ドイツAfD、州選挙で43.8%の第一党 「極右」支持拡大の理由と、政権入りを阻む「防火壁」の行方【海外の反応・解説】

2026年9月のドイツ・ザクセン・アンハルト州議会選挙でAfDが43.8%で第一党に。なぜ「極右」が支持を集めたのか、州政権で何ができるのか、協力を拒む「防火壁」はどうなるのかを海外の反応とともに解説。

今回の記事の重要ポイント(三点)

・2026年9月6日のドイツ・ザクセン・アンハルト州議会選挙で、AfD(ドイツのための選択肢)が得票率43.8%で第一党になったが、単独過半数には3議席足りない。

・AfDの州支部は州の憲法擁護庁から極右組織と分類されており、主要政党は「防火壁」と呼ばれる方針でAfDとの政権協力を拒み続けてきた。

・選挙時の調査ではAfDが経済や治安の分野でも「最も問題を解決できる党」と評価されており、怒りの表明だけでは説明できない期待が支持を支え始めている。防火壁でAfDを政権から外しても、その期待に応える責任は政権を担う側に残る。


AfDが43.8%で第一党、単独過半数には3議席不足

2026年9月6日、ドイツ東部のザクセン・アンハルト州で州議会選挙が行われ、右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第一党になった。

9月8日時点の州選挙管理当局の暫定結果によると、AfDの得票率は43.8%で、前回2021年の20.8%から倍増し、定数83のうち39議席を獲得した。単独過半数の42議席には3議席足りない。

前回37.1%で第一党となり、社会民主党(SPD)・自由民主党(FDP)と州政権を担ってきたキリスト教民主同盟(CDU)は、17.2%の15議席に落ち込んだ。SPDは9.3%で8議席、緑の党は8.9%で8議席、左派党は8.6%で8議席、新党のザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)は5.3%で5議席を得た。投票率は77.8%で、前回の60.3%から大きく上がった。

AfDの州筆頭候補ウルリヒ・ジークムント氏は選挙翌日、州首相就任への意欲を示した。メルツ首相(CDU)は同日、AfDとの協力を改めて拒否したうえで、結果が党を根底から揺さぶったと認めたと報じられている。

政権の行方は、5議席のBSWの動きにかかる。BSWはAfDを含む各党との政策協議に応じる姿勢を示しているが、幹部の発言には幅があり、AfDとの連立や州首相選出での対応は固まっていないと報じられている。AfDとBSWを除くCDU・SPD・緑の党・左派党の4党は合計39議席で、BSWを加えれば44議席と過半数を超える。


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AfDはどんな党で、なぜ他党は組まないのか

反ユーロの政党が13年で東部の第一党になった

AfDは2013年2月、ユーロ圏の危機の最中に「ギリシャ支援の負担を拒む」経済学者らが立ち上げた政党です。当初の看板は反ユーロで、移民は主要な争点ではありませんでした。

転機は2015年です。難民が大量に流入した年に党内の路線争いが起き、創設者側が離党し、党は反移民を前面に出す政党へ変わりました。2017年には連邦議会に初めて議席を得て、その後は旧東ドイツの各州で支持を伸ばしていきます。

2025年2月の連邦議会選挙では全国で20.8%の第2党となり、ザクセン・アンハルト州内では37.1%を得ていました。今回の43.8%は突然の跳ね上がりではなく、数年かけて積み上がった伸びの先にあります。

州議会選挙でAfDが第一党になったのは、2024年9月のテューリンゲン州(32.8%)に続いて今回が2度目です。ただし前回は州首相を出せませんでした。今回が新しいのは、43.8%という党史上最高の得票率と、AfDの州首相が誕生する可能性が初めて現実味を帯びたことにあります。


