日本が国家情報局を新設へ 情報戦対応と民主的統制の課題【海外の反応・解説】

今回の記事の重要ポイント(三点)

・政府は、内閣に「国家情報会議」を置き、その事務局として内閣官房に「国家情報局」を設置する国家情報会議設置法案の成立を目指している。

・国家情報局は、内閣情報官と内閣情報調査室を発展的に解消する形で設置され、各省庁の情報活動の総合調整、情報の収集・集約・分析を担う。

・焦点は「日本版CIA」ができるかどうかではなく、情報戦、偽情報、影響工作、経済安全保障に対応する情報機能をどう強め、同時にプライバシーや政治的中立性をどう守るかにある。


ニュース

政府は、内閣に「国家情報会議」を設置し、その事務局として内閣官房に「国家情報局」を置く国家情報会議設置法案の成立を目指している。

内閣官房は2026年3月13日、同法案を国会に提出した。法案概要では、国家情報会議は、重要情報活動、外国情報活動、外国情報活動への対処、影響工作への対処などに関する重要事項を調査審議する機関とされている。

国家情報会議の議長は内閣総理大臣が務める。議員には、内閣官房長官、金融担当大臣、国家公安委員会委員長、法務大臣、外務大臣、財務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、防衛大臣などが含まれる。

国家情報局は、国家情報会議の事務局として内閣官房に設置される。内閣情報官と内閣情報調査室を発展的に解消する形で作られ、各省庁が行う情報活動の総合調整、内閣の重要政策に関する情報の収集調査、情報の集約と総合分析を担う。

法案は4月22日に衆議院内閣委員会で可決され、翌23日に衆議院を通過した。5月8日には参議院本会議で趣旨説明などが行われ、参議院での審議に入った。

報道によると、国家情報局は今夏にも約700人規模で発足し、その後増員を図る方針とされる。専門職員の採用や、海外機関との折衝を担う人材、技術系人材、AI・ネット関連人材の確保も課題になるとみられている。

一方、野党側からは、政府の情報収集活動が個人情報やプライバシーを侵害しないか、政治的中立性が保たれるのかといった懸念が出ている。衆議院内閣委員会では、プライバシー保護や政治的中立性への配慮を求める付帯決議も可決された。


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補足説明

内調から国家情報局への再編

国家情報局は、これまで内閣官房に置かれてきた内閣情報調査室、いわゆる内調を発展的に再編する形で設置されます。

内調は、国内外の政治、経済、安全保障などに関する情報を集め、官邸や政府中枢へ提供してきた組織です。ただ、日本の情報機能は、防衛省、外務省、警察庁、公安調査庁、内調などに分かれており、省庁ごとの縦割りが課題とされてきました。

国家情報局は、そうした情報を官邸側でより横断的に集約し、分析し、政策判断につなげるための組織として位置づけられています。

すべての情報機関を一つに吸収するというより、各省庁の情報活動を調整し、政府全体の情報分析機能を強める狙いがあります。


国家情報会議と国家情報局の役割分担

国家情報会議と国家情報局は、名前が似ていますが役割は異なります。

国家情報会議は、内閣に置かれる会議体です。総理大臣を議長とし、関係閣僚が参加して、重要情報活動、外国情報活動、外国情報活動への対処、影響工作への対処などについて基本方針や重要事項を調査審議します。

一方、国家情報局は、その国家情報会議を支える事務局です。内閣官房に置かれ、情報の収集、集約、総合分析、各省庁の情報活動の総合調整を担います。

簡単に言えば、国家情報会議は政策判断や方針を扱う場であり、国家情報局はその判断を支える情報実務の中枢です。


省庁横断の情報集約と総合分析

国家情報局の役割は、大きく分けると二つあります。

一つは、情報の収集と分析です。内閣の重要政策に関わる情報を集め、各省庁から提供される情報も含めて整理し、総合的に分析します。

もう一つは、各省庁の情報活動の総合調整です。日本では、防衛、外交、警察、公安、経済安全保障、サイバーなどの情報が複数の省庁に分かれています。国家情報局は、それぞれの情報活動をつなぎ、政府全体として見落としや重複を減らす役割を持ちます。

