エムバペ発言で中国国営放送がラ・リーガ中継停止 サンリオもVIVANTコラボ終了【海外の反応・解説】

エムバペ選手のミーム発言で中国国営放送がラ・リーガの中継を止め、中国企業3社が契約を終了。同じ週にサンリオは日本限定のVIVANTコラボを終えました。中国市場への配慮が国外の発言や企画に及ぶ仕組みを海外の反応とともに解説します。

今回の記事の重要ポイント(三点)

・エムバペ選手がミームについて話した映像が中国で批判され、国営放送がラ・リーガの中継を止め、中国企業3社が契約を打ち切った。

・同じ週にサンリオは、中国で批判されたドラマ「VIVANT」とのコラボを、日本だけで売っていた商品も含めて終えた。

・中国で収益を持つリーグや企業は中国の消費者と国営メディアの受け止めを基準に動き、その判断は国外での発言や企画にも及んだ。


国営放送の中継停止とサンリオのコラボ終了

レアル・マドリードのキリアン・エムバペ選手が、自分の顔を毛沢東の肖像に合成したミームについて話した映像が、中国で批判を集めた。フランス語のトーク番組「The Bridge」が10月26日に投稿した舞台裏インタビューの一部で、ABCによると収録は4月だった。

エムバペ選手は、いちばん笑ったミームとして「中国の独裁者だと思う男」の体に自分の顔を合成した画像を挙げ、友人とよく使っていると話した。報道によると、毛沢東の名前は口にしていない。

北京日報によると、中国の国営放送局を運営する中央広播電視総台(CMG)の関係者は、26日夜からラ・リーガとエムバペ選手に関わる試合の中継を全面的に止め、関連する広告も取り下げたと明らかにした。27日には飲料大手の東鵬飲料が協力関係の即時終了を発表し、乳業の蒙牛乳業と妙可藍多も提携を終えた。

エムバペ選手は27日、「軽率な発言だった」とする謝罪声明をフランス語・中国語・英語で出した。ラ・リーガとハビエル・テバス会長も同日、発言は個人の立場によるものでリーグを代表しないとしたうえで、中国のファンに謝罪した。

CMG側はリーグとクラブ、本人の公開謝罪を話し合いの前提とし、レアル・マドリードは28日に中国の人々へ謝罪した。中国外務省の郭嘉昆報道官は同日、「本人の謝罪を重く受け止める」と述べた。11月1日時点で、中継の再開は確認されていない。

同じ週、サンリオはTBSのドラマ「VIVANT」とのコラボを終えた。中国法人が28日夜に中国のSNS「微博(ウェイボー)」で発表した。

本社も29日、関連コンテンツに「企業理念にそぐわない表現」が含まれていたとして、すべての取り組みと今後の展開・プロモーション活動を中止すると公表した。共同通信によると、コラボ商品は日本だけで販売されていた。

ドラマの第2期には、中国の秘密情報組織が日本の諜報員を拷問する場面があり、環球時報など中国の国営メディアが批判していた。TBSの社長は28日の会見で、特定の国をおとしめる意図はないフィクションだと説明した。


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毛沢東の位置付けと反応した組織

中国で毛沢東はどう評価されているか

毛沢東は、1949年に中華人民共和国を建てた共産党の指導者です。晩年に始めた文化大革命は、国内に長い混乱と多くの犠牲をもたらしました。

共産党は1981年に採択した「建国以来の党の若干の歴史問題に関する決議」で、文化大革命を「指導者が誤って発動した内乱」と認めています。そのうえで毛沢東本人については、功績が第一、誤りは第二と評価しました。

党自身が誤りを認めた人物でも、建国者としての位置付けは公式に保たれています。そのため外国の有名人が「独裁者」と呼ぶことは、個人への評価を超えて、国の成り立ちへの侮辱として受け止められやすくなります。


発言の中身と映像が広まるまで

問題の映像は、フランス語のトーク番組「The Bridge」が4月に収録した舞台裏インタビューの一部です。番組は10月26日にこのクリップを投稿し、批判が広がった後にSNSから削除して、28日にエムバペ選手や関係者に謝罪しました。

