2銘柄向けの信用融資は年初の2.53兆ウォンから9.1兆ウォンへと約3.6倍になりました。
単一銘柄レバレッジETFという新商品
今回の乱高下で震源の一つになったのが、5月27日に韓国で解禁されたばかりの単一銘柄レバレッジETFです。ETFは本来、多くの銘柄を詰め合わせて指数に連動させる「投資の詰め合わせパック」で、分散でリスクを抑えるのが持ち味でした。レバレッジETFはそこに倍率を掛け、対象が1日に3%上がれば6%上がるように設計されています。単一銘柄型はさらに、詰め合わせではなくサムスン電子やSKハイニクスといった一つの会社の株価だけに2倍で連動します。分散という持ち味を捨て、一社への賭けを倍にした商品です。
この商品には、乱高下のたびに損失が積み残る性質があります。毎日「その日の値動きの2倍」を追いかけるため、下げて戻す往復のたびに少しずつ目減りするからです。計算例で見ると次のようになります(開始時点を100とした場合)。
| 1日目に15%下落 | 2日目に13%上昇 | 差し引き | |
|---|---|---|---|
| 株そのもの | 85.0 | 96.1 | 約4%の損失 |
| 2倍レバレッジETF | 70.0 | 88.2 | 約12%の損失 |
(各日の騰落率を単純に適用した概算。手数料・金利は考慮していない)
株そのものはほぼ戻ったのに、2倍ETFの損失は3倍残る。これがボラティリティ減価と呼ばれる現象で、今週のSKハイニクス(13日に15.37%安、15日に8.83%高)のような乱高下では、原株の戻りを見て安心した保有者の口座に、想定より大きな損失が残ります。
それでもこの商品には資金が殺到し、16本合計の純資産は発足時の約30億ドルから数週間で約91億ドルに膨らんだと報じられています。韓国銀行の集計では、指数型を含むレバレッジETF全体の純資産は5月末時点で35.4兆ウォンに達し、信用融資・未収金と合わせて約75兆ウォンのレバレッジ資金が市場に積み上がりました。韓国銀行は「調整局面では反対売買とETFの調整売りが同時に出て、借金投資をしていない人の損失も膨らみうる」と警告しています。
KOSPIの半分が2銘柄になるまで
今回の乱高下の土台には、この1年の記録的な株価上昇があります。経緯を時系列で整理すると次のようになります。
- 2025年6月: 李在明大統領が就任。大統領選で「コリアディスカウント(韓国株の割安評価)の解消」と「KOSPI5000」を公約に掲げる
- 2025年7月: 取締役に株主利益への配慮を義務づける商法改正が成立。企業価値向上(バリューアップ)政策が再始動
- 2025年末: KOSPIは5,809で取引を終え、年間38%の上昇。公約の5,000をこの時点で突破
- 2026年4月: サムスン電子とSKハイニクスの2社でKOSPI時価総額の42%を占める
- 6月18日: AI半導体への期待からKOSPIが初の9,000台(9,063.84)。2社の比率は54.4%に上昇
- 6月19日: 取引時間中に9,385.59の史上最高値。信用融資残高は38兆ウォンを突破
- 6月22日〜23日: 金融監督院長がレバレッジETF承認への反省を表明。翌日KOSPIは9.99%安と過去最大の下げ幅を記録
- 7月10日: SKハイニクスが米ナスダックにADR上場。調達266.5億ドルは外国企業の米国上場として史上最大と報じられる
- 7月13日: KOSPIが8.95%安の6,806.93。年7回目のサーキットブレーカー
- 7月15日: KOSPIが6.24%高の7,284.41。買い方向のサイドカー発動。同日午前、李在明大統領が単一銘柄レバレッジETFの補完対策を指示
株価指数は時価総額(会社の値段)の大きい銘柄ほど重みが増す仕組みなので、値上がりした銘柄は指数の中でさらに大きな場所を占めます。4月に42%だった2社の比率が2か月で54.4%まで上がったのはこのためです。6月の1か月間で個人投資家はKOSPI銘柄を16.2兆ウォン買い越し、うち8.4兆ウォンがサムスン電子に向かう一方、中小型株の多いコスダック市場からは個人資金が流出し、指数は月間で約7%下落しました。韓国株全体が上がったというより、2つの銘柄が指数を持ち上げる相場でした。
海外の反応
