恒大・許家印氏に無期懲役 日本のバブルと同じ回路で膨らんだ「全員が合理的だった」巨大バブル【海外の反応・解説】

恒大創業者・許家印氏に無期懲役。なぜ一企業がここまで巨大化できたのかを、地方政府の土地財政と住宅前売りの循環から解説し、日本の1980年代バブルと総量規制との共通点・相違点を比較。海外の反応つき。

今回の記事の重要ポイント(三点)

・2026年8月20日、深セン市中級人民法院は中国恒大集団の創業者・許家印(きょ・かいん)氏に無期懲役と個人財産の全額没収を言い渡し、関係者56人にも有罪判決を出した。

・恒大の急成長は、地方政府が土地を売り、銀行が貸し、購入者が完成前に代金を払うという「価格が上がり続ける前提」の循環に乗ったもので、日本の1980年代のバブルも土地を担保に融資が膨らむ同じ回路で育った。

・一人の経営者の罪を裁くことと、その罪を巨大化させた制度を検証することは別の問題で、中国が日本型の長期停滞を避けられるかは後者にかかっている。


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恒大創業者に無期懲役、関係者56人も有罪

中国最高人民法院の発表によると、広東省深セン市中級人民法院は2026年8月20日、中国恒大集団の創業者・許家印(きょ・かいん)被告に対し、集資詐欺罪、証券の詐欺発行罪、法人贈賄罪、職務侵占罪など8つの罪で無期懲役を言い渡した。政治的権利の終身剥奪と個人財産の全額没収も併科した。

判決は、恒大が2016年から2021年にかけて持続的かつ大規模な財務粉飾を行い、資産を水増しして負債を隠したと認定した。法人としての恒大集団に88億2000万元、子会社の恒大地産集団に70億元の罰金を科し、幹部ら関係者56人にも懲役18年から1年10か月の有罪判決を出した。

許被告は2023年9月に当局の強制措置下に置かれたと報じられ、2026年4月の公判で罪を認めたと伝えられている。恒大は2021年に実質的な債務不履行に陥り、2024年1月には香港の裁判所が清算を命じていた。


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恒大はどう大きくなり、どう止まったか

創業から判決までの30年

中国恒大集団は1996年に広州で生まれ、2009年に香港に上場し、2010年代には中国有数の不動産開発会社に成長します。創業者の許家印氏は一時、中国の長者番付の上位に名を連ねる存在でした。

時期出来事
1996年許家印氏が広州で恒大を創業
2009年11月香港証券取引所に上場
2019〜2020年売上を2年で約5641億元水増し(中国証券監督管理委員会が2024年に認定)
2020年8月当局が不動産会社の借入を制限する「三道紅線」を導入
2021年後半ドル建て社債の利払いができず、実質的な債務不履行に
2023年9月許氏が当局の強制措置下に置かれたと報道
2024年1月香港高等法院が清算を命令
2024年9月監査法人PwC中国に罰金と業務停止6か月の処分
2026年8月20日深セン市中級人民法院が許氏に無期懲役の一審判決

出典は中国最高人民法院、中国証券監督管理委員会、各社報道。

負債の総額は2021年の債務不履行の時点で約3000億ドル(当時のレートで約33兆円)と報じられ、2022年末の決算でも2兆4374億元に上ります。

「中国版リーマン・ショック」と呼ばれることもありますが、破綻したのは金融機関ではなく不動産開発会社です。損失は金融市場を通じて一瞬で世界に広がるのではなく、銀行・建設会社・地方政府・住宅購入者へ、広く、ゆっくりと染み出していきます。


土地を売る地方政府、先に払う購入者

恒大を育てたのは、中国の不動産開発に組み込まれた一つの循環です。地方政府が土地の使用権を売り、開発会社が銀行から借りてその土地を買い、建物が完成する前に住宅を売り出して購入者から代金を受け取り、そのお金でまた次の土地を買う。住宅価格が上がり続ける限り、この回転は止まりません。

この循環の起点に地方政府がいるのは、1994年の分税制改革(税収の多くを中央に集め、歳出の責任は地方に残した制度改革)の帰結です。地方は自前の税収が細る一方で、土地使用権の売却収入は全額を手元に残せる仕組みです。

国際通貨研究所のニュースレター(2025年9月)によれば、2023年の地方政府性基金収入(一般会計とは別枠の、特別会計にあたる収入)6兆6289億元のうち5兆6634億元が土地使用権の売却収入でした。この枠の中では、土地を売ることがそのまま地方の財源です。