エムバペ選手が話題にしたのは、自分の顔を毛沢東とみられる人物の体に合成した画像で、作者はAIで作ったと認めています。本人は「中国の独裁者だと思う男」と言っただけで名前は出していませんが、中国語圏の報道では「毛沢東に顔を合成した画像がいちばん好き」と答えたように伝えられました。


批判した人々と動いた組織

今回、エムバペ選手との関係を見直した主体は四つに分けられます。SNSで批判した中国の利用者、中継を止めた国営放送のCMG、会見で言及した中国外務省、そして提携を終えた中国企業です。

東鵬飲料は、4月に電解質飲料の広告にエムバペ選手を起用したばかりでした。外務省の郭報道官は27日の会見で、中国の人々の感情を傷つける言動は社会各界の一致した反対に遭うと述べ、翌日は本人の謝罪を重く受け止めると語っています。

四者はそれぞれの名義で別々に発表しています。政府がまとめて指示したかどうかは、確認できた発表や報道からは分かりません。


VIVANTの何が批判されたか

「VIVANT」は、自衛隊の非公認組織「別班」の諜報員を主人公にしたTBSのドラマです。第2期で、中国の秘密情報組織が日本人の仲間の指を切断する場面が放送され、環球時報が26日に批判記事を出しました。

環球時報はサンリオとのコラボにも触れ、「ハローキティは日本の右翼と踊るべきではない」と主張しました。中国外務省の副報道局長も、日本の勢力が文化的な商品を通じて反中感情を広めようとしていると述べました。

ここには性格の違う三つの反応が重なっています。拷問の描写を不快に感じる視聴者の受け止め、作品を「日本の右翼」と結びつける歴史認識の主張、そしてコラボを終えた企業の判断です。


海外の反応

ここで紹介する2つのスレッドは、エムバペ選手の発言とラ・リーガをめぐる反応で、サンリオの件へのものではありません。

ラ・リーガの謝罪を伝えたサッカー掲示板 r/soccer のスレッドでは、謝罪そのものへの批判と、リーグが中国市場を手放せない事情をめぐる議論が続きました。

英語のサッカー掲示板で、このスレッドでは謝罪や中継停止に批判的な書き込みが大半を占めています。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


r/soccercirclejerk(サッカーの話題を茶化す掲示板)が国際問題を起こしちゃったってわけか😂


何度でも言うけど、自分をいじったミームに触れただけでこの騒ぎなんて、どうかしてる。

まあ、中国当局にもいいところはたくさんあるんだろうけど、ユーモアのセンスはその中に入ってないみたいだね。

体面を保ちたいなら、こんなくだらないことに反応すること自体がずっとまずいと思う。反応したせいで、本当の問題になってしまう。

主な理由は、中国の指導者、国家元首を「独裁者」と呼んだことだよ。ミームはどうでもよくて、自分の国の指導者を敬意のない呼び方をされたことを気にしてるんだ。

たぶん、ヨーロッパのメディアやSNSが強引にアメリカ化してるせいもあると思う。

というか、毛沢東は紛れもなく独裁者だったし、それがあまりに常識だから、エムバペもその言葉と結びつけることを深く考えなかったんじゃない?


ミームの中の独裁者が本物の独裁者を独裁者と呼んで、袋だたきにされてるのか(笑)

中国が毛沢東の歴史を正面から描き直す方向へ一度も踏み出さなかったのは驚きだ。ソ連でさえ、スターリンが死んでまもなく、その遺産を見直したのに。毛沢東のほうはずっと揺らいでいない。

