今回の記事の重要ポイント(三点)
・テスラは2026年9月11日から東京・大阪・名古屋で、ハンドルもペダルもない2人乗りの無人タクシー専用車「サイバーキャブ」を日本で初めて展示する。米国では有料の無人運行が始まり、米当局は安全基準の自己認証の根拠を調べ始めた。
・日本は2023年4月から「特定自動運行」の許可制度で運転者のいない運行を認めており、無人タクシーは法律で禁止されていない。
・日本に足りないのは無人の車ではなく、車両・無人運行・旅客事業の三つの許可と、運転手が消えても残る監視・保険・清掃・回送の費用を同時に引き受ける事業者である。
テスラがサイバーキャブを日本初公開へ、米当局は自己認証の根拠を調査
テスラの日本法人テスラジャパン合同会社は9月5日、無人タクシー専用車両「Cybercab(サイバーキャブ)」を日本で初めて一般公開する「Cybercab Japan Tour」を発表した。9月11日から14日まで東京・青山で公開し、その後は大阪(17〜20日)、名古屋(22〜23日)、東京・新宿(26〜28日)を巡回する。日本での運行や販売に関する発表は含まれていない。
サイバーキャブは2人乗りで、ハンドルもアクセルもブレーキのペダルもない。上に開くバタフライドアと大型のタッチスクリーンを備える。テスラは2024年10月に発表し、2026年4月に米テキサス州の工場で量産を始めた。
米国では現地時間9月4日午後5時、テキサス州オースティンでサイバーキャブを使った一般向けの有料乗車が始まった。車内に安全監視員は乗せていないと報じられている。開業日の運賃は、同じ経路で4人乗りのModel Y型ロボタクシーが12.10ドルだったのに対し、サイバーキャブは7.77ドルだったと報じられている。
一方、米道路交通安全局(NHTSA)は現地9月3日、サイバーキャブを対象とする監査照会(AQ26002)を開設した。人間用の操作装置を持たない車について、テスラがどの連邦自動車安全基準を「適用されない」と判断し、どの技術データに基づいて適合を自己認証したかを調べる。
NHTSAは「基準の改正作業が終わるまでは、既存の基準が有効だ」としている。欠陥の認定やリコールではない。対象は推定約1000台とされ、テキサス州に登録された実車は45台と報じられている。
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サイバーキャブは「運転席のない車」で、運転支援のFSDとは別のもの
サイバーキャブの新しさは、人が運転することを最初から想定していない車体にあります。Waymoなどの無人タクシーは、人間用に作られた市販車にセンサーと計算機を載せて自動運転化した車です。サイバーキャブはハンドルやペダルだけでなく、サイドミラーや後ろの窓も持ちません。
運転席がないと、車は軽く安く作れます。報道によると、ブレーキは油圧の配管やブレーキ液を持たず、車輪ごとの電動装置で直接制動します。操舵もハンドルと車輪を機械的につなぐ軸を持たない電動式で、車体は塗装せず素材に色を練り込んでいます。部品と工程が減るぶん、マスクCEOは発表時に販売価格を「3万ドル未満」と見込みました。
名前は三つを区別する必要があります。「Cybercab」は車両の名前、「Robotaxi」はテスラの配車サービスの名前で、サービスにはModel Yも使われています。「FSD(Supervised)」は市販のテスラ車向けの運転支援機能で、運転者が常に監視する必要があります。FSD搭載車が走っていることと、運転者なしで客を運んでいることは別の話です。
「レベル2」の自動運転は、もう普通の車に載っている
自動運転は人の関与の度合いで0から5の段階に分かれます。レベル2は、車が車線を保ちながら前の車に合わせて加減速する運転支援で、日本車の多くに標準で載っている段階です。人が常にハンドルに手を置いて監視し、責任も人が持ちます。
| レベル | 誰が運転するか | 人の役割 | 例 |
|---|---|---|---|
| 2 | 人 | 車が操舵と加減速を支援する。人が常に監視し、責任を持つ | 日本車の運転支援、テスラのFSD(Supervised) |