7月13日の急落は、英語圏の掲示板でも話題になりました。ETF投資家が集まるr/ETFsに立った暴落速報のスレッドは、2日で790を超えるポイントと140件のコメントを集めています。論調は「1年で2倍になった後の調整だ」と冷静さを促す声が優勢で、パニックを茶化す軽口も目立ちますが、2銘柄への集中や信用買いの構造を指摘する分析も交ざります(英語圏のネット上の反応であり、韓国の世論を代表するものではない点はご留意ください)。
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
1年で120%上がることの方が普通じゃない。全体として合理的な水準の市場ではなかったんだから、調整は当然ある。120%上がった後の9%の下落を大惨事と呼ぶのは、さすがに無理があるだろう。
公平に言えば、1日9%の下落は無視していいものじゃない。このペースが続けば、何か月分もの上昇が消える。
たった1年で125%上がってるんだぞ。健全な市場とは上がり続けて止まらないものだと、本気で思ってるのか。
でも健全な市場は、1日おきに+9%と−9%を行ったり来たりしないんだよ。
まあ、市場のベータが実質メモリー大手2社なんだから、多少のボラティリティは出るさ。
サムスンとSKハイニクスは半導体メーカーで、2社合わせて韓国市場の時価総額の半分以上を占めている。
米国市場と同じで、この相場は主に信用買いに支えられている。だから、ここからずっと悪くなる可能性は十分ある。過去の実績は未来を保証しない。
1か月くらい前に、韓国の人たちが乗り遅れたくない一心で、SKハイニクスみたいな大型株を借金して買ってるという報道がなかったか? 「今回は違う」ってやつだ。ここの住人ですら、あれが天井のサインだと言ってたぞ。
完全に現実が見えてない意見だ。「健全な」市場が12か月足らずで3,200から9,050まで上がって、そこから自由落下するのが普通だと思うか? 市場はAIで過剰に膨らんでいて、小さい市場は米国みたいな大きい市場より先にバブルの破裂を感じることになる。
健全な市場というのは、実際「上がり続ける」ものだよ。問題は、上がるのが速すぎて、まっとうな利益と、投機・ギャンブル・実現するかどうかも分からない期待が区別できなくなっていることだ。
金曜までに毎日9%ずつ下がり続けたら教えてくれ。1週間で45%下がったら「弱気相場だ、恐慌2.0だ」という話を信じてもいい。それまでは、よくある調整だし、来月には20%上がってたりするさ。
株価はモノの価格と違う動きをするものだし、FOMO(乗り遅れの恐怖)のせいで大幅に過大評価されることもある。だから、ファンダメンタルズが改善していても株価は暴落しうる。
SKハイニクスもひどいことになってるな。利益が予想を8%下回ったんだ。500%成長のはずが508%じゃなかった、ってことだよ。さあ大変だ、パニック売りだ。
「株式市場」ってのは、賭け金の大きいポーカーの可愛い言い方だよな。
ルーレットだろ。
こういう時って押し目買いはアリかな? 去年の後半に始めたばかりの初心者なんだけど。
落ちてくるナイフを掴むな。ここで買うのはただのギャンブルだ。待て。どうしても買いたいなら、ポートフォリオのごく一部だけで、少しずつ時間を分けて買え。
日経平均も(ここまで極端じゃないが)似た動きをしている。波及はありうるけど、日本は比較的ショックを吸収できる方だ。
「正式に弱気相場入り」ね。その1日後、今のところ18.56%の上昇です。
もう戻ってきたぞ。こういう年寄りくさい板の逆を張れば勝てるんだよ。
考察・分析
働いても届かないものが、市場では届いて見えた
借金投資の膨張を支えているのは、射幸心よりも生活設計の計算です。日本経済新聞は借金投資ブームの背景として、住宅価格の高騰と年金制度への不信を挙げています。ソウルの住宅価格は平均的な賃金で手が届く水準を大きく離れ、老後を支えるはずの国民年金は基金の枯渇時期が繰り返し議論されてきました。働いて貯めるという通常の階段で人生設計が成立しないと感じたとき、目の前で同世代が半導体株で資産を倍にしている。この条件がそろった社会では、信用取引もレバレッジETFも「賭け事」ではなく「唯一残された階段」に見えます。
