今回の記事の重要ポイント(三点)
・イスラエル議会選挙でネタニヤフ陣営が過半数に届かず、アラブ系政党は過去最多の19議席を得た。
・ネタニヤフ氏と野党側の首相候補アイゼンコット氏がアラブ系政党との連立を否定するなか、閣外からの協力も含む交渉が政策を左右する。
・ガザ撤退の条件で両候補の立場は近いが、西岸政策の違いや米中間選挙後の議会の圧力が変化の幅に関わる。
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ネタニヤフ陣営は過半数割れ、アラブ系は最多19議席
イスラエルで10月27日に議会(クネセト、定数120)選挙が行われた。タイムズ・オブ・イスラエルによると、中央選挙管理委員会は30日に最終結果を公表した。どの陣営も過半数の61議席に届いていない。
| 陣営 | 議席 |
|---|---|
| ネタニヤフ陣営 | 53 |
| 反ネタニヤフ陣営(非アラブ系) | 48 |
| アラブ系政党(共同リスト11、ラアム8) | 19 |
(陣営ごとの合計はタイムズ・オブ・イスラエルの10月30日の報道による)
党別では、ネタニヤフ氏のリクードが最大となり、元軍参謀総長のアイゼンコット氏が率いるヤシャールが続いた。アラブ系2党は過去最多の議席を得たとAP通信が報じた。
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アラブ系の票とガザ停戦の現在地
アラブ系政党の支持基盤と市民の暮らし
アラブ系政党の主な支持基盤は、イスラエル国籍を持つアラブ系市民です。ロイター通信によると、パレスチナ系のイスラエル市民は人口のおよそ5分の1を占めます。共同リストは綱領で、自らを「イスラエルのパレスチナ系市民」の政治的な意思を表す存在と位置づけ、ガザの包囲の解除や占領の終結も掲げています。
ただし、この人たちが選んでいるのはイスラエル議会の議員で、ハマスやガザ住民の代表ではありません。綱領の優先課題には、犯罪と暴力から家族を守ること、住宅、教育、平等といった暮らしの問題が並んでいます。投票しても意味がないとボイコットする人が多かった過去の選挙とは違い、今回は治安と暮らしを守るための政治参加として票が集まったと報じられています。
二つの党が政権と関わる方法
ラアムはイスラム運動の南部派の流れをくみ、政権に加わって地域の課題を解決する戦略を取ってきました。エルサレム・ポストによると、2021年にはベネット・ラピド連立政権に参加しています。
その際には、見返りとしてアラブ系地域への投資や、未公認のベドウィン(遊牧民の系譜を持つアラブ系住民)の村の法的な地位が提示されました。
共同リストは3党の連合です。党の綱領は、犯罪対策や平等と並べて、1967年の境界線にもとづき東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の樹立を掲げています。
エルサレム・ポストは、ラアムは連立交渉の余地を広く残し、共同リストは議席を使って政権に譲歩を求める野党勢力として振る舞っていると整理しています。
連立に加わらず、外から支えて少数政府を成り立たせる形もあります。その場合、協力の見返りは閣僚の席ではなく、予算や政策の約束になります。
停戦から1年、ガザの撤退も武装解除も止まったまま
ガザでは2025年10月、米国の仲介による停戦で大規模な戦闘が終わりました。最初の段階では、イスラエル軍の部分撤退と支援物資の増加と引き換えに、ハマスに拘束されていた最後の人質が生存者・遺体とも帰還しています。
米国が仲介する協議では、ハマスの武装解除、イスラエル軍の撤退、国際的な枠組みでの復興開始の条件がまだまとまっていません。新しい統治機関の発足を含む次の段階は、ほぼ1年、実施が止まったままです。
停戦中も空爆は続き、住民の暮らしの立て直しは進んでいません。
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ガザ停戦から1年、なぜ撤退と復興は進まないのか【海外の反応】
海外の反応
選挙当日に立った2つのスレッドでは、アラブ系政党との協力や、首相が代わった場合の政策をめぐって議論が交わされました。以下は最終結果が出る前の14件の書き込みです。
イスラエルの話題を扱う r/Israel では、アラブ系政党との協力を望む声と警戒する声が分かれています。
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
じゃあ、アラブ系政党が支える少数政府ができるのかな?