| 3 | 条件を満たす間は車 | 引き継ぎの要請があれば人が運転に戻る | 高速道路の渋滞時(ホンダが2021年に世界初の市販) |
| 4 | 決められた区域・道路・天候の中では車 | 運転者は不要。遠隔監視と事故時の対応体制が要る | Waymo、百度、サイバーキャブ、日本の特定自動運行 |
| 5 | どこでも車 | 人の関与なし | 実用例なし |
段階の定義は米自動車技術者協会(SAE)の分類に基づく。
テスラのFSD(Supervised)も、この分類ではレベル2です。ただし一般道の交差点や右左折まで車が処理する高度なもので、米国やカナダ、中国、オーストラリアなどで提供され、米当局の別の調査ではFSD搭載車約320万台が対象になっています。
日本では2025年8月から社員が同乗する公道テストが行われ、2026年中の導入を目指していると報じられています。
レベル4は、決められた区域・道路・天候の中なら運転者がいらない段階です。Waymo、百度、そしてサイバーキャブはここにあり、車の中に運転できる人がいません。レベル2からレベル4の間には「人が責任を持つ」か「車の側が責任を持つ」かという境目があり、制度も費用もそこで変わります。
レベル4は米中ですでに日常になり、日本でも2023年から認められている
無人タクシーは米国と中国で日常の交通手段になり始めています。
| 事業者 | 展開 | 主な数字 | 集計時点 |
|---|---|---|---|
| Waymo(米) | 5都市 | 無人走行の累計2億2060万マイル。人間の運転と比べ重傷以上の事故が94%少ない(同社公表) | 2026年3月 |
| 百度Apollo Go(中) | 26都市 | 週30万回超の乗車、累計2000万回 | 2026年2月 |
| テスラ(米) | オースティン | 専用車45台を州に登録。当局の調査対象は推定約1000台 | 2026年9月 |
| 日本 | 実証が中心 | 政府目標は2027年度までに100か所以上、2030年度に車両1万台 | 2026年1月閣議決定 |
出典: Waymo Safety Impact、CnEVPost、Austin American-Statesman、Electrek、国土交通省「自動運転を巡る動きについて」。都市数と走行距離の定義は各社で異なる。
日本でも制度上は走れます。2023年4月に施行された改正道路交通法の「特定自動運行」で、都道府県の公安委員会が許可すれば、区域・道路・天候の条件を定めたうえで運転者のいない運行ができます。遠隔で監視する人と、事故のときに現場へ向かう体制を置くことが条件です。
東京でも準備は進んでいます。Waymoは日本交通・GOと組み、2025年4月から都心7区で日本交通のドライバーが運転する形で道路データを集めています。狭い道や自転車・歩行者の多さ、雨や雪をどこまで含めて申請できるかは技術側の準備で決まり、1年以上続くデータ収集はその範囲を確かめる作業でもあります。
Uber・Wayve・日産は日の丸交通を運行パートナーに、2026年後半の試験運行を予定しています。国土交通省の資料では、トヨタと日産の無人サービスも2027年度の開始予定で並んでいます。日本の計画はおおむね2027年度に横並びで、テスラの日本展示は運行の計画を伴う発表ではありません。
「車として認める」「無人で走らせる」「客を乗せて稼ぐ」は別の審査
無人タクシーを有料で走らせるには、三つの法律の審査を別々に通す必要があります。国土交通省の手引きは、通常の保安基準に合わない例として「ハンドルやブレーキ等を備えない特別装置自動車」を挙げ、基準緩和の認定を受ける手続きを示しています。ハンドルがないこと自体は、日本で走れない理由になりません。
| 何を認めるか | 根拠になる法律 | 誰が出すか | 主に見るもの | 現状 |
|---|---|---|---|---|
| 車としての安全性 | 道路運送車両法 | 国土交通大臣・地方運輸局 | 走行できる条件、保安基準への適合。操作装置のない車は基準緩和の認定 | 小型の低速車両で認定例あり。市街地を走る乗用車型の前例はない |