もう一つの要は「前売り」です。中国では購入者が完成前に代金の大半を払い、住宅ローンの返済も引き渡し前から始まります。開発会社にとっては建てる前にお金が入る仕組みで、恒大はこの前受金を次の土地取得に回す回転を、業界でも最も速く回した会社でした。


家計はなぜ買い続けたのか

中国の家計にとって、住宅は資産のほぼすべてでした。中国人民銀行が2020年に公表した2019年の都市部世帯調査によれば、住宅は家庭の総資産の59.1%を占め、金融資産は20.4%にとどまります。持ち家率は96.0%、1世帯あたり平均1.5戸でした。

株式や海外投資に資金を向けにくい環境で、値上がりが続く住宅は最も手近な貯蓄の手段だったと指摘されています。全国一律の不動産保有税がなく、買って空き家のまま持っていても毎年の負担がほとんどなかったことも、2戸目・3戸目を買う動機になります。地方政府も開発会社も銀行も購入者も、それぞれの立場で合理的に動いた結果、住宅が建ち続けたのです。


日本のバブルも同じ回路で膨らんだ

日本の1980年代後半のバブル景気にも、よく似た回路があります。土地の値段が上がると担保の価値が上がり、銀行はさらに貸せるようになり、そのお金で土地や株が買われ、また値段が上がる。

財務省の『平成財政史』によれば、1983年度末から1989年度末の全国銀行の貸出は年平均11.1%の伸びだったのに対し、不動産業向けは18.4%、ノンバンク向けは20.7%という伸びでした。

転換点は1989年から1990年にかけて2つ重なります。日本銀行は1989年5月から1990年8月にかけて公定歩合を2.5%から6.0%へ引き上げ、大蔵省は1990年3月27日に銀行局長通達で不動産向け融資の伸びを総貸出の伸び以下に抑える「総量規制」を始めました。

日経平均は1989年12月29日の3万8915円を最後に下がり、公示地価は1991年をピークに1992年から下落に転じます。

その後の日本では、土地を担保にした貸出が焦げ付き、銀行の不良債権処理の損失は累計でおよそ100兆円と見積もられています。貸し手の銀行と借り手の企業の帳簿が同時に傷んだことが、1990年代の長い停滞の入口です。


似ている回路と、違う傷の出方

中国と日本で似ているのは「価格上昇が信用を増やし、増えた信用が価格を押し上げる」回路そのものです。日本は土地の値上がりを担保にした融資、中国は未完成住宅の前売り代金が核で、制度は同じではありません。似ているのは、値上がりへの期待が資金集めを自己強化する働きの部分で、回路を回していた主体と、壊れた時に傷が出る場所は違います。

比べる項目日本(1980年代後半)中国(2010年代〜)
似ている回路土地価格↑→担保価値↑→融資↑→土地購入↑住宅価格↑→前受金と融資↑→土地取得↑→地方の土地収入↑
回していた主体銀行と企業が中心地方政府・開発会社・銀行・購入者の四者
引き金日銀の利上げと大蔵省の総量規制(別々の主体)三道紅線(人民銀行と住宅都市農村建設部が共同)
最初に止まったもの土地価格と株価新規の住宅販売と借り換え
傷が出る場所銀行の担保価値と企業の帳簿銀行に加えて、前売りの購入者と地方財政
比べにくい条件民間銀行中心、資本移動は自由国有銀行が大きく、資本規制と中央の介入が強い

時期と主体の整理は財務省『平成財政史』、IMFの2025年対中4条協議報告(2026年2月)、各社報道に基づく。


海外の反応

判決を伝えたスレッドでは、許家印氏個人への断罪よりも「潰したのは政府ではないのか」「監査法人はどこにいたのか」という論点に議論が集まっています。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


あれって「大きすぎて潰せない」んじゃなかったのか。


「会社」はそうだった。だが「本人」にはその特権は与えられない。


自分が指揮した犯罪行為で企業のトップが実際に責任を問われる国って、どんな暮らしなんだろうな。


それと、世界規模の会計事務所もな。


監査人としての記録上の担当はPwC(世界4大会計事務所の一つ)で、2020年までの決算を「問題なし」として承認していた。もちろん、実際にはまったく問題なしではなかった。PwCが知らなかった可能性はあるが、知るのが監査人の仕事なのだから、どちらに転んでも見逃せる話ではない。それなりの額の制裁金を払わされることになっても驚かない。