「極右」の分類は情報機関の判断で、政党禁止とは別の手続き

ザクセン・アンハルト州の憲法擁護庁は2023年11月、AfDの州支部を「極右的な活動が確認された組織」と分類しました。憲法擁護庁は、憲法秩序を脅かす動きを監視するドイツの情報機関です。分類の根拠として挙げたのは、移民を減らすという政策そのものではなく、民族や出自を中心に国民をとらえる考え方が、人間の尊厳と民主主義の原則に反するという点でした。

州当局が問題にしているのは、移民系のドイツ国籍保有者を「パスポートだけのドイツ人」と呼ぶ言説など、国籍を持つ人を出自によって対等な国民と認めない考え方です。

この分類は「監視の対象にする」という判断であり、党を禁止する手続きとは別のものです。

ドイツはナチ党が選挙で勢力を伸ばし、ヒトラーの首相就任後に弾圧と制度の改変で民主主義を壊した経験から、民主主義を壊そうとする勢力に自由を与えない仕組みを憲法に置いています。ただし政党を禁止できるのは連邦憲法裁判所だけで、実際に禁止された例は1950年代の2件しかありません。

連邦レベルの扱いは、別に裁判で争われています。連邦の憲法擁護庁は2025年5月にAfD全体を同じ区分に分類しましたが、2026年2月にケルン行政裁判所が、本案の判決が出るまでその区分で扱うことも公表することも差し止めました。

裁判所は党内に憲法に反する動きがあること自体は認めつつ、党全体をその性格で括る根拠は足りないと判断しました。「州支部は極右と分類されている」「AfD全体の扱いは裁判の途中」の二段構えで、選挙に出て第一党になること自体に制度上の妨げはありません。


州首相は議会が選ぶ、だから43.8%でも自動では決まらない

ドイツの州首相は、住民が直接選ぶのではなく州議会が選びます。ザクセン・アンハルト州議会では、1回目と2回目の投票で全議員の過半数にあたる42票が必要です。AfDの39議席では、他党の議員が3人以上賛成しなければ州首相を出せません。

ここで効いてくるのが「防火壁」(ブラントマウアー)です。法律や憲法の規定ではなく、CDUをはじめ主要政党が「AfDとは連立も協力もしない」と自ら決めた方針を指します。CDUは2018年の党大会でこの方針を正式に決議しました。2020年にテューリンゲン州で、CDUとAfDの票で別の小政党の候補が州首相に選ばれた際には全国的な騒動になり、その候補は数日で辞任しています。

ただし防火壁でAfDを止め続けるにも限界があります。2回の投票で誰も42票に届かず、州議会が解散しないと決めれば3回目の投票に進みます。3回目は棄権を除く投票の過半数で足ります。BSWの5人が全員棄権しても、残る4党が39票を反対に投じればAfDの39票と同数で選出できませんが、4党からも棄権者が出て反対票が39を下回れば、AfDの票だけで州首相が決まります。

一度選ばれた州首相を辞めさせるにも、全議員の過半数で別の候補を選ぶ必要があります。「試しにやらせて、だめなら降ろす」は簡単にはできません。

反対側にも壁があります。AfDとBSWを除く4党は合計39議席で、BSWを加えれば44議席になりますが、5党すべてが連立するのか一部が閣外から支えるのかは別の問題です。さらにCDUは2018年の決議で左派党との連立にも否定的な方針を持っており、数の上で過半数に達しても、そのまま連立政権をつくれるわけではありません。


舞台は人口が4分の1減った旧東ドイツの州

ザクセン・アンハルト州は、ドイツ再統一の前は東ドイツに属していた州です。州の人口は1990年の約289万人から2025年末には約212万人へ、約4分の1減りました。

減少率は16州で最大です。仕事を求めて西へ移った若い世代が多かったことが背景にあります。

東西の差は人口だけではありません。ドイツ全体の人口の2割近くが東部出身なのに対し、政治・行政・経済・司法などの指導層に占める東部出身者は2022年時点で12%にとどまるという調査があります。「自分たちの声は届いていない」という感覚は、AfD支持者に限らず東部で広く共有されています。