実際に報じられている個人の姿は、遊び金を張る投機家というより、乗り遅れの恐怖に追われる生活者です。ロイター通信は、約1,500万ウォンの銀行の当座貸越(口座残高を超えて引き出せる借入枠)でサムスン電子のレバレッジ型商品を買い、含み益20%が含み損17%に転じた女性や、SKハイニクスの現物株は高くなりすぎたため代わりに2倍ETFを選んだという主婦の事例を伝えています。日本経済新聞が伝えた40代の会社員は、妻に内緒で借金をして株を買った理由を、株高の波に乗り遅れたくなかったからだと語ったとされます。
ただし、構造がすべてを決めたわけではありません。同じ住宅価格と同じ年金不安の下でも、韓国の家計の大多数は借金で株を買っていません。構造は人をレバレッジへ強く誘導しますが、最後の一歩は本人の選択として残ります。規制と自己責任の線引きという次の論点は、この構造と選択の重なりの上に生まれます。
指数の最高値が「自分の貧しさ」を作る
この相場の残酷なところは、株を買わなかった人まで敗者にした点にあります。韓国メディアには「市場は史上最高値なのに自分の口座はマイナス」「SKハイニクスを持っているかどうかが口座の収益率を決める」という個人投資家の声が並びました。韓国には「벼락거지(ピョラッコジ)」という言葉があります。雷(벼락)と乞食(거지)を組み合わせた新語で、2020〜21年の資産急騰期に生まれました。自分の収入も貯金も変わっていないのに、資産を持つ人が急に豊かになったせいで相対的に貧しくなった人を指します。半導体2社が指数を持ち上げたこの1年は、この言葉が指す状況をそのまま再現しました。
こうなると、投資への参加は「増やす選択」ではなく「脱落しない義務」に近づきます。韓国銀行が名指しで警告したのは、取り残される恐怖(FOMO)から急騰を追いかけ、レバレッジへの依存を強める後発の投資家でした。後から入る人ほど高値で買い、同じ利益を得るには倍率が必要になる。信用融資の残高が過去最高を更新したのは、市場が9,000台の高値圏に到達した後、急落のわずか数日前でした。
そして下げの日には、同じ仕組みが逆向きに回ります。追証を払えない口座の株は自動的に売られ、その売りが次の下落と次の追証を呼ぶ。7月上旬の反対売買4,258億ウォンは、この逆回転が実際に始まった音です。上げの日は乗り遅れの恐怖が新しい参加者を呼び込み、下げの日は強制決済が退場者を刈り取る。参加も退場も本人の相場観と関係なく進むところに、この構造の社会問題としての性格があります。
呼び水を注いだ政府に、蛇口は静かに閉められない
韓国政府は、この相場の設計者の一人でした。李在明大統領は「KOSPI5000」を公約に掲げて当選し、株主利益を重視する商法改正やバリューアップ政策で海外マネーを呼び込み、株価上昇を政権の成果として位置づけてきました。単一銘柄レバレッジETFを承認したのも金融当局自身です。それだけに、承認は拙速で「証券会社を潤しただけ」だったという金融監督院長の異例の自己批判は重いのですが、市場はその重さに翌日9.99%の急落で応えました。そして7月15日には、KOSPI5000を公約した大統領自身が、補完対策を急ぐよう指示する側に回りました。
ここに規制のジレンマが露出しています。レバレッジが積み上がった市場では、それを絞る政策の予告自体が「買い手が減り、強制決済が始まる」という予想を生み、実施前に先回りの売りを引き起こします。当局が口を開けば急落し、黙っていれば残高がさらに積み上がる。信用取引の解消が急落を増幅した2015年の中国株や、不動産融資への総量規制がバブル崩壊の引き金の一つになった1990年の日本と、レバレッジを後から絞る難しさという点で同じ問題です。当局はすでに2時間の事前教育や1,000万ウォンの基本預託金、信用・未収取引の制限を課しており、預託金の引き上げなどを検討していると報じられていますが、政界の一部から出ている上場廃止論のような強い措置は、それ自体がETFの解約売りを強制しかねません。
当局の側にも筋はあります。導入前から金融当局や韓国銀行は過熱に警告を発しており、より早く強く規制していれば、今度は「個人から資産形成の機会を奪う過保護だ」という批判を浴びたはずです。呼び水を注いだ政府が蛇口を閉める適切な瞬間は、振り返ればいつも過ぎ去った後にしか見えません。
対岸の火事と呼ぶには、日本の岸は近い
