東野圭吾さん、大腸がんのため死去 「症状が出る前」の検診が生存率9割と2割を分ける【海外の反応・解説】

作家の東野圭吾さんが大腸がんのため死去しました。日本で最も罹患数の多いこのがんは早期に症状が出ません。40歳以上・年1回の便潜血検査という検診制度の設計と、陽性者の約3割が精密検査に進まない現状を、海外の反応とともに解説します。

今回の記事の重要ポイント(三点)

・作家の東野圭吾さんが7月23日未明に大腸がんのため死去し、その訃報は中国や台湾、韓国でも速報されるなど、国境を越えた追悼が広がった。

・大腸がんは日本で罹患数が最も多いがんでありながら早期には自覚症状がほとんどなく、だからこそ症状のない人を対象にした検診制度が、便潜血検査を入口として設計されている。

・大腸がんは早期に見つかるかどうかで生存率が大きく変わるが、日本では便潜血検査で陽性となった人の約3割が精密検査に進んでおらず、検診の連鎖が途中で切れている。


講談社が伝えた訃報と、公表された死因

講談社は7月27日、作家の東野圭吾さんが7月23日未明、大腸がんのため死去したと発表した。享年68。葬儀は家族葬で執り行われた。発表によれば、著作は106冊(共著をのぞく)、41の国と地域で出版され、国内の発行部数はおよそ1億900万部にのぼる。最新刊『永遠の記憶』(文藝春秋)は8月5日に刊行が予定されている。病期や発見時期、治療の経過は公表されていない。

訃報は国外にも広がった。中国では国営メディアが死去を速報し、交流サイト「微博」の検索ランキングが一時トップになったと報じられている。台湾と韓国でも主要メディアが速報し、それぞれ「日本を代表する推理小説家」「日本の推理小説の巨匠」と紹介した。

死因として公表された大腸がんは、症状のない段階を対象にした検診が国の制度として設けられている、数少ないがんの一つである。


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東野圭吾さんが遺したものと、大腸がん検診の仕組み

江戸川乱歩賞から40年、日本ミステリーの顔であり続けた

東野圭吾さんは1985年のデビューから40年あまり、日本のミステリーの第一線に立ち続けた作家でした。

大阪府立大学で電気工学を学び、エンジニアとして働きながら書いた『放課後』で江戸川乱歩賞を受賞して作家生活に入りました。理系の発想を核にしたガリレオシリーズ、刑事の人間を描く加賀恭一郎シリーズという二枚看板に加え、『白夜行』『秘密』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のようにミステリーの枠を超えて読まれる作品を重ねています。

歩みの節目を並べると次の通りです。

出来事
1985年『放課後』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー
2006年『容疑者Xの献身』で直木賞・本格ミステリ大賞
2012年『容疑者Xの献身』英訳版が米エドガー賞最優秀長編候補
2019年『新参者』英訳版が英CWAインターナショナル・ダガー賞ノミネート
2023年菊池寛賞受賞、紫綬褒章受章

出典:講談社の発表資料

講談社の発表によれば、エドガー賞とダガー賞の二つにノミネートされた日本人は東野さんが初めてです。作品は国内でドラマ・映画化が相次いだだけでなく、『容疑者Xの献身』や『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は中国でも映画化されており、訃報への反応が東アジアで特に大きかった背景には、この翻訳と映像化の蓄積があります。

その東野さんの死因として公表された病名が、大腸がんでした。


日本人が最も多くかかるがんは、早期にはほとんど症状が出ない

大腸がんは、日本で最も多くの人がかかるがんでありながら、早期には自覚症状がほとんど現れません。

国立がん研究センターのがん統計によると、大腸がんと診断される人は年間およそ15万人で、部位別で最も多くなっています。亡くなる人は年間5万人あまりで肺がんに次いで2番目に多く、女性に限れば最も多いがんです。

症状が出ないという性質は、この病気を検診と結びつける理由でもあります。血便や便通の変化といった分かりやすいサインは、ある程度進んでから現れることが多いとされます。自覚症状を待って受診する形では、見つかる段階が遅くなりやすいわけです。