ほんと、マジでそうなってほしい。
「じゃあ、アラブ系政党が支える少数政府ができるのかな?」
そうなっても驚かないな。そうならなきゃいいと思ってたけど、結局こうなった。
もう一つのスレッド r/NewsThread は、ネタニヤフ氏が投票時間の延長を求めたとする見出しの投稿に立ったもので、イスラエルに批判的な書き込みが多く集まっています。その中で「対抗馬のほうがもっとひどいのでは」という問いに、いくつもの返信が枝分かれしてつきました。
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
本当ならそれはそれでいいけど、ビビ(ネタニヤフ首相の愛称)の対抗馬って、もっとずっとひどいんじゃないの?
どういう点で?
対抗馬は全員、パレスチナ人を一掃するには彼のやり方ではまだ足りないと思っている。
こんな嘘が、本当のことみたいに何度も繰り返されている。
誰もそんなことは言っていない。特にイスラエルの政治や社会については、君はメディアを読み解く力がまるでない。
「全員」は言いすぎだ。そんなことを望んでいないのが明らかなアラブ系政党も含むことになるし、そう望まない政党はアラブ系だけでもない。
「どういう点で?」
イスラエル軍のトップだった男だぞ。現実を見ようぜ、ほんと笑える。
「ビビ(ネタニヤフ首相の愛称)の対抗馬って、もっとずっとひどいんじゃないの?」
いや、彼のほうがずっとましだ。
それは左派の現実逃避だろ。イスラエルで勝つには、パレスチナやハマスをもっと厳しく罰すると訴えることだ。それに、有力な対抗馬もみんな何らかの右派だし。
二国家解決を支持する、かなり大きな左派政党もある。それに反ネタニヤフ勢力は、極右をなだめたり裁判から逃れたりする必要がないから、ネタニヤフみたいに長く無駄な戦争はしないだろう。
「ビビ(ネタニヤフ首相の愛称)の対抗馬って、もっとずっとひどいんじゃないの?」
『ずっとひどい』は言いすぎだけど、彼の方が少しでもましだとも当てにはしていない。
イスラエルが親パレスチナの人物を選ぶことは絶対にない。とにかく、ない。
ただ、自分が把握した限りでは、野党はガザでの残虐行為や西岸での暴力をちゃんと非難しているし、10月7日について調査を始めたいとも考えている。
次の政権がガザと西岸で変えられること
ガザ撤退の条件では、両候補の公約はほぼ重なる
ロイター通信によると、両候補ともハマスの武装解除前の撤退に反対し、戦闘再開も排除していません。
2023年10月の襲撃を経験したイスラエルでは、武装したハマスを残したまま撤退することへの警戒が強く、両候補の立場はこの安全保障上の懸念に沿ったものです。一方で、撤退も復興も始まらないまま、ガザの住民の大半はテントや壊れた建物での暮らしを続けています。停滞の重さは、住民に集中しています。
アイゼンコット氏は、就任から18か月以内に米国の仲介か軍事力でハマスの統治を終わらせると公約しています。期限は示しても、戦争を避ける約束ではありません。
違いが出やすいのは西岸の入植と暴力への対応
入植とは、イスラエルが占領する西岸にユダヤ人の居住地を造ることです。ロイター通信によると、アイゼンコット氏は入植を原則支持しつつ、イスラエル自身の法でも違法な拠点の撤去と、入植者の暴力の抑止を約束しています。
ネタニヤフ政権が進めるE1地区の建設にも反対しています。E1は、西岸の南北のつながりや東エルサレムへの往来を分断する懸念のある計画です。
ただし、アイゼンコット氏もパレスチナ国家の樹立には反対しています。ユダヤ系の有力政党で二国家解決を支持しているのはイスラエルの民主党だけで、その民主党は今回8議席です。首相が代われば和平が進むとも、何も変わらないとも言えません。変わりうるのは、西岸での入植の拡大や暴力をどこまで許すかという部分です。
アラブ系の19議席が政策に届く道と届かない道
反ネタニヤフ陣営は単独では政権を支えきれず、アラブ系政党との協力や、ほかの陣営との連携を探る必要があります。アラブ系政党が協力と引き換えに何を求め、相手がどこまで受け入れるかが、政策の変化につながります。
選挙前、共同リストのジャバリーン党首は、ネタニヤフ氏を退ける政権を外から支える考えを示しました。
エルサレム・ポストによると、条件には期限・予算・監督を伴う犯罪撲滅計画、住宅の取り壊し停止、ベドウィンの村の公認、パレスチナ人の政治的な展望などを挙げています。
こうした要求をどこまで受け入れるかは、これからの交渉次第です。
そのアイゼンコット氏は2党に対し、イスラエルを「ユダヤ人の民主国家」と認めることと、ハマスを解体すべきテロ組織と宣言することを求めています。2党の指導者は2023年10月7日の襲撃を非難していますが、テロ組織と呼ぶことには踏み込んでいません。ガザでの壊滅的な軍事作戦を正当化するように見えることが、理由の一つとされています。