もっとも、東部でAfDが伸びる理由を「貧しいから」「旧体制の影響が残っているから」という一つの要因で説明することには、ドイツの研究者も注意を促しています。当事者から見れば、西側からの上から目線に映る説明でもあります。


海外の反応

選挙当日の出口調査(この段階の速報値は44%前後で、開票終了後の暫定公式結果は43.8%)が出た直後、ドイツについて議論する英語の掲示板では、結果そのものより「この先どうするのか」に議論が集中していました。

3つのスレッドとも投稿者の大半はAfDに批判的で、議論の中心はAfD批判側の中で「排除を続けるか、一度統治させるか」を争うものです。AfDに投票した側の理屈を語る声はほとんどありません。

(コメント中の「4年」「2030年」は原文のままです。州議会の任期は5年で、任期満了なら次の選挙は2031年になります。)

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


呪われた結果だ。

BSW(ザーラ・ワーゲンクネヒト氏が率いる左派系の新党)が議席を取り、ワーゲンクネヒト陣営が押し切れば、AfDの州首相が選ばれたうえでBSWがすぐ内部崩壊する可能性がある。テューリンゲンでBSWに起きたのと同じことだ。

BSWが議席を取れなければ、過半数を作れるのはCDU(メルツ首相の中道右派、キリスト教民主同盟)・SPD(社会民主党)・左派党・緑の党の4党連立しかない。AfDが唯一の野党になり、その連立は次の予算折衝まで持たない。

待っているのは不安定だけだ。


私はザクセン・アンハルトでAfDが政権に就くところを見たい。他の政党のみなさん、あなたたちはこの選挙に勝っていない。負けたのだ。AfDにあのひどい政治をやらせて、有権者が求めたものを与えてやればいい。


かなり異論の多い意見を書かせてほしい。

断っておくが、私はAfDの支持者ではないし、彼らに投票することは絶対にない。私は根っからの民主主義者で、それを信じている。ただ、今の流れと空気のなかでは、この政党が「あらゆるものに反対する」だけで、実際の解決策を持たないまま、しかもそれを証明させられることもないまま票を伸ばせてしまう。そこに危険を感じる。

やらせればいい。

得票率44%なら、あと一歩だ。だったら統治させろ。他党が閣外から容認する少数政権を認めてやればいい。そうして初めて、彼らが口先だけだと明らかになる。

この状況でも、他の政党には必要ならそれを止めるだけの議席がまだある。だが実際には、彼らは派手に失敗するだろう。有権者にそれを気づかせる方法はそれしかない。

そうしなければ、この先4年も「我々ならこうできたのに」と泣き言を繰り返し、2030年には50%を超える。そのときにはもう手遅れだ。

ただ、やらせて、失敗させろ。


こうした集団は、歴史が示すとおり、失敗しない。

なぜなら彼らにとっての失敗は、あなたが考えている失敗ではないからだ。

過半数を取った瞬間、彼らの最初の仕事は、自分たちが権力に留まれるように制度をいじり始めることになる。

それが彼らの成功の基準になる。国や市民の成功ではなく。

極端な例を見たければロシアとトルコがある。トランプが権力に留まるか議会の多数を保ち続ければ、アメリカでも同じものが見られるだろう。

「失敗の仕方」が違うのだ。あなたが思っているものとは違う。


たとえ失敗しても、彼らは支持者の前で連邦政府に責任を転嫁する。そして支持者はそれを信じる。反AfDの陣営が政権を組んだところで、同じくらいひどく失敗し、次の選挙でAfDは絶対多数を取る。私の見立てでは、どちらの筋書きも失敗する運命にある。あなたの意見が通ってほしいと本当に、本当に思うが、そうは見えない。