韓国で借金投資を膨らませた構造の入口は、日本にもすでにあります。違うのは進み方の速さです。「貯蓄から投資へ」を国策に掲げ、税制優遇(新NISA)で家計資金を市場へ誘導しているのは日本も同じで、住宅価格の高騰と年金への不安が投資の動機になっている点も重なります。日本の個人資金は幸い、多くが全世界型や米国株型のインデックス投信という分散された器に向かっており、借金で一国の2銘柄に賭ける韓国の形とは距離があります。
ただ、その分散にも死角があります。全世界型の投信も米国株指数も、時価総額の重みづけである以上、値上がりした一握りの巨大テック銘柄への比率が自動的に高まります。複数の投信を持っていても、中身が同じ銘柄群なら分散にはなりません。韓国の個人がKOSPI全体に投資したつもりで半導体2社に賭けていた構図は、規模と倍率こそ違え、指数投資そのものに内在する性質です。日経平均のレバレッジ型ETFが東証の売買代金上位の常連であり続けている事実も、日本の家計が「同じ方向への集中」と無縁ではないことを示します。経済教育に取り組む田内学氏は、「今始めないと損をする」と焦らせる語り口が金融教育や広告に混ざり込み、何のための投資かという中身の問いを素通りさせていると指摘しています。
韓国から持ち帰るべき教訓は、投資が危ないという話ではありません。有望な産業を国が育てることと、家計が指数・現物・信用・レバレッジETFで同じテーマに何重にも賭けることは、別の問題だという区別です。SKハイニクスがAI向けメモリーで世界的な競争力を持つ企業であることと、その株に借金で賭けた家計が無事であることは、今週見たとおり別の話です。
総括
賭場を責める前に、階段の壊れ方を見る
7月の韓国市場で起きたことは、欲に駆られた個人が自業自得の損をしたという物語には収まりません。働いて貯める階段が住宅にも老後にも届かなくなった社会で、政府が市場への道を舗装し、金融業界が倍率の高い乗り物を用意し、指数の最高値が乗らない人の相対的な貧しさを毎日映し出した。どの参加者も自分の持ち場では合理的に振る舞い、その合理的な選択が積み重なって全体が脆くなった。この構図こそ、この問題が韓国一国の、そして相場一局面の話で終わらない理由です。
乱高下はまだ続く可能性があり、38兆ウォンの信用融資の解消も規制の設計もこれからです。ただ、市場がどちらに動くかより長く残る問いは、階段の方にあります。働いて届く人生設計が壊れたままなら、規制で一つの賭場を閉じても、資金は次の賭場を探すだけです。市場の過熱を冷ますことと、市場に殺到するしかない事情を減らすこと。韓国が直面しているこの二つの課題のうち、後者は日本にとっても他人の宿題ではないように思います。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
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関連書籍紹介
『熱狂、恐慌、崩壊 金融危機の歴史』(原著第6版)
チャールズ・P・キンドルバーガー、ロバート・Z・アリバー著 高遠裕子訳(日本経済新聞出版/2014年09月刊)
17世紀のチューリップバブルから昭和末期の日本のバブル、リーマン・ショックまで、バブルの発生から崩壊までを繰り返し起きる「型」として描いた金融史の古典です。信用の膨張がどのように投機を加速させ、なぜ毎回「今回は違う」という空気の中で崩壊が訪れるのかを、数百年分の事例で跡づけています。
今回の記事で扱った韓国の信用融資・レバレッジETFの膨張も、この本が繰り返し描いてきた、信用の拡大が資産価格を押し上げ、その反転が強制売りを呼ぶという型そのものです。目の前の相場が特殊に見えるとき、歴史の型と照らし合わせて読みたい読者に向く一冊です。
『行動経済学が最強の学問である』
相良奈美香(SBクリエイティブ/2023年06月刊)
プロスペクト理論やヒューリスティクスなど、行動経済学の主要理論を初めて体系的にまとめた入門書です。人がなぜ損失を過大に恐れ、周囲の熱狂に流されて非合理な判断をしてしまうのかを、実験データとともに分かりやすく解説しています。
今回の記事で扱った、乗り遅れの恐怖による借金投資の膨張も、この本が説明する人間の意思決定のクセと地続きです。相場の熱狂がなぜ個人の理性を上回ってしまうのか、仕組みから理解したい読者に向く一冊です。