| 運転者なしの運行 | 道路交通法 | 都道府県公安委員会 | 運行計画、遠隔監視、事故時の対応体制、地域住民の利便性・福祉への寄与 | 2023年4月から。許可例は地方の限定区域が中心 |
| 有料で客を運ぶ事業 | 道路運送法 | 地方運輸局 | 事業計画、運行管理体制 | タクシー事業と同じ枠組み。レベル4でタクシー事業の許可を通した例はまだない |
出典: 国土交通省「公道での自動運転の申請に関する手引き」(2024年6月)、警察庁「特定自動運行に係る許可制度の創設について」。
三つがそろって走った実例が福井県永平寺町です。2023年3月に車両の認可、5月に自家用有償運送の登録と特定自動運行の許可を受け、5月21日に国内初のレベル4の移動サービスを始めました。同年10月に車両と無人の自転車が接触して運行を止め、翌2024年3月に体制を改めて再開しています。ただし永平寺町は地域が主体の自家用有償運送で、タクシー事業の許可を通した無人運行の例は国内にまだありません。
なお2024年4月に始まった「日本版ライドシェア」は、海外のライドシェアとは似て非なる制度です。米国や中国のライドシェアは、配車アプリの会社が個人のドライバーと自家用車を束ね、タクシー会社の外で客を運ぶ仕組みです。Uberが2015年に福岡で試した実証も、国土交通省が白タクにあたるとして中止を指導しました。
日本版はタクシー会社の管理下で、一般のドライバーが会社と契約し、時間帯と地域を限って自家用車で客を運びます。創設から1年で935事業者・7927台にとどまり、自動運転とは別の制度です。ライドシェアが解禁されれば無人タクシーも自由に走れる、という関係にはありません。
米国は「自己認証」の国、日本は「先に審査」の国
米国では、車が安全基準に合っているかをメーカー自身が宣言して売り、国は後から検証します。この仕組みを自己認証と呼びます。ハンドルのない車を想定した基準の手直しは、乗員保護の部分は2022年に済みましたが、ブレーキの基準はペダルがある前提のままで、改正案が出たのは2026年6月です。
今回の調査は、テスラが「この基準はうちの車には当てはまらない」と判断した根拠を国が確かめるもので、危険だと認定したものではありません。日本は逆に、走る前に国と公安委員会が審査します。海外の反応で自己認証への不満が並ぶのは、この順番の違いをめぐる議論です。
海外の反応
この一件は米国のRedditでも議論になりました。まず、当局の調査開始を伝えた記事のスレッド(総合技術系のr/technology、2026年9月4日)から。
論調は自己認証への不信で埋まっていますが、その中に「自己認証は1966年から続く制度そのものだ」という業界内からの反論が食い込んでいます。
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
NHTSA(米道路交通安全局)は、テスラから「Cybercabは連邦自動車安全基準(FMVSS)のすべてに適合していると自社で認証した」と報告を受けたと言っている。メーカーが自分で認証するのは昔からのやり方なんだと。
そろそろ自己認証なんてやめさせる時じゃないか。
まったく、いい加減にしてくれ。
FMVSSへの適合は、この規制ができた1966年(施行は1968年)からずっと自己認証でやってきたんだよ。
テスラもマスクも人並みに嫌いだけど、それがNHTSAのやり方で、ずっとそうだった。どの会社も自分で認証を出して、そのうえでNHTSAが審査して基準を満たしているか確かめる。
昔から悪いことをやってきたからって、これからも続けていい理由にはならないだろ。
どっちのやり方にも良し悪しがある。自分は自動車業界で働いていて、まさにこの手の話が仕事だ。自己認証は費用の多くをメーカー側に負わせる代わりに、責任もぜんぶメーカーに負わせる。おまけに、細かい改良や部分変更をすぐ出せる。
完璧な制度じゃない。でも、NHTSAがテスラを調べていて、それがニュースになっていること自体が、制度がちゃんと動いている証拠だと思うよ。
LiDAR(レーザーで周囲との距離を測る装置)なしじゃ、この試みは失敗する。カメラだけで安全に走らせるのは無理があるって。