検診は、便潜血検査から精密検査までがひとつながりの仕組み

日本の大腸がん検診は便潜血検査で完結するのではなく、陽性となった人が内視鏡による精密検査を受けて、初めて設計通りに機能します。

厚生労働省の指針は、市町村が行う大腸がん検診の対象を40歳以上とし、原則として年1回、問診と便潜血検査を行うと定めています。検査は免疫便潜血検査2日法で、受診者が自分で採便します。結果は「便潜血陰性」と「要精検」の2区分です。

要精検、つまり陽性という結果は、がんと診断されたことを意味しません。指針の設計上、それは内視鏡による精密検査を受ける入口にあたります。指針は同時に、偽陰性や偽陽性、過剰診断といった検診の不利益も明記しています。

ただ、実態はこの設計の通りには動いていません。検診の受診率は4割台にとどまり、便潜血検査で陽性となった人のうち、実際に精密検査を受けた人はおよそ7割です。検診の入口に立った人の約3割が、その先の一歩で止まっている構図です。


米国は、検診を勧める開始年齢を45歳に引き下げた

米国では2021年、公的な予防医療の推奨をまとめる作業部会(USPSTF)が、大腸がん検診を勧める開始年齢を50歳から45歳に引き下げました。背景にあるのは、米国で40代の大腸がんの罹患が増えているという変化です。

「症状のない人に、より早くから検診を」という方向へ舵を切った形ですが、日米の開始年齢を単純に比べることはできません。日本は40歳から便潜血検査を中心に据えた設計で、米国は45歳から便検査や内視鏡を含む複数の方法から選ぶ設計と、仕組みそのものが異なるためです。


海外の反応

英語圏の掲示板Redditでも訃報が取り上げられ、r/japanとr/booksにスレッドが立ちました。論調は作品への追悼が中心ですが、日本在住者や経験者による検診の話も自然に混ざっています。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です(現地世論を代表するものではありません)。


68歳は今の時代では若すぎる。106冊を世に出したレジェンドだ。


みんな大腸を検査してもらってくれ。それにしても『容疑者Xの献身』は、読んだのが10年以上前なのに、思い出すと今でも気持ちが沈む。


大好きな作家の一人だ。彼の小説で日本語を勉強した。


ちょうど『新参者』を読み終えたところだった。


ずっと韓国語で読んできた。韓国でもトップクラスの作家だ。有名人の死でここまで落ち込んだのは初めてだ。


母が大腸がんだった。血液検査の鉄分の低さを不審に思った医師が内視鏡をしてくれて見つかり、そこから10年生きた。自分も以来5年ごとに内視鏡を受けている。前日の準備はとても不快だけど、大腸がんになるよりはずっとましだ。


