ニコニコ動画はなぜ衰退したのか 「日本版YouTube」だった20年とプレミアム会員90万人割れ【海外の反応・解説】

2026年6月末のニコニコ動画のプレミアム会員は89.3万人。同じ90万人は2010年には成長の通過点でした。技術投資・分配原資・発見の導線という三つの理由と、海外ファンの声、そして値上げが試される次の四半期までを解説します。

今回の記事の重要ポイント(三点)

・KADOKAWAの決算説明資料で、ニコニコ動画のプレミアム会員数が2026年6月末時点で89.3万人と開示された。

・同じ90万人という水準は、2010年当時は成長の通過点として報じられていた数字である。

・動画の規模とクリエイターの収益機会をめぐる競争には敗れた一方、コメント文化を束ねる場としての代替はまだ現れていない。


決算資料に載った89.3万人という数字

KADOKAWAは2026年8月13日、2027年3月期第1四半期の決算説明資料を公表し、ニコニコのプレミアム会員数が2026年6月末時点で89.3万人だったと開示した。1年前の2025年6月末は99.4万人で、1年間で約10万人減少した。ネットメディアは「プレミアム会員数90万人割れ」と報じた。

会社側は資料で、有料会員数は減少したものの、「ニコニコ超会議2026」の来場者数増や協賛出展売上の増加などにより、ニコニコ関連事業の売上は横ばいだったと説明した。会員数減少の原因には言及していない。

ドワンゴは決算発表に先立つ8月1日、プレミアム会員の月額料金を790円から990円へ引き上げた。システムや設備の維持、コンテンツの調達、セキュリティ対策などのコスト増加が理由で、Apple AccountとGoogle Playの定期購入経由の料金は据え置いた。89.3万人は値上げ前の6月末時点の数字にあたる。

このほか同資料では、無料IDを含む有効会員数が1億978万人、ニコニコチャンネルの月額有料会員数が98.2万人だったことも開示された。


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会員が減るなかで増えている数字

減っているのは毎月お金を払う人の数

無料IDを含む有効会員数は、2026年6月末で1億978万人と、この2年ほど増え続けています。減っているのは、そのなかで毎月お金を払う人の数です。

事業としての評価も、会員数の印象とは違う方向を向いています。2026年4月から6月のWebサービスセグメントの売上は前年同期比0.3%増で、KADOKAWAが2026年5月に公表した中期経営計画の振り返りでは、5つのセグメントのうち唯一、目標を上回る見通し(目標比133%)と評価されました。

会社は超会議の来場者増や協賛出展売上の増加などを増収要因に挙げており、会費以外の収入が穴を埋めた形とみられます。ファンコミュニティサービス「sheeta」の月額有料会員は30.3万人まで増え、超会議の会場来場者数も直近3年は増加が続いています。

ただし有料会員の減少はプレミアムだけの現象ではありません。ニコニコチャンネルの月額有料会員も、2024年3月末の125万人から98.2万人へ、2年3か月でおよそ2割減っています。


90万人という数字が意味を変えた16年

90万人という同じ数字が、16年前には成長の途中経過として報じられていました。

プレミアム会員制度が始まったのは2007年6月です。80万人に届いたのが2010年5月、90万人が同年8月、そして同年10月に100万人を突破したと当時のニュースサイトが伝えています。この時期の90万人は、100万人の一歩手前という意味しか持っていませんでした。

時点プレミアム会員数
2007年6月プレミアム会員制度を導入
2010年8月90万人に到達
2010年10月100万人を突破
2013年6月200万人を突破
2015年7月250万人を突破
2016年256万人(ピーク)
2019年3月末180万人
2022年3月末140万人
2024年3月末117万人
2025年3月末98.9万人
2026年3月末93.2万人
2026年6月末89.3万人

2016年までの数字は到達時のプレスリリースや決算短信に基づく報道によるもので、2019年3月末以降はKADOKAWAの決算説明資料に載る四半期末の値です。開示の精度も100万人を割った前後で整数から小数第1位へ変わっており、両者は厳密には同じ系列ではありません。

減り方には波があります。四半期で最も大きく減ったのは2024年12月末から2025年3月末にかけての8.1万人で、KADOKAWAはクレジットカード決済の停止による離脱を理由に挙げています。2024年6月のサイバー攻撃については、同社は会員数への影響は「ほぼ発生せず」と説明しており、打撃は売上高39.5億円の減少という業績側に出ました。