専用に作った無人タクシーは、いずれ全部こうなるよ。Waymoに今ハンドルが付いているのは、普通の車を改造しているからにすぎない。専用に作る車にハンドルは付かない。運転手のいない車で、運転席に場所を割く意味がどこにある。
ロボタクシーは2種類の車を使っている。大半の乗車は2人乗りのCybercabで受けるつもりで、乗る人数は圧倒的に2人以下だからそうなる。3人以上のグループにはロボタクシー仕様のモデルYが回る。モデルYは1年以上前から走っていて、Cybercabは今日の午後から公道での商用運行に入った。
Cybercabの方が作るのも走らせるのも安い。テスラのワイヤレス充電や自動清掃に合わせて設計されているからね。
その差は運賃にも出ている。同じロボタクシーの中でも、CybercabはモデルYより3〜4割安い。Waymoと比べたら運賃は半分以下だ。
そこまで先走らない方がいい。その値付けが原価を映しているのか、それとも利用を振り分けるためにわざと差をつけているだけなのか、外からは分からない。
例えばテスラは、ソーラールーフを10年近く売り続けたあとで、採算が合っていなくて価格が原価を賄えていなかったと認めた。
小さい車の方が本体も安いし、走らせる費用も安いし、あるいは単に小さくて営業時間外の駐車場に多く詰め込めるからという理由で乗車の8割をそっちに寄せたいなら、テスラは小さい車の値段を下げる。
でもそれは、値段が原価どおりだという証拠にはならない。たぶんどっちも赤字で走らせているよ。
操作装置がないってことは、車が変な動きをしたり動かなくなったりしたとき、駆けつけた人間がその車をどかす手段すらないってことだよな。
もう一本は、自動運転車を専門に扱うr/SelfDrivingCarsのスレッドです(2026年8月24日)。投稿者は「Cybercabを個人が買って持つ場合、保険・清掃・故障対応・手数料・配車の優先順位は誰が引き受けるのか」を一つずつ並べて質問しました。
商用投入前の議論なので、ここで挙がる分担はいずれも推測です。それでも、運転手が消えたあとに何が残るかという論点は具体的に出そろっています。
以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。
「テスラはこの点を明確にしたのか」って、してないよ。2027年より前に消費者向けに3万ドルを切る、と繰り返し約束しているだけで、言っているのはそれくらいだ。
テスラは何も明かしていないけど、答えを想像するのは面白い。
所有者が持つのは、車そのもの、保険の維持、消耗と傷み、保証が切れたあとの修理だろう。
配車と充電と清掃はテスラが自動で回す。使っていないCybercabは、街のあちこちに決められた待機場所を見つけて停まる。その場所は人の手で割り当てないといけない。
運賃はUberと同じで、テスラがアルゴリズムで決める。テスラの取り分は、まあ5割くらいかな。運賃が20ドルなら10ドルがテスラで10ドルが所有者。ただしその5割に充電と清掃の費用が含まれるのかもしれない。
1日6回、60ドル分の乗車が入るなら年2万2000ドル、保険の年3000ドルを引いて、3年で元が取れる。回数としては控えめに見える。ただ、どの街にも1万台が並ぶようになったら、1日1回の乗車が取れれば運がいい方になる。
いや、6回の乗車は取れ続けるよ。取り分の方が2ドルくらいまで下げられるだけだ。資産は値下がりし続けて、手元には何も残らない。
Cybercabの車列が本当に儲かるなら、投資ファンドが10億ドル出して丸ごと買い占める。年2割5分で回るものがあるなら、彼らは金を用意できるからね。
どの乗車が一番儲かるか分かっているのに、なんでテスラがそれを均等に配るんだ。自社の車には利益率の高い仕事を回して、儲からない需要は客の車に押しつけるに決まっている。
中心部から30マイル離れた場所に住んでいて、午前4時に空港へ行きたいとする。空車のまま長距離を走って迎えに行って、そのあと郊外へ戻されるのは誰の車だと思う。そのあいだ空港からの客を拾うのは会社の車だろう。