今回の声明も中国の反応もくだらないけど、学校で毛沢東を完璧な人物として教えてるわけじゃない。公式の立場は「7割正しく、3割誤り」だと読んだことがある。


中国市場は失えないからな。

ここまでするほど、本当にそんなに金になるの? 国は大きいけど、スポーツがそこまで盛んな印象はないんだけど。

ラ・リーガのスポンサーにとっては、たぶんなる。試合球を作ってるプーマなんかは、今回の中継停止をどうにかしてくれとリーグに電話してたはずだ。

中国には14億人いる。試合球が1個10ポンドで、人口の0.5%が買うだけでも7,000万ポンドになる。

それがバルセロナやレアル・マドリードのユニフォームだったらどうか。ナイキやアディダスは相当な売り上げを失う。

西側の企業は中国が相手だといつもこうだ。映画会社も、興行収入が大きく伸びるから、どうにか中国で公開してもらおうと必死になる。あの国は毎年、欧米の映画を決まった本数しか映画館にかけさせないからね。

ぺこぺこするのは情けないけど、手放すことになる金額を考えれば驚きはしないな。


恥ずかしい声明だな。エムバペは何も間違ったことを言ってないのに。まあ、結局は金ってことか……

未来のスター選手たちに最高のお手本を見せてくれたな。金が脅かされたら、リーグは喜んで自分の選手を見捨てるってね。

この業界がほかのあらゆる業界と違うとでも? 金の流れを台無しにして客を怒らせたら、ただじゃ済まない。


中継停止の報道を受けた、スポーツ全般の掲示板 r/sports のスレッドでも、同じ流れの議論が続いていました。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


「あの国は権威主義者が支配している」という言い分を、いちばん早く否定する方法は……えーと、メモによると……選手が「親愛なる指導者」について気に入らないことを言ったから、リーグ丸ごとの中継を全国で止めること、だってさ。


実際の発言は「いちばん笑った画像は、中国の独裁者[毛沢東]の写真に自分の顔を使ったやつ。友だちとよく使ってる」だった(角括弧は投稿者の補足)。

それだけ。「中国の独裁者」と言っただけで、中国は国内の表舞台から彼の痕跡を消そうとしてる。毛沢東の名前すら言ってないのに。ごく普通の反応だよな、ボットのみなさん?

毛沢東を独裁者と呼んだだけで、中国の人はそんなに怒ってるの? 何それ(笑)

何千万人もの人を死なせた人物で、文字どおり人類史で最も有名な独裁者の一人なのに。

怒ってるのは中国の人々じゃなくて、中国政府だよ。


中国は神経質すぎる。

でも、すぐに折れて謝罪して回るヨーロッパの側はもっとひどい。中国に「これでうまくいく」と覚えさせてるんだから。利益だけで物事を決めずに、誰かが踏みとどまる日は来るのかな。たぶん来ないだろうけど……

ほかの業界でもずっとこうだ。結果はいつも同じ。中国は大きすぎて無視できないんだよ。


国外の発言と企画が止まる理由

企業は指示を待たずに関係を切る

東鵬飲料は4月にエムバペ選手を広告に起用したばかりで、批判が広がった翌日に協力の即時終了を発表しました。広告に起用した人物が主要な市場の消費者から批判されれば、起用を続けるほど自社にも批判が向きかねません。各社は詳しい理由を説明していませんが、企業が早い段階で関係を切る判断に傾きやすい事情はあると考えられます。

国営放送の中継停止は、性格が少し違います。CMG側は公開謝罪を話し合いの前提として伝えたと報じられており、中継そのものを交渉の材料にした形です。放映権は商取引ですが、相手が国営放送である以上、その判断には国の体面が重なります。

自国の建国者を外国のスター選手に「独裁者」と呼ばれたファンが不快に感じ、ブランドがその顧客に合わせること自体は、どの国の市場でも起こりうる判断です。今回の特徴は、発言の場がフランス語番組の舞台裏で、中国のファンへ向けた言葉ではなかった点にあります。


NBAは2019年に「発言を規制しない」と答えた

2019年、NBAのヒューストン・ロケッツの幹部が香港の抗議デモを支持する投稿をし、CCTVはNBAの試合中継を取りやめました。このときアダム・シルバー・コミッショナーは、選手・職員・オーナーの発言を規制する立場には立たないと表明しています。

今回のラ・リーガも、発言を「個人の立場」とリーグから切り離した点はNBAと共通しています。違うのは、そのうえでリーグとクラブを代表して謝罪し、クラブや選手との間で意識を高める手順とコミュニケーションの仕組みを作ると約束したことです。