直近の四半期は3.9万人減で、その前の3四半期がいずれも2万人前後だったのと比べると減り方はむしろ速まっています。


コメントで参加する場所としての設計

ニコニコが2000年代後半に得た支持は、動画を見せたことよりも、動画に参加させたことから来ています。

サービス開始は2006年12月です。翌2007年8月末に初音ミクが発売されると、投稿と視聴が互いを引っ張り合う関係が生まれました。当時のITmediaの記事は「『ニコ動』で広がる音楽作りのすそ野」という見出しで、発売1か月足らずで予約を含め3,000本近くが売れた異例の状況を伝えています。

同じ時期にはゲーム実況も育ち、2015年1月時点でニコニコ動画の全投稿およそ1,177万本のうち、約528万本をゲーム関連が占めていたと報じられています。

一方、プレミアム会員の価値の中心にあったのは、新しい機能ではなく、無料だと課される不便を外すことでした。混雑する時間帯に画質を落とされるエコノミーモードや、生放送の混雑時に席を確保できないといった制約が、そのまま課金の動機になっていた形です。

この形で事業は2010年1月から3月の四半期に黒字化し、売上の約75%をプレミアム会員収入が占めていました。視聴者課金を主軸に黒字化した会社として出発したわけです。


海外の反応

ニコニコの衰退を正面から論じる巨大スレッドは、Redditには見当たりません。代わりにボカロ・東方・アニメといった個別のコミュニティの会話の中に、衰退の認識とサービスへの愛着が断片的に現れます。今回は5つのスレッドから拾いました。

前提を一つ補うと、ニコニコは海外ユーザーとの接点を狭め続けています。2019年に海外版サイトの独自仕様を廃止し、2024年10月からはアクセス制限を開始。一部の動画やチャンネルが海外から見られなくなり、スマートフォンのブラウザ版も海外からは使えなくなりました。以下の反応の多くは、この締め出しが進む流れの中で出てきたものです。

軸に据えたのは2026年6月のr/Vocaloidのスレッドです。ニコニコ動画とボカコレのアプリが米国のApp Storeから見当たらなくなった、という海外ユーザーの報告で、公式の発表は確認できていませんが、スレッドでは2024年10月から続く海外アクセス制限の延長として受け止められています。あわせて、2024年のVISA決済停止を伝えたr/animeのスレッドからも拾っています。

以下はスレッド内のユーザーコメントの抜粋・翻訳です。


まいったな。WebMoneyの時代からずっとニコニコのプレミアム会員を払い続けて、クレカに切り替えたところなのに、また戻れってことか。

結局のところ、Bilibiliに客を全部持っていかれて、ニコニコは絶滅危惧種のガラパゴス生物にされてしまった。


は? あのBilibiliですら米App Storeにあるんだぞ。中国語が読めない人間にとってのBilibiliは、日本語が読めない人間にとってのニコニコよりさらに近寄りがたいってのに。ニコニコのユーザー層がどれだけYouTubeに移ってるかを考えたら、これ以上ユーザーを切り捨てるなんて、とんでもなく愚かな判断に見える。


ニコニコの場合は成人向けコンテンツの話かもしれない。ただ、ニコニ広告に使う「ニコニコポイント」は今もVISAで買えるから、他のサイトと同じ状況なのかは分からない。

ニコニコには、いまや死んだ英語版の時代からPayPalがプレミアムの支払い方法として用意されている(自分は2013年に会員になってからずっとそれ)。気になる人には、まだその手がある……今のところは。


2024年10月に海外ユーザー向けのアクセス制限が告知された際には、r/Vocaloidに公式告知を共有するスレッドが立ちました。


これは本当にこたえる。


日本の会社って、どうして日本に住んでない人間を切り捨てたがるんだ?


今のインターネットが分かってない年寄りが運営してるから、みたいなやつだろ。


日本限定になったわけじゃない。今もアクセスはできる。ただし全部の素材が見られるわけじゃない、というだけだ。まず外国語表示をなくして、次に配信形式を変えて動画のダウンロードを塞いで、今度は一部の動画をブロックした。接続をどうにかすれば問題ないけど、またダウンロードできるようになってほしい。


海外でまだニコニコ使ってる人いるの???