深夜過ぎの飲み屋街が、後始末の要る汚れた仕事になると分かっているとする。最初にそこへ向かうのは誰の車だと思う。汚された車を優先的に清掃してもらって、早く走りに戻れるのは誰の車だ。
加盟店の仕組みが成り立つのは、本部が自分と同じ商売をしていない場合だけだ。本部が市場を作って、注文を割り振って、車まで製造しているなら、本部は自分が一番儲かるように動かして、危険は第三者に押し出す。
元の配車ドライバーとして言うと、待機(もっと悪いのは空車回送)は利益をごっそり削る。テスラが配車を握っているなら、自社の車には確実な需要をあてがい続けられるし、個人の車は混雑時間の外では遊ぶことになる。
何もない場所へ向かう割の悪い経路に個人の車だけ回すことだって、十分ありうる。そこから自分の縄張りへ戻るまで、その車は長く遊ぶ。
それに、需要が多くて儲かる場所(都心や観光地)ほど、待機中の車をただで停めておける場所がない。待機中の自動運転車が道路を詰まらせて、多くの自治体で締め出される展開もあると思う。
清掃と整備、それに「今は使える」と示すのは所有者の仕事になるだろう。ただ、車が空いた直後にすぐ次の客を乗せないなら、テスラが清掃と整備をやる余地もある。
自動で走っているあいだの保険はない。そこはテスラが自前で持つことになる。あなたの敷地に停まっているとき、あるいはあなたやあなたの関係者を乗せているときの破損はあなたの負担で、それ以外はテスラの負担になるはずだ。
運賃はテスラが決める。取り分は、あなたがこの商売から降りない程度に稼がせて、それ以上は渡さない水準になる。
自社の車を優先するか。もちろんする。ただし、どこまでもじゃない。あなたの車の方が客にずっと近ければ、客を待たせないためにあなたの車を送る。距離が同じくらいなら、当然テスラの車が行く。
運転席から人が消えても、消えないもの
ハンドルのない車を、誰がいつ合格と決めるのか
米当局が調べているのは、車が危険かどうかではなく、合格を決める順番と根拠です。テスラの言い分は、自己認証は制度どおりで、実際に有料の無人運行を始めて制度が追いついていない部分を埋めているのは自社だけだ、というものです。ブレーキ基準のように未整備の部分をどう扱ったかが、調査の中身になります。
Waymoの立場は逆で、カメラだけでは足りず、レーザーで距離を測るLiDARやレーダーと組み合わせるべきだとしています。根拠は2億マイルを超える無人走行と、人間の運転より重傷事故が94%少ないという自社の集計です。ただし競合企業の主張で、テスラ側に同じ条件の数字はありません。安全性は動画一本やセンサーの数ではなく、同じ条件で走った距離と事故・停止の回数で比べるしかありません。
順番の違いは、事故が起きたあとに効きます。GM傘下のCruiseは2023年10月、サンフランシスコで歩行者を巻き込んで引きずる事故を起こし、映像の提出をめぐって州に許可を止められ、GMは2024年12月に撤退しました。米国は先に走らせて後から止める制度、日本は先に審査し、事故が起きれば警察署長が許可を仮に止める制度です。どちらが安全かではなく、誰がいつ止めるかの設計が違います。
運転手が消えても、残る費用は誰が払うのか
無人化で消えるのは運転手の人件費だけです。全国ハイヤー・タクシー連合会の資料では、法人タクシーの原価の73.2%が人件費で、運行管理や整備の人員も含みますが最大の費目です。運転者の分が消えても、日本の制度は遠隔監視の人員と、事故時に現場へ向かう人員を求めており、その人件費は残ります。
事故の責任と保険も消えません。国土交通省の研究会は2018年、レベル4でも自賠責保険の運行供用者責任を維持し、保険会社からメーカーへ求償する方向を示しました。運転者がいないから被害者が誰にも請求できない、という制度にはなりません。ただ、車の不具合か運行管理の問題かを切り分ける走行記録を、誰が持ち誰が使えるかはまだ固まっていません。
清掃、故障車の回収、待機場所の確保、空車で迎えに行く回送も、運転手が一人でこなしていた仕事です。デジタル庁のモビリティ・ロードマップ2026は監視者1人で複数台を見る「1対N遠隔監視」を課題に挙げていますが、何台までかは未定です。オースティンの開業日の運賃差も初日の1事例で、その後は需要で上がり、配車アプリより高くなった例も報じられています。