州レベルでも、彼らは教育と文化を握ることになる。子どもたちに右翼的な宣伝をこれまで以上に押し付ける現実的な危険がある。責任転嫁をしながら同時に実害を残せてしまう分、この筋書きはもっと悪くなりうる。


彼らに統治させるというのは、失敗させるかどうかという話だけではない。その過程で現実に傷つく人間が出るという話だ。しかも私が言っているのは、AfDに投票した人たちのことではない。


「他党が閣外から容認する少数政権を認めてやればいい。そうして初めて、彼らが口先だけだと明らかになる」と。

それはうまくいかない。野党はあらゆる採決で政権を打ち負かすだけで、政権側は「何も進まなかったのは野党がすべてを妨害したからだ」と(正しく)主張できてしまう。おそらく政権はすぐ倒れ、再選挙になり、AfDはさらに議席を増やす。絶対多数すらありうる。

AfDが災厄になり、いずれ支持者もそれに気づくというのは確かにそのとおりだ。だがそれはすぐには起きないし、2030年に間に合う可能性はかなり低い。仮に気づいたとしても、既存の主流政党が信頼を取り戻さないかぎり、有権者が戻ってくることはない。あらゆる採決で妨害に回るなら、その信頼は戻らない。有権者は次の右翼ポピュリスト運動に移るだけだ。

CDU、SPD、緑の党は方針を根本から変え、人々が直面している現実の問題に実際に取り組むしかない。AfDの政策を取り込むという意味ではなく、要するに経済を立て直すということだ。それは彼らにとって、とてつもなく難しい。格差は広がり続けている。元の軌道に戻すには二世代かかる。


社会が危うくなれば、他の政党が束になって4年を待たずに終わらせることができる。それに、党そのものを禁止する取り組みにとって、確かな証拠が手に入るかもしれない。それは今、切実に必要とされているものだ。


欧州各国の読者が集まる掲示板では、投稿から一日で1,500件を超えるコメントが付き、現在は書き込みが締め切られています。

議論の中心はAfDそのものより、そこに票を押しやった側、つまりメルツ首相とCDUの評価でした。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


CDUの完全な壊滅だ。他の州の選挙も同じ結果になれば、メルツはもう終わりだ。


AfDは何もする必要すらなかった。メルツは彼らにとって、起こりうる最良の出来事だった。


この選挙の直前にフォルクスワーゲンがドイツ全体で大規模な人員削減を発表したことも、間違いなく効いていると思う。ドイツ経済はすでに悪い状態にあり、あの発表がそれを実感させた。


出口調査が行われたザクセン・アンハルト州は、ドイツの人口の2.5%を占めるにすぎない。つまりドイツ人のおよそ1%がAfDに投票したということだ。ひどい結果ではあるが、これでドイツがナチスに支配されたとか、ドイツ全体で過半数を取ったとかは思わないでほしい。


悪いが、私にはそれは悲嘆の「否認」の段階に見える。「全員がナチスなわけじゃない、ほんの少数派だ、本番の選挙を待て」というのは、トランプが当選する前に民主党支持者の多くが言っていたことでもある。


英語圏の一般ニュース板では、AP通信の記事に900件を超えるコメントが付きました。

米国政治に引き寄せる声が多い場所ですが、そのなかにはドイツ東部の事情に踏み込んだやり取りも混じっています。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


現職の政治家が無能だから人々が別の、ポピュリスト的な解決策を探しに行く。この理屈には一理ある。

結局のところ、暮らしがうまくいっていれば、誰もこんな連中に投票しない。


何十年もの「後押し」だ。いや、進んでやってきたことだ。資産格差の拡大、社会的な分断、再生可能エネルギーの研究と生産の妨害、インフラへの投資不足、そして自分たちは国民より上だという全般的な思い込み。これでもSPDとCDU・CSUの罪状のごく一部にすぎない。

