ワールドカップは誰のものか FIFA新会社構想が10日足らずで撤回された理由【海外の反応・解説】

FIFAは2026年7月28日、全大会の商業権を新会社FFEに集約し外部投資を受け入れる構想を発表しましたが、欧州55協会の参加拒否表明を受けて10日足らずで撤回しました。撤回後に残った会長の信任問題まで海外の反応とともに解説します。

今回の記事の重要ポイント(三点)

・FIFAは2026年7月28日、主催する全大会の商業化と運営を新会社に集約して外部投資を受け入れる構想を発表したが、欧州の協会が大会への参加拒否を表明し、撤回に追い込まれた。

・収入の大部分が男子W杯単独に由来するFIFAは、211の加盟協会へ配る開発資金を100億ドル超へ増やす原資として、外部資本を招き入れる建て付けを取った。

・撤回の決定打は世界との合意形成を欠いた進め方にあり、ワールドカップはFIFAが世界から預かって管理する公共財だという原則を、この騒動が改めて浮かび上がらせた。


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W杯の商業化を担う新会社構想の発表と撤回

FIFA(国際サッカー連盟)は2026年7月28日、211の加盟協会に向けた開発資金を100億ドル超へ拡大する計画を発表した。原資として、主催する全大会の商業化と運営、スポンサーシップ、放映、ライセンシング、新規事業を新会社「FIFA Forward Enterprise(FFE)」へ集約し、外部からの投資を受け入れる構想を示した。

実施には加盟協会の過半数の支持と、FIFA評議会の関連承認が必要だとした。

新会社の企業価値を約200億ドルとして、株式の一部売却により最大42億ドルを調達する計画だと、ブルームバーグなどが同日報じた。

FIFAはこれらの数字を公表しておらず、7月31日には、サッカーを売るのではない、協議の過程が不正確な報道で妨げられたとして報道内容を否定した。

UEFA(欧州サッカー連盟)と欧州の55協会は7月30日、共同声明を出した。W杯は投資商品として扱えるものではなく、FIFAは世界のサッカーの受託者としての義務を負うとした上で、提案が全面的に放棄されない限り、欧州の代表チームはFIFAのいかなる大会にも参加しないと表明した。

これに先立つ7月29日には、AFC(アジアサッカー連盟)とCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)がそれぞれ組織名義の声明で、協議を経ずに提案が公になったことへの失望を表明していた。

インファンティーノ会長は7月31日、構想が分断を招いたとして進めない意向を表明した。ただ同日、FIFAは協議のプロセス自体は続けるとも述べており、この時点では完全な撤回かどうかが不明確だった。8月5日夜から6日にかけて全加盟協会へ送られた会長と事務局長の連署文書「Joint Update」で、FFEの提案は撤回され、もはや追求されていないと確定し、過程で誤りがあったことを認めて謝罪した。

8月6日から7日にかけて、UEFAは撤回だけでは条件を満たさないとして参加拒否の方針を維持すると表明した。一方でCAF(アフリカサッカー連盟)の執行委員会は全会一致で会長への支持を再確認し、メキシコとアルゼンチンの協会も相次いで支持を表明した。


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FIFAのお金の流れと、構想が触れていた権利の中身

FIFAと211協会のお金の流れ

FIFAの収入は男子W杯に強く偏っており、その大会から生まれたお金の配分が211の加盟協会の運営を支えています。

構造は三層です。頂点にFIFAがあり、その下に大陸連盟が並び、さらにその下に各国・地域の211の加盟協会が置かれます。大会の商業権を握るのはFIFAで、そこから連盟と協会へ資金が流れ落ちる形になっています。

2023年から2026年のサイクルで、FIFAの総収入は130億ドル規模にのぼると報じられています。報道ベースでは、その7割前後が2026年の男子W杯単独から生まれるとされ、放映権もスポンサー収入も、ひとつの大会に強く依存した構造です。

配分の仕組みがFIFA Forwardです。W杯で稼いだお金を、各協会の育成や運営のために配る既存のプログラムです。今回の構想は、FFEという新会社で外部から資金を集め、このForwardの配分を増やすという建て付けでした。