そもそも潰せない存在なんかじゃなかった。風船を割ったのは政府自身なんだから。

終身の指導者という立場の面白いところは、北朝鮮のような未発展の国なら永遠に嘘をつき続けられるが、中国ではそれができないという点にある。不動産バブルは何十年も煮え立ってきた。前任者たちと違って、終身で権力の座に留まる習近平は、この問題を次の指導者に押しつけることができない。だから自分で割るしかなかったわけだ。ただ運悪くコロナが重なって、その過程が今の中国経済の姿にまで悪化した。

恒大の件はあまりに厄介で、大手会計事務所の関係者まで巻き込み始めている(特にPwCが深く関わっているらしい)。破綻前に恒大と取引があったから。しかも中国の裁判所は、遡って処罰するというひどい発想が大好きときている。


共産党のやり方は汚い。住宅市場の崩壊について彼が無実だというつもりはない。無謀で危険なまでに借金を膨らませた住宅建設の巨人を経営していたのは、間違いなく彼の責任だ。だが、住宅価格を下げて借金依存を減らすために中国が打ち出した新しい「三道紅線」規制こそが、恒大をはじめとする建設大手の債務不履行を直接引き起こしている。(訳注: 三道紅線は2020年に中国当局が導入した、不動産会社の借入を制限する規制)私の見立てでは、彼は党の覚えがめでたくなくなり、国民の怒りを吸わせる役目に使われているのだと思う。


万達(不動産大手・大連万達集団)の王一族もこの政策で相当な打撃を受けたが、あちらは資産を売って少しずつ債務を返していくことができた。恒大の戦略はどう見てもただの博打だった。


中国はトランプ政権1期目の技術制裁を受けて、国全体の資源をテクノロジーへ振り向けるために不動産バブルを意図的に潰すことを決めた。いま耳にする目覚ましい技術的進歩は、8年ほど前のあの決定にある程度は起因している。

住宅市場そのものを扱うスレッドでは、値下がりを歓迎する声と、なぜそこまで買われたのかを説明する声が並んでいます。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


中国では、そのへんの人もその兄弟も、たいてい大家をやっている。


同じことがアメリカで起きたら、みんな正気を失うだろうな。住宅をもっと手の届く値段にしなきゃいけない、でも俺の資産価値には手を出すな、というわけだ。


中国には毎年かかる不動産税がなく(ようやく一部の都市で変わり始めたところだ)、あるのは購入時に一度だけの取引税だけだった。だから買い手は空き家のまま買って持ち続けることを投資として選ぶ動機があったし、地方政府には開発と販売を回し続ける動機があった。中央政府が動くまでに永遠のような時間がかかったのは、建設が続いている限り雇用にもGDPにも都合がよかったからだ。


家は住むためのもので、投資するためのものじゃない。


後から振り返れば、中国の不動産を投資対象として悪くしている事情がいくつかある。1つ目は人口の急減が控えていること。社会規範の大変化か移民の受け入れがなければ、今後80年で人口は半分になる。中国の不動産は日本がたどった道をそのまま行くことになる。2つ目は、日本と違って、一部の経済特区を除けば人々は西洋的な意味で自分の家を所有していないこと。土地は今も政府のもので、40年や50年の借地権として「売られた」にすぎない。初期に売られた分は満期が近づいている。政府にとっては同じ土地をもう一度売れるのでありがたい話だが、その前に投資を少しでも取り戻そうと必死になる人が出てくる点では都合が悪い。


その借地権の話は誇張が過ぎる。建物と資産は自分のもので、土地の分を払っているだけだ。これはある意味、あちらの流儀の固定資産税にあたる。しかも期限が来れば自動で更新される。人口減少にしても、子どもを持つ費用が高くなりすぎたせいで世界中が抱えている問題だ。

日本との比較を正面から論じたスレッドでは、同型と見る意見と、規模も原因も違うと突き放す意見に分かれています。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


不動産は投資対象であるべきじゃない。カナダ人でもオーストラリア人でも捕まえて聞いてみればいい。親世代が自分の家は毎年1割値上がりして当然だと思っているせいで、家庭を持つ余裕がないと答えるから。


日本の住宅バブルはプラザ合意(1985年に日米など5か国がドル高是正で合意し、その後の円高と金融緩和につながった)が原因だ。アメリカは中国経済に手を突っ込めないし、中国には住宅市場に頼らない成長の手立てもある。まったく同じ話じゃない。


くだらない。ピーク時の東京の不動産の価値はアメリカ全土の不動産の価値と同じで、皇居の敷地だけでニューヨーク市ひとつ分と見積もられていた。今の北京の不動産全部の価値は、アメリカ全土の3%ほどだ。だから、下落の幅が同じ程度に見えるからといって、影響まで同じになるとも、近いものになるとも言えない。「日本との比較は完全ではないものの」というのは、事実を引き伸ばしてほのめかしで誘導する500本目の記事です、というフィナンシャル・タイムズの常套句だ。