特に近年は、軍事情報だけでなく、偽情報、影響工作、サイバー攻撃、技術流出、経済安全保障も重要になっています。国家情報局は、こうした複合的な情報を官邸側でまとめるための中枢機能と見ることができます。


「日本版CIA」という呼び名の危うさ

国家情報局は、報道やSNSで「日本版CIA」と呼ばれることがあります。

ただし、この呼び方には注意が必要です。現時点の制度設計を見る限り、国家情報局は、米国のCIAや英国のMI6のような対外工作機関そのものとして説明されているわけではありません。

法案上の中心は、内閣に国家情報会議を置き、その事務局として国家情報局が情報の集約、分析、総合調整を担うことにあります。つまり、まずは官邸側の情報司令塔機能を強める制度です。

もちろん、将来的に対外情報収集能力や海外機関との連携が強化される可能性はあります。ただ、最初から独立した対外工作機関ができると見ると、制度の実態を見誤りやすくなります。

「日本版CIA」という言葉は分かりやすい一方で、国家情報局の性格を大きく見せすぎる面もあります。


偽情報・影響工作・経済安保の時代

国家情報局が作られる背景には、日本を取り巻く安全保障環境の変化があります。

中国の軍事的・経済的影響力の拡大、台湾有事への警戒、北朝鮮の核・ミサイル開発、ロシアの動き、サイバー攻撃、技術流出、経済安全保障上のリスクが重なっています。

さらに、現代の安全保障では、軍事力だけでなく、情報そのものが争点になります。SNS上の偽情報、世論操作、選挙や政策決定への影響工作、企業や研究機関からの技術流出などは、従来の軍事・外交だけでは扱いきれない問題です。

国家情報会議設置法案が、外国情報活動への対処や影響工作への対処を明記している点は、この変化を反映しています。

日本の安全保障は、自衛隊や装備の強化だけでなく、情報戦、認知戦、経済安全保障へ広がっています。


情報機関強化と民主的統制

情報機関の強化には、必要性と同時に危うさもあります。

安全保障上、政府が質の高い情報を集め、分析し、政策判断に生かす仕組みは重要です。周辺環境が厳しくなり、偽情報や影響工作が増える中で、情報機能が弱いままでは国家の判断そのものが遅れます。

一方で、情報機関は活動内容が外から見えにくくなりやすい組織です。権限が強まるほど、個人情報やプライバシーの扱い、政治的中立性、政権批判や市民活動が監視対象にならないかという懸念も大きくなります。

そのため、国家情報局をめぐる焦点は、発足そのものだけではありません。どのような情報を集められるのか、国内活動と対外活動の線引きはどうなるのか、国会や第三者機関による監視は十分か、秘密指定や情報共有のルールは透明か。

情報機能を強めるなら、それを監視する仕組みも同時に強くする必要があります。


日本の安全保障が情報戦へ広がる意味

国家情報局の設置は、日本が本格的に情報戦時代へ対応しようとしていることを示しています。

戦後日本は、軍事力だけでなく、情報機関の整備にも慎重でした。安全保障の多くを日米同盟に依存し、対外情報や高度な分析でも米国の情報に支えられてきた面があります。

しかし、米国の政治的な不安定化、中国やロシアの動き、サイバー空間やSNS上の影響工作を考えると、日本自身の情報分析能力を高める必要性は増しています。

国家情報局は、単なる省庁再編ではありません。外交、安全保障、経済安全保障、サイバー、偽情報対策をつなぐための制度変更です。

同時に、情報が官邸に集中するほど、民主的統制の重みも増します。日本に問われているのは、強い情報機能を持つことだけではなく、その情報機能を透明性、政治的中立性、プライバシー保護の枠内でどう運用するかです。

この制度変更を海外ではどう見ているのか。Reddit上では、「日本には本当に情報機関がなかったのか」「CIA型の組織なのか」「監視や秘密警察化につながらないのか」といった反応が出ています。


海外の反応

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


日本って、本当に情報機関を持っていないの?