都市と地方では効き方が逆です。都市部は客はいるが運転手が足りないので、無人化は供給を増やします。地方は運転手も客も少なく、空車の時間が長くなります。同じロードマップも「自動運転車両の導入のみでは解決困難な採算面の課題」と書いています。人手不足だから自動運転が必要だという話と、自動運転なら地方交通が黒字になるという話は別です。
反対する側は、担う側に回れるか
ライドシェアが広がらなかった構図は、無人タクシーにそのまま当てはまりません。全国ハイヤー・タクシー連合会は2024年11月の決議で、反対の最大の理由を「事業主体が運行や車両整備について民事・刑事上の最終責任を負わない点」と説明しました。自動運転タクシーについては、「タクシー事業者の責任において」安全を確保することを基本に実装を進めるとしています。
ライドシェアは業界の外から来る競争相手でしたが、無人タクシーは業界自身が導入できる道具です。法人タクシーの運転者は2009年度の約38万人から2022年度に約22万人へ4割以上減り、平均年齢は60歳前後です。人を雇えない事業者にとって、運転者のいない車は供給を戻す手段になります。いま運転席にいる約22万人にとっては仕事の置き換えで、その受け止めは業界団体の文書には出てきません。
既得権批判の側にも言い分があります。制度は2023年に整い、政府は2027年度に100か所、2030年度に1万台の目標を置いているのに、国内の商用計画は2027年度以降に横並びです。日本版ライドシェアも創設から1年で7927台にとどまりました。ライドシェアに反対しながらWaymoへの乗車を勧めた業界トップの投稿が批判を浴びたのも、その落差からです。
Waymoが日本交通と組んだ形は、この二つの言い分の間にあります。海外の技術と、国内事業者の車庫・整備・営業所・地域との関係を組み合わせ、三つの許可と残る費用を引き受けるのは国内の事業者です。決まっていないのは、配車、運賃、運行データ、ソフトウェアの更新を誰が握るかです。国内事業者が現場作業の受託者にとどまるのか、サービスの設計にも関わるのかが分かれ目になります。
日本は段階を飛ばすのか、無人化に都合のいい形で止まっていたのか
外から見ると、日本はライドシェアの段階を飛ばして無人タクシーへ向かおうとしています。途中の段階を飛び越えて新しい技術に移ることをリープフロッグと呼び、固定電話網を持たなかった国が携帯電話やモバイル決済で先行した例が知られています。米国や中国では、Uberや百度がライドシェアで配車アプリと利用習慣と需要のデータを先に育て、その上に無人車を載せました。
日本でライドシェアが広がらなかったのは、制度の壁だけが理由ではありません。既存のタクシーの品質と料金への不満が海外ほど強くなく、需要の側から押し上げる力が出ませんでした。無人タクシーは逆に、運転者不足という供給側の穴を埋める道具で、業界自身が欲しがっています。飛ぶ動機は需要側ではなく供給側にあります。
米中のライドシェアが果たした役割のうち、配車アプリと利用習慣は、GOのようなタクシー配車アプリの形で日本にもすでにあります。欠けているのは個人の車と個人のドライバーを束ねる部分だけで、無人化すればその部分は要らなくなります。日本が飛ばしたのは、無人化すれば不要になる段階だった、という見方もできます。
ただし飛び方は米中と違います。米中では業界の外から来た新規参入者が一気に広げましたが、日本の担い手は既存のタクシー会社で、自社の運転者を急に減らす動機はなく、営業区域も車庫も既存の枠から始まります。最初の無人タクシーは安い新サービスとしてではなく、運転者が足りない時間帯と地域の穴埋めとして、都市部の一部から数年かけて広がると読めます。米中型の一気の飛び越えが起きるとすれば、個人が買ったサイバーキャブを配車網に入れる形を制度が認めた場合ですが、旅客事業の許可が個人に下りる見込みは今の制度では薄いままです。
未来の車を待つより、引き受け手を決める
「うちの町に来るか」は、三つの許可を引き受ける事業者で決まる