Forwardの規模は、現在のサイクル(2023〜2026年)で1協会あたり最大800万ドル。2016年以前の開発プログラムと比べて、ほぼ7倍に拡大しています。

同じ800万ドルでも、重みは協会によってまったく違います。年間数千万ドル規模の予算で動く欧州の協会には上乗せ程度でも、小さな協会にとっては代表チームの遠征から育成、競技場までを左右する生命線になります。


FFE構想が描いた仕組み

FFEは、FIFAの「稼ぐ部門」を会社の形に切り出し、その株式の一部を外部の投資家に持たせる計画です。報道では「W杯の売却」と呼ばれましたが、大会そのものを手放す設計ではありませんでした。

大会のスポンサー、放映、ライセンスといった商業事業を新会社に移す。会社の所有と支配はFIFAが恒久的に握り続け、投資家は少数株主として利益の分配を受けるだけで、運営には関与しない。FIFAの説明はこういう形でした。

ただし、約200億ドルという企業価値も、最大42億ドルという調達額も、投資家がどんな条件で利益を受け取るのかも、FIFAからは公表されていません。数字はすべて報道ベースのまま、加盟協会は判断を求められることになりました。

加盟協会への見返りも大きく設計されていました。Forwardの配分は現在の1協会800万ドルから、2027年以降は2000万ドル超へ段階的に増額。さらに構想が実現すれば一回限りの特別資金が上乗せされ、合計で最大4000万ドルを受け取れるとされていました。

協会側に与えられた検討期間は7週間で、回答の期限は9月19日だったと報じられています。


インファンティーノ体制の10年

インファンティーノ会長は汚職事件後の改革の顔として就任し、その後の10年は大会の拡大と加盟協会への資金増額を軸に進んできました。

  • 2015年 FIFA汚職事件が発覚し、ゼップ・ブラッター会長が退く
  • 2016年2月 チューリヒでの臨時総会でインファンティーノ氏が会長に就任。全員のための拡大と、サッカーの成長のための資金増を公約に掲げた
  • 2018年 投資家連合が250億ドル規模を投じる新大会構想が浮上したが、協議の不透明さへの反発で頓挫したと報じられている
  • 2022年11月 無投票で3期目に再選
  • 2025年 クラブW杯を32チームに拡大し、米国で開催
  • 2026年 W杯を48か国に拡大し、米国・メキシコ・カナダの共催で開催
  • 2027年3月 次のFIFA会長選が予定される

この10年の路線は、大会を大きくして収入を増やし、その増分を協会への配分に回すという一本の線でつながっています。FFEはこの発想を金融の手法へ広げた提案で、目的の面では過去10年と地続きでした。

同時に、出発点が汚職事件後のガバナンス改革だったという事情もあります。透明性と手続きを立て直すために招かれた体制が、適正手続きの欠如を理由に批判されたことが、今回の反発の温度を上げた面は否めません。


海外の反応

今回参照するのは、サッカー板r/soccerとワールドカップ板r/worldcupの4つのスレッドです。

中心となるのは、UEFAと55協会の共同声明を扱ったスレッドで、1万6000件を超える賛同を集めました。

論調は全体として、FIFAとインファンティーノ会長への批判に大きく傾いています。UEFAへの懐疑やFIFA側の言い分に理解を示す声は少数にとどまりますが、以下の抜粋にはその少数意見も含めています。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


「UEFAの代表チームはFIFAの大会に参加しない」。下までスクロールする前は、これが声明の全文かと思ったよ。よくやった。


全会一致っていうのが本当にすごい。FIFAは欧州の全部の国を同じ意見にまとめてみせたわけだ。


「次の世代のために預かっているだけのものを売り払う道徳的な権利は、誰にもない」。よく言った。


投票国で一番人口が少ないモントセラトは4500人の島だ。W杯が211か国に拡大でもされない限り、出場することは絶対にない。

それでも4000万ドル、GDPの6割にあたる金額を提示されている。島民1人あたり9000ドル。全島民が何度も入れる最新式のスタジアムを余裕で建てられる額だよ。完全にどうかしてる。


でも、UEFAが欧州のクラブ大会でやってきたことを考えると、かなり皮肉じゃないか? 大きいクラブをできるだけ勝ち残らせて収益を増やす方向に、ずっと前から進んできたわけで。


実力で決まるチャンピオンズリーグの出場枠を1つ増やすのと、ワールドカップを売るのとでは、さすがに話の次元が違うと思うが。


撤回をUEFAが歓迎した声明のスレッドでは、話題は会長個人の進退へ移っています。


これは事実上、インファンティーノへの宣戦布告だろ。とんでもないな。


FIFAの口座に50億ドルも眠ってるのか???