公安調査庁はある。イギリスのMI5や、アメリカFBIの対外防諜部門に近い存在だと思う。ただし、かなり多くの官僚的な監督で動きが縛られている。
「対外」情報機関については、CIAに直接相当するような一つの機関はなさそうだ。内閣情報調査室という名前は出てくるけど、全体で200人未満のかなり小さな組織だ。


専門の機関はないよ。自衛隊の一部に、米軍の軍事情報部門と連携してこういうことを扱う部門がある。


外務省は、これまでに中国に何人もスパイを捕まえられている。つまり、そういうものは確実に存在しているし、かなりうまく隠れている。だから君が知らないだけだ。


ということは、たぶん彼らはかなり良い仕事をしているんだろうね。捕まっている部分を除けばだけど。


何度も捕まっているなら、そんなにうまく隠れているとは言えない気がするけどね。


率直に言えば、第二次世界大戦後には、こういうことに関する何らかの取り決めがあったのかもしれない。
というか、戦後最初の数十年は、日本が海外工作員を持つ必要はあまりなかった。まあ、通常以上にはね。他に心配すべきことがあった。


これは国際情報活動の話に近い。日本にはCIAに直接相当する組織はないけど、南北朝鮮にも中国にもある。日本は情報面でアメリカに依存してきたが、最近のアメリカは何においても信頼しにくくなっている。だからこの議論が出てくるんだ。


正直、これは間違っていないし、トランプの直接的な結果でもある。問題は、1つ目に日本にはこういう役割に就ける人材がいないこと、2つ目にそれを育てるインフラがないことだ。


混血の人や移民を活用する必要があるだろうね。正直、教育制度も強化する必要があると思う。MI6が創設されたのはかなり昔のことだ。日本は追いつくには遅れすぎているかもしれない。


その可能性は高い。
こういう性質の機関を作るには、一般の人が知らない多くの条件が必要になる。
たとえばアメリカでは、中国籍の親族がいるというだけで、特定の機密プログラムに関われない人がたくさんいる。移民や二重国籍の人についても同じだ。
日本には、この種の仕事に向いた能力を持つ人材だけでなく、政府の機密プログラムに関わる意思があり、なおかつ関われる人材が必要になる。そのプログラムは、関係者と収集した情報を守るために非常に厳格な管理を必要とする。


参考までに言うと、「もっと高い報酬が必要になる」という話は、国家安全保障の専門家たちが言っていることを繰り返しているだけだ。
MI6の情報官の初任給は4万ポンド。
比較すると、日本の若手公務員の初任給は円換算でだいたい1万2000ポンドくらいだ。
これは単に傭兵的な考え方の話ではない。本格的な情報機関にするなら、文字通り命を危険にさらす仕事を頼むことになるかもしれない。本人の給与を低く抑えたいとしても、訓練やリソースという形で間接的にかなりの費用をかける必要がある。


報酬は問題ではない。全体の予算規模から見れば、彼らはクリップ代にもっと無駄遣いしているくらいだ。
熟練した工作員については、ほぼゼロから始めるようなものだから、現場で学んでいくしかない。
とにかく、これは幅広い若者にとってかなり面白い仕事になるだろうね。頭のいい人間にも、単純に金で動く荒っぽい連中にも。


やるべきこと自体には同意するけど、実際にはそれよりずっと複雑だ。たとえば高度な人材を確保するには、平均的な日本の公務員より高い報酬を払う必要があるだろうし、それは反発を招く。年功序列の給与や昇進では、こういう仕事には対応できない。
何より、指を鳴らすだけでエリートスパイ部隊を作れるわけではない。ほとんど訓練されていない人材を送り出して、捕まった者から学ぶという「試行錯誤」は、多くの問題を引き起こす。国際問題になり得るからだ。


決めるべきことは山ほどある。たとえば、日本の工作員が海外で法律を破ってよいのか。多くのスパイ活動ではそういうことが起こる。その場合、捕まったらどうするのか、外交的にどう処理するのか。そうしたことには、政府内部の官僚制度や法制度の改革も含めて、多くの検討が必要になる。政府の小さな行動でさえ、会議一回で済むものではない。


そうだね。彼らがどんな条件やルールのもとで動くのか、形式上のルールと、どこまで押し広げられるのかを決めるのは、かなり面倒な作業になる。そして、彼ら自身に自分たちのルールを決めさせるのは絶対に避けるべきだ。それはひどい結末になる。単にどの政府機関の下に置くのかだけでも複雑になり得る。こういう組織は、管轄や関心領域をまたぎがちだから。