馬鹿な質問で悪いけど、どうやって使うの?


普通の動画サイトとして使えばいいだけだろ? アカウントも要らなくなってるし、720pはしばらく前から無料だ。唯一いじるべきなのは、トップページの一番下で言語を日本語に切り替えること。英語表示のままだと、弾幕コメントがほとんど流れてこないんだ。


サイバー攻撃でサービスが止まっていた2024年夏には、東方ファンのコミュニティに「ニコニコが恋しい」というスレッドが立ちました。ボカロPの現在の投稿行動を説明し合うスレッドとあわせて拾います。


そう、それだ。YouTubeでも同時配信されてたなんて知らなかった。ただ、歌い手の後ろのスクリーンにチャットのコメントが出ないのが変な感じだ。Bad Appleのところだけなんだよな。ニコニコだと、イベント中ずっとスクリーンに実況コメントが表示されてたのに。


東方の作り手の何人かは動画をYouTubeに上げ直してくれた。でも大半は日本語のものしかない。それに、画面にコメントが流れてくるのがなくなったのは、やっぱり寂しい。


最高の東方コンテンツの数々が、日本語であるというだけで事実上「リージョンロック」されてるのは、ちょっと切ない。


ニコニコ(旧ニコニコ動画)はかつて日本で第一に選ばれる動画共有プラットフォームで、古参のPはほぼ全員そこだけを使っていた。その中には、YouTubeのアカウントを開いたあとも過去作を上げ直さないままの人がいる。

今では、国際的なファンが付いたPは基本的にYouTube専門か、両方に上げるかのどちらかだ。ただ、ボカロにはもう一つ別の面がまるごと残っていて、それはほぼニコニコにしか存在せず、ほぼ日本人リスナーだけに向いている。特にインディー寄りのPには、今もニコニコの方が再生数が伸びる人がいる。


ニコニコは「かつての」日本のYouTubeだった。もともと、わざわざYouTubeにも上げる理由がなかったんだ。でも時間が経って西側のファンダムが育つと、YouTubeにも上げるようになった。

ニコニコにしか上げないPも大勢いる。単にそこが自分のメインの場所だからだ。

今は同じことがBilibiliで起きていて、あちらの客層に向けて上げるPも出てきた。自分も新曲はあちらに出し始めたけど、正直、昔の曲まで上げ直す気にはなれない(笑)。時間がかかりすぎる。日本のPがYouTubeに来たときも、たぶん同じ気持ちだったんだろうな。


先取りどころの話じゃない。今でもニコニコにしか上げないミュージシャンは山ほどいる。特に投稿祭のときは、あとでYouTubeに複製するのを面倒がるPが多いんだ。それに昔のアーティストの多くは、結局YouTubeに上げ直していない。


三つの理由が重なった離脱と、そのあとに残ったもの

遅れの起点は創業3か月目にある

画質と重さの遅れは、努力の不足というより資本力の差から生まれた面が大きいものです。

YouTubeが1080p対応を発表したのは2009年11月、ニコニコが1080pを本運用したのは2018年1月で、その差は約8年2か月あります。無料の一般会員が生放送を配信できるようになったのも、YouTubeが2013年12月、ニコニコが2019年8月で、5年8か月の開きがありました。

起点は2007年2月にさかのぼります。当時のニコニコはYouTubeの動画にコメントを載せる形で動いていましたが、YouTube側からアクセスを遮断され、サービスをいったん終了しました。創業3か月で、自前の動画配信インフラを持たざるを得なくなりました。

以後、その設備を更新する費用を、視聴者からの月額課金でまかない続ける構造が続きました。2017年3月期には、高画質化やHTML5対応、インフラ再構築の費用が響いてWebサービス事業が減益になっています。手を打っていなかったのではなく、打てる額の桁が違いました。

この構造が表に出たのが2017年です。ドワンゴは同年4月に新バージョン「く」を10月に公開すると発表しましたが、11月28日の発表会で川上量生会長は、他のサービスと比べて画質が悪いのは大変な問題であり、改善には根が深く時間がかかると述べ、公開の延期を告げました。

批判が集まった中心は、新機能の内容よりも説明の一貫性です。4月に解決したと受け取れる説明をしておきながら、11月に未解決と告げた。川上氏は11月30日に基本的な部分がおざなりになっていたと謝罪し、12月には運営責任者が栗田穣崇氏へ交代しました。