だからこそ、40億ドル規模の民間投資が「必要だ」という話がますます怪しくなる。FIFAはすでに金を刷ってるようなものなのに。


UEFAが立ち上がってくれたのは嬉しい。ただ、この大きなPR勝利だけで彼らが何者かを忘れちゃいけない。『指輪物語』でいえば、魔王サウロンが自分の主君だったさらに古い悪モルゴスを、意地悪だと非難してるようなものだから。


評価額の中身を検証したr/worldcupのスレッドでは、数字の側から疑問が並びます。


みんな「W杯はFIFAが売っていいものか」を議論してるけど、実務的な問いを誰もしていない。選手たちが自分の取り分を計算し始めたらどうなる?

今のモデルは国の誇りで回ってる。選手はクラブで稼ぐ額のほんの一部でW杯に出てくれる。それはW杯だからだし、収益がサッカー界に還元されるという建前があるからだ。収益の一部が投資家に流れ始めたら、その建前は完全に死ぬ。

数億ユーロの価値がある選手たちに、ベンチャーファンドのリターンを稼がせようという話だぞ。200億ドルの評価額は、誰も意見を聞かなかった800人ほどの選手の上に乗っている。


とはいえ2000万ドルって、実はそこまでの大金じゃないんだよな。中堅どころのUEFA加盟協会は年8000万ドル規模の予算で動いてる。チェコとかデンマークとか。大きい国はもっとある。


豊かな国にとってはね。でもバミューダやケニアの協会には巨額だし、それでいて投票権は大国と同じ1票なんだ。


ひどい話に見えるけど、小さい協会からすれば考えるまでもない選択だと思う。目の前にまとまった現金、その代わりに将来のコスト増と質の低下が来る。


「これは世界のサッカーの民主化だ」というインファンティーノ会長本人の説明を扱ったスレッドもあります。


民主化(democratisation)と収益化(monetisation)を混同してるだろ、これ。


「どの協会も自分の将来を自分で決められるべきだ」という部分自体は正しいんだよ。ただ、それを組織の内側からやれずに、株式市場の真似をするしかない時点で、どれだけ組織が腐ってるかという話でもある。


どんなに小さくて実績のない国でも同じ1票を持ってるから、ああやって「一番目立たない地域にも大きく投資する」と言い続けていれば権力の座にいられるんだ。


それが気に入らないんだろ? 他の国々がサッカー強国になるチャンスを公平にもらえるのが。


再分配の大義はなぜ10日足らずで崩れたのか

FIFAの問題意識には実績の裏付けがある

世界への再分配を増やしたいというFIFAの主張には、実績の裏付けがあります。FIFA Forwardによる開発投資は10年で大きく積み増され、小規模な協会にとっては代表チームの遠征費だけでなく、国内リーグ、女子サッカー、育成年代、競技場、協会の運営そのものを左右する規模になっています。

一方で、世界のサッカーの富は欧州に集中しています。世界中の才能ある選手はプレミアリーグやラ・リーガに集まり、放映権収入もスポンサーも欧州のクラブサッカーに厚く積み上がる構図です。

ただし、この集中はファンにとって大きな価値でもあります。世界最高の選手が欧州で毎年対戦するからこそ物語と競技水準が生まれ、その選手たちが4年に一度、国別に組み替えられて戦うからこそワールドカップは特別なイベントになります。

つまり論点は、集中が生み出す巨大な付加価値を、選手を送り出す側の国や地域へどう還元するかにあります。FIFAの問題意識をこの形で受け取るなら、そこには十分な説得力があります。

FIFA側の建て付けにも、一応の説明は用意されていました。将来の収益を先に資金化して開発投資を前倒しする、支配権は恒久的に持ち続ける、実施には加盟協会の過半数の支持を条件とする、即時資金への参加は任意とする。提案自体は、無条件の売却として設計されていたわけではありません。