日本には帝国時代に秘密警察があったし、それは本当に残虐だった。あんなものは二度といらない。


彼らが話しているような情報機関は、「秘密警察」ではないと思う。


秘密警察というのは、政治的な敵対者を排除するような、権威主義的な政治道具のことを指すんだよ。


好きな呼び方をすればいいけど、まともな国ならどこでも、監視や深い潜入・覆面活動を行う治安機関や組織は持っているよ。


いや、ばかげている。彼らはPegasusにも、昔スノーデンが暴露したほぼあらゆる種類のスパイウェアにもアクセスできる。そしてそれは、私たちが知っているものだけだ。
それに、日本は過去80年間どうにか存在してきたのに、自民党によれば、9条をなくさず、全国民を監視しなければ、この国は今すぐ崩壊するらしい。勘弁してほしい。

Pegasus:イスラエル企業NSO Groupが開発したとされる高性能スパイウェアのこと
スノーデンが暴露したスパイウェア:2013年にエドワード・スノーデンが暴露した米NSAなどの大規模監視プログラムやサイバー監視能力のこと


そんなことはやるべきではない。日本でよくある問題だけど、機密データの漏えいを引き起こすことになる。


現実には、たぶんCIAの訓練を受けるだけだろうね。


ゴルゴ13、ご用命を。


忍者を復活させろ!


もうゴルゴ13でも、ファブルでも、忍者でも何でもいいだろ……。うん、作る必要はある。


名前は「忍者情報局」になるだろうね。


攻殻機動隊の時間だな。


たぶん公安9課がもう全部押さえているはず。


近隣国を刺激するのをやめて、普通に良い関係でいる方が、ずっと安上がりだろう。


考察・分析

日本に足りなかった情報の中枢機能

日本の安全保障体制では、情報を扱う組織そのものが存在しなかったわけではありません。防衛省、外務省、警察庁、公安調査庁、内閣情報調査室など、それぞれの分野で情報収集や分析を担う組織はありました。

課題になってきたのは、それらの情報を政府全体で横断的に集約し、政策判断に結びつける中枢機能です。

現代の危機は、一つの省庁だけで完結しにくくなっています。台湾有事をめぐる軍事情報は、防衛だけでなく外交、経済、物流、エネルギー、金融市場にも関係します。サイバー攻撃は、警察や防衛だけでなく、企業、通信、行政サービス、重要インフラにも波及します。

技術流出や経済安全保障も同じです。先端半導体、AI、宇宙、通信、バイオなどの分野では、企業活動、研究開発、投資、外交、通商政策が重なっています。省庁ごとの情報を個別に見ているだけでは、全体像をつかみにくくなります。

国家情報局の新設は、この縦割りを官邸側でつなぐ制度変更です。情報を集めるだけでなく、複数の情報を重ね合わせ、政策判断に使える形へ変える役割が期待されています。

情報そのものより、情報をどう読むか。日本に求められているのは、収集量の拡大だけではなく、判断の質を高めるための分析機能です。


「日本版CIA」という呼び名が隠す実態

「日本版CIA」という言葉は分かりやすく、注目を集めやすい表現です。海外の反応でも、日本が本格的な対外情報機関を持つのかという関心が見られます。

ただ、この呼び名は制度の実態を大きく見せすぎる面があります。

CIAやMI6のような組織は、対外情報収集や秘密工作の印象と強く結びついています。一方、今回の国家情報局は、現時点では国家情報会議の事務局として、情報の集約、総合分析、各省庁の情報活動の調整を担う組織として説明されています。

つまり、中心にあるのは海外での秘密工作ではなく、官邸側の情報司令塔機能の強化です。

もちろん、海外機関との折衝や対外情報収集能力の強化が将来的な課題になる可能性はあります。中国、ロシア、北朝鮮などの動きを考えれば、日本が独自の対外情報能力を強めようとする流れ自体は自然です。