何年も前から警告の声は上がっていた。ゴーストタウンについてのドキュメンタリーも何年も前からある。それでも不動産価格はGDPと一緒に上がり続け、中国の国営メディアは実態を覆い隠し続けた。本当は誰の目にも先が見えているはずなんだ、特にあの暴落のあとなら。それなのに少なくともRedditでは、共産主義の独裁者をかばうのが好きな連中が、心配するようなことは何もないと言いふらしている。


一人を裁けばバブルの総括になるのか

判決が裁いた罪と、業界の慣行は分けて考える

許家印氏の個人責任は、経営の失敗という言葉で片付く水準を超えています。中国証券監督管理委員会の2024年の処分によれば、恒大地産は2019年に売上の50.14%、2020年には78.54%を水増しし、その偽った数字をもとに計208億元の社債を発行していたとされます。判決が認定したのは、高いレバレッジの経営ではなく、帳簿を偽って資金を集めた犯罪です。

一方で、前受金を次の土地に回す回転モデルそのものは、恒大の発明ではなく当時の業界の標準形です。恒大は最も速く回した会社であって、唯一異質な会社ではありません。罪名に法人贈賄罪が含まれる以上、受け取った側も存在します。判決の発表文には、収賄側の氏名も人数も出ていません。

外部のチェックが働かなかったことも、処分の記録に残っています。監査法人PwC中国への2024年の処分では、監査調書の約88%が実際の作業と一致せず、「引き渡し済み」とされた物件の一部は訪問時点で更地だったと記されています。

融資した銀行や土地を売った地方政府が、どの段階で何を把握していたかは、判決の発表文からは分かりません。それでも値上がりが続く間は、どの立場にも前提を疑わない方が得になる事情があったことになります。

処罰の範囲は許氏一人にとどまっていません。同じ判決で関係者56人と法人2社が罰せられ、監査法人も行政処分を受けました。それでも、土地を売り、融資を認め、許認可を出した公的な側の検証がどこまで及んだかは、発表からは読み取れません。


引き締めは危機を作ったのか、露出させたのか

「三道紅線が恒大を殺した」という見方には筋があります。2020年8月に導入されたこの規制は、前受金を除く負債比率70%以下など3つの基準で不動産会社の借入増加率を制限するもので、借り換えで回していた会社は資金の入口を断たれる形になります。

日本でも「日銀の利上げと総量規制がバブルを壊した」という説明は根強く、総量規制後の不動産業向け貸出の伸びは1990年3月末の15.3%から1年で0.3%へ急ブレーキがかかっています。

ただし、当局側にも最良の論拠があります。恒大の粉飾は2019年と2020年の決算、つまり三道紅線より前のものです。危機を規制だけで説明することはできず、規制はすでに積み上がっていた脆弱性を表に出したことになります。表面化の時期を早めた可能性は残りますが、早く止めるほど未完成住宅と負債の山は小さくて済んだ、という主張は成り立ちます。

日本側の研究も同じ方向を指しています。日本銀行の利上げは物価と景気の過熱を抑える金融政策、大蔵省の総量規制は地価高騰そのものを抑える行政指導で、主体も目的も別でした。土地総合研究所の妹尾芳彦氏の整理では、議論されてきたのは主にタイミングであって、引き締めをしなければよかったとは言い切れないとされます。どちらの国でも、政策転換は引き金であって、火薬を積んだのは価格上昇を前提にした循環の方でした。


傷が出る経路は日本より多い

日本のバブル崩壊で最初に傷ついたのは、銀行の担保価値と企業の帳簿でした。中国では同じ経路に加えて、あと2つの経路から傷が出ます。

1つ目は前売りの購入者です。代金を払い、ローン返済も始まっているのに家が建たない。当局は「保交房」(引き渡しの確保)を掲げ、2024年に338万戸を引き渡したと新華社が報じ、支援対象の「白名単」プロジェクトは1500万戸超に及ぶとされます。IMFは2025年の対中4条協議報告で、未完成の前売り住宅の解消にGDP比0.9%の中央政府支出を勧めています。

2つ目は家計の資産と地方の財政です。住宅が家計資産の6割を占める国では、住宅価格の下落が家計の財布を締める力も大きくなります。IMFの同じ報告は、不動産調整の長期化と債務の重さが内需の弱さとデフレ圧力を招いていると評価し、GDPデフレーターは2026年も▲0.7%と見込んでいます。