それでも残ったのが、なぜ外部資本でなければならないのかという問いです。UEFAは撤回後の声明で、FIFAが50億ドルを超える準備金を抱えたままだと指摘しました。CONCACAFも公式声明で、史上最も収益性の高いW杯の直後に、なぜ開発資金の原資として外部資本が必要なのかと問うています。借入や内部留保との比較で外部出資が優れる理由は、最後まで示されませんでした。


UEFAの反対の核心は「受託者は将来を売れるのか」

UEFA55協会の共同声明が突いたのは、商業化の是非より統治の問題でした。声明はFIFAを世界サッカーのcustodian(受託者)と呼び、「ワールドカップは投資商品として扱えない」「ワールドカップは売り物ではない」と宣言しています。

外部投資家がいったん将来収益の持分を得れば、その取り決めを後から巻き戻すことは容易ではありません。何十年も先の大会が生む価値の一部を、いま誰に、いくらで、どんな手続きで渡すのか。FIFAは約200億ドルという報道の数字を否定しましたが、代わりの評価額や出資の条件を示さなかったため、加盟協会には検証のしようがありませんでした。独立した評価書も、対象資産の一覧も公表されていません。

もっとも、UEFA自身も商業化の当事者です。チャンピオンズリーグを拡大し、ネーションズリーグとカンファレンスリーグを新設して、欧州の試合数を増やしてきました。商業化そのものへの批判は、そのままUEFAにも返ってきます。

しかもUEFAはチャンピオンズリーグという巨大な収益源をすでに持っています。FIFAがクラブワールドカップを大型化すれば欧州クラブの日程が使われ、商業的にも競合する。UEFAの反対には、サッカーを預かる者の理念と、自らの市場を守る利害の両方が含まれています。

UEFAの対抗手段もまた、力の行使でした。協議はこれからという段階で、全大会への不参加という最大級の圧力を即座に突きつけ、構想を審議の場に載せる前に封じています。この進め方には、UEFAの側にも権力政治の面があります。


投資家が入ると変わるのは「圧力の向き」

外部株主が入って変わるのは、大会の見た目ではなく意思決定に働く圧力の向きです。投資家は慈善で資金を出すわけではなく、将来のリターンを求めます。増収への責任が制度に組み込まれれば、放映権の単価、スポンサー枠、チケット価格、そして大会の数と規模を増やす方向の圧力が生じえます。FIFAは統括権を手放さないと説明しましたが、取締役会の構成や投資家の権利など、その圧力を抑える仕組みは公表されませんでした。

その圧力を最も直接に受けるのが選手です。FIFPRO(国際プロサッカー選手会)と欧州リーグ機構は2024年、国際試合日程がすでに飽和を超えているとして、FIFAを欧州委員会に申し立てています

この申し立ての核心は、規制のルールを作る立場と、大会を主催して稼ぐ立場をFIFAが兼ねていることが、支配的地位の濫用にあたるという主張です。当事者による法的主張であり、欧州委員会が濫用を認定したわけではありませんが、選手側の警戒の根がここにあります。

FFE構想は、この「規制者と商業主体の兼務」という2024年来の論点を、より大きな規模で再現した形になります。FIFPROが撤回後の声明で「FFEは消えたが、それを生んだ権力の濫用は消えていない」と述べたのは、この連続性を踏まえたものです。

欧州のクラブサッカーには前例もあります。ラ・リーガは2021年、投資ファンドCVCから約20億ユーロを受け入れ、放映権収入などの一部を50年間渡す契約を結びました。レアル・マドリードなど有力クラブの反対を押し切っての成立です。

一方ブンデスリーガでは似た構想が2024年、サポーターの抗議行動を受けて撤回されました。取引の形も規模もFFEとは異なりますが、長期の商業収益を外部資本に開くとき、経済条件だけでなく内部の納得という正統性が争点になる点は共通しています。

そもそもワールドカップの価値は、幅広い共同作業で成り立っています。選手と、選手を育てるクラブや国内リーグ、大会を引き受ける開催国と都市、放送局とスポンサー、そして観るファン。法的に権利を管理しているのはFIFAでも、価値の共同制作者はこれだけ広く存在します。