それでも、現段階で「日本にもCIAができる」と単純化すると、二つの問題が起きます。

一つは、制度の目的を誤解しやすくなることです。国家情報局の大きな役割は、各省庁に散らばった情報を集約し、分析し、政府全体の判断を支えることにあります。

もう一つは、必要な監視論点がぼやけることです。名称のインパクトばかりが先行すると、実際にどの情報を扱うのか、国内活動と対外活動の境界はどこか、政治的中立性をどう担保するのかという具体的な議論が後回しになりやすくなります。

「日本版CIA」という表現は入口としては便利です。しかし、制度を理解するには、むしろその言葉から一歩離れる必要があります。


米国依存の揺らぎと自前の情報能力

戦後日本の安全保障は、日米同盟を軸に成り立ってきました。軍事面だけでなく、情報面でも米国の分析力、監視能力、同盟ネットワークに支えられてきた部分があります。

この構造は、日本にとって大きな利点でした。米国は世界規模の情報収集能力を持ち、軍事、通信、衛星、サイバー、外交ネットワークでも圧倒的な蓄積があります。日本が単独で同じ規模の情報網を持つことは現実的ではありません。

一方で、米国依存には限界もあります。

米国の政治が不安定化すれば、同盟国に提供される情報の質やタイミング、政策判断の方向も揺れます。米国がどの地域を優先するのか、同盟国にどこまで関与するのか、政権交代によって判断が変わる可能性もあります。

台湾有事、朝鮮半島情勢、南シナ海、ロシアの動き、サイバー攻撃、経済安全保障をめぐる判断では、日本自身の利害と米国の利害が常に完全一致するとは限りません。

そのため、日本には米国から受け取る情報をそのまま消費するだけでなく、自国の視点で分析し、検証し、政策判断につなげる能力が必要になります。

自前の情報能力とは、米国から独立してすべてを賄うという意味ではありません。同盟国との情報共有を続けながらも、日本側に分析の軸を持つことです。

国家情報局の役割も、この文脈で見ると分かりやすくなります。米国情報に依存するだけでなく、日本の政府内に複数の情報を突き合わせる中枢を持つ。これが制度変更の現実的な意味です。


人材、報酬、訓練、法制度という壁

情報機関は、看板を掲げればすぐに機能するものではありません。

必要になるのは、情報を扱える人材、外国語能力、地域知識、サイバーやAIの技術力、心理戦や偽情報に関する理解、機密保持の訓練、海外機関との折衝経験です。さらに、長期的に人材を育てる仕組みも必要になります。

日本の行政組織は、ゼネラリスト型の人事や年功序列的な運用が強く、専門職を高待遇で継続的に育てる仕組みが十分とは言いにくい分野があります。情報機関に必要な人材は、民間企業や海外機関、研究機関とも競合します。AI、サイバー、データ分析の人材であれば、民間の報酬水準も無視できません。

報酬だけで忠誠心を買うことはできません。それでも、命や自由、キャリアを危険にさらす可能性がある仕事に対して、訓練、身分保障、家族を含めた保護、専門性に見合う待遇を整えなければ、優秀な人材は集まりにくくなります。

制度面の難しさもあります。

対外情報活動を強める場合、海外でどこまでの活動が許されるのか、現地法との関係をどう扱うのか、要員が拘束された場合に政府はどう対応するのか、関与を否認するのか、外交問題化した場合にどの省庁が責任を持つのか。こうした問題は、単なる組織再編だけでは解決しません。

国内情報を扱う場合も、個人情報、通信、金融、SNS、企業情報、研究情報などに関わる可能性があります。どの範囲まで収集できるのか、誰の承認が必要なのか、収集した情報をどこまで共有できるのかというルールが不可欠です。

情報機関は、作るより育てる方が難しい組織です。国家情報局の成否は、発足時の人数よりも、その後どれだけ専門性、法制度、監視制度、人材育成を積み上げられるかに左右されます。


情報機能強化と監視社会化の境界線

情報機能の強化には、安全保障上の合理性があります。偽情報、影響工作、サイバー攻撃、技術流出が現実のリスクになっている以上、政府が情報を分析する能力を持つことは必要です。

同時に、情報機関は権限が見えにくい組織です。どの情報を集めているのか、誰を対象にしているのか、どのように分析しているのかが外から分かりにくいほど、国民の不信は強まります。