この違いが何から生まれたのかを、両リーグは説明していません。発言の中身も、香港の抗議デモへの支持と、ミームをめぐる雑談とでは大きく異なります。報道どおりリーグの試合全体が中継停止の対象なら、エムバペ選手と関係のないクラブまで一人の発言の影響を受けることになり、それは早い解決を急ぐ理由の一つになりえます。


サンリオが日本限定の企画も止めた理由

サンリオのコラボ商品は日本だけで売られていましたが、批判は中国で起き、終了の発表も中国法人が先でした。販売先が日本に限られていても、批判は中国のメディアやSNSから起きており、企画の評価は販売地域の外にまで及んだ形です。

本社のお知らせは中国に触れず、理由を「企業理念にそぐわない表現」としました。圧力に応じたとも、作品の内容を否定したとも明言しない言葉を選んだと読めます。

一方で、取引先の作品の表現は自社ブランドの一部で、顧客の多い市場に合わせて見直すのは通常の経営判断だという見方もあります。描写への不快感、「日本の右翼」と結びつける歴史認識の主張、企業の判断はそれぞれ別の理由で動いており、どれか一つで今回の終了を説明しきることはできません。


次の企画と発言の確かめ方が変わる

サンリオは今後のコラボ企画について確認体制を一層強めるとし、ラ・リーガは選手やクラブとの手順づくりを掲げました。どちらも、次の企画や発言を事前に確かめる仕組みを強める方向です。

その確認には、中国以外の場で行う企画や発言が中国でどう受け止められるかという基準も加わります。日本限定の商品や番組の舞台裏の雑談まで対象になれば、企業や選手が先回りして控える場面は増えていくかもしれません。

中継がいつ再開するか、ほかのスポンサーやクラブが続くかは、11月1日時点では分かっていません。


冗談と企画の後ろにある市場

市場への配慮はどこまで国外に届くのか

中国で批判が広がると、数日のうちに国営放送はラ・リーガとエムバペ選手に関わる試合の中継を止め、中国企業3社は契約を打ち切り、サンリオは日本だけで売っていた商品を含むコラボを終えました。確認できる範囲では、いずれも中国で収益や事業を持つ組織が、中国の消費者と国営メディアの受け止めを踏まえて、それぞれの名義で発表した判断です。

顧客の感情に配慮することは、どの市場でも商売の一部です。大きな市場で事業を続ける企業やリーグが、そこで批判を受けた起用や企画を早く見直すのは、経営として合理的な判断です。一方で、その市場の外で行われた発言や企画まで同じ基準で確かめるようになれば、国外の表現の幅にも影響が及びます。

市場への配慮と国外での表現の自由の線をどこに引くのかは、リーグや企業だけでなく、その商品やスポーツを楽しむ側にも問われていることです。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。

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関連書籍紹介

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天児慧(岩波書店/2013年08月刊)

中国政治を専門とする著者が、1949年の建国から現在に近い時期までの中華人民共和国の歩みをたどる岩波新書です。毛沢東の時代から改革開放を経た政治の流れを、一冊で見通せる構成になっています。

今回の記事で扱った、共産党が毛沢東を「功績が第一」と位置付け続ける背景を、建国からの歴史の中で知りたい読者に向いています。


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英フィナンシャル・タイムズの元北京支局長が、共産党の人事、軍、国有企業との関係などを取材をもとに描いたノンフィクションです。表から見えにくい党と国家、企業の結びつきを具体的な事例で追っています。

今回の記事で扱った、国営放送や企業、外務省がそれぞれ別に動きながら同じ方向へそろっていく背景を考えたい読者に向いています。


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国内外のニュースを「報道・海外の反応・背景解説」の三層で読み解く個人メディア『せかはん』運営者。2025年8月の開始から1年で300本以上を執筆し、noteフォロワーは2万人。特定の政党・組織に属さず、一次ソースの照合と左右両論の併記を編集の基本にしています。

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