「誰のものか」という問いが刺さるのは、初期の設計に誰が関わったのかが開示されず、選手やクラブ、ファンに意見を反映する正式な経路も示されなかったからです。加盟協会には最終的な承認権がありましたが、設計より前の協議はありませんでした。


撤回に追い込んだのは中身より進め方

構想を10日足らずで撤回に追い込んだ直接の要因は、中身の是非よりも手続きへの反発でした。CONCACAFは公式声明で、この構想を報道で初めて知ったと明かしています。回答期限の9月19日も、人為的に短いと批判されました。中身を審査する以前に、審査に必要な情報と時間が与えられていない。各連盟の反発の中心はここにありました。

お金の配り方も疑念を招きました。構想に賛同すれば、各協会は最大4000万ドルを受け取れる設計です。承認する側自身が巨額の分配金を受け取る形は、買収と断定はできないにせよ、利益相反的に見えることは避けられません。

FIFAの内部からも離反が出ました。ホワイトハウスとの窓口を務めていた上級顧問が「W杯の持分売却を検討するFIFAを傍観できない」と辞任し、現職の幹部は構想を「一人の人物のプロジェクトだ」と公然と批判しています。

投資家の顔ぶれも視線を厳しくしました。主導すると報じられた投資会社Thrive Capitalの創業者は、トランプ大統領の娘婿の弟にあたります。癒着を示す証拠はなく、トランプ氏も事前に相談は受けていないと述べていますが、競争入札や独立評価のないまま会長と政治的に近い人脈の投資家が浮上したことは、意思決定の不透明さを一段と際立たせました。

この反応の背景には、トランプ氏とインファンティーノ会長の距離の近さが、2026年大会を通じて何度も可視化されていたことがあります。米国代表バログン選手の出場停止が異例の形で保留された経緯は、別記事「W杯米国代表バログン、異例の出場停止保留」で扱いました。

欧州がこの構想を、米欧関係の緊張の延長として受け取った面もあります。UEFAは撤回を歓迎する声明で、反対の声を上げた多くの首相や国家元首にまで謝辞を述べました。この件が欧州では、サッカーの枠を超えた政治の水準で扱われていたことをうかがわせます。

インファンティーノ会長が8月上旬に加盟協会へ送った謝罪文書は、認めた誤りを「プロセス」と「報道流出後の対応」に限定しています。FIFPROはこれを、統治の問題をコミュニケーションの問題にすり替えるものだと批判しました。


世界は会長の信任を巡って割れ始めた

撤回の後、対立の軸は構想の是非からインファンティーノ体制の信任へ移りました。UEFAは会長への信頼を失ったと宣言し、撤回後もFIFA大会への不参加方針を続けています。

さらにUEFAは弁護士を通じて法的措置の検討をFIFAに通知し、幹部18人に関連文書やデータの保全を求める書簡を送ったと報じられています。狙いは構想の阻止から、体制の交代へ移っています。

一方、アフリカと中南米は会長側につきました。CAFは全会一致で支持を再確認し、南米サッカー連盟(CONMEBOL)は正式な手続きを外れた退陣の動きは支持しないと釘を刺しています。メキシコとアルゼンチンの協会も支持を表明しました。

目を引くのは、組織として反対声明を出したCONCACAFに属するメキシコが、個別では支持に回ったことです。連盟の立場と各協会の立場が割れ始めており、この対立は単純な地域対抗を超えています。

この綱引きの先にあるのが、2027年3月にモロッコで開かれるFIFA総会での会長選です。立候補の届出期限は2026年11月18日。インファンティーノ氏は4期目を目指すとみられており、各連盟の支持表明には、選挙を見据えた陣営形成という面を読み取る余地があります。

UEFAが不参加方針を維持したまま届出期限を迎えるのか、対抗馬が立つのか。世界のサッカーの統治構造そのものが、この数か月で試されることになります。


ワールドカップは世界の公共財である

管理人の権限は、世界の合意の上に成り立つ

ワールドカップは誰のものか。この騒動が浮かび上がらせた答えは、FIFA会長の所有物でも、反旗を翻した欧州サッカーの所有物でもない、というものです。何世代もの選手とクラブ、開催国、ファンが積み上げてきた世界最大のスポーツの頂点であり、FIFAはその価値を世界のために責任を持って管理する立場にあります。ワールドカップは、FIFAが預かる世界的な公共財です。