会員数の減少は、この騒動より前から始まっていました。発表会と同時期の報道|ITmedia NEWSによれば、2017年9月末のプレミアム会員は228万人で、前年同期の256万人からすでに減っています。

騒動が離脱を加速させた可能性は残るとしても、この事件が果たした役割は、進んでいた流出と、運営とユーザーの認識のずれを、誰の目にも見える形にしたことでした。


クリエイターに配れる原資には上限があった

クリエイターがYouTubeへ移った理由は、配る原資の性質にあります。

収益化の制度そのものは、ニコニコにも早くからありました。クリエイター奨励プログラムが始まったのは2011年12月で、YouTubeが日本で一般ユーザーに収益化を開放した2012年4月より早いくらいです。

差がついたのは単価と原資です。ITmediaが2015年に報じたところでは、奨励金は1再生あたり0.29円で、原資は2014年で年およそ6億円でした。この原資はプレミアム会費と広告売上の一部から出ています。つまり視聴者の財布の大きさが、そのまま分配の上限になっていました。

YouTubeの原資は広告市場です。広告収益を分け合う仕組みであるため、視聴の規模と広告の需要に応じて原資そのものが広がっていきます。同じ「収益化制度」という言葉でも、片方は固定されたパイの取り分で、もう片方は市場と一緒に伸びる取り分でした。単価の優劣というより、仕組みの向きの違いです。

2014年10月に始まった「好きなことで、生きていく」というテレビCMは、すでに成立していたこの経済圏を世間に見せた出来事でした。翌2015年1月には任天堂がNintendo Creators Programを始め、権利者公認でゲーム実況を収益化する道もYouTube側で先に整います。

稼ぐことをめぐる空気も対照的でした。ニコニコの周辺では、創作が商業の仕組みに乗ること自体が摩擦を生んでいます。

2007年12月には「みくみくにしてあげる♪」の著作権がJASRACに信託されたことが騒動になり、当時の報道|ITmedia NEWSは、自由な二次創作ができなくなるという懸念の広がりを伝えています。

騒動の矛先は手続きの不透明さに向いたものですが、作り手の側から見れば、収益化へ一歩踏み出すたびに説明を求められる環境だったことになります。同じ「動画で稼ぐ」という行為が、片方では騒動の火種になり、もう片方ではテレビCMになった。この空気の差が、作り手の背中を押す方向を分けた可能性があります。

この空気は、後年になって当事者も振り返っています。ニコニコ代表の栗田穣崇氏は2024年2月、Xで「実際は嫌儲思想が強くて無理だった」と述べました(やり取りのまとめ|Togetter)。

2018年に公式放送でギフト機能導入の賛否を聞いたアンケートが賛成6・反対4だったという記憶を挙げ、「2018年前後がネットクリエイターの収益化に対する受容の分水嶺」だったとしています。

運営トップの振り返りですから、責任の一部をユーザーの文化へ移す説明として割り引く必要はあります。それでも、このやり取りに応じたボカロPは、作る側も収益が入ると申し訳ないようなありがたいような気分だった、と実感を添えていました。稼ぐことをためらう空気は、作り手の側にも内面化されていたことがうかがえます。

配信する側の負担も逆向きでした。ニコニコ生放送では番組の延長に500ポイントが必要な時期が長く、無料化されたのは2017年8月です。YouTubeやTwitchは無料で配信させ、人気が出てから支払う設計でした。作り手にとって、始めるときに払うか、当たってから受け取るかの違いは小さくありません。


ランキングは共通体験を作り、外への導線は細かった

三つ目の理由は、作品が新しい人に見つけてもらえるかどうかにあります。

YouTubeには検索、関連動画、外部サイトへの埋め込み、SNSでの共有という導線が早くからそろっていました。動画がプラットフォームの外へ出ていき、外から人を連れて戻ってくる構造です。

ニコニコの中心にあったのはランキングでした。同じ時間に同じ動画を見て同じネタで盛り上がる共通体験は、ここから生まれています。その代わり、外にいる人がたまたま流れ着く経路は細くなりやすい構造でした。