首相候補の二人がともにパレスチナ国家に反対している以上、外交の大きな転換を引き出すのは難しいでしょう。それでも入植者の暴力の抑止では、共同リストの要求とアイゼンコット氏の公約が重なります。
共同リストは綱領で、ガザの包囲解除や援助・復興、避難民の帰還を求めています。同党の協力が必要な政権なら、人道面の要求も交渉の対象になりえますが、受諾済みの合意は確認されていません。復興はハマスの武装解除、イスラエル軍の撤退、新たな統治と連動しており、米国仲介の協議で順序を含む条件がまとまらなければ、国内の連立合意だけで動かせるものではありません。
支持を得るために必要な要求が、協力するユダヤ系政党の支持者には受け入れにくいこともあります。議席を足せるかどうかに加え、合意をそれぞれの有権者へ説明できるかも交渉の難所になります。
米中間選挙で変わる援助への圧力
共和党が下院か上院で多数派を失えば、トランプ大統領は予算や法案を通しにくくなり、政権運営に制約が増します。イスラエルへの支援にも、議会から条件を求める圧力が強まる可能性があります。
ロイター通信は、ネタニヤフ氏と共和党の近さを、米民主党の中でイスラエルへの支持が下がった理由の一つに挙げています。ただ、米民主党内でも、援助の打ち切りを求める議員と、特定の兵器の供与を制限すべきだという議員で意見が分かれています。選挙結果だけで援助が止まるわけではなく、公聴会や予算交渉を通じて、支援条件がどこまで厳しくなるかが焦点です。
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トランプ大統領がガザ計画の成果を急いだら
もう一つの要素は、トランプ氏がガザ計画をどう扱うかです。計画は看板政策でありながら、最初の段階の後、次の段階の実施がほぼ1年止まっています。中間選挙の後に外交の成果を求めるなら、イスラエルの次の政権に次の段階を迫ることも考えられます。
アイゼンコット氏は、ハマスの統治を終わらせる手段の一つに米国の仲介する計画を挙げています。ただ、武装解除までは撤退しないという条件はネタニヤフ氏と同じです。計画が求める撤退や復興の開始との順序は、ハマスとの間でも合意できていません。米国が成果を急いだとき、その圧力がイスラエルに撤退を促すのか、ハマスに武装解除を迫るのか、戦闘の再開を容認する方向に向かうのかは、現時点では見通せません。
ロイター通信は、米民主党でイスラエルへの支持が下がった理由として、ガザでの戦争に加え、西岸での暴力も挙げています。西岸の暴力への対応は、イスラエルの次の政権によって変わりうる部分です。誰がどの党と組んで政権を作るかは、米議会の民主党が援助の条件をどう考えるかにも跳ね返ります。
代表を得た票は政策に届くのか
数が割れた議会で、ガザと西岸の行方が決まる
今回の選挙で、ネタニヤフ陣営は過半数を失い、アラブ系市民はかつてない数の議席を議会に送りました。首相候補の二人は、ガザについてはハマスの武装解除前に撤退しないという公約で並んでいます。違いが出やすいのは西岸の入植拠点と入植者の暴力への対応で、それを左右するのはどの党と組んで政権を作るかです。
アラブ系政党の票が政策に届くかは、治安や暮らし、パレスチナ人の将来をめぐる要求を、組む相手が受け入れられる約束にできるかにかかっています。米国では中間選挙後の議会の圧力と、トランプ氏自身のガザ計画への姿勢が重なります。
選挙で得た代表の重みが政策にまで届くかどうかは、いくつかの条件にかかっています。協力と引き換えにする条件が、期限と予算を伴う具体策としてまとまるか。次の政権が、入植拠点の撤去や入植者の暴力の抑止を実際に進めるか。そして、ガザの撤退と復興を動かす順序に、誰が最初の一歩を踏み出すかです。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
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関連書籍紹介
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臼杵陽(岩波書店/2009年04月刊)
超正統派と世俗派、ユダヤ系とアラブ系の対立など、イスラエル社会の分かれ目を建国前からたどる岩波新書です。今回の記事で扱った、立場の違う政党が議席を分け合い、アラブ系政党と組むかどうかが政権の形を左右する構図が、どのような社会から生まれたのかを知りたい読者に向いています。
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