FIFAには、この大会が生む富を世界へ還元する責任があり、そのために成長する必要もあります。今回の構想が掲げた再分配の理念そのものは、実績に裏打ちされた本物でした。しかし公共財の将来価値を動かすなら、価値を共同で作ってきた人々との合意が要ります。管理する権限は規約が与えても、売る正統性は合意からしか生まれない。10日足らずの顛末が示したのはこの一点でした。

残っているのは、この公共財の管理をこれからも同じ体制に託せるのか、という問いです。2027年3月の会長選に向けて、FIFAが約束した評議会への報告や協議の作り直し、外部資本を扱う際の開示の仕組みは本当に整うのか。世界のサッカー界が出す答えは、スポーツにとどまらず、公共的な資産を預かる組織の統治とは何かを考える材料にもなります。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。


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関連書籍紹介

『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』

田崎健太(光文社/2016年02月刊)

ノンフィクション作家の著者が、ワールドカップのスポンサー料と放映権をめぐるお金の流れを追った新書です。アベランジェ、ブラッターという歴代のFIFA指導者がサッカーを巨大産業に育てる過程で腐敗も抱え込んでいった経緯を、日本の電通とスポーツマーケティング会社ISLの関わりを軸に描いています。2002年の日韓大会の開催地決定も一章を割いて扱っています。

今回の記事で扱った、大会の商業権を一か所に束ねて売るという発想は、今回に始まったものではありません。FFE構想を単発の思いつきではなく、FIFAが放映権とマーケティング権を集約して売ってきた歴史の延長として読みたい方に向きます。日本語で読めるうえ新書の分量なので、最初の一冊としても入りやすい本です。


『フットボール・マネー 資本主義と権力闘争のゲーム』

ミゲル・デラニー著/山中拓磨訳(平凡社/2026年04月刊)

英インディペンデント紙のチーフ・サッカーライターが、アブダビ、ロンドン、パリ、モスクワ、ニューヨークでの取材をもとに「サッカーは誰のものか」を問うた全16章のノンフィクションです。国家系ファンドによるクラブ買収、ファイナンシャル・フェアプレーの機能不全、欧州スーパーリーグ構想の崩壊、カタール大会までを扱い、性質の異なる資本がサッカーの統治構造をどう変えたかを追っています。

今回の記事で扱った、外部資本が入ると意思決定に働く圧力の向きが変わるという論点は、この本が扱う欧州クラブサッカーの現場で先に起きていたことです。とくに欧州スーパーリーグが発表から数日で崩壊した経緯は、FFE構想が10日足らずで撤回された今回の展開とほぼ同じ形をしています。672ページの大著なので、腰を据えて読める方向けです。


『サッカーと地政学 ゴールの先に世界が見える』

木崎伸也(ワニブックス/2026年03月刊)

欧州サッカーを長く現地取材してきたスポーツライターの著者が、サッカーの背後で働く国家の思惑、経済、移民、人材育成を地政学の枠組みで読み解いた一般書です。日本代表、ワールドカップ、代表チーム、スター選手、サッカーマネーの5章構成で、大会招致の舞台裏やオイルマネーによるイメージ戦略を具体例に取り上げています。

今回の記事で扱った、FIFAが国連加盟国より多い211の協会を抱え、その一国一票の構造が会長の権力基盤になっているという論点は、この本が正面から扱っているところです。大陸連盟同士の綱引きが2027年3月の会長選へ向かっていく構図を、サッカーの外側の国際政治とつなげて理解したい方に向きます。


参考リンク

FIFA intends to expand football development funding to over USD 10 billion, subject to approval by FIFA Member Associations|FIFA

Clarifications on FIFA Forward Enterprise (FFE) proposal|FIFA

Statement on behalf of UEFA and its 55 national associations|FAW

Statement on behalf of Concacaf and its 41 Member Associations|Concacaf

AFC statement on the FIFA Forward Enterprise proposal|AFC

FIFPRO Statement: FIFA Forward Enterprise|FIFPRO

UEFA say FIFA boycott remains after Infantino World Cup plan fallout|Al Jazeera

Africa backs Infantino as CAF unanimously votes in FIFA president’s favour|Al Jazeera

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