これは事故というより設計の帰結でもあります。ひろゆき氏は2007年11月の日経のインタビューで、コメントが次々に消えて最新の限られた数しか表示されない仕組みについて、世界を閉鎖的に、コミュニケーションを刹那的に保つための意図だと説明しています。ほかと同じサービスをやるならニコニコ動画である意義はない、とも語っていました。

その設計は共同体を強くする方向には効きます。一方で、新しい人がたどり着く力を弱める方向に作用した可能性があります。同じ一つの思想が、独自性と弱点の両方につながっていたという見方です。

三つの理由が重なると循環ができます。作り手が移れば新作が減り、新作が減れば見る側も移り、見る側が減ればさらに作り手が移る。駅前の商店街から郊外のショッピングモールへ客と店が同時に移っていく光景に近く、どちらか一方を止めても流れは止まりません。


弾幕文化は生き延び、ニコニコ自身は外へ出られなかった

画面をコメントが流れるという発明は生き延びましたが、生き延びた場所はニコニコの外でした。

海外への展開自体は早い時期に試みられています。2007年には台湾から日本語のアニメソング動画に人が集まる現象が報じられ、2008年7月にはドイツ語版とスペイン語版が開設されました。ただし2012年10月には英語版サイトを日本版の英語表示へ統合したと報じられ、2019年3月には海外版の独自仕様と地域別ランキングを廃止しています。

撤退の告知は出ていません。国別サイトの終了アナウンスは存在せず、公式に確認できる縮小の証跡は2019年の仕様統合だけです。静かに畳まれた、という表現が実態に近いところです。さらに2024年10月30日からは海外からのアクセスが制限され、スマートフォンのブラウザ版は海外から利用できなくなりました。理由として示されたのは「昨今の社会環境や国際情勢の変化」でした。

外へ出にくかった理由は、強みの構造そのものにあります。動画にコメントが重なる体験は、動画の言語に加えて、コメントの言語とネットの文脈まで共有していないと成立しません。壁が二重にあるわけです。

画面をコメントが流れる文化そのものは、中国で巨大になりました。ニコニコの弾幕文化を受け継いだ動画サイトAcFunと、その系譜にあるbilibiliです。bilibiliは月間利用者3.66億人まで育ち、2025年通期で初めて黒字になりました。

もっとも、bilibiliが育った土壌は日本と大きく違います。中国では2009年からYouTubeへのアクセスが制限され、海外大手の入れない巨大な国内市場で、国内サービス同士が競い合って育ちました。この数字が示すのは、弾幕コメントという設計に、億人単位の利用者を支える力があったという事実です。

著作権の扱いにも、似たねじれがあります。JASRACとの利用許諾契約はニコニコが2008年4月、YouTubeが同年10月で、契約はニコニコのほうが半年早いのです。差がついたのは機械による自動検出で、YouTubeのContent IDは2007年10月に日本へ投入され、精度は99%以上とされていました。ニコニコ側は人力の監視とテレビ局への申し入れが中心です。

そしてグレーゾーンの整理は、活力の整理でもありました。2008年7月にITmediaが開いた二次創作の座談会では、公式のお墨付きが出たMADはあまり盛り上がらないことが多い、という指摘が当事者から出ています。権利処理を進めるほど扱いは安全になり、同時に「勝手にやっている」熱は薄れる。この二律背反は当時から見えていました。


「まだやれる」の中身は二つに分かれる

会員数が発表されるたびに、もう終わりだという声と、まだやれるという声が並びます。この「まだやれる」は、指しているものが二つに分かれます。

一つは、総合的な動画プラットフォームとして再びYouTubeと張り合うという意味です。こちらを支える材料は乏しいところです。会員数は減り続け、直近の四半期は減り方が速まっています。ユーザーの年代構成も30代が37.0%、40代が22.5%を占める一方で、10代は1.7%にとどまります。新しい世代が入ってこない状態が続けば、規模は自然に縮んでいきます。

もう一つは、特定のジャンルの投稿と視聴とイベントを束ねる拠点として再び伸びるという意味です。こちらは検証できる材料が残っています。

ボカロ楽曲の投稿イベントであるボカコレは年2回開かれ、1回あたり6,400件から7,400件の新規投稿を集めています。ファンコミュニティの有料会員は増えており、超会議の会場来場者も直近3年は増加が続きました。