特に国内での情報収集は慎重さが求められます。外国勢力による影響工作への対処と、政権批判や市民活動の監視は明確に分けられなければなりません。政治的中立性が揺らげば、情報機関は国家を守る道具ではなく、政権を守る道具に見えてしまいます。

情報戦の時代には、SNS上の発信、世論形成、政治運動、企業活動、研究活動が安全保障と接点を持つことがあります。その接点が広がるほど、監視対象の範囲も曖昧になりやすくなります。

だからこそ、目的の限定が重要になります。

何を外国情報活動とみなすのか。何を影響工作とみなすのか。国内の一般的な政治的意見表明と、外国勢力による組織的な工作をどう区別するのか。政府に都合の悪い意見が、安易に「影響工作」と扱われない仕組みが必要です。

情報機能を強めることと、監視社会化を避けることは両立できます。必要なのは、権限の範囲を明確にし、運用を記録し、外部から検証できる制度を整えることです。


強い情報機関には強い監視制度が必要

強い情報機関を持つ国ほど、監視制度の設計が重くなります。

情報機関は、通常の行政機関よりも秘密性が高くなります。活動のすべてを公開すれば機能しません。しかし、秘密性を理由に権限が広がりすぎれば、民主主義の土台を傷つけます。

必要なのは、情報機関の活動を公開することではなく、適切に監視する仕組みです。

国会による監視、第三者機関による検証、内部監査、法的な権限の明確化、情報収集の対象と範囲の限定、政治的中立性を守るルール、違反時の責任追及。こうした仕組みがあって初めて、情報機関への信頼が生まれます。

付帯決議でプライバシー保護や政治的中立性への配慮が盛り込まれたことは、制度の出発点として意味があります。ただ、付帯決議だけで十分とは言えません。実際の運用でどこまで守られるのか、国会や外部の監視がどれだけ機能するのかが問われます。

情報機関への信頼は、政府が「乱用しない」と説明するだけでは積み上がりません。乱用できない仕組みを制度として作る必要があります。

国家情報局が本当に日本の安全保障を支える組織になるには、能力の強化と同じ速度で、監視と統制の仕組みも整えなければなりません。


総括

国家情報局の新設は、日本が情報戦時代に対応するための制度変更です。

中国、北朝鮮、ロシア、台湾有事、サイバー攻撃、偽情報、影響工作、経済安全保障といった課題は、従来の省庁ごとの縦割りだけでは対応しにくくなっています。各省庁の情報を官邸側で集約し、分析し、政策判断につなげる仕組みを強める必要性は高まっています。

一方で、情報機関は作ればすぐに機能するものではありません。人材、訓練、報酬、専門性、法制度、国際連携、機密保持、外交上の処理など、時間をかけて整えるべき課題が多くあります。看板を変えるだけでは、実質的な情報能力は高まりません。

情報機能の強化には、民主的統制が欠かせません。プライバシー保護、政治的中立性、国内活動と対外活動の線引き、国会や第三者機関による監視、秘密指定や情報共有のルールが曖昧なままでは、国内監視への不信が広がります。

日本に必要なのは、強い情報機能と、それを縛る強い監視制度の両方です。

国家情報局が問われるのは、発足の規模や名称ではありません。どのような権限を持ち、どのような人材を育て、どのようなルールで運用され、誰がその活動を監視するのか。その積み重ねが、日本の情報戦時代への対応力を左右します。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。


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国家情報局を「突然できる新組織」として見るのではなく、戦後日本の情報機能がどのような制約と再編を重ねてきたのかを押さえることで、今回の制度変更の位置づけが見えやすくなります。内調やNSCとの関係、日本がなぜ情報機関の整備に慎重だったのかを理解したい人に向いています。


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国家情報局の議論は、軍事や外交だけでなく、SNS上の偽情報、影響工作、サイバー攻撃、経済安全保障ともつながっています。この本を読むと、情報が単なるニュースやデータではなく、人々の認識や政策判断を動かす戦場になっていることが理解しやすくなります。今回の記事で扱った「情報機能強化」と「民主的統制」の背景を広げて考えるための補助線になります。



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