CDU・CSUはいつもどおりのことをしてきた。億万長者の靴を舐め、自分たちが権力に留まれるようにしてきただけだ。

SPDはかつての自分自身を裏切ることを選んだ。労働者の党だった頃の面影はもうどこにもない。

1949年以降、政権にいたのは常にこのどちらかだ。庶民のことを少しでも気にかけていたと言える最後の政権は、ヴィリー・ブラント(1969年から74年まで首相を務めたSPDの政治家)のものだった。


経済的な暮らしが良くならなかった人たちだ。彼らは合理的に投票するのではなく、変化が問題を解決してくれると願っているだけだ。不合理でばかげているが、彼らは追い詰められている。

この政党は東ドイツでずっと成績がいい。あの地域は何十年も本当の意味で回復していない。ドイツにとってのアメリカ南部のようなものだ。

ウクライナ戦争もドイツを実際に痛めつけた。かつてのようにロシアから安いエネルギーが入ってこないのに、経済はそれに依存していたからだ。

だから国の一部、とくに東ドイツでは、ロシアとの関係を元に戻したいという声がある。


それが大した要因ではないと考える人がいるが、彼らの影響がどこまで届いているかは把握しきれないほどだ。

イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ニール・モーハン(YouTubeの最高経営責任者)たちがいる。X(旧ツイッター)やフェイスブックやYouTubeを開けば、西側の国はどこも暴力的なイスラム系やアフリカ系の移民に埋め尽くされているように見えてくる。

一日じゅう外に出て人と接していても、そこに映っているような振る舞いをする人間に一人も出会わない。それでも関係ない。ひとつの事件が増幅され、コメント欄では人々が集団的な迫害に賛同している。

ネット上の言説がこれまでになく世界を形作っている。しかも良い方向にではない。


「怒りの受け皿」だけではない、AfDに向かう統治への期待

AfDに票を入れた理由は「任せてみたい」へ変わり始めた

今回の選挙で最も重い変化は、有権者がAfDを「問題を解決できる党」と見始めたことです。選挙時の意識調査(Infratest dimap)では、「州の最も重要な課題を解決できる政党」にAfDを挙げた人が35%で、CDUの27%を上回りました。

Infratest dimapが尋ねた政策分野では、気候政策を除いてAfDの問題解決能力が他党より高く評価されました。経済ではAfD30%、CDU28%で、5年前と比べてAfDが22ポイント上げ、CDUは13ポイント下げました。

票の出どころも、この変化と重なります。AfDは前回投票しなかった層から約17万票を得たと推計され、総得票のおよそ3割にあたります。棄権していた人が投票所へ足を運び、投票率が60.3%から77.8%へ跳ね上がった。それが43.8%の中身です。

海外の掲示板の「一度やらせて失敗させれば支持は落ちる」という議論は、統治の結果が有権者の判断を変えるという見方に立っています。ただし政策がうまくいかなかったとき、それがAfD自身の責任と受け止められるのか、連邦政府や他党に妨害された結果と見なされるのかは別の問題です。調査の数字は、この支持を怒りだけでは説明できなくなっていることも示しています。


大敗したのは中道右派のCDUで、SPDと緑の党は票を伸ばした

「移民を入れすぎた反動で極右が勝った」という説明だけでは、今回の票の動きを追い切れません。大敗したのは移民政策で左派と対立してきた中道右派のCDUで、その票はAfDだけでなくSPDや緑の党にも流れました。左派政党が罰せられて右派が勝った、という単純な形にはなっていません。

移民問題が最大の争点だったことは数字にも出ています。AfD支持者の91%が「外国人が増えてドイツがドイツでなくなる」ことを心配していると答えました。ただ同じ調査で、89%が「請求書を払えなくなるほど物価が上がる」ことも心配しています。移民と生活費の不安は同じ人の中で重なっており、AfDはその両方に答える党として受け止められました。