もっとも、リアルとネットの動きは早い時期からずれていました。

開催年会場来場者ネット来場者
2012年9.2万人347万人
2013年10.4万人509万人
2014年12.5万人760万人
2015年15.1万人794万人
2016年15.3万人555万人
2017年15.5万人506万人

数字はねとらぼが2017年4月に集計したものです。会場の来場者が過去最高を更新し続けた2016年から2017年にかけて、ネットの来場者はすでに3割近く減っていました。なお2024年以降のKADOKAWAの資料では会場来場者数だけが開示されており、2026年の13.8万人は3年連続の増加ではあるものの、2017年の水準には届いていません。

音楽の側でも規模の差は明確です。Real Soundが2023年に行った検証記事によれば、ニコニコの再生数上位は2010年代前半の楽曲が占め続けており、同じ曲でもYouTube側の再生数が10倍以上になる例があります。再生の規模では、YouTubeが場としてはるかに大きいのが現状です。

二つの見立てには、それぞれ筋があります。終わりが近いと見る側は、減少が止まらないうえに10代が1.7%という数字を挙げます。まだ強いと見る側は、無料の動画が無尽蔵にある2026年に、毎月990円を払う人が約90万人残り、ニコニコを含むWebサービスセグメントが黒字を保っている事実を挙げます。どちらも同じ決算資料から出てきます。

なお、残っている会員が何にお金を払い続けているのかを示す調査は、会社から開示されていません。コメント文化、生放送、イベント、長年の習慣といった候補を並べられる段階にとどまります。


反転目標を2期続けて外した会社が、値上げに賭けたもの

一次資料で確認できる最も筋の通った批判は、会社が自分で掲げた目標を届かせられなかった点にあります。

KADOKAWAは2023年3月期と2024年3月期の決算説明資料で、プレミアム会員数の減少トレンドを反転させることを目標として明記していました。実際には2024年3月末の117万人から2026年3月末の93.2万人まで減っており、2期続けて未達です。

経営全体の争点は、むしろ会社のほかの事業にあります。2026年3月に筆頭株主となった投資ファンドのオアシス・マネジメントは、同年5月に夏野剛社長の再任反対を株主へ要請しました。挙げた6つの理由のうちニコニコへの言及は「年々その競争力を失っている」という一文だけで、批判の中心は出版とゲーム、それにガバナンスでした。

6月24日の株主総会では再任案が可決されましたが、夏野氏への賛成率は59.68%で、選任された12人のなかで最も低い水準でした。8月の決算説明会でも、ニコニコに関するアナリストの質問はゼロで、質問はフロム・ソフトウェアや出版の構造改革に集中しています。投資家の関心は、ニコニコの会員数よりも会社全体の収益力に向いています。

そのうえでの値上げです。プレミアムの月額は2024年3月に550円から790円へ、2026年8月に990円へと3年足らずで8割上がりました。会社はコスト増を理由に挙げ、ポイント配布や年額払いの優遇といった緩和策も用意しています。それでも会員が減っている局面で単価を上げる以上、単価の上昇が解約の増加を上回れるかという賭けの構図は残ります。

値上げの影響が数字に出るのは2026年7月から9月の四半期以降です。そこで会員数の減少幅が広がれば、単価の上昇分は打ち消されます。Apple AccountとGoogle Play経由の料金が据え置かれたことで、支払い方法によって負担が変わる点も残りました。

環境そのものは、特化型に有利な方向へ動いてもいます。動画の世界はYouTube一強からTikTokやTwitchを含む多極化へ進み、作り手は複数のサービスへ同時に投稿するのが普通になりました。主戦場でなくても投稿先の一つとして残れる余地は、10年前より広がっています。

今後の分かれ目は、決算のたびに確認できます。最初の試金石は値上げ後最初の四半期(2026年7月から9月)で、ここで会員数の減少幅が広がるようなら、単価上昇の効果は相殺されます。

中期的な目印は三つです。会員数の減り方が四半期2万人台へ戻るか。ボカコレの投稿数が6,000件台を保てるか。そして10代と20代の構成比が動くか。この三つがそろって初めて、「拠点としての再成長」は言葉ではなく数字になります。


89.3万人という数字の、二つの読み方

終わりのサインか、粘りの証拠か

89.3万人という数字は、二通りに読めます。20年近く続いたサービスが終わりへ向かうサインとも読めますし、10年間競争に負け続けてなお毎月お金を払う人が90万人近く残っているという粘りの証拠とも読めます。どちらの読み方にも、同じ決算資料から材料が出てきます。