日本に住んでいる。便潜血検査で陽性が出て、内視鏡を受けてポリープを2個切除した。それから3年ごとに受けている。安心が買えるなら十分に価値がある。


日本の医師は内視鏡を全然勧めてこない。同僚も夫も50代から70代だけど、誰も受けていない。「毎年便の検査をしているから大丈夫」と言うんだ。


日本は伝統的に胃がんが多くて大腸がんは少なかった国だから、健診の設計が今もそれを引きずっているんだと思う。食生活のほうは変わってきているのに。


r/booksのスレッドは、作品への言葉が中心でした。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


大好きな作家の一人だった。最悪だ。


『白夜行』と『容疑者Xの献身』を読んだ。偉大なミステリー作家だった。


『容疑者Xの献身』のラストは、これまで読んだ全ての小説の中で最高の場面だ。人間は結局のところ感情の生き物で、魂を絞るようにして泣くしかない時がある。


友人を失ったような気持ちだ。なぜこんなに辛いのか、人に説明するのが難しい。


『新参者』は人生のベスト級だ。いちばん暗い日々に喜びをくれた。安らかに。


ちょうど『悪意』を読み終えたところだった。


『悪意』は本当にすごい。最終章が加賀の台詞だけで進んでいく構成は傑作だ。


自分は大腸がんのサバイバーだ。血便のおかげで早期に見つかった。怖い2年間だったけど乗り越えた。検査を受けてほしいし、便の異常を無視しないでほしい。


まだ1冊、楽しみにできる本が残っているのが救いだ。


「症状が出てから」では遅い構造と、途中で切れる検診の連鎖

検診の価値は「早く見つけた数」ではなく「死亡の減少」で測る

早期発見が語られるとき、本当に問われているのは発見の数ではなく、死亡をどれだけ減らせたかです。

大腸がんの数字は、この点で分かりやすい形をしています。厚生労働省の全国がん登録の報告によると、2017年に診断された大腸がんの5年純生存率は、がんが元の場所にとどまる「限局」の段階なら90.8%、リンパ節などに広がった「領域」で72.8%、離れた臓器への「遠隔」転移まで進むと17.2%です。

同じ病名でも、見つかった段階によって9割と2割弱ほどの開きがある。この落差こそが、症状のない段階で見つける仕組みに意味を与えている構造です。早期の大腸がんに自覚症状がほとんどない以上、症状を待つだけでは、無症状の段階で見つける機会を逃しやすいことになります。

ただし「早く見つかった人の生存率が高い」という数字自体は、検診の効果の証明にはなりません。発見が早まればその分だけ診断からの生存期間が長く見えるという、見かけ上のかさ上げが混ざるからです。

だからこそ検診の評価は、受けた集団で死亡が実際に減ったかで行われます。便潜血検査が国立がん研究センターのガイドラインで推奨されているのは、大腸がんの死亡率を減らす効果を示す証拠が確認されているためです。病期別の生存率が予後の違いを示す数字だとすれば、検診の有効性はこの死亡率減少という別の物差しで測られています。


受診率の手前と先に、二つのボトルネックがある

日本の大腸がん検診は、「受けない人が多い」ことと「陽性なのに精密検査へ進まない人が多い」ことの二段階で連鎖が切れています。

まず入口です。2022年の国民生活基礎調査による推計では、40〜69歳の受診率は男性49.1%、女性42.8%。しかもこの数字は職域健診や人間ドックでの受診を含む自己申告ベースであり、これでもなお半数前後にとどまります。

受診の機会や案内の届き方、費用負担は、職域か自治体か、どの市区町村かによって異なります。検診までの距離が所属によって違う以上、受診率の低さを個人の意識だけで説明することはできません。

そして意外に知られていないのが、出口側のボトルネックです。国立がん研究センターの集計によると、便潜血検査で「要精検」となった人のうち、実際に内視鏡などの精密検査を受けた割合は71.5%。約3割は、せっかく検診がサインを出したのに、そこで立ち止まっています。この精検受診率は、47都道府県のすべてが国の基準値に届いていません。

なぜ3割が止まるのか、その理由をこの集計だけから特定することはできません。陽性をがんの宣告のように受け取る不安に加えて、内視鏡の予約や前処置の負担、受診勧奨の届き方など、複数の要因があり得ます。

ただ「陽性=がん」という受け取り方については、距離を測れる数字があります。国立がん研究センターの2024年度版ガイドラインの推計では、便潜血検査を入口とした場合、大腸がん1例の発見に必要な内視鏡検査は13件です。陽性の通知は宣告ではなく、確かめる価値のあるサインが出たという知らせに近い位置にあります。


検診万能論にも、留保すべき点はある

一方で、「全員がもっと検査を受ければ受けるほどよい」という単純な話でもありません。

便潜血検査の感度は84%。裏返せば、がんがある人の16%ほどは陰性と判定されます。「陰性だったから数年は安心」とは言えず、毎年繰り返すことで網の目を細かくする設計です。また、がんではない人の一部も陽性となるため、陽性者の多くは結果的にがんではなく、その間の不安や検査の負担は確かに存在します。