「東ドイツ人は今も多くの場面で二級市民だ」という問いには、AfD支持者の83%が同意しました。CDU支持者でも68%が同意しており、この感覚は東部に広く根を張っています。AfDはそれを最もはっきり代弁する党と見なされました。


州政権を取っても、移民の受け入れ制度は州単独では変えられない

仮にAfDの州首相が誕生しても、有権者が期待した「移民問題の解決」のうち、受け入れ制度そのものは州政府の権限の外にあります。ドイツは連邦制で、移民・難民制度の基本ルールは州政府だけでは変えられません。対ロシア制裁も主にEUの枠組みで実施され、州単独で解除することはできません。一方、州は受け入れ後の行政や教育、送還の実務、警察、公共放送の枠組みに大きな権限を持ちます。

ジークムント氏が掲げる「最初の100日」の計画は、この範囲をよく映しています。報じられている項目は、州間の放送協定からの離脱と受信料の廃止、退去待機施設の拡大による送還の強化、ドイツに残る見込みのない難民の子どもの別学級、政党系財団への公費打ち切りなどで、いずれも公約の段階です。送還には裁判や相手国の受け入れという条件があり、放送協定からの離脱も他州との調整や法的な争いを避けられません。

一方、州の権限の中でも変わるものはあります。AfDが州の内務省を握れば、AfD州支部を監視してきた憲法擁護庁を、監視される側が指揮する形になります。経済面では、ライプニッツ経済研究所ハレ(IWH)の研究者が、外国人労働者の流入がなければ州の就業者数は減っていたと指摘し、排外的な政策は人手不足を深めると警告していると報じられています。


防火壁は民意の無視か、それとも権力への歯止めか

第一党を政権から外すことは、選挙結果の無視ではありません。州首相を選ぶのは議会であり、他の政党の組み合わせが多数を作ることも議会制の手続きの一部です。CDU支持者の81%が「AfDとの協力は排除すべきだ」と答えており、防火壁はCDUに票を入れた人たち自身の意思でもあります。

一方で、AfDを外すだけで有権者の不満が消えるわけでもありません。AfDとBSWを除く4党は39議席で過半数に届かず、BSWを加えて組めたとしても経済政策で左右に分かれた党の寄り合いになります。その停滞をAfDが「既成政党は自分たちの地位を守っているだけだ」と批判し、次の選挙でさらに伸びる。防火壁を守る側が恐れているのは、この循環です。

鍵を握るのが5議席のBSWです。左派系の新党ですが、移民への厳しい姿勢やウクライナ支援への批判ではAfDと接点があります。BSWはAfDを含む各党との政策協議に応じる姿勢を示していますが、幹部の発言には幅があり、州首相選出でどう動くかは固まっていません。4党を中心とした少数政権をBSWが閣外から支える形も、AfDの少数政権を容認する形も、まだ選択肢として残っています。


州の選挙結果を、パリとワルシャワが気にする理由

一つの州の選挙にフランスやポーランドの閣僚が反応したのは、この結果がドイツの国政に波及する前触れと見ているからです。フランスの経済相は「欧州にとって非常に憂慮すべき信号」と述べ、ポーランドのトゥスク首相は、AfDの勝利を喜ぶ自国の野党を「愚か者か裏切り者だけだ」と批判しました。

周辺国が見ているのは移民論争ではなく、欧州の対ロシア政策の結束です。AfDは連邦レベルでウクライナへの武器供与と対ロシア制裁に反対しており、ロシアの脅威を感じると答えた人はCDUや緑の党の支持者で70%、AfD支持者では31%でした。国内では「反移民の党」として支持されても、隣国からは「欧州の結束を弱める勢力」として見られています。

2026年4月にハンガリーでオルバン政権が敗れた際、欧州では「権威主義の後退」と受け止められましたが、今回の結果はその流れが一方向ではないことを示しています。州政府にドイツの外交を変える権限はなく、選挙分析を出したコンラート・アデナウアー財団も全国的な傾向は読み取れないとしています。