はっきりしているのは、総合的な動画プラットフォームの規模を争う勝負が、とうに決していたことです。技術投資の体力、クリエイターへ配れる原資、外の人に見つけてもらう導線という三つの条件で、ニコニコは10年以上前から不利な側に立っていました。

残ったのは、代替の見当たらない部分です。画面をコメントが流れる体験も、超会議のような場も、ボカロの投稿が集まる仕組みも、いまのところ他のサービスが同じ形では持っていません。会社が掲げる方向も、会員数の回復より、この部分を軸にした収益源の多角化へ移っています。

生成AIによって動画そのものが無限に増えていく時代には、何を見るかより、誰と一緒に見るかの価値が上がるという見方もあります。視聴者同士が同じ画面で時間を共有するという20年前の設計思想は、古びたのではなく早すぎただけなのかもしれません。

ただ、その価値の受け皿が自動的にニコニコになる保証はありません。同時視聴や交流の機能はYouTubeやTwitch、Discordにもあり、若い世代の流入が戻らなければ、独自性だけで縮小は止まりません。

ニコニコの20年は、日本のネット文化がどこで生まれ、どう稼ぎ、どこでつまずいたかの記録そのものです。89.3万人という数字がこの物語の終わりの数字になるのか、次の形へ渡る途中の数字になるのか。答えはこれからの決算に、四半期ごとに刻まれていきます。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。


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関連書籍紹介

『アーキテクチャの生態系 情報環境はいかに設計されてきたか』

濱野智史(筑摩書房/2015年07月刊 ちくま文庫版。初版はNTT出版/2008年10月刊)

2ちゃんねる、ミクシィ、ニコニコ動画、初音ミクといった日本発のサービスを、思想や気質ではなく「設計(アーキテクチャ)」の側から読み解いた一冊です。とりわけニコニコ動画については、視聴時刻の違う人のコメントが同じ画面に重なって見える仕組みを「擬似同期」と名付け、それがなぜ強い一体感を生むのかを説明しています。

今回の記事で扱った「コメントで参加する場所としての設計」と、その設計が外の人を呼び込む力を弱めたという両面の話は、本書の枠組みを踏まえるといっそう立体的になります。ニコニコの独自性を懐かしさではなく仕組みの言葉で理解したい方に向いています。


『鈴木さんにも分かるネットの未来』

川上量生(岩波書店/2015年06月刊 岩波新書 新赤版1551)

ドワンゴ創業者で、当時スタジオジブリに出向していた著者が、鈴木敏夫プロデューサーに説明するという体裁でネットの構造を語った本です。ネット世論がどう作られるか、コンテンツの経済がどう回るか、プラットフォームが何を握っているのかが、実務家の視点で書かれています。

今回の記事で扱った「クリエイターに配れる原資には上限があった」という論点や、収益化をめぐる当時の空気は、この本の書かれた2015年がまさにその分岐点でした。運営側が何を見て何を考えていたのかを、本人の言葉で確かめたい方に向いています。


『プラットフォーム・レボリューション 未知の巨大なライバルとの競争に勝つために』

ジェフリー・G・パーカー、マーシャル・W・ヴァン・アルスタイン、サンジート・ポール・チョーダリー(妹尾堅一郎監訳、渡部典子訳/ダイヤモンド社/2018年08月刊)

プラットフォーム型の事業がなぜ従来型の企業を追い抜くのかを、ネットワーク効果、マルチホーミング、価値の分配といった概念で整理した教科書的な一冊です。書き手と読み手の両方を同時に増やさなければ成立しない事業の難しさが、事例とともに説明されています。

今回の記事で扱った「作り手が移れば見る側も移る」という循環や、複数のサービスへ同時に投稿する行動は、本書でいうネットワーク効果とマルチホーミングそのものです。ニコニコの事例を一般的な競争理論の中に置き直して考えたい方に向いています。


参考リンク

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せかはん
せかはん

国内外のニュースを「報道・海外の反応・背景解説」の三層で読み解く個人メディア『せかはん』運営者。2025年8月の開始から1年で300本以上を執筆し、noteフォロワーは2万人。特定の政党・組織に属さず、一次ソースの照合と左右両論の併記を編集の基本にしています。

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