地方政府の土地収入はピークの2021年の8.7兆元から2025年には4.2兆元へほぼ半減したと報じられ、土地を売って回してきた地方財政の車輪も同時に止まった格好です。


危機を封じても、損失は消えない

中国が日本と違うのは、金融危機を「起こさない力」です。国有銀行が大きく、資本移動は規制され、中央が地方に介入できる。2024年からは5年で10兆元の隠れ債務を地方債に置き換える債務の組み替えも始まっています。取り付けや銀行の連鎖破綻のような急性の危機は、日本の1990年代より抑えやすい構造です。一方で、銀行が損失を抱え込んだまま新しい貸出に慎重になる、静かな信用収縮までは防げません。

ただしその力は、損失を表に出さずに先送りする力でもあります。IMFは同じ報告で、幅広い金融支援と条件緩和の継続は存続できない開発会社を延命させ、必要な市場からの退出を遅らせると指摘しました。債務を組み替えて10年後に返させれば倒産は避けられますが、その10年間、銀行と地方政府の資金は新しい投資に回りません。

需要の追い風も戻りにくくなっています。中国の総人口は2022年から4年連続で減り、2025年の出生数は792万人と建国以来の最少でした。住宅投資はGDP比で2020年の12.3%から2025年には6.1%へ落ち、在庫は販売30か月分に積み上がっています。

IMFは2024年の分析で、不動産投資が中期的に2022年の水準を30〜60%下回る可能性を示しました。

恒大の損失は消えず、購入者・債権者・銀行・地方政府・国のどこかが負います。順番には濃淡があります。本土では未完成住宅の引き渡しが優先され、判決で科された罰金と没収財産は国庫に入ります。資産の約9割が本土にある中で、香港の清算人を通じて回収を図るオフショアの債権者は後順位になりやすいとみられています。

金融危機を防ぐ代わりに、低成長という形で何年もかけて吸収する。それが中国版の「失われた時代」の姿になるかもしれません。


個人の罪を裁くことと、制度を検証することは別の問題

「悪人を一人見つければ終わる話」にしないために

許家印氏の罪は重く、判決はそれを裁いています。それでも、売上の8割近くを水増しした会社が、地方政府の土地収入を支え、銀行から借り、膨大な前売り住宅を売り続けられた理由は、判決文には書かれていません。贈賄の相手、土地を売り許認可を出した側の責任、地方財政の依存は、判決の外側に残ったままです。

日本のバブルも、中国の不動産バブルも、悪人が一人で作ったものではありませんでした。価格が上がり続けることを前提に、企業・銀行・行政・購入者がそれぞれ合理的に動き、全体として非合理な山ができた。一人を裁くことで済ませるのか、山を作った仕組みまで点検するのか。日本が不良債権の処理に10年以上かけた経験は、後者を選ぶことの重さと必要さを同時に教えています。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。

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関連書籍紹介

『中国不動産バブル』

柯隆(文藝春秋/2024年04月刊)

東京財団政策研究所の研究者が、中国の不動産開発がどんな仕組みで膨らみ、どこで行き詰まったのかを一冊に整理した新書です。地方政府が土地の使用権を払い下げて財源を得る構造、開発会社の資金繰り、そして失敗を処理する制度が育たなかったことの意味を、経済の説明と政治体制の説明を切り離さずに扱っています。

今回の記事で扱った「恒大を巨大化させたのは誰だったのか」という問いは、この本の中心にある問いでもあります。判決の報道だけでは見えない、土地財政という受益の構造から中国経済を読み直したい方に向いています。


『バブル 日本迷走の原点』

永野健二(新潮社/2016年11月刊)

日本経済新聞の記者としてバブル期の最前線を取材した著者が、1980年代の日本で何が起きていたかを、当事者たちの動きに沿って描いたノンフィクションです。土地と株が上がり続けることを前提に、銀行・企業・行政がそれぞれの理屈で動いていった経緯が、制度の解説ではなく人の判断の連なりとして書かれています。

今回の記事で扱った「価格上昇が信用を増やし、増えた信用が価格を押し上げる」回路は、この本が描く日本の実例そのものです。中国の話を読んだうえで、同じ形の出来事が日本でどう進行したのかを確かめたい方に向いています。


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国内外のニュースを「報道・海外の反応・背景解説」の三層で読み解く個人メディア『せかはん』運営者。2025年8月の開始から1年で300本以上を執筆し、noteフォロワーは2万人。特定の政党・組織に属さず、一次ソースの照合と左右両論の併記を編集の基本にしています。

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