精密検査を担う大腸内視鏡にも、頻度は低いものの出血や穿孔といった偶発症のリスクがあります。日本消化器内視鏡学会の全国集計(2008〜2012年)では偶発症の頻度は0.011%でした。この数字は検査とポリープ切除などの治療を合算したもので、観察のみの検査単独のリスクを示すものではありません。

国の指針も、偽陰性・偽陽性・過剰診断・偶発症を検診の不利益として公式に列挙しています。無症状の人に一律で内視鏡から始める設計を国が採らないのは、利益と負担の釣り合いを考えた結果です。

つまり検診制度は、「安価で負担の軽い検査で広くふるいにかけ、サインが出た人だけが精密検査へ進む」という利益と不利益のバランスの上に設計されています。米国が開始年齢を45歳に引き下げたのも、若い世代の罹患増という状況の変化に合わせて、この釣り合いを引き直した判断でした。釣り合いの取り方は国や年齢によって変わるもので、唯一の正解があるわけではありません。


おわりに

検診は「症状のない日常」のためにある

東野圭吾さんがいつ、どの段階でがんと診断されたのかは公表されておらず、氏の場合に何が可能だったかを外から論じることはできません。この記事で見てきたのは、あくまで統計と制度の話です。

その統計と制度が示すのは、大腸がんという病気が「症状を感じてから動く」という私たちの自然な習慣と、構造的に相性が悪いという事実でした。早期には症状がないことが多く、症状の有無だけでは早期発見を担保できない。だからこそ検診は、どこも悪くないと感じている人を対象に設計されています。

世界中の読者が惜しんだ作家の死因として、大腸がんという病名が公表されました。その名前を恐怖の材料にするのではなく、検診という仕組みがどう設計されているかを確かめる契機として受け取ることもできます。健診の案内やキットは、症状のない日常の側に置かれた数少ない入口です。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。


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関連書籍紹介

『容疑者Xの献身』

東野圭吾(文藝春秋/2005年08月刊)

ガリレオシリーズの長編で、第134回直木賞と第6回本格ミステリ大賞を受賞した代表作です。隣人の母娘が犯した殺人を隠すため、天才数学者の高校教師が完全犯罪を組み立てていくという構図で、トリックの解明そのものより、その献身がどこから来たのかを読者に突きつける結末で知られています。英訳版は2012年に米エドガー賞の最優秀長編候補に選ばれました。

今回の記事で扱った、訃報が国境を越えて東アジアと英語圏に広がった背景には、この作品を起点とする翻訳と映像化の蓄積があります。Redditのスレッドでも最も多く名前が挙がった一冊で、海外の読者が何にこれほど反応したのかを確かめたい方に向きます。


『名医が答える! 大腸がん 治療大全』

高橋慶一(講談社/2023年01月刊)

大腸がんの診断と外科治療を専門とする医師が、検査から手術、術後の排便機能や人工肛門、そこからの生活までを一問一答の形で解説した一般向けの一冊です。健康ライブラリーの中でも網羅性を重視した構成で、検診で見つかった段階から治療が終わったあとまでを一続きの流れとして扱っています。

今回の記事で扱った、便潜血検査から精密検査へ進む部分の先で実際に何が行われるのかを、統計ではなく具体的な手順として知りたい読者に向きます。検診の案内が届いたものの内視鏡検査の負担がわからず足が止まっている、という方にも読みやすい書き方です。


参考リンク

東野圭吾さん ご逝去のお知らせ|講談社

東野圭吾さん死去、中国・台湾・韓国で速報 ファン「読み続けたい」|日本経済新聞

大腸|国立がん研究センター がん統計

平成29年 全国がん登録 5年生存率報告(PDF)|厚生労働省

がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(PDF)|厚生労働省

がん検診受診率(国民生活基礎調査による推計値)|国立がん研究センター がん統計

がん検診の都道府県別プロセス指標|国立がん研究センター がん統計

大腸がん検診ガイドライン|国立がん研究センターがん対策研究所

Screening for Colorectal Cancer|US Preventive Services Task Force

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