サイバーキャブの展示は、無人タクシーの姿を日本で初めて実物で見せる機会です。ただ、日本で足りないのは無人の車ではありません。制度は2023年からそろっており、ハンドルのない車を認める手続きも用意されています。足りないのは、車両・無人運行・旅客事業の三つの許可を同時に通し、運転手が消えたあとに残る監視・保険・清掃・回送の費用を払う事業者です。
米国では先に走らせて後から検証する制度の中で、テスラとWaymoが別の考え方で安全記録を積んでいます。日本は先に審査する制度で、担い手は業界の外ではなく内側から出てきます。だから最初の一台は、未来の乗り物としてではなく、運転者の足りない時間帯と地域の穴埋めとして現れるはずです。テスラの車が来るかどうかより、自分の町でその三つの許可を引き受ける事業者が誰になるのかが、無人タクシーが日常になるかを決めます。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
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関連書籍紹介
『自動運転レベル4 どうしたら社会に受け入れられるか』
樋笠尭士(学芸出版社/2023年03月刊)
自動運転のレベル4を、技術ではなく社会が受け入れる条件の側から扱った本です。避けられない事故の場面で車のプログラムが何を選ぶかという倫理の問題、事故が起きたときに誰が責任を負うかという法の枠組み、そして日本・ドイツ・EUがそれぞれどう線を引いてきたかを並べています。
今回の記事で扱った「日本は走らせる前に国と公安委員会が審査する国である」という順番の話を、その審査が何を確かめようとしているのかという中身まで掘り下げられます。ニュースの数字ではなく、無人運行を許すときに社会が何を決めておく必要があるのかを考えたい方に向きます。
『交通崩壊』
市川嘉一(新潮社/2023年05月刊)
日本の交通行政が、鉄道・道路・路面電車・歩行者といった部分ごとに最適化され、全体をまとめる政策が不在のまま来たと論じる新書です。在来線網の分断や路面電車が広がらない理由を追いながら、無人運転バスの可能性と課題、電動キックボードの扱いまで射程に入れています。
今回の記事で扱った「制度は2023年にそろっているのに引き受け手が定まらない」という状態は、著者が指摘する部分最適の一例として読めます。無人タクシーを新しい乗り物としてではなく、地域の交通全体をどう設計するかの一部として考えたい方に向く一冊です。
『Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命 ―移動と都市の未来―』
日高洋祐・牧村和彦・井上岳一・井上佳三(日経BP/2020年03月刊)
移動を単体のサービスではなく、他の産業と組み合わせて成り立たせる考え方を扱った本です。交通事業者だけで採算を取ろうとすると成立しない移動を、小売・不動産・医療・自治体などとの連携でどう支えるかを、国内外の事例を追いながら整理しています。
今回の記事で扱った「運転手が消えても残る監視・保険・清掃・回送の費用を誰が払うのか」という問いに、運賃収入の外側から答えを探す視点を足せます。無人化そのものより、無人化した移動を誰がどう成り立たせるかに関心がある方に向きます。
参考リンク
- Cybercab(サイバーキャブ)を日本初公開|Tesla Japan合同会社(PR TIMES)
- NHTSA Opens Investigation into Tesla Cybercab Self-Certification Following Austin Deployment|NHTSA
- Tesla Cybercab is already under NHTSA investigation after launch|Electrek
- 特定自動運行に係る許可制度の創設について|警察庁
- 公道での自動運転の申請に関する手引き|国土交通省
- 自動運転を巡る動きについて|国土交通省
- モビリティ・ロードマップ2026の概要|デジタル庁
- TAXI TODAY in Japan 2025|全国ハイヤー・タクシー連合会
- Waymo Safety Impact|Waymo