それでも州でAfDとの協力が一度成立すれば、国政での協力拒否にも圧力がかかります。2029年の連邦議会選挙に向けた前例になるかどうかが、周辺国が見ている点です。

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政権から外すことと、期待に応えることは別の宿題

「AfDは危険だ」の先に、既成政党は何を示すのか

今回の選挙は、AfDへの支持が「怒りの受け皿」にとどまらず、「解決を任せてみたい」という期待にも支えられ始めたことを数字で示しました。期待が高まったことと、実際に解決できることは別です。州政権を取っても、移民制度の根本的な変更や対ロシア制裁の解除を、州単独で実現することはできません。それでも期待は現に投じられ、43.8%という形で残りました。

防火壁を守る側にも、破る側にも、それぞれの理由があります。極右と分類された組織に権力を渡さないことは、CDUに票を入れた人たち自身の意思でもあります。同時に、政権を担う側には、誰が担うにせよ「AfDが解決すると期待された問題をどう解決するか」を示す責任が生じます。AfDが州首相を出すなら、その責任はAfD自身にかかります。「AfDは危険だ」と警告するだけでは、期待への応えにはなりません。

極右と分類された党への協力を拒むことと、暮らしを実際に良くできる政権をつくること。ドイツの既成政党は、この二つを両立できるのかを問われています。日本でも外国人政策をめぐる議論が広がるなかで、この問いは遠い国の話にとどまりません。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。

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関連書籍紹介

『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』

水島治郎(中央公論新社/2016年12月刊)

ヨーロッパのポピュリズム政党を、民主主義の外から来た敵ではなく、民主主義の内側から生まれた運動として扱った新書です。オランダやオーストリア、北欧の事例を追いながら、既成政党への不信がどのように「私たちの声を代弁する」という訴えへ変わっていくのか、その政党が政権に近づいたとき何が起きるのかを整理しています。

今回の記事で扱った「AfDが怒りの受け皿から問題解決を任せる相手へ変わり始めた」という変化は、著者が他国で追った経路と重なります。ドイツ一国の特殊事情としてではなく、ヨーロッパで繰り返されてきた形の一つとして今回の結果を眺めたい方に向きます。


『物語 東ドイツの歴史 分断国家の挑戦と挫折』

河合信晴(中央公論新社/2020年10月刊)

社会主義国家として出発した東ドイツが、どのような社会をつくり、なぜ行き詰まったのかを、政治史だけでなく人々の生活の側から描いた新書です。国家が用意した福祉と管理、住宅や職場の実態、そして1989年に至る過程を、統一後の評価も含めて追っています。

今回の記事で扱った「人口が4分の1減った州」「東ドイツ人は今も二級市民だという感覚」の背景には、この40年と統一後の30年があります。ザクセン・アンハルト州の投票行動を、貧しいからという一言で片づけずに考えたい方に向く一冊です。


『ヒトラーとナチ・ドイツ』

石田勇治(講談社/2015年06月刊)

ヒトラーがどのように支持を広げ、合法的な手続きを積み重ねながら独裁体制をつくったのかを、最新の研究をふまえて追った新書です。ナチ体制が暴力だけで成り立っていたのではなく、多くの国民を受益者として巻き込む形で維持されたことに重点を置いています。

今回の記事で扱った「戦後ドイツが民主主義を壊そうとする勢力に自由を与えない仕組みを憲法に置いた」理由は、この過程を知らないと輪郭がつかめません。憲法擁護庁の分類や政党禁止の手続きが、なぜあれほど慎重に運用されているのかを考えたい方に向きます。


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国内外のニュースを「報道・海外の反応・背景解説」の三層で読み解く個人メディア『せかはん』運営者。2025年8月の開始から1年で300本以上を執筆し、noteフォロワーは2万人。特定の政党・組織に属さず、一次ソースの照合と左右両論の併記を編集の基本にしています。

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